05.ハード作りを許される者

コンセプトはサービスをはじめた最初の1人か2人によって作られる。

コンセプトを決めるには、感覚と理論の両方が要求される。
考えればできるというものでもなく、感性が鋭く敏感な人ができるというものでもない。
右脳と左脳のバランスが良く、しかも両方使いこなせる人にしか作り出すことができない。
もう少し正確に説明すると、右脳で得たこれまでの情報や経験、感じたことなどを、左脳で見出し、まとめ、説明でき、伝えることができなければならない。

右脳で得る情報は量に頼らなくてはならず、イメージを明確にする前提として、そのサービス分野での行動、経験、調査、知識の豊富さなどが必要とされる。
しかも、思考が未来を向いていなくては、結局不満の姿が明らかにされるだけで終わってしまう。
コンセプトは過去の事例や現在うまくいっている実例を見て作るものではない。
それはあくまで情報の一部でしかなく、未来のイメージを強くはっきりと持つ人だけが、その情報をオリジナルのコンセプトという形にすることができる。

これほど困難な作業と才能や感性を必要とするので、コンセプトは最初の1人か2人によって作られる。
誰にでもできることではない。
このプロセスで

がハードを作ることを許される。
コンセプトを忠実にハードに反映することができる。

表面上の理解しかない、自分中心の解釈を行う人がハードの担当者になったとき、そのハードはデザイン案の好き嫌いや最先端であるかどうかなどで決まってしまう。
そうして決まったハードは見てくれはいいのかもしれないが、コンセプトが反映されず、サービスとマッチしなくなる可能性が高くなる。
したがって、ハードの構築はコンセプトを守ることができる者が、最初からハード構築を担当する必要がある。

 
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04.コンセプトが反映されないケース

コンセプトに忠実にハードを設計しているのに、その伝達がうまくいかない場合がある。

想いを込めて告白しても相手に気持ちが伝わらないことが人生にもあるように、コンセプトを的確に反映したはずのハードが、お客にうまく伝わらないことがある。
コンセプトを反映して完璧にでき上がるはずが、結果を見てみるとコンセプトとは似ても似つかないものに仕上がっていることもある。
これはハードが変更しにくいという特徴を持っているだけに悲惨な結果のスタートラインになる。

そのような状況なってしまった原因は、伝え方の問題、専門家との問題、こだわりの甘さの問題、の3つがある。

サービス提供者が、コンセプトを正しく伝えていないケースがある。
伝えていると思っているのに、伝わっていないことがある。
コンセプトは正しいのに、伝え方が間違っているケースである。

たとえば、タイ料理のレストランを行うとして、「現地の雰囲気を色濃く出す」という個別コンセプトを生み出したとする。
個別コンセプトとしてこれは正しい。
タイの木彫りの人形を置くことや、テーブルやイスは現地のものを使うことなどは、このコンセプトに適っている。

しかし、コンセプトに則って現地の屋台と同じ設備、同じ衛生の店を出してしまっては、そのサービスは失敗してしまう。衛生管理が悪く、質の悪い油で揚げ物を揚げていては、いくらコンセプトに忠実でも、それがお客に正しく伝わらない。
逆に、食器類の安っぽさや汚さ、揚げ物を食べた後の胸焼け、衛生面の問題によって拒絶されることになってしまう。

本来の

お客は正しいかどうかよりも、なんとなくどう感じるかを重視している。
コンセプトが正しく、それに適ったハードであったとしても、伝えるべきサービス利用者に伝わらなくては意味がない。

このような状態を指して、能楽の大家世阿弥が花伝書の中でこのように言っている。

要するに唐人(中国人)の物まねは、扮装を唐風にするほか方法はない。謡いも所作も、どんなに唐風ということを、せっせとそっくり似せてみても、見物人には分かりっこないので、おもしろいとは思われないものだから、ただどこかひと様子だけ唐めいた風に工夫してやるのがよいのである――この写実とは変わった格好でやることがかえって本当らしく見えるということは、一寸したことのようだが、物まね全般にわたる工夫である
(「花伝書」世阿弥著より引用)

つまり、中国人の真似をするとき、観客は中国人がどのような人たちかを知らないので、どこか中国風に見えるように工夫してやればいい、正しくする必要はない、工夫する必要がある、と言っている。

私たちもハードを作るときにこの言葉を思い出すようにしたい。
コンセプトをハードに反映するときに大切なことは、コンセプトが伝わることであって必ずしもコンセプトを完璧に反映することではないということである。

