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第1の扉 - 卓越者は強みよりはじまる

強みを発掘し生かす


ここまで、能力を軸とした素晴らしい接客と、強みを軸とした卓越した接客の特徴と違いを見てきた。
強みがどのようなものであるか、およそのイメージはついたのではないかと思う。
ここからは、強みが何であるのかをもう少しはっきりと知り、強みの発掘方法と発掘した奥にある強み、強みの実践、弱みのカバー、強みの組み合わせについて具体的に見ていくことにする。

実際には、卓越した接客者が強みを正確に「理解」しているとは限らない。
卓越する接客者の数は少ないが、その中でも強みを「理解」している人はさらに少ない。
ということは、卓越した接客者として大切なことは「理解」ではなく「実践」にあるということになる。

そもそも強みは理解しにくいし、気がつきにくい。
ここからは強みの具体的な発掘方法を示していくが、結論を急ぐと、強みは段階的に発掘される。
眠っている油田をひとつひとつ掘り起こすように発掘される。
発掘されてもすぐには役立たないものもあるし、理解しにくいものも、言葉では言い表しづらいものもある。

私たちはまだ卓越した接客者のレベルにはないので、ある程度強みの特徴を理解して上手く発掘しなくてはならないが、実際には卓越した接客者が行っているように「理解」よりも「実践」の方が大切であることをまず知っておかなくてはならない。
理解が難しい強みや、信じがたい強みが発掘された場合であっても、戸惑いや納得したい気持ちはひとまず置いて、実際にどう役立てることができるのかということを重視してほしいと思う。

強みの発掘方法

強みは「できてしまうこと」というシンプルな特徴がある。
他にも「スーパーマンであること」とか、「先天的に備わっているもの」であるとか、「他の人も当たり前にできることだと思い込んでいること」などという言葉でも説明できる。

強み発掘では何より、この特徴が問題になる。
乗り越えなくてはならない壁になる。

できてしまい、当たり前だと思い込んでいるため、ほとんどの人は強みを発掘することができない。
おでこに持ち上げたメガネを一生懸命探すのと同じように、ある意味発見することがとても難しい。
しかも強みは、その人のオリジナルであることも多く、「強みとはたとえば何か?」に答えることのできないものもある。
人は過去に経験のないことや知らないことを頭に思い浮かべることはできないから、そのような意味でも強みの発掘は困難を伴う。

しかも強みを発掘したとしても、それは表面上の強みであるかもしれず、その奥底に本当の強みが眠っている可能性もある。
そんな強みを発掘する便利な方法としてまずは、接客に適した強みの発掘方法を見ていこうと思う。

接客は仕事である。
だから、仕事で働かすことのできる強みを発掘して使った方が手っ取り早い。
強みの中には仕事に直接役に立たないものもある。

仕事で強みを発掘する方法をジョブフィードバックと呼ぶ。
ジョブフィードバックは先に出てきた書店員のように、いつの間にか自分が受け持つことになった仕事、自分が当たり前のように行っているだけなのに、どうしてか人から「助かる」などと評価されてしまう仕事にヒントを見つけることができる。

書店でいつの間にか自分だけが新刊本と返却本の管理を行うようになっていれば、強みが生かされている可能性がある。
その仕事に対して特にストレスを感じず、かといって好きでたまらないわけでもないということであれば、強みである可能性はより高まる。
過去に経験した仕事と現在の仕事で、この書店員のようにいつの間にか当たり前に行っていた仕事、役割、感謝された経験、などを書き出すことで強み発掘のヒントを得ることができる。

こうして「そういえばできてしまっているな」と感じたものは、次に本当の意味で何が強みであるかを考える。
書店員の新刊本と返却本の整理を行う仕事なら「整理整頓ができてしまう」のか、「(人ではなく)物に向き合うと成果を出せてしまう」のか、「ロジカルな作業ができてしまう」のか、「全体を整える力がある」のか、強みの本質がどの辺りにあるのかを探る。

もしこのジョブフィードバックではじめて強みを探すのであれば、過去の仕事にさかのぼって、ヒントとなる仕事に共通する特徴を探すといい。
過去、店頭販売の仕事ができてしまい、現在メールマガジンを書く仕事ができてしまうとしたら、「人に伝えるということに長けている」のか「信頼される人間性を持っている」のか、「相手に不安を感じさせない雰囲気を持っている」のか、などを検討し、正しいものに絞っていく。
この方法で行う強み探しは、特に接客の仕事を卓越に近づける。

