03.ガチョウと金の卵の関係

ガチョウと金の卵の関係である、卓越した接客者と一流の顧客の関係は、必ずしも密接であるとは限らない。
むしろさほど関係が深くないことも珍しくない。

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ガチョウは金の卵を産み、金の卵はガチョウを産む。
しかしガチョウはガチョウであって金の卵ではない。金の卵も同様にそれは金の卵であってガチョウではない。
卓越した接客者は一流の顧客になることができる条件を備えていながら一流の顧客ではなく、一流の顧客が卓越した接客者であることはほとんどない。

この近くて遠い不思議な関係はなぜ起こるのか。

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卓越した接客者は皆一様に、サービスに関して一流の顧客の意見を聞こうとしない。
本来であれば一流の顧客こそサービスと接客を正しく理解しているだろうし、彼らの声に耳を傾けることはもはや必要不可欠とすら思える。
しかしそれを行わない。

提供するサービスによって差はあると思うが、これには理由がある。

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まず卓越した接客者はサービスを完璧に提供することと、自分の力を総動員してお客のニーズを見抜き応えることで接客を提供するので、サービスに関してほとんど彼らの意見を聞く必要がない。
ある意味、その完全性を求めてお客はサービスを利用しているのであり、お客の側に意見をする理由が見当たらない場合もある。

また一流の顧客の中には、卓越した接客者を見分けながら、しかし素晴らしい接客者こそ接客のあるべき姿だと考えている人がいる。
卓越した接客者はそのような意見を取り入れるわけにはいかず、しかし耳を傾ければ無視するわけにはいかなくなるため、はじめから聞かないことにすることもある。

さらに、卓越した接客者は一流の顧客を、「私がニーズを見極め、指摘したことをを完璧に行う人」であると考えている。
広い意味での一流の顧客ではなく、自分のサービスを利用する上での一流の顧客と考える。
この考え方だと、耳を傾けるのはサービスを利用するお客であり、提供者である接客者ではないということになってしまう。

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実際に卓越した接客者が一流の顧客に耳を傾けてわかることといえば、客観的に見て自分がどのような喜びをもたらしているかということくらいしかない。

もちろんこの意見をヒントにして強みを発掘することはできる。
しかし一流の顧客が指摘するものの中に含まれる強みは、既に発揮しているものであることが多い。
その強みを発揮しているからこそ、一流の顧客が気づき、支持していると考えた方が自然である。

このような理由から、卓越した接客者の多くは一流の顧客に耳を傾けない。
彼らが仮に耳を傾けるとすれば、より完璧に近づくために別の卓越した接客者に話を聞くだろう。

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世の中で一流の顧客である人を除けば、卓越した接客者ほど一流の顧客になるもっとも近い場所にいる人はいない。

卓越した接客者は基本的に、一流の顧客が知っている3つのことをほとんど知っている。
彼らも他の人と同じように毎日何かしらのサービスを受けながら生活している。
一流の顧客になる機会は山ほど転がっている。
しかし彼ら自身は一流の顧客になることはほとんどない。

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役者が観客席から演劇を見ることや、修行中の料理人が休みの日に自腹を切って自分が働く店で料理を食べるということはある。
しかしそれは、自分の実力を上げるためにお客という立場に身を置いてみるのであって、一流の顧客になることを目的にしているわけではない。
彼らが普通にレストランで食事をするときや、デートで映画を見る場合も同じで、彼らはお客として経験を重ねようとはしない。

卓越した接客者はそもそも強みを軸に行動しているので、強みの部分に限っては仕事とプライベートを分けない。
強みを軸にしていると、人の思考パターンや感性は強みを中心に回転していくようになる。
どこかのレストランでサービスを受けても、お客として感じることを優先するのではなく、強みに結びつくヒントに気がつくことを優先するようになる。
そうであるからこそ、卓越した接客者は卓越者になることができる。

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一流の顧客は、彼らを一流の顧客にする強みを持ち合わせている。
その強みが彼らを一流の顧客にし、卓越した接客者にはしない。
物事をよく観察できてしまう力や公平に正しく評価できてしまう力は、卓越した接客者になるためにはほとんど意味を持たないが、一流の顧客になるためには絶対的な力を発揮する。

しかし事業が接客者とお客という2種類の「人」を必要とするように、素晴らしいサービスを提供する事業は、卓越した接客者と一流の顧客の両方を必要とする。

卓越した接客者はサービスの視点から事業を作る。
一流の顧客はマーケティングの視点から事業に必要な問いかけを行う。
両方に支えられたサービスは、素晴らしい価値を世の中に生み出す。

