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第1の扉 - 卓越者は強みよりはじまる

弱みをカバーする

弱みがカバーされなくていなければ、接客者は強みを生かすことができない。
なぜなら弱みは克服することができないからである。
もちろん大きな努力をし、正しい知識と方法を身につけ、実践方法を的確に教えてくれる人がいれば、ある程度は克服することができる。
しかしそこまでやっても、やっと並のレベルにしか至ることができない。

弱みを自分でカバーしなくてはならない接客では(しかも能力重視であればなおさら)、強みは生かされることがないままに終わってしまう。
仕事をこなす毎日に強みが埋もれてしまう。
弱みがなぜ克服できないかは様々な理由があるが、ここでは2つの考え方を知ってほしい。

弱みを克服できない理由のひとつは、強みの特徴とかなり似ている。
強みは、なぜだかわからないが人よりも「できてしまう」
弱みは、どんなに頑張ってもなぜか「うまくできない」
私たちは理屈ではなく、どうしてか高いレベルでできてしまうことや人を見たことがある。

イチローを見てどうして世界最高峰のメジャーリーグでトップクラスの活躍ができてしまうのか。
毎年4割に近い打率をキープすることができるのか。
あるいは、北野武監督をして、どうして世界基準で評価される映画を何本も作ることができてしまうのか。
しかも本業でなくできてしまうのか。

そこにはもちろん努力もアイディアも、その他成功するのに必要な要素も数多くあるだろうが、イチローと北野監督が、他の野球選手や映画監督よりも卓越していることは、彼らにしかない強みを生かしているからである。
彼らはできてしまう。

その彼らにして弱みはある。
一度その弱みを中心に活動すると卓越した成果を出すことができなくなってしまう。
イチローが「今期は4番バッターでホームラン王を狙う」と目標を定め、北野武監督が「次の作品はラブロマンスの映画を撮る」としたら、私たちは上手くいくだろうと楽観的に見ることができるだろうか。
もちろんできはしない。

イチローが今の成績に匹敵するホームランバッターになれるとは思えない。
北野武監督がラブロマンス映画を撮ってヴェネツィアで評価されるとも思えない。

これが、弱みは並程度までしか克服することができない理由のひとつ目である。
イチローや北野武監督にして弱みがあり、弱みを克服しようとすれば成果が落ちてしまう。
であれば私たちはなおのこと、弱みに注目している時間はない。

弱みを克服することができない理由の2つ目は、脳の構造にある。

私たちの脳は、生まれてから3歳頃まで、目や耳や肌を通じて入る情報を処理することで、脳全体にシナプスが形成される。
シナプスは電気信号の通り道で、電気信号がスムーズに流れることによって私たちは脳を使うことができる。

ところが、どのような情報に対しても敏感に応えていたシナプスの形成は、3歳ごろを境に偏りが出はじめる。
3歳ごろになると、入ってくる情報が多様化して、全ての情報をありのままに受け入れていたら、脳の許容範囲を超えてしまうようになる。
そこで脳は情報に対して、必要性の高いものを低いものを分けようとする。

必要性の高い情報を扱う脳の部位にシナプスをより形成し、必要性が低いところは生産を止めてしまう。
その結果、脳内のシナプス形成に差ができることになる。
こうしてシナプスが集まったところはより活性化され、生活するうえで「できてしまう」ようになる。
つまり「強み」が生み出される。
一方で早い段階でシナプスの生産を止めてしまった部分を使わなくてはならない物事は、どんなに頑張っても「なぜかできない」ことになる。
これが「弱み」になる。

私たちは日常生活の中でも、わざわざ自分が苦手とすることをしようとはしない。
脳も同じで、苦手な部分を使わなくてはならない場所のシナプスは、電気信号が通らなくなってしまう。
それは車の通らない道と同じで、雑草が生え、アスファルトはひび割れ、街灯がないので夜は危ない、などの状態になる。
ただでさえ「弱み」であるところが、どんどん弱くなる。

この弱みを勉強や努力によって無理やり克服しようとすると、脳内では電気信号を無理やり通すことでストレスが発生する。
整備されていない道路に車を通すことで混乱が生まれる。

すると脳は、混乱しないように、普段通りがいいシナプスを迂回(遠回り)して電気信号を送ろうとする。
当然効率は悪く、判断は遅くなる。
また仮に、通りの悪くなったシナプスに電気信号が通るようになったとしても、その場所は元々シナプスが発達していないために、シナプスが発達した他人には及ばない。

これがどんなに弱みを克服しようとしても、並のレベルにしか到達できない理由の2つ目である。
弱みは克服ではなく、カバーされなくてはならない。

ある中小企業の旅行代理店を経営する社長は、素晴らしい接客を行う。
とりわけ、彼が旅行に添乗したとき、その旅行の参加者は彼に対して必ず最後に感動し感謝することになる。
人によってはその後の人生に活路を見出す人すらいる。
同行取材したテレビ局の担当者とカメラマンは「このような旅行は生まれてこの方見たことがない」と評価する。

実に、この会社を通じて旅行を経験した90%以上のお客がリピート利用する。

しかし、こうして強みは生かされていながら、この旅行代理店の社長は新規顧客の確保、社内マネジメント、マーケティング活動を行う。このため社長は強みの接客ではなく、むしろ弱みに属するマーケティングなどの仕事を行い、成果を上げなくてはならなくなる。
その仕事の成果はやはり並レベルの成果であり、しかも添乗の機会を減らすという意味で強みを発揮する仕事が奪われる。
この接客者である社長(旅行代理店)は、弱みがカバーされていないことで強みを発揮する機会を失う状況にある。

弱みのカバーは基本的に他の人の力に頼る。
良い接客とサービスを提供したいのであれば、他の人の「強み」に頼る。

自分には「弱み」として上手くできないところを、他の人の「強み」によってカバーし、カバーされるだけでなく卓越することで接客とサービスは力強く活動することができる。
現場の接客者は、自分の強みを生かすことができるように、他の人とどのような協力をすればいいのか、どのように役割を分担し、他の人の強みを生かしたらいいかを考える必要も出る。
少なくとも、会社の文化や上司に責任転嫁しているだけでは問題は解決されない。

卓越した接客者を目指すのであれば、自分の強みを生かすことができるように、どのようにすれば弱みがカバーされるのかを考え、実践する責任が自分自身にある。

実際に4人の卓越した接客者は、強みを生かすことができるように弱みをカバーしている。
カバーの方法は人によって違うが、弱みをカバーすることに対して責任を持ち、第一歩として自分の弱みを理解している。
(弱みは強みよりもはるかに理解しやすい)

強みを試行錯誤しながら実践するように、弱みをうまくカバーしながら強みを生かすことができるように行動している。

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