専門家との問題はコミュニケーションの問題と、レベルの問題の2つがある。

コミュニケーションの問題というのは、コンセプトをデザイナーや施工業者にうまく伝えることができないことを指す。
実際にこれはよく起こる。

なぜなら、コンセプトというのは非常に抽象的な物事であって、考えを正確な言葉に表すこと自体が難しいからである。
正しく言葉にすることができたとしても、相手の頭の中にあるハードのイメージ像がコンセプトと一致しているかを判断することは難しい。
この問題は必要な専門知識を学んだり、図面や絵で視覚化したりすることである程度解決することができる。

あとは実作業でウォルト・ディズニーが行ったように、修正や改善を加えることができるよう進捗状況を見守ることが大切になる。
もちろん、実作業に入る前に綿密な打ち合わせは行うようにしておきたい。

レベルの問題というのは、正確にコンセプトを伝えることができたとしても、専門家の理解レベルや技術レベルが低いため、思ったとおりにハードが作られないことである。
問題の本質が自分にではなく相手にある。
これは、複数の業者に見積もりを出したり、担当者を変更したりすることで解決につながる。

正確にコンセプトを伝えることができ、業者がコンセプトに沿ってハードを構築することができても、細部までこだわりが行き届いていない場合や、こだわりとこだわりを組み合わせたときに相性やバランスが悪いということがある。
原因はコンセプトが弱いことにある。

コンセプトを設計するとき、ハードを作りこむときにもっとこだわりを反映できるように行動すればこの問題は解決される。
コンセプトが完全でないのなら、その状態でハードを構築してしまったこと自体が問題である。

一度ハードが作られてしまったら、それをリセットすることはできない。
こうなるとハードの不備は残り続けることになる。
時間とコストはかかってしまうが、サービス提供がはじまってから徐々に改善し、少しずつ完璧を目指すしか方法はない。
将来店舗展開できるのであれば、規模の大きい新店舗を構えたときに不備の残る最初の店舗を閉鎖するというのもひとつの方法である。

 
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03.ハードは「なんとなく」理解される

お客はハードを五感で感じる。
明確な目的意識があって判断するのではなく、見て、触って、聞いて

判断する。理論で判別するのではなく、

サービスのコンセプトをハードに組み込むためには、そのサービスを提供されるお客側の立場に立って、自分たちが伝えようとするコンセプトが感覚的になんとなく、しかし確実に伝えることができるかどうかを確認し、改善しながら進める必要がある。

その作業を無視して思い入れでハードを作ってしまうと、お客から全く理解されないものができてしまうことがある。

ハードと基本サービスがミスマッチしていると、いくらコンセプトを反映してもサービスが台無しになることがある。

たとえば東京ディズニーランドのパレードを、東京の豊島園や大阪のひらかたパークで行うとどう感じるだろう。
ディズニーランドのパレードは、ディズニーランドのメインコンテンツである。
あれほど派手に、あれほど訓練された、実際の演劇を見ているのかと錯覚するほどのパレードでさえ、ディズニーランド以外の遊園地で感動的に体験することはできないだろう。
ミッキーが、ドナルドが踊って喜ぶことができるのは、シンデレラ城のあるディズニーランドの世界だからこそなのだ。

逆に豊島園やひらかたパークには、それぞれの良さと楽しみがある。
これらの遊園地で楽しむことのできるイベントをディズニーランドで行ったとしても、同じようにうまく行くとは思えない。

リッツ・カールトンやフォーシーズンズ・ホテルは熟練した接客者によってラグジュアリーな気分を楽しませてくれる。
しかしこの接客をビジネスホテルで行っても効果は出ない。むしろミスマッチによってお客は違和感を覚えるだろう。

出張サラリーマンに好評のビジネスホテル東横インでは、朝食におにぎりが出る。このおにぎりは厨房のおばさんが作ってくれた、でき立てのほやほやである。
朝から元気よくこのでき立てほやほやのおにぎりが振舞われる。
同じ接客をラグジュアリーホテルで提供したとき、私たちは何かミスマッチを感じてしまう。

この、

さらに、マーケティングをダメにし、販売促進を行わなくては集客できない状態を作ってしまう。

運良く集客できても、お客は違和感を感じているので事業主はお客離れが起きないように接客を駆使していろいろと工夫を凝らさなくてはならなくなってしまう。

こうなってしまうと、基本サービスや接客でいくら努力をしても、お客の信用を取り戻すことは難しくなる。
むしろ、努力すればするほどミスマッチが浮き彫りになってお客離れが進み、サービスがダメになってしまう。