東京に二店舗を展開するあるレストランでは、事業としてサービスを提供する以前から卓越した接客者と一流の顧客が一緒になってコンセプトを作り、サービスをはじめた。
卓越した接客者は接客の道のプロであり、たとえば一度のオーダーを取るのに立ち位置を数度変えるなど、それ自体はお客に満足をもたらすわけではないが、サービスを完璧に提供するために必要なあらゆる手段を駆使する。
理想のレストランを立ち上げるのに彼の存在は必要不可欠だった。

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しかし注目すべきはこのレストランのオーナーで、彼は一流の顧客だった。
国内外の定評の高いありとあらゆるサービスを経験することに時間とお金を費やした。
レストランが開店してからも、お客に挨拶をしながらオーナーの役割を果たし、同時に自腹を切って毎日自分のレストランで食事をした。
あるお客や別のお客に混じり、会話を交わしサービスを楽しむことを続けた。
そして彼の経験と感覚は、サービス提供者である接客者の視点からだけでは決してもたらされなかったであろう要求を突きつけた。
つまりそのレストランの「顧客」満足を定義した。

そして今や、1週間前にこのレストランの予約を取ることはきわめて難しい。

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02.卓越した接客者が一流の顧客を生み出す

卓越した接客者のキャビンアテンダントは、自分の仕事をしたにすぎない。
彼女からすれば小さなミスや、まだまだこれではいけないと感じることがあったに違いない。
お客の中には多少の不満を感じた人がいたかもしれない。
しかしそれでも、彼女がサービスを最高に感じてもらうための接客を行い、それが見る人から見て「やはりこれは尋常ではない」と感じさせたことは事実として間違いない。

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卓越した接客者は全員、自分がまだまだだということを知っている。
小さくてもミスがあり、100回のうち99回しか完璧にできないことを恥じであると信じている。
他の接客者と同じように、不備があればくよくよすることもあるし、誰かに話を聞いてほしいと思うこともある。

しかし卓越した接客者は本人がどう思おうとも、必ずある特定のお客によって客観的に観察されて評価される。
その人個人の感情によって感謝されるのではなく、その人が持つ「見る力」によって理性で評価される。

そのような判断のできる一流の顧客を、卓越した接客者は必ず生み出す。
生み出そうと思って生み出せるものではないが、必ず生み出される。
これが卓越した接客者の最後の条件になる。
彼らは結果として一流の顧客を生み出す。

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それは卵と鶏の関係に似ている。
卓越した接客者の条件を満たし実践できるから一流の顧客がそれを評価するのか、一流の顧客に評価されるから卓越した接客者となるのか、厳密にはどちらが先であるとはいえない。

しかしここではっきりいえるのは、卓越した接客者は必ず一流の顧客を生み出し、彼らによってその存在が明らかにされるということだけである。
接客者自身が一流の顧客の存在を知っているか、知らないかは重要なことではない。
問題は一流の顧客を生み出していない接客者は卓越した接客者ではないというところにある。
それでは一流の顧客とはどのような人のことを指すのか。

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卓越した接客者が必ず一流の顧客を生み出すように、素晴らしい接客者も彼らを「素晴らしい」としてくれるお客を生み出す。
しかし、素晴らしい接客者のことを素晴らしいと評価するお客が一流ではないということではない。

そもそも、お客として一流であるとか、二流であると決めるのは難しいだけではなく不可能だといえる。
一流と二流、二流と三流を分ける基準はないし、そもそもお客をそのようにランク付けすることが正しいとも思えない。

ここでは便宜上、卓越した接客者を見分けることのできるお客が稀であることから、そのようなお客だけを指して一流の顧客と呼ぶことにする。

そして彼らは、卓越者を卓越していると評価する一方で、素晴らしい接客者をやはり素晴らしいと評価する。
単純に「感動した」と伝えるだけのお客ではないと考えてほしい。
したがって彼らの最も大きな特徴は、接客者を観察し

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ことで卓越した接客者を見分けるということにある。
このことを軸にして、一流の顧客は3つのことを知っているという特徴がある。

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第1に一流の顧客は、喜びが生まれることを知っている。
一流の顧客は、自分が素晴らしい接客を受けたときに喜びを感じるだけではなく、他のお客にも喜びが生まれることを知っている。
他の人も自分と同じように喜ぶということを知り、ときには自分はそれほど喜びを感じないことであっても、他の人は大きく喜ぶことがあると知っている。
大きな喜びが生まれれば、小さな喜びが生まれることを知っており、目に見えやすい喜びがあれば、目を凝らさなくては見逃してしまいそうな喜びがあることを知っている。
1人の人に感動を与えることがあれば、複数の人に同時に大きな満足を感じさせることがあることを知っている。
つまり喜びには種類があることを知っている。

