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賢い利用法

サービスを受ける技術5 トータルサービスを満喫する


サービスに限らず何かを賢く利用するためには、その何かによるネガティブポイントではなく、ポジティブポイントに注目した方がいい。
接客の不備など、ネガティブな要因に注目してしまうと、何かひとつでも気に入らないことがあるとサービスを楽しむことができなくなってしまう。

トータルサービスの中でも、特に基本サービスのコンセプト、ハード、しくみを知ることは、サービスを満喫することを可能にするだけではなく、賢く有利にサービスを利用することができるようになる。
その方法の基礎は、それぞれの背景や公になっていない物事を「知る」ことにある。

基本サービスのコンセプトを知る

コンセプトというのは「サービスを提供するポリシー」のようなもので、このストーリーを知っているのと知っていないのとでは、サービスやブランドに対する見方がかなり変わる。

たとえばルイ・ヴィトンの鞄の密封性が完璧であるために水に沈まないことは既に書いた。
この物事ひとつを知っているか知らないかによって、ルイ・ヴィトンに対する見方も信頼性も変わるだろう。
またルイ・ヴィトンが商品に対する信頼性に自信がある証拠として、バーゲンセールを行わないということは有名である。
このこともルイ・ヴィトンの姿勢や方向性を私たちに理解させてくれる。

あるいはエルメスのスカーフは毎年エルメス社が掲げる独自のテーマ(その年が来るまでは社内秘として口外されない)によってデザインされ、デザインから製造・仕上げの段階まで、どのスカーフも18ヶ月かけて作られる、などという事実は私たちがサービス利用するときに効用とは別の満足感を引き出してくれる。

あるいは歴史を知ることもサービスを満喫することの手助けになる。
銀座4丁目という一等地に本店を構えるアンパンの木村屋は、日本ではじめてアンパンを作り、皇室御用達にもなったことがある。
この一見順風満帆に見える木村屋は、実はサービスの存続を危うくする3度の危機に見舞われている。
一度目は開業翌年に早くも火災で店が全焼し、その後も関東大震災、東京大空襲で跡形もなく崩れ去った。
普通に考えれば心理的にも物理的にも復興することは難しいだろう。
しかし木村屋はその度に苦難を乗り越え、店舗を建て直し、現在も変わることなくアンパンを提供している。

今後何かの災厄に見舞われることが仮にあるとしても、木村屋は必ず復活してアンパンを提供してくれるに違いない。
木村屋にはそういった信頼性とブランドがある。
お客の多くはこの事実を知らないにもかかわらず、高い信頼性を持って木村屋のアンパンを買う。
サービスを利用する。

しかしこのようなストーリーを知っていると、私たちはより自信を持ってサービスを利用することができ、かつ楽しむことができる。

ハードのこだわりを体験する

そのようなストーリーは、お客の目に最も止まりやすいハードにも存在する。
ハードは普通、私たちがなんとなく感じることで快か不快かを経験している。
この「なんとなく」を知識として知ることで、私たちのサービス理解はより深まり、経験をあますところなく味わうことができるようになる。

ディズニーランドは、知らない日本人はいないといっても過言ではないほど、最高のサービスを提供する有名なテーマパークである。
このディズニーランドは元々、静岡県も建設予定候補地に上がっていたものの、結局千葉県浦安市に建設が決まった。
その理由は静岡県に展開するとディズニーランドの利用者の視野に富士山が入ってしまうからである。
日常を飛び出した夢の国に、日常目にするものを入れることはできないという理由でディズニーランドは今の場所にある。

さらにランド内の地面はワールドごとに色が異なり、流れている音楽も実は異なる。
ワールドとワールドの間には必ず滝が設置されており、滝の音によって左右両ワールドの音楽が交わらず、打ち消されるようにプログラムされている。
他にも空調機はお客目線から絶対に目につかないところに設置されているし、スプラッシュマウンテンの滝から落ちるクライマックスの場面では夏と冬で水温と飛び散る水しぶきの量が調整されている。

2006年に羽田―北九州間に就航したスターフライヤーは、世界ではじめての黒い機体と、エコノミークラスでは最高級の特注シートを用意して航空業界の常識や慣行に挑戦している。
これもハードに対する工夫であり、この区間を飛ぶのであれば一度スターフライヤーを利用してみたいと考えるのは私だけではないだろう。
ハードに対する知識がサービスを楽しむ源泉になっている。

あるいは、関西国際空港の建築は有名なイタリア人建築家のレンゾ・ピアノ氏が行ったが、緩やかなカーブを描く天井は彼の構想により、空港の地下から描かれる広大な円の一部分であるという設定である。
このことを知っていると、空港を利用するときの私たちの目線は少し変わる。

小さなサービスでもハードがサービス利用を助けてくれる場合もある。
たとえば、私の自宅の近所に、1ヶ月前にできた寿司屋がある。
いわゆるクラッシックな寿司屋の様相ではなく、モダンな内装でありながらしかし立地が悪く、商売も上手くないためにまだお客を呼ぶことに長けてはいない。
しかしランチどきに提供される、寿司ネタを使ったオリジナルの丼モノは、1000円から1300円とランチにしては値段が張るものの本当に美味しく、店主は丁寧でいい仕事をする。

そこでハードなのだが、このお店は8席のカウンターで営業している。
この新しい店ではそのカウンターに新品で一枚板の檜を使っており、都会ではなかなか匂うことのできない木の匂いに誘われて私は思わず来店してしまう。

ハードは体験することができる。
直接サービスと連動しているわけではないものの、体験することができるということは楽しむことができるということである。
しかもその楽しみは、ほとんどの場合無料である。

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