06.強いブランドのパラドックス

強くなってしまったブランドは、ブランド作りやブランドの促進とは異なった、ある新しい特徴が生まれる。
それはブランドに対する接客の無効化である。

ある年の正月が明けた1月3日。
私の知人が母親と一緒に革製品とスカーフで有名なブランドショップに買い物に行った。
新年とはいえ店内は足の踏み場もないほど込み合っていた。
知人の母は以前から購入を考えていたアクセサリーを探したが見つからなかった。
店員に声をかけようにも、忙しそうな様子に順番を待つことにした。

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しかし一向に声をかけてくれる様子がなかったので、ついにこちらから声をかけ、今探しているアクセサリーについて尋ねた。
これに対して店員は「そのモデルはもう販売していません」と冷たく言った。忙しそうな振る舞いが「この忙しいときに、ややこしいことを言わないでほしい」という様子であったという。

サービスを利用するときに起こり得る残念な対応が、この場合にも起こってしまった。
そしてこの親子はもう2度とそのブランドの商品を買わないか、どうしても必要な場合は他の店で買うことに決めた。

しかし、このような事件があっても、このサービス提供者の「高級ブランド」としてのブランドには、ひとつの傷もついていない。
このようなことが起こったとき、おそらく多くのサービス提供者は、このような行為がお客の信頼を失い、不快にさせてしまうことで、サービスへの信用が失われると考える。

しかし幸か不幸か、すでに確立された強いブランドによる接客のミスは、ブランドが強ければ強いほどサービスに悪影響をもたらさない。少なくとも大きな影響は与えない。
これは、そのブランドが強力な「提供者のコンセプトと利用者の理解一致」によって支えられていることの証明である。

接客はブランド作りの入口で、お客の態度を決める決定要因になるけれども、既に強いブランドが作られている場合には、接客による悪影響でブランドが左右されないことがある。
正月明けの親子が経験したのはまさにそういうことだった。
本来であれば信用を失うはずのこの行為が強いブランドを揺るがさないのは、提供者のコンセプトとお客の理解一致の、一部分に与える影響でしかないことにある。

他の、製品に対する信頼、店舗の雰囲気に対する信頼、アフターサービスに対する信頼など、様々な信頼の量と質による強力なブランドが確立しているということは、お客の心理に「不振を抱くには十分ではない」または「利用しないとまでは言わない」という判断が生まれる。
たった数回のミスによって、これまでに積み上げられた量のブランド理解を否定することは割に合わないと考える。

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たとえお客が「もう利用しない」と決めても、そしてそれを友人に口コミしたとしても、他のお客に悪影響を与えることにはならない。
そのサービスミスが、自分のブランド理解を覆すまでには至らないからである。

強力なブランドが作られている場合、決定要因としての接客の役割は薄れる。
接客の態度や振る舞いに左右されずにサービスを利用するという意味では、あるいは本来のサービスの評価に近いのかもしれない。
既に強力になったブランドを維持し促進するためには、接客ではなく

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な決定要因になる。

なぜなら、お客は既に何回もサービスを利用していて、最初見ていたハードと接客は、もう十分知り尽くしてしまっている。
だから、ハードの雰囲気がいつもちゃんと整っているか、基本サービスはいつもと同じように提供してくれるかというところに視点が移るからである。

それだけに強くなったブランドでは、ハードと基本サービスへのコンセプト反映に継続の努力を惜しんではならない。
どんなに接客が素晴らしい対応を行ったとしても、ハードと基本サービスの手抜きはブランドの崩壊に直接結びつくからである。

もちろん完全でない接客はサービスの不備でもあるから、接客の改善をしないままサービスを提供し続ければ、長い目で見ると徐々にブランド力は低下していく。
強いブランドを持つからといって、接客を軽視していいということにはならない。
しかし、強いブランドを築く前と後で、ブランドを維持するためのポイントが変化するとはいえる。

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ブランドが強くなるにつれて、行うことが変わるということは、いつ、何に力を入れ、どのように行っていくのかというブランド戦略のしくみを作り、定期的に見直さなければならないということでもある。
できれば最長3年に1度は行うようにしたい。

