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ブランド作り

強いブランドのパラドックス


強くなってしまったブランドは、ブランド作りやブランドの促進とは異なった、ある新しい特徴が生まれる。
それはブランドに対する接客の無効化である。

ある年の正月が明けた1月3日。
私の知人が母親と一緒に革製品とスカーフで有名なブランドショップに買い物に行った。
新年とはいえ店内は足の踏み場もないほど込み合っていた。
知人の母は以前から購入を考えていたアクセサリーを探したが見つからなかった。
店員に声をかけようにも、忙しそうな様子に順番を待つことにした。

しかし一向に声をかけてくれる様子がなかったので、ついにこちらから声をかけ、今探しているアクセサリーについて尋ねた。
これに対して店員は「そのモデルはもう販売していません」と冷たく言った。忙しそうな振る舞いが「この忙しいときに、ややこしいことを言わないでほしい」という様子であったという。

サービスを利用するときに起こり得る残念な対応が、この場合にも起こってしまった。
そしてこの親子はもう2度とそのブランドの商品を買わないか、どうしても必要な場合は他の店で買うことに決めた。

しかし、このような事件があっても、このサービス提供者の「高級ブランド」としてのブランドには、ひとつの傷もついていない。
このようなことが起こったとき、おそらく多くのサービス提供者は、このような行為がお客の信頼を失い、不快にさせてしまうことで、サービスへの信用が失われると考える。

しかし幸か不幸か、すでに確立された強いブランドによる接客のミスは、ブランドが強ければ強いほどサービスに悪影響をもたらさない。少なくとも大きな影響は与えない。
これは、そのブランドが強力な「提供者のコンセプトと利用者の理解一致」によって支えられていることの証明である。

接客はブランド作りの入口で、お客の態度を決める決定要因になるけれども、既に強いブランドが作られている場合には、接客による悪影響でブランドが左右されないことがある。
正月明けの親子が経験したのはまさにそういうことだった。
本来であれば信用を失うはずのこの行為が強いブランドを揺るがさないのは、提供者のコンセプトとお客の理解一致の、一部分に与える影響でしかないことにある。

他の、製品に対する信頼、店舗の雰囲気に対する信頼、アフターサービスに対する信頼など、様々な信頼の量と質による強力なブランドが確立しているということは、お客の心理に「不振を抱くには十分ではない」または「利用しないとまでは言わない」という判断が生まれる。
たった数回のミスによって、これまでに積み上げられた量のブランド理解を否定することは割に合わないと考える。

たとえお客が「もう利用しない」と決めても、そしてそれを友人に口コミしたとしても、他のお客に悪影響を与えることにはならない。
そのサービスミスが、自分のブランド理解を覆すまでには至らないからである。

強力なブランドが作られている場合、決定要因としての接客の役割は薄れる。
接客の態度や振る舞いに左右されずにサービスを利用するという意味では、あるいは本来のサービスの評価に近いのかもしれない。
既に強力になったブランドを維持し促進するためには、接客ではなくハードと基本サービスがより重要な決定要因になる。

なぜなら、お客は既に何回もサービスを利用していて、最初見ていたハードと接客は、もう十分知り尽くしてしまっている。
だから、ハードの雰囲気がいつもちゃんと整っているか、基本サービスはいつもと同じように提供してくれるかというところに視点が移るからである。

それだけに強くなったブランドでは、ハードと基本サービスへのコンセプト反映に継続の努力を惜しんではならない。
どんなに接客が素晴らしい対応を行ったとしても、ハードと基本サービスの手抜きはブランドの崩壊に直接結びつくからである。

もちろん完全でない接客はサービスの不備でもあるから、接客の改善をしないままサービスを提供し続ければ、長い目で見ると徐々にブランド力は低下していく。
強いブランドを持つからといって、接客を軽視していいということにはならない。
しかし、強いブランドを築く前と後で、ブランドを維持するためのポイントが変化するとはいえる。

ブランドが強くなるにつれて、行うことが変わるということは、いつ、何に力を入れ、どのように行っていくのかというブランド戦略のしくみを作り、定期的に見直さなければならないということでもある。
できれば最長3年に1度は行うようにしたい。

こうしてブランド力が低下せず強さを増すことで、サービスは維持され、安定して提供されるようになっていく。

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