03.新しいサービスの取り入れ対策

上位・下位ブランドを構築するほど大げさではなく、大げさでない代わりにサービス提供者がよく企画し、実行するのが、提供するサービスを増やすことである。
つまり新しいサービスを生み出し、提供することである。

このときにブランド力が低下し、サービスが上手く機能しなくなるのは2つの視点がある。

ひとつは、新しく生み出したサービスがコンセプトに適っていないか、既にあるブランドに適っていないケース。
もうひとつは、提供するサービスの数を増やす行為自体が、これまで守られてきたブランドを脅かす場合である。

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コンセプトに適わないサービスはわかりやすい。
コーヒーの専門店で紅茶、ジュース、ソフトドリンク、アルコールなどを新しくラインナップするという場合に、起こり得る。
特に個別コンセプトが「こだわりのコーヒー」であると、ブランドに与える影響が大きくなる。

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現存ブランドに適わないサービスというのは、お客理解を混乱させたり、裏切ったりするサービスを提供しはじめることである。
ブランドは提供者のコンセプトと、お客理解の一致した部分である。
サービス提供者がコンセプトに沿った新しいサービスを提供しても、その正しいサービスが利用者の理解を混乱させ、裏切ることがある。

たとえば、マンツーマンのプライベートレッスンに特化した英会話スクールがあるとする。
このような英会話スクールでは英会話を教えることが基本コンセプト、マンツーマンであることが個別コンセプトになる。
提供者には基本コンセプトを様々な形で社会に生み出し、「もっと社会に英会話を浸透させたい」という個別コンセプトが別にあるとする。
そしてマンツーマンが成功したことで、グループレッスンの英会話スクールを展開する計画を立てたとする。

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この行為は、サービス事業者にとっては個別コンセプトに沿った一貫性のあるサービス提供の態度であり、社会貢献でもあるけれども、お客理解によるブランドが「マンツーマン」であると、ブランド力は新サービスによって低下しはじめ、元のサービスが上手く機能しなくなりはじめる。

これが現存ブランドに適わないサービスである。

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それぞれのコンセプトの、それぞれのサービスには、提供するべき適切なサービスの数がある。
この数を上回るか、極端に下回るとブランド力が低下することでサービスが上手く機能しなくなる。

たとえばここに、バーとコーヒーショップがあるとする。
一般的に考えて、バーに用意されているお酒の種類と量は、コーヒーショップで用意されているコーヒー豆の種類よりも多い。
また、バーで提供されるお酒はカクテルなどを含めると、コーヒーショップで提供されるコーヒーのメニューよりも多い。

コーヒーショップがバーからヒントを得て、メニューのラインナップを増やし、カクテルの発想で様々なブレンドのコーヒーを提供しはじめるとサービスが上手く機能しなくなる。

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私たちが正確に理解しているユニクロのブランドのひとつに、カラフルなフリースという個別コンセプトがある。
冬にユニクロでフリースを購入しようと思い立ったとき、せっかく足を運んだのにもかかわらず、カラーバリエーションが3種類しかなければ大きな失望感を覚える。

夢の国であるディズニーランドは、大人にも子供にも夢を与える。
「夢の国」はコンセプトでもあり、お客の理解でもある。
その夢の国が、札幌、名古屋、大阪、福岡にも展開したとすれば、私たちは夢の価値が下がったような気分になる。
これら全てが適切ではない数(量)によるブランドへの悪影響である。

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提供されるサービスの「量」に対するお客の理解は、「質」に対する理解――こだわりのコーヒー、低価格で種類の豊富なフリース、夢の国など――よりもあやふやで、通常はそれぞれのイメージに幅がある。
しかし、そのあいまいな幅の上限を超える(下限を下回る)とブランドが崩壊しはじめ、サービスが上手く機能しなくなってしまう。

サービス量が、提供するべき適切な量の上限を上回っているとしたら、提供を中止するか、別ブランドとして提供し続けるかの選択をする。

実際には提供を中止する方が現実的である。
ブランドに対しての適切な量を上回っているという時点で、そのサービスはサービス提供の足かせであり、重荷になっていることを証明している。
そのようなサービスは順序だてて撤退する方が現実的である。

