04.信用はこうして守られる

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せっかく基本サービスを完璧に作り上げることができても、それは必死に守られなければ基本サービスは長い期間信用されない。

あるサービス業の会社のいい例がある。
多くの人にサービスを支持してもらうことができるようになった創業2年目のある日、再三の呼びかけにも応えずに、約4ヶ月間料金を支払わずにサービスを受けていたお客がいた。
スタッフは電話、メール、手紙などを使って支払ってくれるようにアプローチした。
最初は理由をつけていたそのお客は、やがて連絡を返さないようになり、社長に相談が来た。
社長はスタッフが何を行ったか、どのように行い結果がどうなったのかということを明らかにしてから、そのお客は支払う意思がないと判断した。
そして行政書士事務所に依頼して内容証明を作ってもらい、いついつまでに支払わなければ裁判所に委ねると書いて送った。

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その内容証明を送るとき、行政書士は「費用と効果、労力と効果が見合わない」と諭した。
それに対して社長は、「今ここで、レッスンをスタートしているある誰かがお金を支払わないことが許されてしまっては、この会社に期待してお金を支払ってくれ、サービスを喜んで受けて頂いているお客への裏切り行為になってしまいます。支払わなくていい、支払ってもいいというのなら、誰も支払いません。支払いを行ってサービスを受けてもらうという約束をしているし、それを信じてくれているお客が寄せてくれているサービスの信用を守るために、どこまでも支払ってもらわなくてはならないんです」と応えた。

行政書士は納得し、快く内容証明を作った。
幸い裁判沙汰にはならず、そのお客は料金を支払った。

基本サービスを通じてサービス提供者がお客に約束していることは無数にある。
約束を守らない人を人は信用しないように、

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サービスの約束は、お客に向けて交わされるけれども、実際には自分で守るために行う。
つまり約束はサービス提供者が守るためにある。
お客はその姿を見て安心してくれるし信用してくれるようになる。

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支払いを延ばしたこのお客の売上げからは利益は生まれなかった。
このお客はこの人なりの言い分もあっただろうから、内容証明を送られたことによってそのサービスに強い不満を覚えたに違いない。
けれども、最終的に人から信用されるサービスは、利益や顧客満足よりも何よりも、約束を優先する。
それはマニュアルを守って定規杓子に行うということではなく、姿勢や態度、それからサービスに対して真摯に向き合っているかということである。

前話: 03.基本サービスの治療
次話: 第7章 01.トータルサービスというしくみの考え方

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03.基本サービスの治療

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基本サービスは複雑なものではない。
とてもシンプルなものである。
しかしシンプルであるからこそ、その重要性が高く、完璧に作られ、提供されなくてはならない。

それだけに、一度不完全な状態で基本サービスを提供すると、信用を取り戻したり、新しい基本サービスに生まれ変わらせたりするには、相当の時間と、手間と、コストを必要とする。
サービスが上手く機能していないという事実に直面したとき、行うことができる治療はいくつかある。
しかしどれも万能薬ではない。

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まずコンセプトを固め直すという方法がある。
コンセプトが固まっていないとサービスの足元がいつまでも安定しない。
そして次に、基本サービスを提供するのにふさわしいハードを整える。
この2つはこれまでに見てきたとおりの基礎である。

コンセプトとハードが好ましい状態にあるにもかかわらず、基本サービスがうまく機能しないときは、コンセプトに基本サービスが合っていないか、もしくはハードに基本サービスが合っていない可能性がある。
これについても何度か触れてきた。

コンセプトが「体と心に優しい空間の提供」で、基本サービスが「生活習慣に合った動線と、バリアフリーの提供」であるはずであるのに、実際に提供しているものが「お客の話を聞いてアドバイスを行うコンサルティング」になってしまっているとサービスはうまく機能しなくなる。

また、完璧なウエスタン風のお店で、一流の料理人が腕を振るった中華を食べてもらうというようなミスマッチはサービスをうまく機能させなくなる。
コンセプトとハードの、それぞれに合ったサービスを作らないといけない。

コンセプト・ハードの問題とは別に、基本サービスの前提が失敗していることもある。
基本サービスはシンプルである必要がある。

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法人向けのサービスであれば「あなたの会社の経理を代行します」や、「インターネットSEOによってgoogle20位以内をキープします」などのように、一見して理解できるものでなくてはならない。

個人向けサービスはもっとシンプルで、「タクシーで移動」「ファーストフードで食事をする」など、一見して利用目的がわかる。

基本サービスの前提が間違ってしまうのは、シンプルであるべきものがシンプルでなくなることに原因がある。
利用者の声を聞きすぎて約束していないサービス提供をはじめたり、接客による顧客満足に凝ってしまい、基本サービスではお客が喜んでくれないような状態を作ったりしていることがある。