第2に彼らは、喜びは接客者によって使いこなされることを知っている。
もっとも見どころがないのは、サービスで決められたことだけを行うことで喜びを生み出している接客者で、喜びを使いこなすどころか、決められたことしかできないという意味で、このような接客が最低であることを知っている。

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次に深い喜びを生み出すことができる接客者がいることも知っている。
サプライズやストーリを作ることでお客を感動させる接客者や、単純作業の仕事でありながら、お客の様子を見て気の利いた一声をかけることで満足を生み出す接客者がいることを知っている。

その接客者はお客を深く喜ばせるために、1人1人に対して喜びを使いこなすこととを知っている。
だからこの接客者が、1人1人に対して喜びを使い、それを継続するタイプであるということを知っている。
逆に、全体に対して喜びを使いこなすことができる接客者がいることも知っている。

お客個人の喜びを目的とせず、新幹線の添乗販売員のように、その日の客層によってトレイの商品を組み替えることで満足を生み出すことや、キャビンアテンダントが全員の名前を覚えるなど、はじめからお客全体にストレスを感じさせない方法で接客を行う者がいることを知っている。
それは1人1人に喜びを与える接客者とは違い、見分けるのが難しいことも理解している。
この理解はつまり、卓越した接客者を見分ける目になる。

最後に一流の顧客は、卓越した接客者によって一流の顧客が生み出されるということを知っている。
卓越した接客者によってサービスを受けたとき、感性の高いお客は喜びの種類が違うことに気がつく。
そしてそのような喜び(たとえば全体に対しての喜びや、準備によってストレスを感じさせない喜び)があるということを知る。

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多くの喜びを知り、それをどのように使いこなすタイプの人(接客者)がいるかということを知れば、そのお客は一流の顧客になる。
こうして一流の顧客が生まれるということを知っている。
そして、この方法で一流の顧客が生まれる前提にあるのは、卓越した接客者の接客である。
ともあれ、一流の顧客は卓越した接客者の下で生まれるということ(あるいは、生まれているということ)を知っている。

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全ての卓越した接客者は、このような一流の顧客によって支えられている。

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01.感謝の手紙が教えてくれること

「ありがとう」の言葉ほど、接客者の心を温か包み込んでくれるものはないように思う。
接客の場面で口にしてくれても嬉しいけれども、やはり改めて手紙やメールが送られてくるとより嬉しいに違いない。

お客が改めて手紙やメールを送るということは、本当に感じるところがあったのだということの証明でもあるし、わざわざ書いて送ってくれるという手間をかけてくれたという意味がある。

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ほとんどのお客が後になってからわざわざ時間をかけて送るのがクレームであることを考えると、このような感謝の手紙とメールは、1人の人間としてもとてもありがたい。

普通あまりもらうことのないこのような手紙が、本当は何を評価して、何を生み出しているかを正しく知っている人はほとんどいない。
もちろん、手紙以外の場面からも何かが生み出されることがある。
ここでは、その結論を探すのに3つの手紙を取り上げて考えてみたい。

<手紙1>
先日は、最高の滞在をすることができ、私たち夫婦にとっても素晴らしい思い出となりました。
チェックインしてすぐに振る舞ってくださったウェルカムシャンパンですっかり気分はリゾートになりました。
海に沈む夕焼けはとても美しくて感激でした。
2日間の料理もイタリアン、和食と趣向が違って楽しめましたし、地の物の新鮮さが忘れられません。
翌朝のテラスでの朝食は某映画のような気分を味わうことができました・・・・・・

<手紙2>

先日の滞在は私にとって思い出深い最高のものとなりました。
まさか私の大好きな桃のタルトをバースデーケーキとして、しかも突然振る舞っていただけるとは思ってもいませんでした。
感激して言葉になりませんでした。
ろうそく代わりに、従業員の方が私を取り囲んで年の数の花火で彩ってくれたときは涙が溢れそうになりました。
後で聞けば、○○さんという方がさりげない話から桃のタルトのことを覚えていてくださったのですね・・・・・・

<手紙3>

先日の滞在ではお世話になりました。
食事時にうちの子供がわがままを言い出したとき、○○さんが膝を突いて一生懸命子供の話を聞いてくださったことがとても印象的でした。
その後、隣のテーブルで○○さんが、老夫婦の食後のドリンクのオーダーを受けているときに、確か「コーヒーは胃にもたれるかもしれませんから、そば茶をご用意いたしますか?」とおっしゃっているのを聞いて、素晴らしい接客だなと・・・・・・