それでも収益性が高いなどの商売上の理由や、個別コンセプトを実現したいなどの理由によって存続させる場合は、別ブランドとして再構築する。
少なくとも、ダイエーとローソン、トヨタとレクサスのようにかけ離れたブランドで展開し、同一のサービスであると認められない状態を作る必要がある。

前話: 02.上位・下位ブランドの対策
次話: 04.メディア戦略の不備対策1

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02.上位・下位ブランドの対策

サービス提供者はサービスが上手く提供できたとき、そのサービス提供の経験を活かすことのできる、別ブランドを立ち上げることがある。
最も単純なものは価格帯に差をつける方法で、ローソンが展開する上位ブランドのナチュラルローソン(自然に優しいイメージとしても展開)と下位ブランドの100円ローソンは事業としてもサービスとしても成功している。

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しかし多くのサービスが別ブランドを展開するとき、これまで培ったブランドを崩してしまうことがある。
たとえばアメリカのファッションブランドであるダナ・キャランは下位ブランドのDKNYを展開した直後、株価を大幅に下げた。
アメリカのホテルチェーンであるホリデイ・インは上位ブランドであるホリデイ・イン・クラウン・プラザを展開し不調に終わった。
人々はダナ・キャランに黒で女性を彩る素敵なドレスをイメージし、ホリデイ・インに安ホテルのイメージを持っていた。
そして、そのイメージはサービス提供者のコンセプトと一致していた。
このコンセプトと理解の一致であるブランドに合わない、または理解の一致を崩すブランドを展開したとき、ブランドの力は弱まる。

想像力を膨らませれば、意外と容易に理解することができる。
例えば、女性の解放と黒・白・ベージュを掲げるシャネルが、次の時代は「男性のカジュアル服で、赤・青・緑をコンセプト」に展開したとして、受け入れられるはずがない。

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またはTOYOTAから高級車を分離して、上位ブランドとして成功しているレクサスが、大衆車市場に乗り込んだとしたらレクサスブランドは一気に崩れるだろう。
日本で最も歴史のある和菓子の虎屋が洋菓子の専門店を、通信事業であるNTTドコモがパソコンの製造と販売をはじめたとしたら、私たちは何か心地の悪い違和感を覚える。

ローソンを機軸とした、ナチュラルローソンと100円ローソンがブランドを上手く保ったのは、最初から基本コンセプトが機軸になっているからである。
コンビニエンスストアは、1970年代にセブンイレブンの1号店がオープンしてから今日まで、日本人の文化に新しい価値観をもたらしてきた。
まさにサービスとして社会貢献してきた。
そしてそのサービスは成熟し、成熟したサービスに良く見られるように、個別コンセプトが存在しないか、あってもほとんど意味を持たない状態になった。
既にそのサービスはどこにでも存在するものであり、各サービス業者によって多少の違いはあるにしても、基本的に提供する物も提供する方法も同じである。

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コンビニの利用者はローソンを求めるのではなく、基本コンセプトに沿ったサービスを求める。
それは、24時間開店し、ほとんどの日用品を、即座に購入することができるというコンセプトである。
これがコンビニエンスストアのブランドであり、良い悪いは別としてこのようにお客は理解している。

ナチュラルローソンと100円ローソンが別ブランド展開して成功したのは、はじめからこのような基本コンセプトに沿った展開を行ったことによる。
自然に優しいか、100円であるかの違いはあるにしても、扱う商品、陳列、利用方法などは、ローソン本体によって築かれたブランドと変わらない。

これに対して、シャネルがメンズカジュアルを、レクサスが大衆車を、虎屋が洋菓子を、NTTドコモがパソコンの製造をした場合に感じる違和感は、個別コンセプトに鍵がある。

シャネル、レクサスは個別コンセプトによってブランドが成り立っている。
提供するサービスと、お客理解の一致している部分が個別コンセプトに頼っている。
誰も、シャネルがただのレディースウエアであるとか、レクサスが車を販売するだけであるとか、基本コンセプトに対する単純理解でサービスを判断しない。