サービス提供者の

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たとえば、プライベートレッスンの英会話を提供すると約束しているのに、それでは不満なお客のためにグループレッスンをはじめたり、お客一人一人に完璧にマッチしたレッスンができるようスタッフがつきっきりでアドバイスしたりすると、基本サービスがうまく提供されなくなってしまう。
サービスの約束が守られなくなる。

これが、主体性の欠如と客体性の優先が同時に起こることで、サービスにコンセプトが反映されなくなるパターンとなる。
最後には、何のサービスを提供しているのかがよくわからなくなってしまう。

このようなコンセプトに沿っていない基本サービスを提供してしまったときの対応は、主に2つある。
ひとつは、コンセプトに沿っていない(反発している)

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ことによって回復を試みる方法。
原点に返りシンプルに徹することである。

もうひとつは新しいコンセプトによる新しいサービスを生み出すことで、

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こと。
多くを一つに混同せずに、それぞれ1つのコンセプトに1つのサービスを展開する。

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コムサ・デ・モードを扱うファイブフォックスは、この方法でサービス展開している。
コムサ・デ・モードはアパレルをレディース、メンズ、子供服別に分けると共に、品質のレベル分けも行う。
小物や弁当も同じブランド名で展開しながら、ネーミングに微妙な差をつけることなどによってブランドイメージを保ち、サービスを分けている。

前話: 02.味噌ラーメンとカルパッチョ
次話: 04.信用はこうして守られる

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02.味噌ラーメンとカルパッチョ

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基本サービスがコンセプトやハードに頼らず、例外的に全く別の現象で生まれることもある。
基本サービスに外れた活動が、却って基本サービスになることがある。

1950年代半ばごろ、札幌の単身赴任者が豚汁に麺を入れて食べるとおいしいという「邪道な」食べ方を行った。味噌ラーメンの発祥である。
しかしそれでは、その商品が豚汁なのかラーメンなのかはっきりしない。
お店は豚汁を提供するお店なのか、ラーメンを提供するお店なのかよくわからなくなってしまう。
はっきりしないものをコンセプトや基本サービスとして決めることはできない。

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ところがそのアイディアは研究されてひとつの商品となり、札幌の多くの店で基本サービスとして提供されることに成功した。
味噌ラーメンの専門店が生み出され、70年代には全国に味噌ラーメンが広がった。
特殊なケースだが、基本サービスがコンセプトよりも先行することは現にある。

味噌ラーメン単体としての「商品」が広まっただけなら、それは単なる商品開発でしかない。
たとえばヴェネツィアのハリーズバー発祥のカルパッチョがある。
医者から調理した肉を取ることを禁じられている客の要望に応え、オーナーが機転を利かせて生肉を薄切りにし、マヨネーズとマスタードのソースを網目状にかけて提供したことで、カルパッチョという料理が生まれた。
しかしカルパッチョは単体としての商品として世界に広まり、サービスにはならなかった。

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味噌ラーメンはそれ自体をコンセプトに専門店が生まれ、基本サービスとして提供されるようになった。

サービスは新しい価値観を社会に生みだすことがある。
ライフスタイルを変化させる影には必ずサービスがある。

味噌ラーメン提供のサービスは、コンセプトよりも先に物事(商品やニーズ)が動いた場合に、コンセプトとは別のところで基本サービスが決まることがあることを証明している。

しかし、基本サービスがコンセプトよりも先に決まる場合であっても、サービスが実際に提供される前にコンセプトとハードは作られる。
味噌ラーメンの発明によって味噌ラーメン店を展開するとしても、店舗を構える前に味噌ラーメンを提供することはできない。
実務運営上でサービスを提供する場合は、基本サービスの前に必ずハードの構築が必要となる。

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前話: 01.基本サービスを作る
次話: 03.基本サービスの治療

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01.基本サービスを作る

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基本サービスとは、提供するものそのもののことである。

銀行は融資が基本サービス、飲食店は食事の提供、タクシー会社は車を使って場所の移動を提供し、クリーニング店は衣服の汚れを落とす。
スターバックスはエスプレッソベースのコーヒーを、マクドナルドはハンバーガーを提供する。
これらが基本サービスとなる。
基本サービスがなければ、サービスは成り立たない。