こうしてブランド力が低下せず強さを増すことで、サービスは維持され、安定して提供されるようになっていく。

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05.新しいサービスのブランド

新しいサービスを提供しはじめたとき、同時にブランドが生まれることはないので、一からブランド作りを行わなくてはならない。
それは遠く長い道のりだけども、ブランドはそうやって毎日作られるものだから、結局はブランドが作られる歯車を回し続けるしか方法がないということになってしまう。
しかしそれだと、新しいサービスはブランドなしでサービスを提供しなくてはならなくなってしまい、図式として既にブランドのあるサービスよりも不利という形になってしまう。

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そこで、新しいサービスでは毎日ブランド作りを行うのと同時に、擬似ブランドをうまく作ることでサービスに力強さを持たせる方法を行う。

小規模なサービスでは、コンセプトよりも目に見えるコミュニケーションとスキルを優先して、サービスを提供する。
ピアノの先生は知名度が低く、活動範囲も狭く、お客も少ないという意味でブランドはなかなか作られない。
どんなサービスでも最初はピアノの先生と同じ状態にある。

サービスを提供するのに、そもそも個別コンセプトよりもコミュニケーションが優先されること自体、ブランドを作ることは難しいといえるだろう。
小規模なサービスのまま活動を行っていくのであれば、ブランドは必要ないともいえる。

小規模サービスはブランドよりも先に、過去の実績によって擬似ブランドを作ることができる。
ピアノの先生であれば、昔ピアニストとしてコンクールで優勝をしたとか、書道であれば段位の所得者であるとか、家庭教師であれば東大合格者を何名出しているとか、または自分が現役の東大生であるとか、過去の実績によってサービスを提供している人が何を考え、どのように生きてきたかということをコンセプトの代わりに伝える。

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過去の実績は、正確には個別コンセプトではない。
しかし個別コンセプトの代わりとして、新サービス提供の初期にだけ、擬似コンセプトとして役割を果たしてくれる。
これにサービス利用者の理解が一致することで擬似ブランドが生まれる。

ただしサービスのブランド化とは異なって、擬似ブランドを持つ小規模サービスが正しくサービスを継続提供しても、ブランドが強くなることはない。
これは、ブランドはコンセプトを未来に向けて反映し続けることに理解を求めるのに対して、

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という違いに理由がある。

過去の理解が深まることで、正しい理解と信頼が促進されることはある。
しかしブランドが強くなることはないし、サービス全体を促進する役には立たないことを頭に入れながら活用するようにしたい。

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04.ブランド促進の歯車を回す 継続で生まれる強いブランド

ブランド作りと促進は、必ずしも同じではない。
ブランドの作りのほとんどはハードと接客にコンセプトが反映されているかどうかによって決まる。

これに対してブランドの促進に必要なことは、個別コンセプトの反映を強めること、基本サービスを正確に提供すること、接客者のサービス理解、の3つ歯車を回す必要がある。
全ての歯車がかみ合い動力となって働くと、サービス提供者のコンセプトの反映と、お客の理解が広がりを見せるようになる。

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ブランド作りの前提は、全てコンセプトにある。
特に個別コンセプトを徹底的に反映することがブランド作りの基本になる。
個別コンセプトは基本コンセプトよりも個性が強い。
それでも、シンプルな言葉ではっきりと示される。
それは「女性の服の解放」であり、「夢の国」で過ごすことであり、「明日、ペン一本から、配送する」というようなことでもある。

この個別コンセプトの反映に力を入れると、ブランドが強化される。
半年か1年、長くても3年の期間で、定期的にハードと基本サービスを見直す。
それぞれにとって、全体的、部分的に、より個別コンセプトを反映するためには何を行うかを考え、見直し、改善する。
ある会社ではこれまで来客の必要がなかった。数年後サービスのアップグレードをしたときオフィスに来てもらう必要が出た。
この会社はオフィスの一部を改装するのではなく、オフィスのレイアウトを一から作り直した。それまでの会議室やパーテーションは全て取り払い、別の場所に移動した。
床のカラーと照明を変え、デスクとイスの全てを買い換えた。
新しい基本サービスを提供するのに適したハードに整え直した。

