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第1の扉 - 卓越者は強みよりはじまる

強みの発揮を支えるもの2

強みを支える同僚

通常接客の仕事では、同僚は自分と同じ仕事をする。
しかしその中でも役割分担はある。

同僚が強みを支える一番大きな理由は、弱みをカバーしてくれることにある。
強みは弱みのカバーがなくては上手く発揮されない。
または、もっと基本的な考え方として、休息を取ることを可能にしてくれる。
どんなに素晴らしい強みを持っていても、1週間に7日働いていればいつか体を壊してしまう。
万全な状態で挑むために、同僚の存在は休息を可能にしてくれる。

卓越した接客者である美容師は、オーナー社長でありながら必ず現場でハサミを握る。
彼はお客の髪をシャンプーしない。
パーマでロットを巻かず、カラーでカラー液を髪に塗らない。
パーマとカラーで行うのは、他の従業員への指示と要所のチェックである。
そしてドライヤーで髪を乾かすことをしない。
これらの作業は全て別のスタッフが行う。

彼にはお客にベストマッチする仕上がりの状態がイメージできてしまうという強みがある。
そのために必要な彼自身の作業はカットと最終的なセットであり、その他の仕事は強みを中心に据えると補助作業にすぎない。
実際彼の強みから生まれる成果を求めて、多くのお客が来店する。
その全てのお客に応え、強みを十分に発揮するためにはカットとセットに集中しなくてはならない。

そして現に、彼はカットに集中することのできるしくみを作っており、それは同僚であり、部下であり、同時に従業員である他のスタッフによってカバーされている。
卓越した接客者である彼にして、同僚の存在なくしては十分に強みを発揮できる機会を持つことができない。
だからこそオーナー社長として、その強みを発揮することができるように全体を形作ることを重視している。

強みを支える能力

素晴らしい接客者がお客に喜んでもらうための能力を身につけ高めるのとは異なり、卓越した接客者は強みの発揮を支える能力を身につける。

もちろん仕事を行うために必要な、最低限のスキルと技術力は強みにかかわらず習得する。
美容師であればハサミの使い方を知らずに仕事を行うことはできない。

素晴らしい接客者は、仕事で求められる優先順位の高い能力から身につけようとする。
仕事がそれを接客者に求める。
一方で卓越した接客者は、仕事で必要とされる能力を軽視しないものの、強みに求められる能力から身につけようとする。

仕事が求める能力というのは、接客者がサービスを提供するために不可欠な能力で、サービスをうまく提供するために必要とされる。
強みに求められる能力は、お客が求める能力であって、強みと顧客ニーズをマッチするために必要とされる。
2つは似ていてかなり違う。

サービス提供は、提供すると決めたものを公平に提供する。
同じサービスを利用しているのに、人によって違うものを提供してしまっては、お客は安心してそのサービスを利用することができなくなってしまう。
自分がサービスを利用したときよりも、友人がサービスを利用したときの方が優遇されていれば、誰だって気分が悪くなる。

接客の仕事はサービスを提供の一部分なので、サービス提供を滞りなく行うための能力を接客者に要求する。
それはつまり、サービスを公平に提供するための能力である。
そしてそのサービスを提供する上で、なるべく満足してもらうために必要な人間関係の能力であることも多い。
つまり素晴らしい接客者が身につける能力は、必ず、サービス事業者のニーズに応えることからはじまる。

これに対して、卓越した接客者の能力は、顧客からはじまる。
なぜなら、強みの発揮はサービスに向けられるのではなく、お客に向けられるのであって、お客のニーズに応える以外に能力を身につける理由がないからである。

たとえば、写真のようなリアルタッチで描く似顔絵を描く接客の仕事をしている人がいるとする。
リアルタッチな似顔絵のサービスを提供していても、お客の中には漫画タッチで書いてほしい人がいるかもしれないし、ピカソのような描き方なら描いてほしいという人がいる可能性もある。
「どのようなタッチでも描きますよ」と公言するか、しないかは別として、似顔絵を描く人が身につける能力はお客のニーズからはじまっていることがわかる。

そのニーズはひょっとするとほとんど需要がないかもしれない。
多くの人に支持されないために、それを生かす場面は訪れないかもしれない。
つまりサービス提供上の能力としては価値が低い。
しかし、お客からはじまる、強みを生かす能力は、接客者にこのような描き方の習得を求める。
強みを発揮するために必要な能力を要求する。
強みを生かす能力は、ときに全く無駄に思える。
事実無駄に終わることもたくさんある。

しかし卓越した接客者は、強みを生かす能力の追求を「決して」やめない。
万が一の必要性に応えることのできる能力を身につけようとする。

実はこの「万が一」は数字で証明できる。
強みを生かすことのできるはずの場面で、能力不足のために接客が不十分になることほど、卓越した接客者にとって屈辱的なことはない。

強みを生かすことのできる能力を99%身につけているとすると、年間に1万人の人に接する接客者は100人のロスを生むことになる。99.9%で10人。99.99%で1人のロスを毎年生み続ける。
99%では実に、年間100回屈辱を味わうことになる。
これは1週間におよそ2回の割合で起こる計算になる。

卓越する接客者は、自分の能力不足で生まれた不備に対して「学習の機会」などという甘い考え方をしない。
ただ自分に対する屈辱であると受け止める。
そして早急に能力を身につけることで解決しようとする。
しかも、ロスがイコール屈辱であるために、屈辱を生み出さないように先回りして能力を身につけようとする。

もっとも、強みを軸として能力を身につけるので、習得も速く、学習にストレスがないことが多い。
はっきり言えるのは、卓越した接客者は強みを生かす能力を身につけ続けているということである。

強みの発掘から、強みを支えるものまで、順を追って「強み」という物事にスポットライトを当ててきた。
卓越する接客者だけが持つ強み中心の接客と、素晴らしい接客者がもつ能力中心の接客を比較することで違いを明らかにした。

しかしまだ「自分の強み」となると、はっきりとわからない人も多いだろうし、現に強みの発掘には時間がかる。
試行錯誤を必要とする。

強みが発掘されても実践しなくては卓越した接客者になることはできないし、せっかくの強みも弱みのカバーと強みを支える5つの条件が揃わなくては宝の持ち腐れになってしまう。
つまり卓越した接客者は、これまでにその全てを手に入れる努力なり学習、試行錯誤と実践を繰り返してきたということであって、このことにこそ私たちが卓越するために学ぶべき最大のヒントだといえる。

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