寂しくなったところに誰かがいたら、誰でもその手を取ると思いませんか?林さんが現れたタイミングはまさにそんな時でした。ところが前回のような距離の近い感じではなく、林さんは淡々としかし重めの口を開いてこう言いました。
「野間良枝さん。本日はひとつのことを選んでもらわなければなりません」そこで少し間があきました。「突然そんなことを言われてもよくわからないと思います。ですが、選ばなければならないのです」そう言って林さんは静かに沈黙の時間を取りました。なんでしょう、そのときの表現しがたい不安な気持ちは。
有無を言わせない雰囲気というのでしょうか、私は知らずのうちに唾をひとのみして「はい」とか細い声で答えました。聞きたいことはたくさんあるような気がしましたが、どう口を開いていいかわかりませんでした。
林さんはアゴを数ミリ引いたぐらいの薄い頷きをして、ゆっくりと話をはじめました。
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