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最もはじめにハード、基本サービスを構築したときから、それをなぜ、どのような理由で作ったのかということを記録して、その記録が現在どの程度の効果を発揮しているか、発揮しているものはなぜ発揮しているのか、成果があいまいなものはどの部分が成功し、失敗しているのか、発揮していないものは排除するのか、改善するのか、様子を見るのか、などを確認して個別コンセプトを再反映するしくみをあらかじめ作っておくといい。

この改善は、現場の事情によってお客の喜びのために偏っていたり、接客者の効率を優先しすぎたりしたものになっていることがよくある。
目に見えた問題がなくても、こういう状態は個別コンセプトの反映上障害になる可能性がある。
このような不備も同時に、提供者のコンセプト反映の改善という視点でもういちど見直すようにする。

そして改善されたら、今回もまた何をどのように考えて改善し、コンセプトを反映したのか、どのような成果を求めたのかということを記録しておく。
成果は数字で表すことのできない定性評価になる。
だから、次回ハードと基本サービスを見直すときに、

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サービスを提供する以上、ブランドがどのような位置にあっても、正しいサービスは提供されるべきだと思う。

コンセプトの反映とお客の理解は、最初ハードと接客が重要になる。
けれども、ブランドを継続し強化するためには、基本サービスが常に、いつでも、どんなときも、正しく提供されているかどうかにかかっている。
なぜなら、コンセプトの反映とお客の理解を一致させようと思ったら、その前提に信頼が必要になるからだ。
人は信頼できない相手を理解しようとはしない。

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ハードや接客が悪くても、サービスの効用を必要としていればお客は利用してくれるかもしれない。
しかし、サービスを利用してくれたからといって、信頼もしてくれるとは限らない。
信頼し、信頼してもらうことで理解を一致させるものが、正しいサービスの提供である。

たとえば、日本ではじめてアンパン、ジャムパン、クリームパンを発明し販売した木村屋は、サービス提供に致命的な三度の不幸に見舞われている。
一度目は開業翌年に火災で店が全焼し、その後も関東大震災、東京大空襲で店舗が焼けた。
しかしその度に苦難を乗り越え、建て直し、現在も変わることなくアンパンを提供している。
仮に一時期、何らかの理由でアンパンを提供することができなくなったとしても、必ず復活してアンパンを提供し続けている。
復活する度に必ずアンパン提供を再開する。基本サービスはアンパンであるという、正しいサービス提供を継続している。
万が一また店舗と工場が崩壊するようなことがあっても、木村屋は必ず復活してアンパンを提供するだろう。
木村屋にはそういった信頼性がある。

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お客はこの事実を知らなくても、自然と木村屋に対して強い信頼感を持っている。
感覚的にブランドを感じている。
木村屋に信頼を寄せているので、相手を正しく理解しようとする姿勢が利用者に生まれる。
この姿勢が利用者理解の大きな要素となって、コンセプトとお客を結びつけるようになる。

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接客は、特に初期のブランド構築の決定要因になる。
接客が悪いか、コンセプトが反映されていないと、お客はサービスを理解しようとしなくなってしまう。

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接客の仕事はサービスを手渡すことにある。
根本的な意味でそれはコンセプトの反映であって、同時にしくみによって形作られるトータルサービスの実行でもある。
しかしこういったことは、単に仕事上のくくりでしかない。
仕事を理解して行動すれば、そしてコミュニケーション力が優れていれば、人に信頼される素晴らしい接客者にはなれるだろうと思う。
しかしブランドを作る接客者になるには不十分である。

正しい接客の仕事は、正しい仕事の理解から生まれる。
そのほとんどは技能やコミュニケーションを含むスキルである。
同様に、正しい接客によるブランドの促進は、接客者による正しいブランドの理解によって生まれる。
それは仕事の内容とは別のところにある。

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東京紀尾井町のジョルジオ・アルマーニでは、接客者は正しく仕事をする。
その仕事は確実性に富み、利用者は自分の望む状態を得ることで満足して店を後にすることができる。
と同時に、この店では接客者がブランドを構築するのに必要な理解を持っている。

