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2種類のコンセプトを作る

シャネルのコンセプト

高級ブランドでありファッションブランドとして有名なシャネルには、創業者のガブリエル(ココ)・シャネルが、帽子のデザイナーとしてパリに1号店を出店したときから、2種類のコンセプトを持っていた。

ひとつは、ファッションブランドという言葉に代表されるように「ファッション」というジャンルを示すもので基本コンセプトという。

もうひとつは「女性の服の解放」「黒・白・ベージュを基調」にすると決めたことなどがある。これが個別コンセプトである。

女性の服の解放については多少説明が必要かもしれない。

20世紀に入っても、ヨーロッパの女性はコルセットできつく胴回りを締め、足全体が隠れ、裾に向かって膨らむように針金でパターンされた洋服を着ていた。
これは男性優位のヨーロッパ社会で、男性が求める女性の服であって、女性はこのことに対して(またはそれ以外の生活全般に対して)男性に従順であることを求められていた。

つまり女性の服は女性のための服ではなく、男性のための服であるという社会背景があった。
それをガブリエル(ココ)・シャネルが革命した。

彼女はこの革命をコンセプトにした。
コルセットを取り、機能性に優れたジャージなどの素材を使い、楽な服や女性の体のラインが出る服を作った。
女性のための服。それが「女性の服の解放」というコンセプトに結びついた。

これらのコンセプトは今日でも厳格に守られている。

たとえば、シャネルの商品にはメンズがない。
おそらく今後も登場しないだろう。

またシャネルは、銀座にベージュ東京という高級レストランを展開していて、店内を黒・白・ベージュで統一している。
さっぱりとしたいから水色を使いたいとか、お客に温かい気持ちになってほしいからオレンジを使うということは許されない。
コンセプトに背いてしまうからである。

コンセプトはサービスの前提としての絶対条件になる。
このようなはっきりとしたコンセプトが存在し、忠実であることによって、女性のファッションではシャネルの黒に勝るブランドはないと言っても過言ではない。

これらの2つのコンセプトを「基本コンセプト」と「個別コンセプト」と呼ぶ。

シャネルの場合服、香水、レストランのインテリア統一などの「ファッション」が「基本コンセプト」。
「女性の服の解放」「黒・白・ベージュ」が「個別コンセプト」になる。

既にマーケティングされている「女性の解放」

ここで、サービスコンセプトの説明をひとまず置いて、なぜシャネルの実例を紹介したのかということを先に説明しておこうと思う。

マーケティングされたサービスは、マーケティングが完了した時点でお客が利用することがわかっているサービスを作る。
マーケティングの活動によってお客の声に耳を傾け、お客たち(マーケット)を見ることで、何のサービスを提供するかを決めるからである。

シャネルのコンセプトからは、この時点で提供するサービスが何であるか見えてこない。
わかっているのは女性のファッション(基本コンセプト)を解放する(個別コンセプト)ということだけである。
そしてそのコンセプトは時代背景と女性のニーズにぴったりと一致している。
コンセプトが多くの女性に受け入れられるという前提であることが読み取れる。

つまり女性のマーケットをよく見て、耳を傾けるというマーケティングの役割は、サービスコンセプトを作ったときに一度終わる
そして新たにサービスの構築がはじまる。

だから、サービスの構築が始まってからお客の声に耳を傾けることはほとんどない。
サービスはコンセプトを決めた提供者が一方的に決定するからだ。

シャネルが年に2回のコレクションで発表する新作は、お客の声に耳を傾けて作られるものではない。
デザイナーが独自の発想で、しかも現代で「女性の解放」を行うとどうなるのか、というコンセプトに沿って生み出した作品である。

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