01.サービスブランドと展開

サービスには「発展」と「改善」できないという特長があります。
サービスをよりお客の手元に届けるためには、発展ではなく展開することが必要になります。
と同時に、お客の心の中に展開する、サービスによるブランド作りを欠かすことはできません。

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このトピックスでは、サービスによって作られる真のブランドとは一体何か、その論理はどのようになっているのかということと、サービスの展開に必要な4つの方法を見ていきます。

前話: 第8章 05.接客のポイント「4.接客によるしくみの改善」
次話: 02.ブランドはサービスによって作られる

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05.接客のポイント「4.接客によるしくみの改善」

接客がサービスの枠を超えるときいろいろと制約が多いけれども、サービスの枠を超えた接客によってだけ、サービスをより良く提供できる場合も確かにある。

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現場は、しくみでは収まりきれないことを接客に求めることがある。
そのようなとき接客者は、自分の観察と判断によって対応する。
状況とサービスを調整して、滞りなくサービスを提供しなくてはならない。
そしてその判断はうまくいくこともあれば、間違うこともある。

人は成功や失敗の経験と、そこから学んだ知恵を頭の中に蓄積する。
これに対してサービスでは、経験と知恵を共通データベースに保存する。
接客者によって得た経験を、マニュアル更新によってサービスに関わる全ての人に共有する。
数ある経験から、接客でしか得ることのできない情報を、しくみとして改善し更新する流れを作らなくてはならない。
つまり、しくみの改善は接客によってされるということになる。

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しくみが改善、更新されたら、今度はそれを中心に接客を行う。
そしてまた現場で不備が出たときにはその問題と対応、結果をしくみに反映して、マニュアルを更新する。
これを繰り返して、様々なケースに的確に対応できるサービスが作られていく。

サービス作りは、この接客がしくみを更新するという作業が定着してやっと完成する。

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ある会社では、社長が人事採用のしくみの概要を作り、ヘッドハントした人材によってそれを固めた。
その方法は問題にならないほど綿密に採用する人材を選ぶ。
だから、最低限の気配りができないということはまずない。技術力はもちろん、人の話を聞く力もしっかりと持ち合わせている。
その彼ら、彼女たちにして、いい意味でお客に対して特別なことは何もしていない。

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お客の声によく耳を傾け、お客の求めるところを理解した上で、目の前の相手にふさわしいと思われる方法を提案するに過ぎない。

これは何も、手を抜いているわけでも楽をしているのでもない。サービスをうまく活用するために考えられた方法だからそうしているのである。
接客者はお客に迎合しない。
ただ単純にお客にいいものを手渡すために全力を尽くしているだけなのである。

コンセプト、ハード、基本サービス、しくみが完全であれば、接客者が無理に努力をして行うことはほとんどない。
リラックスをして、既に良いと分かっていることを行えばそれでいい。
サービス全体がそういったようにプログラムされているので、お客はサービスを受けるだけで満足してくれるからである。

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これがマーケティングされたサービスの作り方であり、このサービスを受けたお客は必ず満足してくれる。
そしてそういったお客が多くなればなるほど、今度はマーケティングするサービスになる。
お客が口コミをはじめ、ブランドが作られていく。
まだサービスのことをよく知らない(潜在的な)お客は、自分からサービスを良く知ろうとしはじめるようになる。

その動きをうまく促進するために、一度作られたサービスはどのように維持し発展していけばいいのかということを次のトピックスで見ていくことにしよう。

前話: 04.サービスの枠を超えてはいけないケース
次話: 第9章 01.サービスブランドと展開

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04.サービスの枠を超えてはいけないケース

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しくみによって「サービスの枠を超えていい接客」が決まっていても、接客者がやってはいけないルールが2つある。
ひとつ目は、販売を理由に接客がサービスの枠を超えること。
ふたつ目は、自分ができることを精一杯行う接客である。

接客にはセールスの仕事が組み込まれていることがある。
販売や売上げ、売上額による社内評価が接客者の目的になってしまうと、サービスを完全に提供する意識が追いやられてしまう。
このことがサービスをダメにしてしまう。

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セールスが優れているということは、口が上手いということや押しが強いということではない。
人から信頼される人柄を持っているということで、お客は接客者を信用して商品を購入するようになる。
お客はこのとき、サービスに対する信頼ではなく、販売員である接客者を信頼することでサービスを利用するようになる。

ということは、接客者が対応を誤り信頼が崩れてしまったら、サービスは以前から何の変わらないにもかかわらず、サービスの信頼も同時に崩れてしまう。「サービスが悪い」と評価されるようになる。
その接客者が退職すればサービス利用されなくなり、転職すればお客の引き抜きが起こることもある。
接客者個人に対する信頼によってサービスが利用されたり、されなくなったりするということは、既にサービスに対する信頼がないということを証明している。

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販売上は買ってもらうことが正しい。
しかし例えば、断りきれずに思わず判子を押してしまったというとき、販売はそれでも成果を出すが、サービスの信頼は失われる。
サービスを提供しながら「サービスが悪い」と評価されることになる。

人は誰でも、期待していることよりも少し上のものを提供されたときに喜びを感じる。
これはサービスに限ったことではなく、友人の誕生日を祝う場合や結婚記念日をアレンジする場合などにも同じことがいえる。
セールスマンや販売会社の中には、利用者の満足度を上げるためにサービスの内容を控えめに説明し、サービスの全内容を明らかにしないことがある。
この方法で最初お客の期待値を下げておき、実際には最初から提供すると決めている(説明のない)サービスをそのまま提供することがある。

お客は、最初の説明よりも実際のサービスが良いことに満足し、喜んで利用するようになる。
そして期待値以上のサービスを提供してくれたことに「サービスがいい」と高い評価を下す。

これは

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である。

サービスは提供すると決めたものを正確に提供する約束である。
しかしこの場合お客は、提供すると約束された以上のことを提供される。
気分は良いかもしれないが、約束は守られないということになる。