このような法則があるので、コンセプトをハードに反映することは、基本サービス、しくみ、接客よりも先に優先して行う。

しかも、ハードの構築はサービス提供前に全てできあがるので、

という特徴もある。
サービスを構築する4つの作業の中で、変更が最も難しいという特徴も、ハードが優先される理由となる。

ハードは誰の目にも明らかに見え、聞こえ、感じ、時に匂う。
高級料理店には高級料理店のハードがある。
焼鳥屋には焼鳥屋の、ラーメン屋はラーメン屋のコンセプトにマッチしたハードがある。
実際に街で特徴を見ればわかる。
ディズニーランドはディズニーランドの、スターバックスはスターバックスの、セブンイレブンにはセブンイレブンのコンセプトマッチした統一感のあるハードがある。

前者が基本コンセプトを反映したハードで、後者が個別コンセプトを組み込んだハードである。

ハードを作るとき、私たちはコンセプトがハードに反映されるかどうか(サービス提供者のこだわり)と共に、そのハードがサービスの全体像とうまくマッチしているかどうか(お客がどう感じるかということ)に気を配る必要がある。
ぴったりとマッチしていれば、お客がそれをどのように「感じる」のかというところを想定して、修正や改善を加えることで完全に近づくことができる。

 
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02.基本コンセプトのハードへの反映

サービスはコンセプトを反映する作業だといえる。
サービスが完全に作られてからも、何のためにサービスを続けるのかというと、それはコンセプトを反映し続けるためである。

コンセプトを反映するために提供するべきものを決め、一度決めたら提供することを約束し、確実にそれを行う。

たとえば人の命を救う医者は、そのコンセプトを反映するために、外科手術や癌の放射線治療を行うだろうし、弁護士は人が法と法律に則って健全な生活を助けるための弁護と法的作業を行う。
それは裁判で被告の無実を晴らすこともあれば、内容証明を作成するなどの事務作業の場合もある。

どのサービスでも、コンセプトを反映するためにサービスが存在していて、もしハードがなければこれらのサービスをそもそも提供することができなくなってしまう。

どんなに腕がいい外科医でも、手術室と道具がなければ患者の命を救うことはでないし、癌の専門医はレントゲンや放射線機具がなければ治療することができない。

弁護士は裁判所がなければ被告人の無実を晴らすことができず、紙とペンと印鑑がなければ内容証明一通作ることすらできない。

証券や金融のように目に見えないものを扱うサービスでも、オフィスや店舗を必要とする。

飲食店、ホテル、美容室、タクシー会社などはサービスのハード比重が高く、ハードが直接サービスを提供していることがわかる。

基本コンセプトを反映したハードというのは、サービスを反映するために必要な

のハードのことを指す。
「最低限」というのは、

という状態を解決することをいう。

サービス提供者は、この最低限のハード構築は行わざるを得ない。
ところが基本コンセプトを反映するだけでは、全体的なサービスとして面白みに欠けてしまう。

もちろん、業界には業界の雰囲気があるので、基本コンセプトをハードに反映するときは、この雰囲気を無視してはならない。
弁護士事務所や証券会社の店舗の壁紙がパステルカラーでは信用問題になるだろうし、託児所や保育園が弁護士事務所のような雰囲気では、母親はそこに子供を預けたいとは思わないだろう。

このことからわかるのは、基本サービスがどんなにすばらしくても、ハードに不備があればお客に信用されないということで、サービスが良いか悪いかを考える以前にハードをよくよく考えなければならないということを示してくれている。

サービス提供者が重要であるにもかかわらず軽視してしまうのは、ハードの構築に対する個別コンセプトの方である。
個別コンセプトを反映しているサービスが、どれほど力強いかを見てみよう。

ディズニーランドでは、個別コンセプトのハードへの反映が完璧に行われている。

各アトラクションで空調機などの機器類は、サービス利用者の視界に絶対に入らないように設計されている。
各ワールドでは地面の色、香り、音楽が全て異なり、各ワールドの境目には両方の音楽が重複しないように必ず滝が設けられている。

スプラッシュマウンテンのクライマックスでは滝から落下して水しぶきが飛び散るが、この水しぶきは、その温度と飛び散る水量が夏場と冬場で異なる。
ディズニーランドはこうして夢の国というコンセプトをハードに反映している。

シアトル系コーヒーの先駆けとして日本に上陸したスターバックスでも、ハードは徹底的にルール化されている。

各店舗は同じような雰囲気を保ちながら、ひとつとして壁面が同じデザインはない。
しかし雰囲気には統一感がある。
家庭でもオフィスでもないサードプレイスであるという個別コンセプトを満たすために全てが考えられ、計算されている。

