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卓越した接客とは?

源氏と平家


「卓越した接客」「素晴らしい接客」は、源氏と平家である。
2つは相容れない。
敵である。

世の中にはまだまだ「素晴らしくない」「ずさんな」「対応の悪い」接客が数多くある。
そのような接客業の中で「素晴らしい接客」は、素晴らしいサービスを提供してくれるとしてお客の心をひきつける。
お客はその接客によるサービスを安心して受けることができる。

しかし、実際にはこの「素晴らしい接客」が接客とサービスをダメにしている。

「悪い」という物事を「良い」に変える方法と、「良い」という物事を「ベスト」に導く方法は違う。

たとえば、病気を治すという方法と、健康にするという方法は異なる。
病気は医者が体の病原菌を取り除くなど、不備を正常に戻すことで解消される。
治療によって病気を排除する。
一方の健康は体の機能が正常な上で、有酸素運動をしたり、食生活を改善したりすることなどで促進される。
治療ではなく運動や予防によって作られる。

あるいは、広く知識をつけることが目的の小学校の教育と、専門分野を学ぶ大学の教育も方法が違う。
小学校では、担任の先生が広い分野の知識を、なるべく1人1人面倒を見ながら教えていく。
様々なことに興味を持たせることも必要とされる。
一方大学では、専門分野の教授が、ひとつのことを深く教える。
学生に興味を持たせることよりも、興味を持った学生に知識をつけることが望まれる。

同じように、「素晴らしい接客」「卓越した接客」は、それを生みだす方法が違う。
考え方も違い、行うことも、目的にするものも違う。

「素晴らしい接客」は「悪い」を「良い」にすることで作られる。
たとえば、対応を良くする、サービスの提供を早くする、不満足を感じてもらわずになるべく満足や感動をしてもらう、などを行う。

これに対して「卓越した接客」は「良い」を「ベスト」にすることで作られる。
良くすることを無視するわけではないが、良くすることよりも追求することに力を入れる。

しかし現場の接客は実際には「良くする」ことに力を入れる。

具体的にいうと、顧客満足や感動を喚起し、ホスピタリティ溢れるサービスを実行しようとする。
コミュニケーション力をアップし、適切な敬語の使い方や礼儀作法などを大切にする。
この方法で卓越した接客を目指すとき、健康な人が治療をし、小学校の先生が大学生に教えるのと同じで、それはかなりの間違いを含んでいる。

「素晴らしい接客」自体が間違いであるわけではない。
悪い状態は「素晴らしい接客」を目指すことで克服されなければならないし、そうでなければサービスの程度は低いものになってしまう。

しかし素晴らしい接客者が増え、店舗や会社が良いサービスを提供することができるようになったら「卓越した接客」を追及するようにする。
なぜなら「悪い」「良い」に変える方法は、たとえそれが相手を満足させることであるとしても、背景に「悪くしないため」という考え方があるからである。

たとえば「心配り」は、それを行わなかった時に感じる顧客の不満足を避けるという前提がある。
クレーム対応は、クレームによって問題が拡大しないようにするという目的を持つ。
物事を行うとき、このゆな「悪くしないため」という前提は、長い目で見てその物事を失敗させる。

ダイエットを太らないために行うことと、痩せるために行うことは違う。
同じように病気にならないために気をつけることと、健康になるためにはじめることは違う。
テストに落ちないように勉強することと、深く学ぶために勉強することも同じではない。
スポーツで相手に負けないために練習することと、勝つために練習することは異なる。

「悪くしないため」に何かを行うと、目先はクリアに見えるものが、長い目で見ると何を目指しどこに行こうとしているのか、なぜそんなことをやっているのかがわからなくなってしまう。
もっと悪いことに、その方法が習慣となって、もっとも正しい方法だと錯覚しはじめる。
成果が出ない原因を、努力不足や経験不足など目に見えないものに求めるようになる。

どうしてこのようになるのか、そのメカニズムは順を追って見ていくけれども、しかしそれは、お客としてサービスを経験している人であれば誰もが知っていることでもある。

「素晴らしい接客」がサービスや接客をダメにしてしまうのは、新しい考え方でも発見でもなく、世の中のお客がみんな知っていることの再確認でしかない。
だから実は、お客の声に真剣に耳を傾ける接客者やサービス事業者はこの事実を知っている。
数は少ないにしてもちゃんと存在している。

ただ、平家の天下はうんざりだけど(「素晴らしい接客」では限界があることはわかっているのだけど)、では誰が天下を治めたらいいのだろう?という疑問を感じていて、その答えがわからないことに悩んでいる。

答えである、天下を治めるのは源氏なのですよ(「卓越した接客」が接客をベストに導くのですよ)という事実の全体像を、これからひとつずつ明らかにしていきたい。

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