そしてそのようなサービスを支持する利用者は、今後必ず、約束以上のものを期待し望むようになる。
提供すると決めた以上のサービスを望み、それを提供し続けなくてはならないようになると、もう正しくサービスを提供することはできなくなる。
途中でサービスを本来あるべき姿で提供するように変えてしまうと、今度は「最近サービスが悪くなった」と評価されるようになる。
おまけに本来あるべき姿で提供するとクレームが増えはじめる。
正しく提供すればするほど(約束したことと結果が違うので)問題は大きくなり、構造的にいずれサービスがダメになってしまう。

接客はこのスパイラルをよく知って、販売を理由にサービスの枠を超えないようにしなくてはならない。

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自分ができることを一生懸命行いたいという理由で、接客者がサービスの枠を超えることもある。時に美談が生まれることもある。
京都嵐山のある旅館の女中は、チェックアウトした顧客が部屋に財布を置いたまま発ったことに気がつき、京都駅を出発する新幹線の中まで急いで届けた、という逸話がある。
この逸話が正しいサービスの提供であるかどうかは、旅館のしくみがどのように定められているのかによって変わる。

旅館にまだ宿泊している他の利用者に、滞りなくトータルサービスを提供できる状態がしくみによって整えられていて、女中が旅館を出ることが認められているのであれば、彼女は正しいサービスを提供したといいに違いない。
しかし、しくみによって決められていない場合は、他の宿泊客に対して基本サービスが提供されない可能性も出てくる。
それは結局のところサービスの信頼を傷つけ、多くの利用者を裏切ってしまうことになる。

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置き忘れた財布を目の前にしたとき、良心的な接客者は目の前の物事に対して自分ができる精一杯を行おうとする。
しかしその行いは、サービスを必要としている他の利用者の、犠牲の上に成り立っているのかもしれない。

ジムのインストラクターが質問攻めを行う1人の利用者に親身に答えているうちに時間が過ぎてしまい、エクササイズ(基本サービス)ができなかったというような状態と同じである。

サービスでは、基本サービスの提供に支障が出る行いを正当化することはできない。
接客者の心意気と思いやりは素晴らしいが、サービス提供者としては失格である。

ところがこのような行為が支持され、褒められ、話題にされることで「サービスが良い」と評価されることがある。
カリスマ接客者が生まれることもある。

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サービスに対する信頼ではなく、接客者への信頼でサービスが提供されるようになってしまう。
別の問題も起こる。

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この接客者の行為は「自分ができることを精一杯伝える」ことにある。
コンセプトに沿ったサービス提供を目的にしているのではなく、自分が信じることだけを何も考えずに必死に行っている。

接客者が個人個人の良心を中心に行動すると、実際のサービス提供に不統一が生まれる。
接客者全員がこのようなタイプであれば提供されるサービスに統一性がなくなり、接客者の中で1人か2人がこのタイプであるなら、お客から見てその接客者の提供するサービスは良く、他の接客者の提供するサービスは悪い、と見えてしまう。
そうなると、的確にコンセプトを守りサービスを提供している接客者はやる気を奪われ、正確に提供されているはずのサービスは、いつの間にか「悪いサービス」だとされてしまう。

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このようなサービスを利用するお客にとってサービスは接客者によって基準が変わるものとなり、良い接客者に当たればラッキー、悪い接客者(実は正確にサービスを提供する接客者)に当たればアンラッキー、あるいは良い人に当たるまでクレームを出し続けなければならない、という状態を作り出してしまう。
本来は生まれるはずのない不満・クレームの増加は、その対応に割かれる時間や労力によって基本サービスの提供に支障をきたす。
こうして悪循環が生じ、サービスはますます確実に提供されなくなっていく。
最終的に利用者は安心してそのサービスを利用することができなくなり、サービスへの信頼が崩壊する。
良い接客、一生懸命自分ができることを行うことでサービスがダメになってしまう。

接客者がこのサービスの特徴を理解し、基本サービスを提供することを重視し、しくみを守りながらサービスを超えるようにすれば、このような問題が起こることはない。

前話: 03. 接客のポイント「3.サービスの枠を超える接客」
次話: 05.接客のポイント「4.接客によるしくみの改善」

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03.接客のポイント「3.サービスの枠を超える接客」

サービスでは、コンセプトを反映する「場」としてハードが作られる。
そして実際に提供するものとして基本サービスが作られる。
サービスの原型がこうしてでき上がる。

そのハードと基本サービスを滞りなく動かすためのしくみもまた、ルールやマニュアルとして決められる。
この過程と様子は、演劇やオーケストラに似ている。

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演劇にはコンセプトとなるストーリーがある。
舞台となるハードがあり、基本サービスとなる主人公がいて、しくみとなる脇役や裏方がいる。
サービスのマニュアルは演劇の台本であり、彼らは何をどう行うかが全て決められている。

オーケストラも演劇に似ている。
コンセプトは音楽の演奏。基本コンセプトが演奏で、個別コンセプトが曲になる。
演奏するためのホールがハードであり、指揮者が曲を自分の裁量で輝かせることのできる基本サービス、各楽器がその曲を指揮通りに形作るしくみになる。
マニュアルは曲を譜面にした楽譜に当たる。

では、接客はどのような役割になるのだろうか。

演劇ではアドリブを行うことがある。オーケストラでも曲目を変えることが稀にある。
アドリブや曲目の変更が、起こるべくして起こることがある。

演劇であれば女優のヒールが折れてしまうことによって手順を変えるかもしれないし、涙を見せる場面で、思ったよりも化粧が落ちてしまうために泣き方を変えることがあるかもしれない。

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オーケストラでは、その日の温度や湿度の状態によって曲目を変える可能性はある。
バイオリン奏者の弦が一本切れてしまうような不慮の事故によって、何か変更を迫られることがあるかもしれない。

このようなことは基本的に演劇やオーケストラで起こってはならないことだが、起こる可能性を完全に排除することもできない。
1万回に1回、あるいは10万回に1回なら起こってしまうかもしれない。