店舗ではなく、オフィスでもハードに対する個別コンセプトの反映は見られる。
特に北欧系の企業はオフィスデザインに優れているようだが、日本にも個別コンセプトをハードに反映する会社はある。

ある新卒採用に特化した人材のコンサルティングを行っている会社では、一階の入り口を入るとワインセラーがあり、お洒落なイタリアンレストランと見紛うフードスペースがあり、ホテルに入り込んでしまった錯覚を受ける。

別フロアのオフィススペースは全体的にオレンジの光で照らされ、職場の雰囲気と働く気分に対してハードが設計されている。
それぞれの会議室はそれぞれのコンセプトを持ち、雰囲気と気分を変えて会議を行うことができるように作られている。

ハードにこだわる姿は、事業主や経営者の自己満足という場合もある。
それは、「コンセプトを反映し、正しいサービスを提供するため」にこだわりを反映するのではなく、「個人の欲望や見栄を反映」したときに起こってしまう。

しかし、純粋にコンセプトを反映することに集中して細部にこだわるとき(たとえそれが事業主が気乗りしないことであっても)、正しいサービスを提供する完璧な舞台が整えることができる。

ウォルト・ディズニーがはじめてカリフォルニアにディズニーランドを創ったとき、ランド内をくまなく歩き回り、業者に細かく指示と注文を出した。
現場に立会い、コンセプトを反映するための労力を怠らなかった。
(しかしそれでも、炎天下でアスファルトが溶け、婦人のヒールのかかとがめり込んだという逸話もある。もちろん現在ではアスファルトは改善されている)

ジョルジオ・アルマーニは新作のコレクションを行うとき、舞台の雰囲気や具合、照明の位置と影の関係などに関して非常にうるさく口を出す。
これは完璧主義であり、プロであることの表れだと見ることもできるが、サービスを分解して考えたときには、ハードによるサービス構築に力を入れる行為だと理解できる。

個別コンセプトを反映する上で、これらの事例からわかることは、ウォルト・ディズニーにしてもジョルジオ・アルマーニにしても、

ということである。
彼らは直接ハードを作らない。
しかし彼らはサービスを完璧にするために

私たちもその姿勢を取り入れるようにしたい。

 
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01.ハードを作り上げる

2種類のサービスコンセプトが決まると、サービス作りをはじめる。

サービス作りには4つのステップがあり、ハード、基本サービス、しくみ、接客の順番に作り上げていく。
もちろん、サービスコンセプトを設計図とする。

なぜ4つのステップに順番があるのかいうと、ハードがなければ基本サービスが、基本サービスがなければしくみが、しくみがなければ接客が、それぞれ上手く運ばないからである。

また、4つのうちのどれかが不完全なままにサービス提供をはじめると、その後に続くステップではサービスの正しい提供を取り戻すことができなくなるという理由がある。

4つのステップを順番に作り上げ、できあがったものがサービスのあるべき姿になる。
こうやってコンセプトを反映して作られたサービスは強い。
サービスに対する信頼性も強いし、顧客満足度も高い。

このようなサービスは売りつける販売促進をほとんど必要とせず、お客自身がサービスのことを知ろうとするお客主体のマーケティングを可能にする。

ディズニーランド、リッツ・カールトン、スターバックス、マクドナルドなどは言うまでもなく、コンビニやファミリーレストランもマーケティングされたサービスを扱っている。
お客がそれらのサービスのコンセプトを正しく理解し、利用しようと考えている。それを根本的に可能にしているものがサービス設計にある。

順を追ってサービス設計の手順を見ていくことにしよう。

ハードは軽視される。
コンセプトを反映し、サービスを設計する最初に位置していながら、ハードの重要性はサービスを形作る4つの要素の中で最も軽視されている。
しかしハードは、サービス設計でも、ブランド構築でも欠かせない役割を果たすとても重要なポジションにある。

たとえば飲食店の場合、「ハード」は店舗、「基本サービス」は料理、「しくみ」はオペレーション、「接客」は文字通り接客を意味する。

ハードが軽視されてしまうのは、「料理」「オペレーション」「接客」には、それぞれの専門家を事業内に抱えているのに対し、店舗の造りに関しては外部に委託するしかないというのが理由として大きい。

事業者にハードの知識がなく、料理人であれば料理、経営者であればオペレーション、接客者はサービスの提供と、本業を優先してしまうためにハードの構築がどうしても軽視されてしまう。

サービス設計の第一歩として、私たちはまずこのことを克服しなくてはならない。

 
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