基本サービスとして何を提供するかを決めるとき、考えるべき必要な条件は2つある。
ひとつは、基本コンセプトと個別コンセプトの2つのコンセプトに沿って決めるということ。
もうひとつは、既に作られたハードに沿って決めるということである。

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基本コンセプトは、誰もが判断しやすい言葉で理解することができるコンセプトである。
「英会話スクール」「ファーストフード」などがある。
中華料理店では中華料理が提供される。
リフォーム会社は住居スペースのリフォームをサービスとして提供する。

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この最も基本的なサービスが、基本コンセプトによって決まる。
シンプルで分かりやすい考え方なのだけれども、むしろ基本コンセプトは提供しないものを明確にする。

マクドナルドで牛丼が提供されることはない。
中華料理店ではナポリタンを提供しないし、リフォーム会社は家具の販売を行わない。

基本コンセプトは基本サービスの大枠として、提供するものを決めると同時に、提供しないものは何であるかを明らかにする役割がある。

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個別コンセプトは基本コンセプトの枠組みの中で、提供するものとしないものをよりはっきりさせ、サービスの方向性を決める。
個別コンセプトは、お客の求める本質的なところを反映するために生まれる。
だから、個別コンセプトを基本サービスに反映するときは、脳がしびれるくらいそれを最も生かす方法を具体的に考え、サービスに落とし込むことがサービスの責任になる。

こういった責任を果たしているのであれば、お客の気分による要望にむやみに応えることはしない。
なぜなら、私たちが求められていることに応えるサービスをむやみと変えてしまうと、結局はサービスの成果が発揮されなくなるからだ。
または先に利用した人と、後に利用した人の間に差が生まれるとクレームにつながる。

だから個別コンセプトはどのように表すかを完璧にしてサービスに落とし込み、一度サービスの形を作ったらおいそれと変えてはならない。
一度作ったサービスが「お客に対する約束」であって、約束は何が何でも守られなければ、約束をただしく守っているお客が損をした気分になり、必要としているお客が去っていくことになる。
こうして、必ず提供するものと、絶対に提供しないものを決めることが基本サービスになる。

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ディズニーランドのパレードを他の遊園地で行った場合、リッツ・カールトンの接客をビジネスホテルで行った場合と、その逆のケースを見た。
ハードに合っていない基本サービスは、サービスの機能を狂わせてしまう。

「体と心に優しい空間の提供」を謳うリフォーム会社の社員が、汚れたバンで乗り付けたとしたらどう感じるだろう。
または全く逆に、光り輝くベンツでリフォームに来るとしたら何か違和感を覚えないだろうか。
基本サービスが滞りなく完全な状態で提供されたとしても、お客は心の喉仏に魚の骨が引っかかったような感覚を覚える。

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お客の感じるなんとはない不快感は、ハードと基本サービスのイメージが合っていれば解決される。
ハードを作るときに基本サービスを意識して作り、基本サービスを行うときにハードを最大限生かしているかということを気にかけていればいい。

それでもハードと基本サービスのミスマッチが起こってしまうのは、多くの場合ハードはハードで「より良くしよう」、基本サービスは基本サービスで「より良くしよう」という働きかけを行ってしまうことに原因がある。
究極にはウエスタンカウボーイ風の店で、最高の腕を振るった中華料理を提供してしまうようなことにもなりかねない。
このことはハードと基本サービスのバランスや相乗効果に注目すれば防ぐことができる。

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しかし、最初はコンセプトとハードを中心に基本サービス提供していても、「売上げが上がらない」などの理由によって、本来提供するはずのないサービスを提供してしまうことがある。

たとえば「体と心に優しい空間の提供」のリフォーム会社で、「顧客ニーズに応えて」家具の販売を行ったり、風水を取り入れてどこに何色のものを置けばいいのかのカウンセリングを行ったりする。
しかも悪いことに、それがサービスを良くすることだと信じてやってしまう。
こうして「体と心に優しい空間の提供」のリフォーム会社のオフィスや店舗が、家具販売やカウンセリングのイメージに合わなくなってしまうことはよくある。

このような変化を起こすと、サービス提供者はふと立ち止まって気がついたときに「何をなぜ提供しているのか」という意味を見失う。

既に最初のコンセプトからは大きく外れてしまい、(売上げなどの)不安を解消するためにサービス提供を続けることが目的になってしまう。
このようなサービスは、最終的にお客が求めるものに応えることができなくなるし、もともと支持してくれていた大切なお客を去らせてしまう。
この現象は、基本サービスのルールを守らないために起こる衰退といっていい。

前話: 第5章 05.ハード作りを許される者
次話: 02.味噌ラーメンとカルパッチョ

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