演劇の舞台、主人公、脇役が、台本通りに進めるとうまく運ばなくなる場合や、オーケストラがプログラム通りに曲を進めると音楽の提供が完全でなくなる場合、このような不足の事態に最も上手く対応する方法が演劇のアドリブであり、指揮者の曲目変更である。

演劇のアドリブや指揮者の曲目変更はそれぞれのリーダーが決めて行うけれども、サービスでは接客者個人個人の判断で既存のサービスの枠を超え、無視することで逆にサービスを正しく提供することがある。

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本来は、演劇を俳優の考えや感情によって、セリフや立ち振る舞いを変えてしまうことは許されることではない。
オーケストラも同様に、指揮者の気分で曲や曲調、演奏方法を変えていいわけがない。

サービスもまた同じように、本来は現場の接客者の個人的な考えや感情、利用者の意見でサービスのあるべき姿を変えてはいけない。

基本を忠実に守ることで完璧なサービスを提供できるようになったとき、接客ははじめてサービスの枠を超えてもいい状態になる。
サービスで決まっている画一的で統一的な枠を超えることが、却ってサービス提供の約束を守るときに限って、そのような行為が許されるようになる。
接客がサービスの枠を超えるべきケースは、「不測の事態」「基本サービスを守る場合」「しくみで決まっている場合」の3つがある。

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基本サービスを提供するときに、アクシデントが起こることがある。

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レストランなら鉄板の料理でやけどをした、スポーツジムの場合だとプールで痙攣を起こして溺れる人が出た、などの場合である。
このようなときウエイターやインストラクターは、サービスの提供よりも不測の事態への対応を優先する。
不測の事態は場合によって対応も異なり、マニュアルでカバーできないことも起こる。

ケガはたいしたことがなくても、鉄板焼きの料理が冷めたら作り直したものを提供することがあるかもしれない。
やけどがひどい場合は病院に運ぶかもしれないし、金銭保障を行うかもしれない。

プールで人が溺れた場合には人工呼吸をするかもしれず、近くのお客に救急車を呼ぶよう指示を出すかもしれない。

こういうことは、しくみで解決できる想定範囲内のことではなく、しかもほとんどの場合基本サービスの提供に関係がない。
危急の場合に接客は、サービスの決まりを超えなくてはならない。
火事や地震などの自然災害の場合も同じである。

不測の事態が基本サービスの提供を中断するほどのことでない場合に限って、接客者は基本サービスを提供するという目的に対してだけ、サービスの決まりを超えるようにする。
演劇で多少手順を変えたり、オーケストラで曲目を変更したりするケースがこれに当たる。

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レストランで通常よりも込み合っているとき、料理が遅れてしまうことがある。
このようなとき、お客はサービス提供に不備があると感じて不満を抱く。
そこで、すぐに提供できる一品を無料で提供して、空腹を満たすつなぎにしてもらい、お客のマイナスの感情を回避してサービスを守ることがある。

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スポーツジムの場合、質問攻めをする一人のお客によって基本サービスであるエクササイズを提供できなくなる恐れが生じたとする。
または、エクササイズの進行についていくことのできない1人のお客のために、全体進行が遅れそうなことがある。
このようなときインストラクターは、レッスンが終わってから個別に質問を聞いたり、相談に乗ったりすることがある。

こういった対応は人と人との関係で考えれば思いやりや気配りになるかもしれないけれども、サービス全体として見たときには「基本サービスの提供を守る行為」となる。

提供すると決めたものを必ず提供するのがサービスの約束である。
レストランでは待ち時間の長さによるイライラで、基本サービスの提供に支障が出る可能性を接客の機転によってカバーしている。
スポーツジムでは全体に提供する基本サービスをまず守り、次に個別対応によって疑問や問題を解消することで、それぞれのお客に対する基本サービスの提供を守ろうとしている。

このようなことが起こったとき、接客はサービスの枠を越える。
マニュアルを無視して、マニュアルに反する行動を取ることもある。
それも基本サービスの提供を守るためであり、その約束を果たすことがサービスの責任だからである。
現場で起こる障害は、基本サービスを提供するために接客の裁量で対応するように決めておく。

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「不測の事態への対応」と「基本サービスを守る場合」は、リスク管理を目的に行われる。
何か不都合なことが起こったときに、サービスの枠を超えて接客がそれに対応し、解消する。

「しくみに定められている場合」は、積極的にポジティブな状態を生み出すことを基本に、接客がサービスの枠を超える。
ただしそれは、しくみに定められた範囲内で行うことになる。

特にハイクオリティのサービスや老舗のサービスのしくみに「トータルサービスを通じてお客様に貢献する接客を行う」という主旨の決まりを持っていることがある。

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このような接客の行動を決めるしくみは非常に細かくルールとして決められる。
たとえば、ラグジュアリーホテルとして有名なリッツ・カールトンではエンパワーメントがしくみに組み込まれている。
エンパワーメントとは権限委譲のことであり、上司の判断を仰がずに自分の判断で行動できること、セクションの壁を越えて仕事を手伝うときは自分の通常業務を離れること、1日2000ドルまでの決裁権の3つがルールとしてしくみ化されている。
(「サービスを越える瞬間」高野登著より抜粋)
接客はこのしくみとしてのエンパワーメントを、サービスの枠を超えるというよりは、サービス提供の一部として発揮することができる。

リッツ・カールトンにはドラマのような感動ストーリーが数多くある。
リッツ・カールトンで実践されている、おもてなしの心やホスピタリティ、先読みのサービスなどを取り入れることで、自分たちのサービスを良くしていこうという動きを見かけることがある。
ところが、ほとんどの場合上手くいかない。

その理由は、リッツ・カールトンの立場では「本当の意味でのおもてなし」「ホスピタリティの理解と実践」「気配りと心配りのバランス」など、心構えや実行動が充分ではないという判断になるのかもしれない。
しかし、サービス作りの視点での判断はこの考え方と異なる。