たとえば、ジョルジオ・アルマーニ当人の理解が徹底しているし、海外のどの店舗が広い作りになっているのか、その世界順位を把握している。どの店舗にどのような買い物を、いくらの額で行う顧客がいるのかを知っている。
またはミラノのアルマーニショップに併設されたレストランNOBUがどのようなお店であり、どのようなコンセプトを持っているかということを知っている。

こういったことは直接の仕事とサービス提供には関係がない。
しかし接客者としてブランドを維持し、促進するための知識としては必要不可欠な条件になる。
ただ、仕事とサービス提供に関係のないことを幅広く知っていればいいというわけでもない。
これらの知識は、全て個別コンセプトの正しい理解であり、そしてより重要なことは、正しいブランドの理解であるというところにある。
正しいブランドの理解というのは、個別コンセプトとお客の理解の何が一致しているのかを、接客者自身が知っているということである。

このような接客者の知識と理解はブランドを維持し、強くし、促進する。
だからブランドを強くするためには、接客者による

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が必要不可欠になる。

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個別コンセプトの理解は、毎朝のミーティングで取り上げ、課題を話し合い、実例を伝え、方向性を示し、その行いを繰り返すことで深くすることができる。
または、定期的にハードと基本サービスの見直しを行うときや、しくみと接客の改善と更新を行うときに、個別コンセプトを基準に話し合い、決定し、次のミーティングまで実行することで理解につなげることができる。

これに対してブランドの理解は、コンセプトを理解するのと同時に、お客を知らなければならない。
第一に、

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しなければならず、第二に

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を正しく知らなくてはならない。
そのためにはお客をよく観察して、お客の声に耳を傾けなくてはならない。
そしてお客が理解してくれた、前提となったサービスは何(どれ)か?ということも見出しておくことが大切である。

これら3つの理解が正しく行われたら、今度は接客者の行動としてコンセプトの反映と利用者イメージが「一致しない部分」を、一致させるように働きかける。
働きかけの方法は2つあって、

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(内的作用:これでコンセプトを伝えやすい状態を整える)と、

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でより深く理解してもらい、正しくサービスを提供すること(外的作用:伝えるポイントを絞り、サービスの約束を守る)」の両方で行う。

この3つの流れをうまく行うことができる接客者によって、ブランドは促進され強くなる。
このような接客者が増えると、比例してブランドは安定し、強くなることでオリジナリティ溢れる唯一無二の存在となっていく。

したがって接客を必要としないサービスでは、条件をひとつ失うという意味で強いブランド作りはやや難しくなる。
この場合は、マーケティングによってブランドイメージを先行させ、興味を持ってもらってからサービスを利用してもらう方法が適している。

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余談になるけれども、個別コンセプトを必要としない公共のサービスでは、ブランドは構築されない。
個別コンセプトがないということは、ブランドを作る条件が欠けているということである。
画一的で統一的なハード(たとえば高速道路)と基本サービス(たとえば障害者補助)の提供にはブランドを必要としないという理由もある。

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03.ブランド作りの入り口 ハードと接客

サービスがブランドを作るということは、私たちはまず、お客のイメージに注目するのではなく、サービス提供者として何がブランドを作るのかということを正確に知っておく必要がある。

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サービスはコンセプトに沿って4つのプロセスを経る。
ハード、基本サービス、しくみ、接客の4つのプロセスは、仕事上の実務であり、サービスのパーツでもある。

それぞれの実務とパーツには、それぞれの役割がある。
ハードは雰囲気を統一し、基本サービスは提供すると決めたものを提供する。
同時に、提供しないと決めたものを提供しない。
しくみは、トータルサービスとして基本サービスの提供を助ける。
接客は目の前のお客にサービスを手渡す。

シャネルの個別コンセプトである「女性の解放」や「黒・白・ベージュ」は、ハード、接客はもちろん、基本サービスである服、しくみであるトータルサービスの全てにおいて統一され、提供されている。
そこには利用者が間違えようのないコンセプト理解がある。