このような個別コンセプトの理解によって支えられているブランドが、個別コンセプトに反した別ブランドを展開すると、それまで培われたブランドに悪影響を与える。

虎屋とNTTドコモは、和菓子とデータ通信(または携帯電話)という基本コンセプトによってブランドが確立している。
洋菓子とパソコンの製造は、その基本コンセプトと大きなズレがあり、利用者はそのズレを見て混乱する。
この混乱はやはり、これまでのブランド低下を誘う。

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これに対してホリデイ・インのケースは特殊である。
ホリデイ・インは宿泊を提供するという基本コンセプト以外にこれといって特徴がないホテルである。
このような基本コンセプトによって成り立っているサービスが、個別コンセプト(高級ホテル)を中心にブランド展開すると、これまでのブランドが崩れる。

つまり上位・下位のブランドを展開するとき、成功できる展開の考え方は2つしかないことがわかる。

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ローソンのようなケースがひとつ。
もうひとつは、シャネルがシャネルのコンセプトを崩さず毎年2回新作を発表するように、あるいはレクサスが高級車の新車を開発するように、

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ことである。

個別コンセプトを中心に展開しながら、各ブランドで統一したイメージを維持し成功しているのがコムサ・デ・モードである。
衣料はレディース、メンズ、それぞれのやや上位、やや下位ブランド、子供服、文具などの日用品、食料品などを展開し、全てを崩さない絶妙なバランスを保つ。

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コムサ・デ・モードのブランドは、オシャレでスタイリッシュ。ナチュラルカラーというところにある。
これらは個別コンセプトに則っている。
コムサ・デ・モードの服を着ていれば羨望の目で見られはしなくても、安物、ダサい、などと思われることはない。
子供にコムサ・デ・モードの服を着せれば、それなりにオシャレとなる。
たとえば会社で使う、自分専用の文具がコムサ・デ・モードであれば、なんとなくオシャレだと周囲に思われる。
デパートの地下で弁当を買うのであれば、コムサの小分けされたスタイリッシュなお弁当の方が格好いい。

個別コンセプトに支えられているブランドが、このように個別コンセプト中心のブランドを展開すると、成功する可能性は高い。

サービスが上手く機能しない状況に陥ったら、ブランド展開の前提に間違いがないかを見直す必要がある。
見直すポイントは2つある。
ひとつは、基本コンセプトのブランドが基本コンセプトに沿って展開しているかどうか。
個別コンセプトのブランドが個別コンセプトに沿って展開しているかどうかというポイント。

もうひとつは、ブランドを中心に展開するのではなく、サービスやサービスを扱ってきた経験、コンセプトを中心に展開していないか、ということである。
この場合はブランド中心の展開にスイッチする。

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ブランドとコンセプトのズレを発見した場合は、上位・下位ではなく別ブランドとして再構築するか、撤退を考慮に入れる。
元々ダイエーグループがローソンを展開する際に、ダイエーのコンセプトもネーミングも、カラーも採用せず、独自ブランドとして展開したのと同じことを行う必要がある。

ブランドではなくサービスやサービス提供の経験によって展開してしまい、ブランドが低下していることに気がついたら、ブランドによる展開にスイッチする。
提供するサービスがブランドを維持し強めるのに役立っているか、ブランド展開のルールに適っているかを確認し調整する。

上位・下位ブランドの構築、展開によってサービスが上手く機能していないとき、またはこれから別ブランドを展開する場合、これらのルールがサービスを上手く機能させることに役立つ。

前話: 01.コンセプト反映の手抜き対策
次話: 03.新しいサービスの取り入れ対策

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01.コンセプト反映の手抜き対策

ブランドが弱まったり崩れたりすると、サービスは上手く機能しなくなる。
かつて理解が一致していたものが、現在はお客の疑問によって崩れている場合、速やかにブランドを維持し継続する手を打つ必要がある。
対策としては4つある。

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これまで提供者と利用者の間で理解が一致していたものが、突然不一致に変化するとき、その原因はほぼ100%サービス提供者側にある。
そして、その大部分がこの「コンセプト反映の手抜き」に原因がある。

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コンセプトの反映不備は、サービス展開時の、ハードと基本サービスに対してよく起こる。
または基本サービス提供に関わる接客に対して起こる。