リッツ・カールトンを正しく知ろうと試みた人であれば、そのサービスの根底にあるコンセプトの完全さをすぐに理解することができる。
クレドというコンセプトを表した、4つ折りの名刺大サイズのカードを全従業員が持ち、毎日ミーティングで確認する習慣がある。

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または、コンセプトはハードに徹底的に反映されている。
もうひとつの我が家の様にくつろいでもらうというコンセプトを実現するために、統一されたサービスを提供している。

基本サービスである宿泊に関しては、ベッドの心地の良さ、バスルームの広さなど申し分ない。完全防音は静寂な空間を提供してくれる。

さらにしくみが構築されている。食べ物の好き嫌いが記録され、ホテル内のどのレストランでオーダーをしても嫌いな食べ物が出てくることはない。
枕の素材を一度代えると、次に宿泊するとも同じ素材の枕が用意される。

このような良質の接客を自分たちのサービスに取り入れてもうまくいかないのは、コンセプト、ハード、基本サービス、しくみを完全な状態に整えた上で接客の役割を決めるという手順に原因がある。
コンセプトからハードと基本サービスを作り、しくみでそれを運営するルールを決める。
残った部分が接客の仕事になる。

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これら一連の流れを無視して、表面上の接客を取り入れても、提供される意味、環境、コンセプトの違いによって上手くいかない。
サービスのバックグランドが明確に決まり、作られているからこそ、リッツ・カールトンの接客は最高のパフォーマンスを発揮する。だから、コンセプト、ハード、基本サービス、しくみの全てが異なる自分たちのサービスに、リッツ・カールトンの接客のすばらしい部分を取り入れてもうまくいくことはない。

しかも、そういったすばらしい効果を発揮する接客は、(リッツ・カールトンのように)しくみによってトータルサービスに組み込まれている必要がある。
接客のコミュニケーションスキルを高めることや、人の気持ちがよく分かる人を採用するだけでは、接客はうまく働かない。
まずはトータルサービスに沿った、一番すばらしい形でサービスの枠を超える接客を決め、次に何をどのように行っていいのかということをしくみ化することで、より良い接客がサービスをリードしてくれるようになる。

前話: 02.接客のポイント「2.基本サービスを提供する接客」
次話: 04.サービスの枠を超えてはいけないケース

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02.接客のポイント「2.基本サービスを提供する接客」

接客を行う「人」が、サービス提供を直接行うことがある。

高速道路の料金所の接客者は、サービスを直接提供していない。
高速道路ではハード(道路)の利用が基本サービスで、道路を走って初めてサービスが提供され、道路を降りるとサービスの提供が終わる。
接客はサービスの一部分(しくみ)として、関所の役目を果たすにすぎない。

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レストランのウエイターは、しくみと「基本サービス提供」の両方の役割がある。
接客者が食事のオーダーを取るとき、まだ基本サービスである料理は提供されていない。
これがサービス提供前のしくみの働きになる。
食事が終わるとお客は支払いをおこない、これがサービス提供後のしくみの役割になる。
料理をお客の目の前に運ぶことが、接客の基本サービス提供になる。
ただしお客が基本サービスを利用している間中ずっと、接客者が提供し続けているわけではない。
接客はお客の基本サービス利用のきっかけを提供する。

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スポーツジムの場合だと、インストラクターがレクチャーを行うサービスは全て「基本サービス」の提供になる。
各クラスがはじまってから終わるまで、インストラクターが全てのサービスを提供する。
この様なサービスでは、接客者が接客することがイコール基本サービスを提供することになる。
基本サービスは接客が存在しなければ提供されなくなってしまう。

レストランでは、お客が食事中のときに接客者はサービス提供を行っていない。
基本サービスである料理を提供したところで接客の仕事が一度終わる。
しかしスポーツジムの場合は、接客を継続しなければサービスが終わってしまう。
スポーツジムは基本サービス提供と接客が100%リンクしているサービスである。

基本サービスを提供する接客で大切なことは、

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ということに尽きる。
基本サービスが提供されなくてはサービスが成り立たないので、ジムのインストラクターのように基本サービスと接客がリンクしているサービスほど、サービスにおける接客の重要度は大きくなる。

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しくみとしての接客と、基本サービス提供としての接客は、仕事内容を消去法によって決める。
コンセプトに沿ってハード・基本サービス・しくみを順番に作り上げ、

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という決め方をする。
このシンプルな方法で、接客の役割をはっきりと決めることができる。

サービスを作り上げる上で、接客の役割はこうして決まる。
だから、新しいサービスを作るとき、一番最初に接客の仕事や役割を決めてしまってはならない。

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接客からサービスを作ってしまうことは実はよくある。
接客の経験豊かなベテランが独立をするときや、利用者に喜んでもらう接客にプライドを持っている人が新しい店舗を任されるときによく起こる。

けれども、サービスはあくまで提供すると決めたものを提供し、約束を守るということにつきる。
基本サービスを提供するとき、接客はしくみがなければうまく役割を果たすことができない。
たとえばコックが料理を作って、ウエイターがそれを運ぶというオペレーションがなければ、接客はうまく役割を果たすことができない。

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そのしくみは、「料理」という基本サービスが何であるかメニューが決まっていなければうまく働かない。
料理という基本サービスは、「店舗」というハードが作られていなければそもそも提供することができない。
ハード、基本サービス、しくみに先立って接客の役割を決めてしまうと、サービスの約束を守ることは途端に難しくなってしまう。

接客を先に形作ってしまうことがなぜ起こるのかというと、多くの場合接客者のプライドやホスピタリティ溢れる人間性、心配りのできる思いやりのある性格など、「いいこと」と考えられていることがサービス提供に反してしまうことに原因がある。

