Esmose

コラムを読む

3章 - 木から枝葉が育つ

感性の強みを生かす人

 

感性の強みを生かしている人もいる。

ある美容師もまた、2つの強みを仕事で使いこなしている。
特徴的なのは、その両方が非常に感覚的なことだ。

日本で9年間カットをし続けた彼は、腕を上げるためにフランスに行くことを決心する。
ヘアデザインの世界では有名な人に教わったり、パリコレ出演者のモデルのカットをして活躍する。もともとは芸術家になりたいと考えていたので、「あなたとなら一緒にお店を持つ」と言われたときにも今ひとつ乗り気ではなかった。
しかしどういう縁か、フランスにいながらにして東京で出店する話がどんどんと進んだ。

そして当時はまだオシャレでもなんでもなかった中目黒に物件を借りることに決めた。
彼以外の人はその立地に反対したが、彼だけは「僕がいればお客が来るという予感がする」と言い、その場所が気に入って借りた。

出店後もパリと東京との二重生活を送っていた。
お店は最初閑古鳥が鳴いていたが、そのうちに彼が出店したと聞きつけた昔のお客が続々と来店するようになった。
店は繁盛し現在は3店舗を構えている。

これがオーナー美容師の彼が使う強みの1つ目である。

「僕がいればお客が来るという予感がする」という非常に感覚的なことを目の前でいう人がいるとして、誰が「それならだいじょうぶだ。心強い」と思うことができるだろう。
出店を渋った周囲の人の方がよほど正常に思える。

しかし強みをよく知っているとこのことは不思議でも何でもなくなってしまう。

彼がまだ日本にいた頃、街中を歩いているとどういうわけか高い確率で自分のお客に会うことがあった。実を言うと、私も原宿で彼にばったり会ったことがある。

彼の強みは「自分に引き寄せられる人がいる」というもので、それは自動的に行われる。
自分には必ず人が引き寄せられるという確信があるからこそ「お客が来る」とわかる。

これは未来予想ではなく自己確信である。
彼はまた別の強みをその仕事で使う。

彼がお客をカットするとき、お客の希望をほとんど聞かない。
お客が話しても実はあまり聞いていない。
強みを使いこなす卓越者には、実はよくあることだ。彼が聞くことは長期的な展望で、シンプルなことだけである。
たとえば「今後伸ばしたいですか?それとも短くしたいですか?」ということだけだ。

そしてその質問をして回答を聞いた後、彼はお客の顔を正面から2,3秒だけじっくりと見る。そして「わかりました」と言う。

何がわかったのかは、お客にはほとんどわからない。
どうしてお客の希望に耳を傾けないのかも、お客には全くわからない。

このときに彼は強みを使っているわけだが、その強みは「完璧なイメージ像を見出す」ということにある。
2,3秒顔を見るのは、その人の顔を観察しているのではなく、その人にベストマッチした最高の状態を見ている。実際に映像を見ているわけではなく、イメージを見ている。

「見るようにわかる」ことを直感というが、彼は感性の中の直感を使っている。
その直感を使って「完璧なイメージ像(完成図)」を見出す。
そして最終的にはどのお客もカットし終わった後の自分の顔と髪を見て感嘆のため息をつく。

卓越者である彼が仕事で使う強みは「自分に引き寄せられる人がいる」「完璧なイメージ像を見出す」の2つである。
これに美容師としての技術が加わることで、彼を誰も及ばない超一流の卓越者にしている。

トップに戻るボタン