自分の強みを明らかにする松原靖樹のエスモーズ理論

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制約がどんな成功法則より力を発揮する、ということ


こちらは2009年3月17日に掲載されたコラムです。


堅い文章書きます。
長文です。

制約条件というものについて書きます。

ナポレオンがロシアと戦ったうちのひとつの戦いに、戦死者も多く出て、寒くて、どう考えてももう勝てなくて、 「ああ、これはダメだ。明日夜が明けたら退却しよう」というほど、はっきりと負けを認めた戦いがあります。 夜が明けてナポレオンが愕然としたことは、撤退戦の激しさに対してではなく 目の前から敵が消えていなくなったということに対してでした。 ロシア側もナポレオンと同じく、疲弊して損失と消耗が激しく、「これ以上戦うのは無理」と判断して いち早く戦線離脱していた、というわけです。こうしてナポレオンはこの戦いに『勝利』しました。

マネジメントの父と呼ばれるピーター・ドラッカーは、プロというものに対して決定要因はないとしています。 「これこれこういう条件を備えている者がプロである」とは言えない、としています。 条件は変化する、共通項はないということです。 ただ、「目にしておきながら責務を全うしないのはプロではない」としています。そこは共通しているとしています。

長年寄り添った夫婦に、あるいは100歳を超える長寿の方にうまく行く秘訣や長寿のコツをインタビューをすると、 それぞれまちまちで、バラバラな答えが返ってくるということがわかります。 どこにも共通した特徴を見い出せないということは、テレビの企画などを見ていてもかなり明らかです。

同業他社よりも売り上げを上げることができ、お客さんの信頼も厚い企業をよく見てみると 他とそれほど変わりはしないのに、なぜかうまく行っているということがままあります。 当人(当社)は、サービスとか伝統とか理念や社員教育を理由に挙げても、 それは他社もやっていることであったりします。言っていることは的外れであるわけです。

ナポレオンが戦闘に勝利したこと、プロであること、
夫婦としてうまく行くことや長寿の秘訣、他社よりも優れること。

これらに「成功するための法則」はありません

私たちは物事をうまく運ぼうとするとき、何かを行うことを初めから想定しています。

なぜなら、たとえばスポーツ選手は勝つためにトレーニングをするし、
精神を鍛えることを知っているからだし、

たとえば学校教育を通じてやればできるということを肌で学んで来ているからです。

でも、それでうまく行かない人がたくさんいるということを、私たちは必ず知っています。

行動しても、成功事例から学んでも、どんなに試行錯誤しても
うまく行かないものはうまく行きません。

なぜか。

これはモチベーションの科学でうまく説明することができます。(話の寄り道をします)

モチベーション・・・つまり「やる気」・・・に対して、私たちは多くの場合、上がるか下がるかで判断しています。 ところが事実はそうではありません。 上がる、下がる、ない、上がりながら下がる、の4つの場合があります。

モチベーションが上がる要因となるものを動機付け要因といいます。 逆にモチベーションが下がる要因を衛生要因といいます。 動機付け要因は満たされなくてもモチベーションが下がらず、満たされると上がります。 衛生要因はいくら満たされてもモチベーションは上がりませんが、満たされなければ下がります。

ということは動機付け要因が満たされ、かつ衛星要因が満たされていない場合も存在し得るわけです。 つまり、モチベーションが上がりながら同時にモチベーションが下がるという状態があるということです。

一般的に人に認められる、仕事を任される、信頼されているというのは動機付け要因になります。 認められていない、任されていない、信頼とまではいえない、という状態は好ましくはないにしても、 モチベーションがさほど下がる物事にはなりません。

に対して、給料、福利厚生、社内システムなどは衛星要因になります。 これらは満たされていてもモチベーションを高めませんが、満たされていなければやる気を奪ってしまいます。 というと、給料が上がればモチベーションは上がるのではないか?という疑問もあるかもしれませんが、 実際には一時期やる気が出ても、すぐにその給料に慣れてしまいます。 余談ですが、社員のやる気を高めるために給料を上げるのはいろいろな意味で下策です。