しくみは画一的、統一的なものである。
ルールはどうしてもそうなる。
基本サービスも画一的で統一である。
「できる約束」も、どうしてもそうなってしまう。

しくみや基本サービスは、サービス提供に不可欠だから、結果として、お客に画一的な結果を提供する。
画一的な基本サービスとしくみによって提供されるサービスは、お客に画一的な結果として届けられる。

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たとえば、ガソリンスタンドではガソリンが提供されると決まっている。提供される手順も決まっている。
このことに抵抗を覚える接客者は少なくない。
お客に感謝されるような、高いコミュニケーションを行うことができる接客者であればなおさらである。
なぜならお客にはそれぞれの事情や性格、気分などがあり、画一的な結果が必ず良いとは言い切れないからである。
このような事情によって、すばらしい接客者はマニュアル化を避け、嫌う傾向にある。画一的、統一的なものがサービスを劣化させる原因だと考えてしまう。
そして個別対応を尊んで、それを実行しようとする。
この行為が実は「コンセプトの反映」「提供すると決めたものを提供する」というサービスの約束を破ってしまう。

どうしてサービスの約束を破ってしまうことになるのか、ということには理由がある。

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このようなときの接客者は、サービスの核になっているコンセプトを自分の主観で判断する。
接客者の主観は、接客者同士で同じにはならない。むしろ違う可能性の方が圧倒的に高い。
個々の価値観によってコンセプトが解釈されるようになると、サービスは同じ意味や約束で提供されなくなってしまう。
昔と現在、ある接客者と別の接客者、ある価値観と別の価値観、などによって提供されるサービスが異なってしまうことになる。

約束が守られなくなったサービスは、長い目で見るとお客の信用を失ってしまう。
提供すると決めたものが提供されなくなり、提供するとは決めていないものが好意などによって提供されるようになると、提供されないお客は不満を覚えて不信感を抱いてしまう。

本当にすばらしい接客者は、ハード・基本サービス・しくみ・接客の手順を重視して尊重する。
それは、自分の能力やスキルによってサービスを支えているのではなく、

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ことを理解しているからである。
そのような接客に支えられたサービスは、強いサービスとして特にお客の喜びに注目しなくても、お客は信用してくれ、満足してくれる。

前話: 01.接客のポイント「1.サービスのしくみとしての接客」
次話: 03.接客のポイント「3.サービスの枠を超える接客」

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01.接客のポイント「サービスのしくみとしての接客」

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高速道路では、道路を利用する前または後に料金を徴収する。
接客者はトータルサービスの流れの中で、料金を徴収するというプロセスとしての役割がある。
プロセスとして機能しているということは、接客を必要としないETCが、プロセスの一部として料金徴収所の役割を担うことが可能になる。
切符を徴収する改札所の接客が、自動改札に替わることと同じで、接客はサービスのプロセス、しくみとしての役割以外は果たさない。

このように、サービスの一部として接客が必要なとき、人でなければならない仕事である場合に人が動員され接客者として仕事を受け持つのだが、機械がその役割に替わることもできる。

ここで大切なことは、接客であるかどうかはなく、しくみが機能するかどうかということで、しくみが滞りなく働くかどうかだけが基準になる。

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CSやアフターフォローもトータルサービス上のしくみである。

それらはプロセスとして機能するときに、接客者が必要になる。
CS対応の中でも、特に謝罪や状況説明は接客者でなければ対応することができない。
一部の単純な質問を除いて、機械などに替えることができない。

アフターフォローにはたとえば、機械の修理など、接客者がお客に直接面と向かわないものもある。
しかし、これもトータルサービスの「しくみ」であって、人が行うといういみでは「接客」でもある。
お客と直接やりとりを行う電話・メール・手紙などによるサポートは、より直接的な「接客」で、同時にやはり、トータルサービスの「しくみ」でもある。

この特徴で大切なことは、接客の役割は

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ということである。
あくまで

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ことにある。
サービスを必要とする人に、サービス提供することが第一の目的であって、コミュニケーションや顧客満足は目的にはならない。
高速道路の料金所のように、仕事としてそれを求められてもいない。

前話: 第7章 05.演劇と台本の関係
次話: 02.接客のポイント「2.基本サービスを提供する接客」

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05.演劇と台本の関係

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正しいしくみを持たないサービスは、ベテランの脇役がいない演劇のようなもので、味気も色気もない。
そのような演劇は誰も見たいと思わない。

サービスを演劇に当てはめて考えてみると、ハードが舞台。
基本サービスは主人公。
しくみは脇役になる。
そしてその演劇をうまく運ぶための台本が、サービスではマニュアルとなる。

主人公が演劇で何を話しどのような動作を行うかが決まっているように、脇役の役割も台本によって決まっている。
基本サービスとして何を提供するかが決まっているように、しくみが何を行うのかということも決まっている。

台本を無視してアドリブで演劇を行う役者がプロとしては失格であるのと同じで、マニュアルを無視したオペレーションはサービス失格である。
演劇と台本の関係は、サービスとマニュアルの関係と変わらない。
台本に書かれていることはそれぞれの役者の役割であるのと同様に、マニュアルにはトータルサービスを作り上げる役割、つまり「しくみ」が書かれる。

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マニュアル作りにも重要なポイントがある。

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マニュアルは、コンセプトでは目が行き届かない細かい部分を測る「ものさし」の機能がある。
コンセプトは法(憲法)、マニュアルは法律(六法をはじめとする各法律)と置き換えてイメージできる。

コンセプトはサービスを正しく測る基準になる。
やっていいこと、やってはいけないことを考える場合の核になる。
一方のマニュアルは、ある物事を行っても行わなくても悪いということはなく、行ってもサービス提供に影響はない、という判断の難しい細かい部分に対して、なぜ行うのか(行わないのか)決定する。

コンセプトではカバーしきれない細かい部分を補うマニュアルの目的は、統一することにある。

マニュアルを作るとき「サービス提供するとき、提供者であれば誰もが必ず統一することは何ですか?」という質問に答えることが一番大切で、その答えがマニュアルの内容になる。
ということは、正しいマニュアル作りは、やはり

