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サービスの選別

サービスの決まりごと


私たちの多くは、お客としてマニュアル対応の接客を受けると不快に感じることがある。
少なくともありがたいとか、嬉しいとは感じないことは多い。
マニュアル対応で不快な思いをしたことのある人は、マニュアル化する企業の姿勢を批判することもある。

これはもちろん人情としてわからないわけではない。
普段温厚な人を怒らせてしまった挙句、謝罪とは到底呼べないような、火に油を注ぐマニュアル対応を行うサービスを私もよく知っている。

しかしその反面、サービスというのは「決まりごと」を守ることで、「一定の品質」を公平に提供するようにプログラムされている。
このプログラムがなければサービスは成り立たない。

たとえば日本が世界に誇る企業のTOYOTAやソニーにも、製造マニュアルがある。
もちろんこれは製品のマニュアルだが、「高品質」の製品は分厚く緻密なマニュアルによって生み出されることは証明されている。
さらに、私たちは車やパソコンという製品そのものをサービスとして受けるのではなく、車を通じて得られる移動やレジャー、パソコンを通じて得られるネットサーフィンや、文書作成などをサービスとして受け取っている。
その前提に完璧なマニュアルがあるということである。

製品を介さないサービスも同様に、たとえば世界に誇るラグジュアリーなサービスを提供するリッツ・カールトンでは、エンパワーメントがサービスのしくみに組み込まれている。
エンパワーメントとは権限委譲のことであり、「上司の判断を仰がずに自分の判断で行動できること」「セクションの壁を越えて仕事を手伝うときは自分の通常業務を離れること」「1日2000ドルまでの決裁権」の3つがルールとしてしくみ化されている。
(「サービスを越える瞬間」高野登著より抜粋)
接客者はこのしくみとしてのエンパワーメントを、サービスの枠を超えるというよりは、サービス提供の一部として発揮することができる。

旅館の決まりごとによっては、美談は醜聞になる

リッツ・カールトンのようなルールがあることは、サービス提供上かなり重要なことで、たとえば何か問題が発生したときに、スタッフ同士が助け合うしくみがなければ現場はただ混乱してしまう。
悪くすると対立を生んでしまうことにもなりかねない。

もし京都の旅館に、他の者が助け合ってカバーし、1人の接客者が困っているお客に手を差し伸べることができるような協力体制があるのであれば(たとえマニュアル化されていなくても)、女中の話は美談に間違いない。

しかし女中が「私は旅館のルールなど良く知らないが、これを一大事だと思うし、良心に従って財布を届けるべきだ」と思い込んで京都駅に向かったのだとすれば、それを美談だと考えることはできるだろうか。
あるいは、サービスはこうでなくてはならないと言えるだろうか。
そうは言えないのだ。

顧客満足とサービス提供は、対立することがある
顧客満足を行うとサービスが提供されないことがある。
もちろん、一番良いのは両方がうまく満たされることであり、サービスはそのように作られるべきなのだが、状況がそれを許さないことがある。
この女中のケースが実は、(財布を忘れたお客の)顧客満足と、(旅館でサービスを受けるお客への)サービス提供の対立を表している。

両者が対立したとき、接客者はまず何を優先するべきなのか。
顧客満足は良いことを行う気持ちから行動し、サービス提供は必ず提供するというポリシーから行動する。
サービスにおいては、良いことを行いたいという「感情」よりも、確実にサービスを提供するという「事実」を優先する。
そうでなければ、もっとも基本的なお客への信頼を維持することができない。

サービスにとって良いこととは必ず提供することなのだ。
したがって、サービスにおいては良心ではなく事実を優先しなくてはならない。
つまり、旅館でのサービス提供がないがしろになったのだとすれば、女中の行為は美談ではなく醜聞であるということになる。

顧客満足がサービスをダメにする?

実際にこのような接客者によってサービスは著しく信用を落とす。
ダメになる。

著しくサービスをダメにする接客は悪い接客なのではない。
悪い接客は見ればわかるし、わかるので改善に取り組むことができる。
お客として私たちがそのような接客のサービスを利用するときには、改善に取り組む姿勢がサービス提供者にあるかどうかを見ればいい。

著しくサービスをダメにする接客は、見て判断することができない。
むしろ、すばらしい接客だと勘違いしてしまうことすらある。

具体的に、京都の女中のストーリーに見られるマザーテレサの接客森のくまさんの接客の2つがサービスをダメにする。
どちらも顧客満足をサービス提供に優先するために起こり、サービスの信用を失墜させる。
順番にそのメカニズムを見てみることにしよう。

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