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賢い利用法

拍車をかけるお客心理

たとえばこの旅行社の場合、お客であるサービス利用者はどのように考えているのだろうか。
おそらくサービスの存続と、継続的な提供を求めていることは間違いない。
しかしほとんどの場合、彼らはサービスを利用する以上の何かを行うことはできない。
サービスの利用さえ、タイミングや事情によっては受けることができないかもしれない。

しかしこの状態は実はまだましな方なのだ。

小さな事業の高質サービスには、穴場のお店パラドックスがつきまとう。
たとえばこのようなことだ。
私の自宅の近所に、マンションの3階を改装したこじんまりとしたカフェがある。
このカフェはオーナーがレコードの販売を行うスペースにカフェを併設したものだが、料理がすこぶる美味しい。
鳥羽国際ホテルのレシピを導入している料理があれば、パスタはちょっとしたイタリア料理店では及ばないレベルである。
しかも犬連れでの来店が可能なので、犬を飼っている私は重宝している。
そして何より、お客が少なく、品のいいBGMに落ち着く程度の静かさを保った空間を提供してくれる。

そこで私は思う。
こんなに素晴らしい条件(効用)の揃ったお店はなかなかない。
積極的に利用したい。
しかしどうもお客が少ない気がするのだが、経営は大丈夫なのだろうか、と。

そしてさらにこう思う。
潰れてもらっては身も蓋もないので、多くの人に紹介したい。
しかし口コミで広まってしまうと静かな雰囲気が壊れる上に、喫煙者のお客が増えると迷惑だ(私はタバコを吸わない)。

こうして潰れてほしくないために何かできることをしたいと思う反面、何かを行ってしまって今の環境が崩れるのも嫌だという狭間に立たされる。
そして結局は現状維持のまま、たまにサービスを利用して時が流れていく。つまり、お客は積極的に何もせず、見て見ぬふりを続ける。
これが穴場のお店パラドックスの原理である。
お客の消極的な行為と心情も、間接的に小規模サービスを苦境に追いやってしまう。

小さな高質サービスの特徴

規模の小さいサービスは世の中に溢れるほどある。
一般的に私たちはお客として、規模が小さいことイコール、大きくなることができないのであまり良くはないサービスだろう、と判断することが多い。
「街のこだわりオヤジの洋食屋でなければ洋食とはいえない」というお店もたまにお目にかかることもあるが、その他大半の小規模サービスに興味を示すことはほとんどない。

しかし世の中には、高質サービスを提供する旅行社のようなサービスが必ずある。

そしてそのような小さな高質サービスは、示し合わせたように収益性、つまりお金儲けに長けていない。
彼らは高質のサービスを提供することにかけてはすばらしいものを持っているが、お金を稼ぐことにかけて同じようにすばらしいとはいえない傾向にある。

私たちは一般的に「いいもの」「売れる」と考えてしまいがちだが、現実にはそういうことはほとんどない。
「いいもの」とはいいものを作ることのできる能力によって作られる。
「売れる」というのは、売る技術に優れていることによってよく売れる。

一般的に販売促進、マーケティングなどと呼ばれる行為に優れている事業が提供するサービスは売れやすい。
たとえ品質が劣るとしても売れやすい。
その証拠にサービス力という意味では、障害者を対象にした旅行社がすばらしいことは疑いようがないが、最大の売上を誇るのは実際のところJTBである。

中規模としくみのしっかりしたサービスでは起こらない

穴場のお店パラドックスは、小規模ではなく中規模のサービスでは起こらない。
むしろ積極的にお客がお客を呼ぶ口コミが発生することすらある。

東京に2店舗を構えるあるリゾートレストランは、1週間先の予約を取ることすら困難である。
それほど盛況であり、お客が人に紹介したくなるようなしかけがサービスの中にいろいろと組み込まれている。
同じ高質のサービスを提供しながら、このお店では開店以来客足が途絶えたことがない。

レストランのようにサービス提供の回転が早く、お客の収容力もあるサービスでは、お客は積極的にお客を紹介する。
もちろんトータルサービスが素晴らしい前提でだ。
それはお客の数が増えてもサービスが崩れないようなしくみがしっかりしているからであり、お客もそのことを理解しているということが大きい。

小さいお店であれば、しくみがしっかりしていないか、しっかりしていたとしてもキャパに限界があることをお客が見て取るために、実はどれほど素晴らしいサービスを提供していても口コミは発生しにくい。
それを行ってしまうとお客としての自分が不利な状態になるからである。

それでは私たちは、小さくすばらしいサービスとどのように付き合い、賢く利用していけばいいのだろうか。

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