仕事ではなく、1人の人間として強みを発掘する方法もある。
強みは仕事とプライベートの垣根を作らず、人間力そのものでもあるので、人として強みを探す行為は自分のためにも良い方法である。
卓越する接客者になるために人間力をつけ、強みを生かすための発掘方法は2つある。

ひとつが人に聞くポジティブフィードバックという方法、もうひとつが自分自身で行うフィードバック分析という方法である。

ポジティブフィードバックは、自分の長所を人に聞くことからはじまる。
人に、私の長所は何でしょうかと聞くことからはじまる。

なるべく多くの人に聞き、多くの人が共通して指摘してくれるもので、自分ではいまいちピンと来ないものは強みの可能性が高い。
強みは人から指摘されても「いまいちピンと来ない」という特徴がある。
本人は「そんなことは誰もが当たり前にできる」と思い込んでいるからである。

多くの人に聞くのが恥ずかしいとか、面と向かって長所を教えてと言いにくい場合は、数人でゲームをするようにポジティブフィードバックを行ってもいい。
自分から、そこに集まった人の強みを発表することで空気を盛り上げてもいい。
実際人の強みに注目するということは、自分の強みを考え、強みが無自覚性を持つということを理解することにつながる。

このポジティブフィードバックを行うときに気をつけることがいくつかある。
まず、人が指摘する長所は強みではなく能力である場合がある。
相手の発言を否定することはないが、強みと能力は分けて考えるようにする。
次に、相手は相手自身の色眼鏡を通じて長所を評価するということを覚えておく。

たとえば数人でポジティブフィードバックを行ったとき、答えを受ける人に対して、ある人は「ファッションセンスが良い」と指摘し、別のある人は「冷静に物事を判断する」と言うことがある。

ファッションセンスについて指摘した人はおそらく自分もセンスが良いのだろうし、外見に価値観を持っているはずである。
冷静な物事の判断を評価した人は、おそらく外見よりも内面に興味があるだろう。
そこには相手の基準や判断材料があり、その材料を中心に評価するので、言われたことがそのまま強みに当てはまるとは限らない。
このことを知って話を聞いた方がいい。

「いまいちピンと来ない」ものの中に相手の主観だけの評価が紛れ込んでいる場合、それは強みではないということもあるので、後で考えをまとめる時にそういったものは省くようにする。

ポジティブフィードバックが他人の力を貸してもらう方法であるのに対して、フィードバック分析は自分自身で自分の強みを発掘する方法である。
これは現代マネジメントの父ピーター・ドラッカーが推奨し自身も行っていた方法で、かなり正確に強みを発掘することができる。

フィードバック分析では、まずこれから計画していること、どのように行うか、何を重視するかなどを全て書き留める。
たとえばこれから「書店員の毎日を綴ったブログを書こう」と決めたとき、どんなことを書いて、どのような人に読んでもらい、どの程度の頻度でそれを続けるか、なぜそれをはじめるのか、などを書き留めておく。
もちろん仕事でもプライベートでも構わない。

新刊本と返却本を整理する仕事をしているのであれば、棚の整理方法、平積みする本の位置や、傾向、ポップの工夫など、仕事を効率化したりチャレンジしたりするプランを記録しておく。
そしてブログにしろ仕事の計画にしろ、それを封書に入れて封印する。

9ヶ月から1年が経ったらその封書を開き、以前計画したことの何が予想通りに上手くでき、何が上手くできなかったかをフィードバックする。
予想しなかったが上手く行ったことや、予想せず上手く行かなかったことも見返す。
予想通り上手く行ったことが強みであり、全く予想通りにいかなかったことが弱みである。

上手く行ったとは言えないけども、ダメなわけではなかったことは能力が必要とされるかもしれない。
予想せずに上手くいったことはまだ気がついていない強みが眠っている可能性があり、予想せずに上手くいかなかったことは弱みが眠っている可能性がある。

この方法を継続して繰り返すことで、年間1〜3つ程度の強みをはっきりと知ることができる。
この方法を続ければ強みも発掘され続ける。
この方法は3つの強み発掘の方法で最も時間がかかる反面、最も確実に強みを発掘することができる方法でもある。

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