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になる。
なぜなら、「統一されること」は結局コンセプトを基準として決めるからである。

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たとえばファミリーレストランやコンビニの場合、接客者のトークが統一されている。
会計終了後に「ありがとうございました。またお越しくださいませ」という発言を行うように決められている。
その味気のなさや挨拶をマニュアル化することに対して、好意的でない声はよく耳にする。
しかしサービスコンセプト反映という視点で見てみると、ファミリーレストランもコンビニも「統一すると決めたこと」がマニュアルに反映されているということがわかる。
その結果、結局はマニュアルによって滞りなく基本サービスが提供されている。

コンセプトを正確に反映し、基本サービスを滞りなく提供するために挨拶の統一が必要であれば、それはお客の気分に左右されずにマニュアル化する。

統一するべきことが多ければマニュアルは厚くなり、比例してサービス提供の状態が画一的になる。
大量のサービスを提供するときや、ミスの許されないサービスを提供するとき、厚いマニュアルは上手く機能するだけではなく、必然になる。

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自動車メーカーの自動車製造マニュアルは必ず存在し、厚いものであると相場が決まっている。

道路工事や障害者補助を扱う公共のサービスもかなりの細かいところまでマニュアル化されている。
人の命が関わるなど間違いが許されないからである。

こういった間違いの許されないサービスでは統一するべきことが多く、マニュアルは厚くあるべきで、細部まで検討され、取り決めはしっかりとしていなくてはならない。
サービス提供の責任上その義務がある。

統一することが少なければマニュアルは薄くなる。
反比例してサービス提供の自由度が広がる。ルール化の必要性がなくなる。

たとえば果物を提供する八百屋などの、単純提供できるサービスによく見られる。
小規模のサービス提供者も取り決めが少ない。
ピアノの先生は、個別コンセプトよりもコミュニケーションによってサービスを提供するので、物事の対応もしくみやマニュアルではなくコミュニケーション、つまり接客によって行う。
このようなサービスにとって統一するべき物事は少なく、マニュアルの必要性は限りなく低い。

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それぞれの事業形態や規模、責任などを考慮に入れてしくみを言語化する、つまりマニュアルを作ることで、正しいしくみ作りを行うことができる。

前話: 04.取り入れてはならない3つの視点 
次話: 第8章 01.接客のポイント「1.サービスのしくみとしての接客」

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04.取り入れてはならない3つの視点

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他社のサービスを取り入れたり真似をしたりすると、しくみにコンセプトが反映されなくなってしまう。

サービスが良いことで有名な他者のサービスやオペレーションが魅力的に映るというのはよくわかる。
実際のところ、それを真似し取り入れることはそう難しくはない。
いとも簡単にできてしまうこともある。
ただしうまく機能したという話を聞いたことがない。

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他社でそのオペレーションが上手く機能するのは、サービス提供者がコンセプトに忠実に、そのサービスを利用するお客の求めることに応えることでしくみ作りを行っているからである。
そういった前提を考えずに、表面上のしくみを取り入れてもうまくいかない。

たとえばビジネスホテルはリッツ・カールトンのしくみ――レセプションにレセプションの表示がない、トイレの表示がないが従業員がいち早く気がついて案内する、宿泊者の食べ物の好き嫌いは記録される――などというしくみを取り入れてはいけない。
ビジネスホテルにはビジネスホテルのコンセプトがあり、ハードがあり、基本サービスがある。
そのサービスに最も適したしくみを作らなくては作ったしくみとサービスの組み合わせがバラバラで、お客は不満を感じてしまうことになってしまう。

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他のサービス提供者のしくみを取り入れていいのは、コンセプトとお客の求めるものが限りなく近いときだけにする。
そしてできれば、そのしくみどおりに運営すれば、サービス提供に貢献するとわかっているときだけに限りたい。
しくみの構築はコンセプトの構築とは違って、オリジナリティを追及しない。
全ての目的は効果と結果で、トータルサービスに貢献するしくみは積極的に取り入れて構わない。

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ディナータイムに、行列ができるイタリアンレストランを経営していると想像してほしい。
並んで待っているお客に喜んでもらうため、一杯のワインを無料で提供するというしくみを作る。
するとお客は待ち時間(サービス提供前)に退屈せずにストレスを軽減されて待つことができるようになる。
これはしくみを作る考え方として間違ってはいない。

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しかし、トータルサービスにどのような影響があるかということが深く考えられているとはいえない。
その後提供される基本サービスに対して、その行為がかえって邪魔になったり、足を引っ張ったりする可能性がないかどうかということが考えられていない。

先に飲む一杯のワインが、料理の味のバランスを崩してしまうかもしれない。
お酒に弱い人が席に通されたときには、気分が悪くなるかもしれない。
逆に、大きな声で笑い出して店の雰囲気を壊す可能性も考えることができる。
または、そういったことは杞憂に終わり何事も起こらないかもしれない。

しくみは顧客満足を中心にではなく、

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に考えなくてはならない。
「たぶんだいじょうぶだろう」「多くの人が喜ぶんだからいいじゃないか」という基準で決めてしまうと、それに当てはまらないお客が不満を持つことになる。
もちろん、基本サービスを基準にしても不満を持つお客は出てくるかもしれないけれども、それは提供すると約束したサービスを提供するために、忠実に決めたことであるのでコンセプトを貫いていい。

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顧客満足は「お客が喜ぶこと」を中心に何を行うかを決める。
サービスの提供は「お客が確実にサービス利用すること」によって何を行うかを決める。

顧客満足は良いことを行う気持ちで行動し、サービス提供は必ず提供するという約束で行動する。

サービスで何か(しくみ)を決めるときは、良いことを行いたいという感情よりも、確実にサービスを提供するという約束を優先するようにする。
サービスにとって「良いこと」というのは必ず提供することなので、サービスのしくみ作りも

