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サービスの本質

提供すると決めた約束を守る

「新鮮な果物を提供する」というサービスを行っている八百屋があるとする。
その八百屋で購入したグレープフルーツが腐っていたとき、私たちの感覚ではお店にその事実を告げることで新鮮なグレープフルーツと交換してもらおうとする。
これが実はサービスの特徴である。

提供するという考え方はサービスの概念である。
一方商売では「販売する」という考え方で、「販売する」という考え方の根元には交換の考え方がある。
販売というのは、物と金銭を交換しましょうという意味がある。
「交換」は相互の関係で、お互いが何かを差し出し、お互いが納得することで交換が成立する。

元々は山の人が野菜を、海の人が魚を持ち寄ったのだろう。
ジャガイモ十個に対してイワシなら五匹、ブリなら一匹という、それぞれの基準を話し合いで決め守ったはずである。
お互いが納得し、お互いが公平だというやり取りの下で交換は成り立つ。

それを後になってから「やっぱりジャガイモ十個は多かった」「ブリは半身にするべきだった」などと言うことは、お互いの信頼関係を崩してしまうことになる。
つまり商売では、取引後に交換条件を云々することは元々許されていなかった。
「結果」は条件に納得した双方の自己責任だったといえる。

こうして考えてみると、商売ではグレープフルーツが腐っていたとしても、その責任は購入した側(お金で交換した人)にあるということになる。

よく確認しなかったか、購入後の保管状態が悪かったかは重要ではない。
交換の公正な取引がなされたかどうか、公正な条件であったかどうかということが重要になる。
その条件に一致していれば、納得して交換したのだから腐っていたかどうかは問題にはならない。

「そんなバカな」と思う人もいるかもしれない。
しかしこの考え方は、現在でも外国ではよく見られる。
都市部のスーパーでさえ十分に起こるし、珍しいことではない。
つまり、腐ったグレープフルーツを新鮮なグレープフルーツに交換してくれるということは、なかなかないことなのである。

あるいは契約書を交わす関係を思い浮かべるといい。
一度契約書を交わした以上、その契約は契約内容によって履行される。
後になって不公平だと訴えても正当性は認められない。

反対に、サービスは「提供」という考え方をする。
「提供」は「交換」と違って、物の流れは一方通行である。

提供者は必ず提供し、お客はそれを受けるというお互いの関係にある。
提供すると決めたものが確実に提供されることが、提供者の責任ということになる。
だからグレープフルーツが腐っていた場合、新しいグレープフルーツを提供するかどうかはサービスのコンセプトによって変わる。

古かろうが新しかろうが「果物を提供する」というコンセプトのサービスを行っているのであれば、おそらく新しいグレープフルーツには交換してもらえない。
もう既に果物を提供したからである。

しかし「新鮮な果物を提供する」というコンセプトでサービスを行っている場合は、新しいグレープフルーツを提供し直す。
新鮮なグレープフルーツがお客の手に入るまで提供し続けるのが、サービスの責任になる。

取引の条件やグレープフルーツを利用者が確認したかどうか、保管状態はどうであったかなどは重要ではない。
結果としての新鮮なグレープフルーツの提供だけが、サービスの守られるべき約束になる。
新鮮なグレープフルーツを提供すると約束したのだから、その約束は何があっても守られなくてはならない。

これが「提供すると決めたものを提供する」「提供すると決めた約束を守る」正しいサービスで、サービスの責任である。
商売上この行為は、利益の圧迫であり損失となる。

ちなみに「果物を提供する」と「新鮮な果物を提供する」の、どちらのサービスが良いかを比較することはできない。
お客は利用者として、どちらがより自分に合っているのかを選ぶことしかできない。
お客視点として、どちらが約束を守っているのかということを判断し、どちらを利用するかを選べばいいのであって、良いか悪いかを決めることはできない。

このように商売の視点とサービスの視点が異なる場合がある。

2つはよく同じものだと考えられるが、実際には全く別々の物事であり、役割も目的も異なる。
どうしてこのようなことが起こるのかは歴史について触れる時に解説するけれども、19世紀半ばから商売にサービスが組み込まれるようになったことで、両者はよく混同されるようになった。

この混同のもつれた糸を解きほぐしたとき、真っ先にその姿を見せるのが「提供すると決めた約束を守る」というサービスのあるべき特徴である。
では「提供すると決めたもの」はどのようにして決まるのか。
これが3つ目の本質「サービス提供者のコンセプトを反映する手段」である。

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