「夢の国」であるディズニーランドでは、ハードの構築上、外界の景色が見えないように造られ、接客者は夢の国を維持するためにパフォーマンスを兼ねて落ちているゴミを素早く処理する。
キャストと呼ばれるスタッフは笑顔で接客を行い、役者のような振る舞いを行う。

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こういうことは、サービス提供者にとっては

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でしかない。
利用者にとっては「なんとなく、しかし素晴らしく良い」という

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でしかない。
その両者がぴったりと一致したときにブランドが生まれる。

4つのプロセスの、それぞれの役割は異なるので、それぞれが作るブランドも異なる。
と同時に、トータルサービスを続けていくこともブランドを作る基礎になる。
そしてブランドを作るとき、その入口にあるのはハードと接客である。

はじめてシャネルの店舗やディズニーランドに足を踏み入れたときに、私たちがお客としてまず経験するのがハードと接客になるからである。
しかもこの2つは、五感に訴えかける強い力を持っている。
ブランド作りは、サービスのコンセプトを利用者の五感を通じて理解してもらうことにあるので、まずハードと接客に注目する必要がある。

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ハードはサービスを受けるほとんど全ての人が経験する。
経験するだけではなく五感で感じる。
しかしサービス利用者で意識的にそのことに気がついている人はほとんどいない。
私たちがはじめてのリゾートホテルに泊まっても、「何だか常夏で豪勢なところだなぁ。嬉しい」とあいまいに感じることと同じである。
お客がそれを理論的に説明できることはほとんどない。
ブランド作りの一歩目は、なんとなくの感覚に大きく依存される。

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お客は基本サービスを提供される前にハードを経験する。
それが店舗であれば、外観の雰囲気、入口の造り、内装の基調となるカラー、広さ、天井の高さ、小物、照明などの全体を一瞬で「なんとなく」感じ取る。
さらにトイレ、アパレルショップの着衣室、映画館のイスの座り心地、スーパーのカゴの使い勝手などを徐々に経験し、もう少し時間をかけて感覚として理解する。

お客がこうやってハードを経験して、なんとなく感じるということは、ハードにコンセプトが反映されていないとブランド作りは最初からつまずいてしまう、ということになる。
だから、ハード作りはかなりの細部までこだわりを持っていなくてはならない。

とはいえ、実際にはサービス提供初期に完璧に作りこむことが難しい場合がある。
予算の問題もあるだろうし、経験不足で的確に作ることができないかもしれない。
ハードは中途変更が困難なので、最初から完全に作りたいところだが、作ってしまってから不備に気がついたら改善するということは頭に入れておきたい。
ウォルト・ディズニーがヒールのめり込むアスファルトを改善したように、必ず改善するようにしたい。

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また、ハードの維持は手間のかかるものではないにしても、空調など機器類は定期点検によって、衛生面は清潔な清掃によって、短期の耐久消費財であるレストランの食器や、美容室のブラシ、タオルなどは買い替えによって更新し続ける必要がある。
あるときは清潔で、別のときは不潔。あるときは明るく、あるときは暗い、という不統一感でブランドを作ることはできない。

利用者はハードを感覚的に経験し理解する。
しかしサービス提供者は接客者も含めて、そのハードがなぜそのハードなのか。
どのような理由でそのハードを構築し、維持しているのか。
維持の方法はどのようなものであり、なぜその方法を行うのか、などということを的確に説明できる必要がある。

サービスを提供する側は、感覚ではなく

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そうして作られ、維持されるハードによって、コンセプトが正しく反映され、それをお客が感覚で読み取る。
このときはじめて、コンセプトの反映と利用者理解が一致する。
これがハードによるブランド作りの第一歩になる。

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接客は、ハードのない通販などのサービスでは最初の窓口になるし、ハードがあるサービスでも、お店を利用するときハードとほぼ同じタイミングで経験する。
そして感覚でなんとなく、目の前の人がどういう種類の人なのかをなんとなく感じる。