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する。

しくみを決定するとき、「親切心で行うことが実はサービスをダメにする」という可能性を考えるようにしたい。
さらには「親切心で物事を行う」という考え方ではなく、「サービスを最も良い形で提供する」ことを中心にしくみを作るようにする。

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しくみを作るときに良く考えられていないと、不備が起こってしまうことがある。
たとえば、予想よりもより多くの人がサービスを利用したとき、しくみがサービス提供を阻む壁になることがある。

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小規模なサービスでは、丁寧さや緻密さ、速さ、コミュニケーションなどによってお客が支持することがある。
このようなサービスは、利用者が増えれば増えるほど、提供すると決めたサービスが労力的(手間)にも実際的(時間)にも提供できなくなる可能性が非常に高い。

これまでのしくみをそのまま続ければ、そのサービスを必要とする多くの人にサービスを提供することができなくなってしまい、全員に提供するために手を抜いてしまうと、約束どおりのサービスが提供されなくなってしまう。
これまでは上手く機能してきたしくみが、状況の変化によって突然サービス提供の壁になってしまうことがある。

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このような場合に、コンセプトとトータルサービスを保ちながらサービスを提供し続けるには、しくみを変えなければならない。
しくみの変更で追いつかない場合は、基本サービスの変更を迫られてしまう。
多くの場合基本サービスの水準を下げて多くの人に利用してもらえるように工夫する。
ただ、この方法だとこれまでのお客の信用にヒビが入ってしまう可能性がある。

このような事態が起こらないように、あらかじめトータルサービスを正しく予測して、それに合ったしくみを作ることが大切になる。
発生前の対応と発生後の対応は、労力も、コストも、信用も大きな差となって表れる。
どうしても問題が起こってしまったら、なるべく初期の段階で早めにしくみを改善・変更して、状況に適応するように対策を考えた方がいい。

しくみの変更は基本サービスの変更よりもシンプルに行うことができる。
にもかかわらず、シンプルにできないということがよく起こってしまう。

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できるはずのものをシンプルに行うことができない理由の多くは「これまでこのやり方でうまくいってきたのに、今さら変えることはできない」「これまでうまくやってきたのだから、もう少し様子を見よう」などの保守的、消極的な考え方によるところが大きい。

しくみへのこだわりは、手順やルールを変えたくない個人的な気分の表れで、過去の成功事例にしがみつく人間心理である。
社会心理学でも一貫性の法則として証明されている。

しくみは最初から改善と更新を組み込む必要性があり、それをないがしろにすると、いずれしくみそのものがサービス提供の壁になる。

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となってしまう。
しくみを改善しなくなったとき、最終的にそのサービスはサービス提供を正しく行うことができないという意味で必ずダメになってしまう。

前話: 03.しくみ作りの3つのルール 
次話: 05.演劇と台本の関係

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03.しくみ作りの3つのルール

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もともとサービスは、コンセプトが生みの親になる。
ハードも基本サービスも、コンセプトによって作られる。

脇役であるしくみは、これらの主役とコンセプトを反映するものにする。
少なくとも、反対はしないようにする。
演劇を成功に導く、脇役の仕事は何かということを考えるようにする。

たとえばファーストフード店では、調理の方法、調理台の位置、調理前の材料の保管場所など全てが決まっている。
そして、現在提供できる現品がないときでも、オペレーションに従って数分の調理を行うことで提供することができるしくみが作られている。

それは「ファースト」フードというコンセプトを、トータルサービスによって提供する目的があるからで、提供するまでの調理・動線・手順も、その目的のために作られている。
これがしくみによってトータルサービスを構築するということである。

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サービスのしくみはトータルサービスを作り上げるためのもので、従業員が働きやすいように作られるものであってはいけない。
したがって、従業員の便利、快適などの「効率」を中心にしくみが作られるのではなく、サービスに必要な「効果」を中心にしくみを作るようにする。

サービスに必要な効果というのは、提供すると決めたものを確実に提供することと、その約束を守ることである。
ただし、効果をあげるために効率が必要なときは、その方法を優先していい。
私的な欲求を満たすためではなく、公的な、サービス提供の目的を満たすために作るという決まりを守るようにする。

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しくみは基本サービスをうまく提供するために作られるけれども、必ずしもお客に満足してもらうようにする必要はない。
感動してもらわなくてもいい。
ただ、不満に感じてもらうことは避けなくてはならない。

ディズニーランドのアトラクションは長時間並ぶことで有名だが、待ち時間の中にも楽しむ要素を取り入れていることはよく知られている。

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パナソニックのノートパソコンが故障してサービスセンターに電話をする。
そしてどうしても修理に出さなくては直らないとき、配送に関しては専属の業者が専用のパッケージを持って、お客の都合のいい時間に引き取りに来てくれるようになっている。
少なくとも、配送に関しては待っているだけでいいのでストレスが軽減される。

小さなしくみとしての工夫がつまりはしくみであり、サービスするときに感じるお客のストレスを軽減するか、削除するしくみ作りを前提にする。

前話: 02.しくみの「改善」と「更新」
次話: 04.取り入れてはならない3つの視点

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02.しくみの「改善」と「更新」

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しくみにはハードや基本サービスにはない、改善され更新されるという特徴がある。

ハードは一度できあがってしまうと大幅に変更するのは難しい。
基本サービスは「これを提供する」と決めたら必ずそれを提供するのだから、基本的に改善や更新はしない。

けれども、しくみは基本サービスを提供するために何でも行う役割なので、ダメなものを捨て、より良くしていくことに力を入れていかなくてはならない。
サービスは正確に提供されているのに、オペレーションに不備があってサービス提供が遅れているのなら、オペレーションの不備を改善して早く提供できるようにする。
ルールが定まっていることで、逆にサービス提供の足かせになっていることがあれば、

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このように改善と更新が必要なオペレーションとルールは、マニュアルによって定められる。
ということはつまり、

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と考えた方がわかりやすいし、的確だといえる。

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どのような場合に、どのような手順で、改善と更新が組み込まれるかと決めることもしくみ作りには必要で、このこともマニュアルに書き残してルール化される。