ハードへの反映不備は多店舗展開を行う場合、つまり規模を広げる量の展開のときによく起こる。
立地が考えられ、内装はカラーから小物まで統一したとしても、場の持つ雰囲気や空気がどうしても一致しないことがある。
ハードが土地の文化になじまない場合もある。

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内装の基調となるカラーや使用する家具などが統一されていても、入り口から見渡す角度や、光の量、窓の大きさと数、景色の差などでハードが維持されないことがある。
このような微妙な誤差はサービスに影響を与えはするが、対策も意外に簡単に行うことができる。
ハードの設計は、微妙な誤差によって左右されないようにあらかじめ計画するか、左右されてもブランドに響かないように構築すれば問題は生じない。

たとえば、アジア料理、日本食、イタリアンなどを展開するグローバルダイニングでは、各店舗のハード、特に内装は床から天井まですべて統一されている。
基本的に光や窓の大きさに左右されない内装、つまり完全な隔離空間としてのハードを作っている。
屋外で飲食が可能な店舗や、レインボーブリッジを見渡せる窓のある店舗もあるけども、ほとんどの席は隔絶された空間によって、外界から完全にシャットアウトされることで統一感と雰囲気を保っている。

これとは別に、予算の問題や施工業者の変更などでこれまでよりも劣るハードを作ってしまうケースや、マーケットの問題などでこれまでよりも小さな(あるいは大きな)店舗展開を行うことでブランドが崩れることがある。

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予算や施工業者の問題は、サービス提供者の明らかな不備だといえる。
問題がはっきりしているだけに、対策も単純で難しくない。
これまでのブランドを維持できない状態での展開を行わないようにする。
既に展開してしまっているのなら、撤退するか予算を次いでハードの改善を行う。
撤退の方がブランド維持に速効性がある。
ブランドの崩壊の度合いが低いか、持ちこたえられる範囲であればハードの改善によって対応することも可能になる。

ハードの規模によってブランドが崩れるのは、サービス提供者のブランド認識が甘い証拠である。
より正確に表現すると、

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ことの表れに他ならない。

ブランドはコンセプトを正しく反映するだけでは維持されない。
コンセプトの反映が、お客の理解と一致しなくてはならない。

お客にはサービスに対してイメージする、規模の下限と上限がある。
たとえば、味にこだわりのある行列のできるラーメン店が、大学の学食のように広い大型店舗を展開するとブランドが維持されなくなる。
内装が同じでも、規模が大きすぎることでブランドの信頼性が保たれなくなってしまう。

展開を行うとき、コンセプトはブランドに沿って完璧に反映される必要がある。
事業をはじめたときや、小規模のときのように、ただハードにこだわりを落とし込むだけでは、もはやブランドは維持されず、サービスが機能しなくなる危険性がある。

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ハードの場合と同じように、味にこだわりのあるラーメン店が多店舗展開を行う場合、味が同じではないという評判を耳にすることがある。

1号店は行列ができているのに、2号店は空席が目立つということが実際に起こり得る。
ハードが完璧なら、原因は基本サービスにある。

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たとえば、ラーメンの味の大半はスープで決まる。
スープの味を本店と同じように保つためには、同じ素材を使い、同じ調理方法を行い、天気によって変化させる方法も同じでなくてはならない。
そしてその方法は、それを行う料理人の修行によって感覚で習得すると共に、しくみ化されている必要がある。
しくみ化されず、されてもマニュアルを嫌うサービスでは統一したサービスの提供が難しいために、サービスが破綻する。

しかしこれよりもはるかに重要なことがある。
実は味(基本サービス)が同じであるかどうかは利用者にとって重要ではないということである。
素材も調理手順も完全に同じで、最終的な味が完璧に統一されていたとしても、利用者がなんとなく「統一されていない」と感じるのであればブランドの低下に直接結びつく。
提供者がいくら「同じ」を主張しても、そして実際に同じであっても、この流れを止めることはできない。
ハードが統一されているのであれば、その原因は基本サービスを提供する接客にある。

基本サービスであるラーメンとその味が同じであるのに、お客理解が一致しないのは、接客者の態度、人数、手際、ベテランと新人の割合比率、しくみを遵守しているか、いないかなどに左右される。