けれども、人間の心理はおもしろいようにできていて、ハードに対してはほとんど即座に感じがいいか悪いかを判断するのに対して、接客者に対しては

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する。
お客という立場の人は、心理的に何かを売りつけられることやお世辞を言われて持ち上げられることを、誰でも多少は警戒する。
そこまで身構えないにしても、普通に見える店員が話してみると態度が悪かった、などという事態に備えている。
これは初対面の人に会うときは相手が接客者でなくても、誰もが行うことで、人として当たり前の行動である。
だから、最初の判断には「良い」という選択肢はなく(短い時間では判断できないので)、お客の心理は悪くないか、悪いかというところを感じるようにできている。

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つまり第一印象が悪ければサービスが悪いと判断され、お客からコンセプトを積極的に知ろうという気持ちが消え失せてしまう。
お客は接客を経験していくうちに、ハード同様全てを感覚で判断する。
たとえば「良い気分」「うれしい」「いい人」、「釈然としない」「疑問に思う」「イヤなヤツ」などと判断する。

さらに接客は、判断されるだけではなく評価もされる。
お客は接客者から受ける接客をなんとなくの気分によってサービスの良し悪しとして評価する。
こういったことを頭に入れて、注意しなくてはならないことがいくつかある。

ブランドを作るためには、必ずしも最初から良い接客を行う必要はない。
しかし、

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と、

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は行うようにする。

そして接客をなぜ行っているのか、どのような意義や意味があるのかということを接客者は説明できるようにしておく。
商品やサービスのことについて説明できるようにしておくことはもちろん大切だが、お客は最初接客者個人を見るので、自分が接客を行っている理由、意義、意味を説明できるようにしておくことの方がより重要である。
たとえ説明を求められなくても、お客は考えをちゃんと持っている接客者と、給料のためだけに働いている人物を結構正確に感じ取る。

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会社によっては仕事のできない新入社員に電話の応対をさせるところもあるが、ブランドを作るという視点で考えると、これは最もやってはいけない行為である。
電話先のお客は、たった一本の電話で今後のサービスに対する理解を全て放棄してしまうことになる。

ただしハード、基本サービス、しくみ、接客の一連の流れが完璧に作られていて、お客がそのほとんどを理解している強いブランドでは、接客の不備がブランド力を奪わないという特徴がある。
初期のブランド構築のときにだけ、接客がお客をコンセプト理解に心を向けるか、向けないかを決める決定的な原因になる。

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02.ブランドはサービスによって作られる

サービスを作り上げることができたら、次はそのサービスを維持することが課題となる。

維持といってもそれは現状維持という意味ではなく、実活動の中で強いサービスをさらに強くするための方法を維持する。
そのために行うことは2つあって、ブランド作りとサービス展開が一体になって行う。
2つの頭を持つ強い鷲が未来に羽ばたくようにサービスを維持する。

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ブランドはマーケティングや広告によって作られると広く信じられているが、これは実はかなり大きく間違っている。
マーケティングの教科書を開けば、ブランドは他(のサービスや商品)との違いを認知させるものであるとしている。
たとえば、同じ香水でも銘柄が記載されていないものと、クリスチャン・ディオールと書かれているもので、購入されるかどうかが決まるなどと説明する。

そして認識のために、ロゴ、ネーミング、パッケージ、広告、イメージカラーなどをよく考えて、オリジナルの特性を伝えることがブランドだとしている。
この考え方はもちろん間違いではないし、元々ブランドは牛の焼印によって所有者を見分けるところからはじまっているので、お客に認識してもらうということはとても大切である。

けれどもマーケティングによって作られるこのブランドは、どちらかというとブランドイメージに近いように思う。
イメージというのは頭の中で想像されるもので、実際の物事ではない。
ロゴやネーミング、広告などで作られるのは「あの香水はクリスチャン・ディオールの香水だ」という認識で、その次に「だからきっと高いに違いない」とか「商品に間違いはないだろう」とか、「ディオールならスタイリッシュでカッコイイ」などとこれまでに知っている知識に照らし合わせて想像する。

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しかし、そのイメージが本当にブランドに合っているのか、実は誤認や間違いがあるのかはわからない。
けれどもマーケティングは、このイメージをより正確にわかりやすく、強く訴えかけるために工夫し、お客の元へ届ける。マーケティングは100%お客主導なので、彼らに正しく認識してもらい、理解してもらうために色々とアイディアを絞り、工夫する。