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しくみが決まっていなければ、真面目に、正確にサービスを提供しようとする提供者ほど、売上げを圧迫することでしか解決できないことがある。

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たとえば、私はお気に入りのスエードの黒い靴を持っている。
銀座のある店舗の銘柄なのだが、形も履きやすさも私好みで、だからその靴はよく履く。
それだけにかかとの裏が磨り減るのが早く、年に一度は修理に出していた。
かかとの修理と新しい商品の取り付けは、このお店のルールとして3000円で行うというしくみ(サービス提供後のしくみ)があった。
私はそれを利用していた。

ところが3年目に入ったある日、スエードの一部分が破れてしまった。
靴下が見えるような構造にはなっていないものの、見てくれは悪いし、雨の日は濡れてしまう。
そこでいつもかかとを取り替えてもらっている銀座店に靴を持っていき、修理できるのかどうかということを聞いた。
しかし残念なことに、修理は不可能だということだった。

そこでこのお店では、サービスの信用を守るために私に新品の同じ靴を用意してくれた。
これはサービスを必ず提供すると約束している提供者の立場としては間違った行いではない。
むしろ非常に正しい。

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しかし私は新品の靴を改めて用意すると決まるまでの過程や、店員の説明のぎこちなさなどを併せて考えてみて、このようなケースへの対処はしくみ化されていないのだと感じた。

たとえば、「2年間は無料で保証しますが、それを超えた場合に、全く同じ靴をお買い求めいただく場合は定価の二割引でご購入いただく」というしくみはあっていいだろう。
なぜなら、かかと部分の交換など、想定される問題は有料で対応しているのだから、それを超える不具合が有料でもおかしくない。

しかしもっと大切なのことは、程度が軽ければ有料で具合がひどければ新品というのは、お客から見てもサービスが公平ではないということである。
もちろん新品を手に入れると気分はいいし、「これからもこの店で買おう」と思うかもしれない。
しかし考えられた完全なサービスとはいえない。

サービスを提供するという約束はきっちりと守られているものの、これでは何か問題が起こるたびに、提供者は利益を圧迫されてしまう。
利益が圧迫されると靴の新商品開発に影響があるかもしれないし、人件費を削減しなくてはならなくなるかもしれない。
そうすると、結局は正確にサービスが提供されなくなってしまう。

しくみによってサービスを形作るのは、お客のためであることはもちろん、サービス提供者のためでもあり、その結果としてサービスの継続提供するという約束を守るためでもある。

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改善とマニュアルの更新というと難しく聞こえるかもしれないけれども、わかりやすい考え方として「支払方法」がある。
たとえば、インターネットで商品を販売するのであれば、銀行振り込みだけを受け付けていた支払いの方法から、代引きを加えることでサービスを利用しやすくなるお客もいるだろう。
飲食店であれば現金払いに加えて、クレジットカードで支払うことができるようにする。

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そうすると、クレジットカードの支払いに関する書類の事務処理、財務処理などを新しく業務に反映しなくてはならなくなる。
その手順や方法もルール化してマニュアルを更新する。

この方法は既にサービス利用者となったお客の声に耳を傾けることと同じように、サービスを利用するには今一歩踏み出せない、利用者ではないお客の声にも耳を傾ける必要がある。
それぞれのお客が求めるポイントは違っていて、両方を改善の対象に入れなくてはならない。

ではたとえば両方の声が複数上がった場合に、そのどちらがより大切かというと、それを判断するために

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ようにする。
売上げを目的にすると利用者ではないお客の声に応えることになり、顧客満足を目的にすると利用者であるお客の声に応えることになってしまう。
基準がどうしても一方的になってしまうので、このような場合は原点に返って、なぜこのサービスを提供しているのかという意味を見出してくれるコンセプトを基準にした方がいい。

加える改善があれば、削除する改善もある。
削除する改善は、お客は「それは別に必要ないかな」となんとなく感じてはいるが、特に迷惑ではないのではっきりと気がつかないという特徴がある。
したがって、お客の声に耳を傾けても削除する改善はなかなか見つからない。

削除する改善は、仕事に注目することからはじめる。
仕事のプロセスを分解してあまり強い意味を持たない作業を止める。
手順は増える一方で収集がつかなくなることが多いので、定期的に作業を削除するためのミーティングを開いた方がいい。

削除には別の見方もある。
同じ質のクレームが発生するのは共通の原因がある可能性がある。
たとえば、ある会社では月会費を事業運営の維持費として支払ってもらっている。
これを最初、サービス利用料という名目にしたらクレームが出た。
具体的に何のサービスを提供されているのかという意味がお客に見えにくかった。
そしてそれを「維持費としていただいています」と説明するように改善すると、「確かにこの価格でどうやって維持されているのかと思っていました」という声に変わった。

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配送業で配送ミスがあったり、レストランでオーダーミスがあったり、何かミスがあるときは構造的にそのミスが起こるようにできている可能性がある。
ミスが起こる、イコール改善とマニュアルの更新を行う、という「しくみ」を作っておくことで、しくみの管理はうまく行うことができる。
そして一度改善したら、万が一同じ配送ミスやオーダーミスがあったときにどのように迅速に対応するのかも併せてしくみ化しておく。

この両方をしくみ化することで、大本の原因を解決し、万が一の場合にも備えることができるようになる。
さらにできれば、改善と更新はいつ、どのように行なわれるかというルールも決める。

でなくては、状況と問題対応が変わるたびにマニュアルが更新され、混乱してしまうだけになる。
そうなると現場では結局ケース・バイ・ケースになってしまうので、改善の方法と時期を決めることで長期的にサービス提供をスムーズにする。

しくみ作りは、サービス提供前・提供中・提供後の3つの流れに関わるトータルサービスと、改善・更新のルールを決めることが基本作業となる。

前話: 01.トータルサービスというしくみの考え方
次話: 03.しくみ作りの3つのルール 

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