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1号店では元気な店員が多く、2号店ではクールな店員が多ければ、お客は同じサービスを受けている気分にならない。
そして1号店と2号店のどちらのサービスを支持するかというと、1号店を支持することになる。
1号店の接客を支持するのではなく、サービスを支持する。

なぜなら、1号店のブランドがあるからこそ2号店のサービスを受けようと考えるのであって、その逆ではないからである。
接客ではなくサービスを支持するというのは、お客にとって接客は感覚で、どちらの店で同じ強さの満足があると、その原因を基本サービスにあると考えるからである。

ブランドはまず、ハードと接客者から得られる感覚的な情報によって作られる。
ハードが同じで、接客に違いがありながら不快感はないとき、お客は不整合の理由を基本サービスに求める。

衣服やカバンを扱うサービスなど、基本サービスとなる商品が明らかに同じでもでも、種類が少ない(実際に少なくなくても)、ラインナップがバラバラ(実際にそうでなくても)ということに、質の低下の理由を見つけようとする。
つまり、

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よってラーメン店の場合では、「味が落ちた」という評価されるようになる。

ただし実際に接客の質が劣る場合は、お客はその原因を正しく接客に見出す。
こうしてブランドが崩れはじめるが、それというのも、もともとの原因はサービス提供者のトータルサービスに対するコンセプト反映の不備による。
ハードの場合と同じく、ブランド理解を組み込んでコンセプトを反映することで、このような事態は避けることができる。

前話: 第13章 05.人事としての接客者の変更
次話: 02.上位・下位ブランドの対策

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05.人事としての接客者の変更

接客者のレベルと配置はこれまでに書いた4段階、第1に正確にサービスを提供できる段階、第2にマイナスを挽回することができる段階、第3にサービスの枠を超えることができる段階、第4にサービスの提供を断ることのできる段階の、第1から第4のレベルに応じて配置する。

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接客のレベルが高い、または適切であるのにサービスが上手く機能しなくなるのは、レベルに応じた人事配置に間違いがあるか、これらの条件を満たさない人を接客者として配置していると考えられる。

新しい接客者が仕事を行うとき、コンセプトを理解し説明でき、サービスの提供をルール通りに行うことが求められる。
正確でない接客を改善修正し、正しくサービスを提供できる必要がある。
サービスのコンセプトに沿って自分の役割と仕事を正確に理解して、実行することができない接客者は、他業務に異動させる必要がある。
少なくとも見習い期間を終了することはできない。

また、このレベルにある接客者が、クレーム対応やサービスの枠を超えた接客を行ってはならない。
利用者の多くは接客によってサービスを評価する。
その判断が正しいかどうかは別として、適切でない接客対応はサービス利用停止の原因となる。
だから、接客者がサービスを正しく提供できないことを放置したままにすると、気がついたときにはサービスが上手く機能しなくなっている。

第1のレベルをクリアしたら、クレームを含む問題と機会に、正しく対処、対応できるようになる必要がある。
対処とはサービス全体を俯瞰して

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であり、対応とは目の前の機会と人に対して解決策を示し、

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のことである。

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対処により長けている人材は教育係、しくみの改善ミーティングの参加、マニュアルの作成など社内機能に向く。
対応をより得意とする者は、第一線のベテラン接客者の素質があり、サービスの枠を超えた接客を行うこと、ブランドを構築するための接客を行うことなど、接客者としての素質を高めることと、現場で活躍する社外機能に向く。
両方ができる者はマネージャーや管理職の可能性があり、両方ともできない者は現場の接客者の中でも、最も基本的な作業を行わせるだけにとどめるか、他部署に異動させる。

正しくサービスを理解、提供でき、かつ問題に対処、対応できる者は、サービスの枠を超えた接客を行いはじめる。
そのための行動は、現場で修正がききやすく、ルールに則ったものから行う。
マニュアル化できないことは多いが、できるものからしくみに落とし、できないものは経験を蓄積する。

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サービスの枠を超えた接客には、基本サービスの不備の解消、はじめての利用者へのサービス、特別利用者への対応の3つがある。
それぞれの習得の順番は各サービスによって変わるけれども、習得していないスキルに対して、それを必要とする役割と仕事は与えない。

