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特別なお客になる技術

サービスを受ける技術8 感謝の手紙を送る

ありがとうの言葉をかけるよりもサービスを上手く受けることができるようになる技術がある。
この方法を行えばほとんどの場合特別客になることができる。
それは感謝の手紙を送ることである。

私たちは気分を害し、家に帰ってもその気持ちが収まらないとき、カスタマーセンターに電話をして苦情を言ったり、クレームの手紙を送ることがある。
そうでなければインターネットの掲示板などに誹謗中傷の書き込みを行う人も実際にいる。

もちろんこのような行為は何1つ良いこととして返ってはこないが、この感覚を逆にして、わざわざ感謝の手紙を書くようにしてみる。

感謝の手紙は、ありがとうの言葉よりも強い効果がある。
なぜなら、ありがとうはその場で相手を評価したり、感謝の気持ちを伝えるときに出すものだが、感謝の手紙は家に帰ってから他にやることをひとまず置いて、わざわざ時間をかけているということが相手にも伝わるからだ。
さらに書面に落とすということは、相手がより明確に理解できるように説明することでもあり、文字という形として残るということでもある。

実際に私があるサービス事業を運営していたとき、1人の接客者に届いた感謝の手紙は、その接客者はもちろん、他の同僚までをも感動させたことがある。
嬉しいなどという表現では追いつかないほど心を震えさせ、サービスを提供していることに自信を持って仕事を行うことができるようになった。
そして、そのお客の名前は接客者全員の脳裏に深く刻まれた。

感謝の手紙が日本人初の表彰を生んだ

イギリス系航空会社に勤務をしていた私の知人は、その航空会社では日本人として初の最高の接客者に選ばれた。
そのいきさつはこうである。

イギリスと日本を飛ぶ国際線の飛行機に乗務していたスチュワーデスは、あるとき1人で35人の乗客に対応することになった。
その35人はエコノミークラスよりもひとつ上のクラスの乗客であり、それに伴って出発前に乗客者名簿が手渡された。

彼女は乗客1人1人の名前を覚えることを心がけ、またなるべく名前を呼んで接することに決めた。
さらにドリンク類の各人の好みを、覚えることのできる範囲で覚えた。
たとえばワインであればこのお客は白を、別のお客はコーヒーにミルクを入れるか、入れないのかなどをインプットした。

イギリスで事業を行うある経営者の男性は、まず自分にそのような接客を行ってくれる接客者を見てすばらしいと感じた。
そしてしばらくスチュワーデスを観察していると、どうやら自分にだけではなく全ての乗客に対して同じ接客を提供していることに気がついた。
ロンドンから東京に出張したその男性は、数日の滞在の後、住居のあるイギリスに帰国する。
そして帰国便の出発ゲートで、たまたま今回も担当をすることになったそのスチュワーデスに名前で呼びかけられ、今回の滞在について会話を交わした。

彼は家に帰り着いてから航空会社に感謝の手紙を書き、その詳細を詳しく書いた。
当時その航空会社が実施していたアンケート調査の結果と併せて、男性の手紙が高い評価を受け、スチュワーデスは日本人としてはじめて表彰されることになった。

最高の接客者はお客が生み出す

このスチュワーデスは最初から乗客の名前と嗜好を覚えるように努め、それを実践したが、それほどの接客を行っても、見る人が見ていなければ接客は正しく評価されない。
見る人というのはお客である。

私も含めて、お客はなかなか感謝の手紙を書かない。
そのようなお客が感謝の手紙を書くということはある種異常なことで、サービス提供者は現場で何が起こっているのかをその手紙から読み取ろうとする。
結果このときはじめて、ある1人の人物が最高の接客を行っていることが明るみに出る。
そのような接客者は既に生まれているのかもしれない。
しかし、世に出すのは実はお客なのである。

つまり最高の接客者を世に送り出すことができるのは、感謝の手紙を送るお客「だけ」なのだ。
サービス側の視点で見れば、そのようなお客は既に特別客であるといえる。

私たちはお客として、感謝の手紙がそれほどまでに威力を持ち、効果を発揮するとは夢にも思わない。
もちろん威力と効果を得るために手紙を書くわけではないにしても、太陽を照らすということは多くの人にいい影響を与えるということを知っていれば、サービス利用の視点も自ずと変わるだろう。

添乗員がスチュワーデスにクレームを出した話を思い出してほしい。
添乗員が最初に希望したシートに座ることができてからも、添乗員の機嫌はますます悪くなる一方だった。
もちろん航空会社にも問題はあるが、気分を悪くしていたのは自分自身であるということは明らかだ。
この逆のケースで、私たちの視点を感謝や接客者の良い行いに合わせることで、提供されたサービスを気持ちよく受けることができるようになることは間違いない。

感覚をつかむために

私がサービスや接客の教育を行っていたときに、スタッフに行ってみるように勧めていたことがある。
それは、日々受けるサービスの中でイヤな思いをしたとき、すばらしい思いをしたときの両方で、クレームと感謝の手紙を送ってみることである。

イヤな思いは不自由しないかもしれない。
すばらしい思いは、さほど強く響いたものでなくても構わないので、少し良く観察してみて気がついたところを書いて送ってあげればいい。
するとサービスによって、あるいは業種によって驚くほど多種多様な対応が返ってくる。

まずクレームの手紙だが、通り一遍の雛形文にサインだけして送ってくるサービスは継続利用をよく考え直したほうがいいかもしれない。
ある20代半ばの男性がファミリーレストランで「それはないだろう」という対応を受けた。
彼は名札の「田中」という名前を見ていたので、家に帰ってから本社のカスタマーサービス宛にクレームの手紙を出した。
「田中」という担当者名も記載した。
後日、本社ではなく問題の起こったファミリーレストランから送られてきた手紙には、「申し訳ございませんでした」「問題のあったスタッフに指導します」の雛形文と、最後の署名に「店長 田中」の手書きの文字があったという笑えない逸話もある。

クレームの手紙は、利用しないサービスを明確にしてくれる。
さらに、クレームは相手に届かないものであるということを気づかせてくれる。

一方感謝の手紙は、高い確率で私たちを特別客にする。
相手の心をつかみ、その結果として実益がある場合もあれば、サービス利用上の嗜好などを覚えてくれることもある。
安心して任せることのできる接客者が担当になってくれることもある。
実利があるかどうかは別として、オーナーや社長が挨拶に来る場合もある。

たった1通の手紙が、サービスをそこまで動かす可能性を持つ。
クレームの手紙も感謝の手紙も、それぞれ5通ほど送ってみることで世の中のサービスの大きな傾向をつかむことができるようになる。
こうしてサービスを受ける感性が磨かれる。

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