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1つ目の手紙はサービスについて、2つ目と3つ目の手紙は接客について書かれている。
サービスというのは接客だけではなく、全体の雰囲気や、サービスで取り決めている物事(ウェルカムシャンパン)、ハードの素晴らしさ(夕陽が見えるように設計されていること)、基本サービス(地のものを使った食事、テラスでの朝食)について、全体的にどう感じたかを書いていることがわかる。

このような手紙を頂くことができれば、接客者はもちろんオーナーやマネージャー、料理人の全てに喜びを与えてくれるだろう。
サービスについて書かれた手紙は、お客のサービス利用に対する正しい理解を生み出していることがわかる。

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サービスをブランドにしてくれるお客を数多く抱えているということは、接客者も誇りを持ってサービスを提供することができるし、お客も安心して接客を受けることにつながる。

お客の手紙が、素晴らしい接客者と卓越した接客者を生み出す。
2つ目の手紙と3つ目の手紙は、どちらも接客について書かれている。
その違いは一体何なのか。

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2つ目の手紙では、手紙の送り主であるお客が、ある接客者の機転で忘れられない誕生日を過ごすことができたことについて、感激している様子を伝えている。
3つ目の手紙は自分の子供と隣の老夫婦への対応を見て、素晴らしいと評価していることがわかる。

2つ目の手紙は

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で、彼女がどう思い感じたかということを伝えている。
これに対して3つ目の手紙では、

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を伝えている。

2つ目の手紙は素晴らしい接客者を生み出し、3つ目の手紙は卓越した接客者を生み出す。

素晴らしい接客者は、プロセスによって顧客満足を感じてもらうことに注力している。
この場合だと、さりげなく「桃のタルトが好き」であることを覚えバースデーケーキにアレンジしたことや、アイディアを働かせて従業員が年の数の花火で祝ったことなどが挙げられる。

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さらに、お客に喜んでもらうという目的が上手く果たされている。
お客は感激し、おそらく感動し、最終的に良かったと喜んでくれたに違いない。
実際に2つ目の手紙として感謝の気持ちを伝えてくれている。

このような手紙は素晴らしい接客者を生み出す。
手紙の内容はお客自身が「私は感激しました」という主観でありながら、その意味は「あなたは素晴らしい接客者です」と証明してくれている。
素晴らしい接客者はこうして生みだされる。

卓越した接客者は成果の追及によって、顧客満足を得ようとする。
それはサービスを的確に完璧に提供することであって、お客に喜んでもらおうとすることが目的ではない。
この場合だと、サービスを満喫してもらうために子供の様子に気を配り、老夫婦が後でサービスに不満足を覚えないように(もちろん彼らにも気を配って)そば茶を勧めている。

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サービスを利用している食事の時間を楽しんでもらい、サービス提供の後に不備が生じないように一部分を変更(そば茶に変更)している。
お客は、接客者の対応そのものには深い感動を覚えないかもしれない。
しかしサービス全体を完璧にする接客という目線で見れば、素晴らしいということがわかる。

3つ目の手紙はこのことを気づかせてくれる内容になっている。
「あなたは素晴らしい(実は、卓越した)接客者です」ということを客観的になぜ、どうして素晴らしいのかということに気がつくことのできる人だけが、はじめて評価することができる。
卓越した接客者はこうして生み出される。

卓越した接客者であるキャビンアテンダントは、あるフライトでエコノミークラスより1つ上のクラスのお客35人を1人で担当した。
彼女は35人の乗客の名前を全て覚え、名前で話しかけるようにしただけではなく、あらかじめわかっているお客のドリンクの好みを頭に入れていた。
たとえばあるお客はワインなら白が好きか赤が好きか。
別のあるお客はコーヒーにミルクを入れるのか入れないのかなどを覚えた。
ある日本人男性のお客が、まず自分にそのような接客をしてくれることに興味と驚きを覚えた。
そしてキャビンアテンダントを観察すると、全員に等しくそのような接客を行い、誰かが特別であるわけではないことに気がついた。

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後日帰りのフライトで、キャビンアテンダントはその日本人男性が搭乗するところを見かけ、名前を覚えていたので話しかけた。
日本人男性のお客は、前回のフライトで自分だけではなく全員に対して高い接客を提供していたことと、前回一度きりではなく今回も(つまり毎回)そのような接客を行っていることを読み取り、家に着いてから航空会社に感謝と評価の手紙を書いた。

彼女はこれとは別に回収されていた顧客評価のアンケートも併せ、日本人としてはじめて、そのヨーロッパ系航空会社で表彰された。
日本の事務所にはしばらくの間彼女の写真が飾られ、直接対面したことのない後輩のキャビンアテンダントの間で伝説となった。

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