このモチベーションの科学で取り上げられる衛生要因が制約条件を説明してくれます。

衛生要因は、それが満たされていてもモチベーションは高まらないが、
満たされていないと下がるもの。

制約条件とは、

それが満たされていてもうまく行くとは限らないが、満たされていなければ失敗するもの

のことです。

ナポレオン、プロ、夫婦と長寿、他社との優位性はこの制約条件によって全て説明がつきます。

そして私たちが思い込んでいる、
何かをすればうまく行くという誤った概念を覆してくれます。

ナポレオンが戦闘に勝利することができた直接の原因は、戦術が優れていたわけでも、
兵士が優秀だったからでも、
忍耐と根性に優れていたわけでもありません。

ただ単純に、撤退するのが相手よりも遅れたというだけの理由です。

これは制約条件です。

「撤退が遅れることこそが勝利の条件だ」などとはいえません。

プロフェッショナルが必ず「目にしたものへの責務を全うする」
(原文は「知りながら害をなさない」)ことだとして、

関わりのある物事で目にしたものは必ず責任を持って対応するからといって、

それだけでは必ずプロであるとはいえません。これもやはり制約条件です。

長く続く夫婦の秘訣や長寿の秘訣が、人それぞれバラバラなのは

何か共通の物事を行うからうまくいくのではなく、
共通の物事を行わないからうまくいくと考えるのが自然です。

他家に対して、我が家だけが「やっていないこと」を見つけることは困難です。

同業他社よりも優れて活動できている企業も同じで、
多くの場合は他社がミスをする体制を持っているためにミスをしない自社に信頼が集まる、という理由がよくあります。

他社には信頼に値する決定条件(モチベーションで言うと動機付け要因)
があるかもしれないけれども、

同時に制約条件が満たされていないのでミスやクレームを生み出す
(モチベーションでは衛生要因)という状態があるので、
失敗しない堅い経営をしている自社にお客が集まる、という図式になります。

つまり、

うまく行くことは往々にして、自分の努力や行動ではなく他のミスによってであったり、

制約条件を満たすということを続けているだけであったりする

ということです。 もっと簡単に言えば、失敗しない方法をやっているということです。

何かを行うとか、積極的に打って出るのではない方法こそが、成功を生み出しているともいえます。


ではなぜ、こんなことが起こるのでしょう?

戦闘に勝つにはナポレオンのように半分運任せということになるのでしょうか?

実は意外と、答えはNOではありません。

私たちが習慣的に注目するのは、チャンスをものにする行動や思考パターンです。

ところが、チャンスに注目している人がチャンスを生かせないことはよくあります。

自称生かしているという人はたくさんいます。

が、事実、よくよく観察してみるとさほどのことでもないということがわかります。

なぜ彼らの多くが積極的でポジティブであるのにもかかわらずうまく行かないのかというと、

重荷を背負っているからです。

重荷を背負ったまま速くたどりつくことや、動くことを考えるからうまく行かない。

に対して、重荷を背負わず身の丈に合った装備をしている人は、

数多くのチャンスを仮に逃しているとしても、少しずつ前に進むことができます。

そしてこれが大切なところですが、
軽装だからこそ何回かに1回は簡単にチャンスを手にすることができます。

何回逃しているかではなく(逃したところで着実に前に進むので)

何回かに1回は絶対に手にすることができる体制がある、ということです。

だから無理しなくてもうまく行く。

だから成功の秘訣が何かを聞かれてもうまく答えることができないのです。

あるいは勘違いで的外れな発言をしてしまう。本人も気がついていないからです。

だって、うまく行かなくなることをしないだけだし、うまく行くのは確率論になるから。

つまり、半分運任せであるともいえるわけです。

これが制約条件を満たしている人のメカニズムです。


それではなぜ、人はこの方法を取り入れないかというとかなり明確に説明できます。

わかりにくいということがまずあります。わかりにくいものにトライする人は少ないでしょう。

習慣もあります。私たちは子供のころから大人になっても、
「行動する」ことで何かを得ようとします。
行動しない方法を正しいとすることに抵抗を示すからです。

そして、長期的視点であること。多くの人は安易な結果を求めます。早く何とかしようとします。

本当に大切でありながら、長い時間かかることを心理的に拒否しようとします。

見栄えが悪いということもあります。サクセスストーリーに憧れるというような気持は誰もが持っています。

これほど理由を挙げることができるので、多くの人は制約条件の解除に力を入れないまま決定要因の追及に走ってしまいます。

しかし、だから、

制約条件に取り組んでいるごく少数の人が、着実で確実な成果を得ている
という現実があるわけです。

うまく行っている人を(うまく行っているように見える人ではない)よく観察すると、
こういうことが明らかになります。

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