では、お客に正しく認識してもらい、理解してもらうことというのは一体何だろう?
それが、実はサービスコンセプトなのである。

マーケティングが、もし「私たちのサービスは○○ですよ」と伝えたのであれば、それはただの宣伝広告にすぎない。
「この商品を必要とする人やぴったりの人に向けて、私たちはちゃんと用意をしていますよ」ということを伝えているだけになる。

しかし同じ広告であっても、「私たちはこう考えてサービスを提供しているんですよ」ということを伝えているのであれば、それはサービスコンセプトを伝えていることになる。
「他にも同じ商品は売られていますが、私たちの考え方は○○なので、これを商品として扱っています」ということはコンセプトを伝えている。

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よくテレビで見かける再春館製薬のドモホルンリンクルのコマーシャルは、化粧品であること以外の商品説明を一切行わない。
化粧品を作るプロセスや、どのように考えて作っているか、工場はどのような雰囲気なのかということをナレーションや映像で説明している。
これがサービスコンセプトを伝えるということである。

そしてお客の頭の中に、サービスの背景にある考え方やこだわりがイメージされる。
これがブランドイメージである。この段階ではまだブランドということにはならない。

考えてみてほしいことは、ブランドはそのサービスを利用したことのないお客によって作られるのかということで、そんなことはもちろんあり得ない。
でなければ、イメージさえ広げてしまえば、強いブランドはいくらでもできてしまうことになってしまう。
ブランドはサービスによって作られる。

お客は実際にサービスを受けて、いろいろなことを感じる。
その体験の中で利用したサービスについてより深く正確に知り(または感じ)理解したことと、サービスコンセプトの一致したところが、ブランドになる。
このブランドをマーケティングは、人びとに向かって2つの方法で伝える。

ひとつは、コンセプトだけを伝えることで、お客に

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そしてあとはお客がサービスを利用しさえすれば、コンセプトは既に知っているのだから自動的にブランドが生まれる、という方法。
たとえば再春館製薬のテレビコマーシャルのようなパターンがある。
あるいはオムツや歯ブラシのような、これといった特徴のない商品にもよく使われる。

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もうひとつは、

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「私たちのコンセプトとお客の理解にはこういうことがありますよ」などと

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既にサービスを利用したお客の声を伝えることや、そのサービスの歴史(つまりこれまでのお客理解の蓄積)を伝えること、あるいは皇室御用達など、お客の側の理解に信頼があることを伝える、などという方法がある。

マーケティングがどのようにブランドを伝えるとしても、その根底には必ずサービスによって作られるブランドがある。

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私たちは、ディズニーランド、メルセデス・ベンツ、東京大学などのブランドイメージをかなり正確に知っている。
ディズニーランドは行ったことがある人も多いだろうから、少なからずブランドそのものを理解しているだろう。
逆に東京大学で学んだことのある人は少ないから、私たちは学んだことのある人たちのことを見たり、聞いたりしてブランドイメージを持つ。
そのブランドイメージはほとんど本物のブランドに近い。

こうやって作られるブランドの本質的なことは、宣伝の上手さにあるのではなく、どのようなサービスを提供しているのかというところにある。

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ということがわかる。

そしてブランドが完成するためには、第一にコンセプトに適ったサービス提供の約束が守られていることと、第二に利用者がそれを正しく理解していることの、両方の条件が満たされなくてはならない。
コンセプトが忠実に反映されたサービスを提供だけをしていてもブランドは作られないし、お客がコンセプト以外のことを理解してもやはりブランドは作られない。

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ただし、利用者の理解というのはおおむね

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であって、理論的な理解ではないから、ブランドを作るときは感覚で伝わるように工夫する必要が出てくる。

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01.サービスブランドと展開

サービスには「発展」と「改善」できないという特長があります。
サービスをよりお客の手元に届けるためには、発展ではなく展開することが必要になります。
と同時に、お客の心の中に展開する、サービスによるブランド作りを欠かすことはできません。

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このトピックスでは、サービスによって作られる真のブランドとは一体何か、その論理はどのようになっているのかということと、サービスの展開に必要な4つの方法を見ていきます。

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