また、この段階でマネージャーなどのマネジメントに就任させてもならない。
マネジメントにはマネジメントの能力と責任が求められる。
このレベルの接客者は、接客レベルは熟練レベルにあるものの、マネジメントの能力が高いというわけではない。
マネジメントに求められる責任を果たすことができるとは限らない。

ここまでの3つの条件をクリアする人材は、接客者としても特に現場のエキスパートか、教育者に向く。
「サービス提供を断る作業」はいずれにしても、これまでのレベルをクリアした者でなくては行うことができず、行わせてもならならない。

そして、サービス提供を断る作業ができる全ての接客者は、しくみの改善に携わるようにする。
しくみの改善は接客者の現場の経験がベースになり、接客のエキスパートとして現場の経験の何を、サービスの条件に取り入れなくてはならないか理解している必要があるからである。
逆に考えると、このレベル4の接客者以外の接客者をしくみの改善に参加させるには、スキル的にもサービスの理解的にも不十分だということになる。

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接客によって改善されるしくみが、不十分なスキルと理解の接客者によって決定されているのであれば、即座に見直す。
これとは別に、しくみの改善に接客者が参加せず、マネジメントだけで決定されることがある。
接客者だけの決定が現場志向に偏るように、マネジメントだけの視点はサービス志向、または商売志向に偏る。
両方の参加が必要であることを前提に、しくみの改善を行う。

サービスがうまく機能しない場合の接客人事の改善は、これらの条件をベースとし、それぞれのレベルで不適正な人材をまず適正な位置にポジショニングすることからはじめる。
つまり能力に合った役割と仕事を与えることから再構築し、年齢や経験年数ベースなどの配置を見直す。
見直しは、サービスを断る作業、サービスの枠を超える作業、問題の解決、正しいサービスの提供(レベル4からレベル1へ)という順で行う。
つまり、接客者の中でも上級の者やマネージャークラスから適切なポジションに再配置する。
理由は3つある。

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第1に、重要な仕事に不適切な人材が就いている場合の方が、サービスを上手く機能させなくなる可能性が大きいこと。
同時に、これまで低く評価されていた人材を、上の適切な位置にポジショニングすることで、サービス機能を速く取り戻すことができること。

第2に、重要なポジションは人員が限られており、結果を早く得ることができること。

第3に、サービスが上手く機能しない原因は高いポジションのマネジメントに不備があることが考えられ、適切な人員を配置することで指揮系統を再構築するため。

これらの条件によって、サービスを断る作業やサービスの枠を超える作業の人員再構築が完了したら、その下のポジションの人員と役割を変更する前に、接客教育者としくみの改善に参加する人材の選定を先に見直す。
この3つのポジション(マネージャー、教育者、しくみの改善参加者)を変更することで、接客に関わるサービスの人事は半分が終了する。

接客教育は各レベルで定める。
必要があればトピックスごとに定める。
接客教育者は必ずしもベテランの教育者やマネージャー、管理職である必要はない。
むしろそれは望ましい状態ではなく、教育することに長けているという能力を持った人材を配置する。
外部の教育者は役に立たない。
オリジナルのコンセプトを持つサービスの接客教育は自分たちで行うしかない。

しくみの改善に携わるミーティングに参加する人員は、レベル4の中でも現場の状況と、サービスの理解が優れている者に決める。

このような条件とは別に、接客のどのポジションにおいても採用してはならない人物、というのが2種類ある。

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ひとつは、コミュニケーション力のない、または低い人材を採用しないこと。
もうひとつは、ルールを守ることのできない人材を採用しないことである。

これらは人材配置以前の問題であって、現在このような人材を配置していることでサービスの機能に狂いが生じているのであれば、取り急ぎ接客の仕事をはずし、全く別の他の仕事に異動させることで対応する。
これは基本中の基本である。
この条件を満たさずに他の条件を満たしたとしても、接客によって影響されたサービスの機能は回復しないか、回復に大きな時間がかかる。
回復しないこともある。
少なくとも、大きな回復は期待できない。

人事の改善は、これまでの人間関係のしがらみに影響を与え、サービスの質を完全に変更することになる。
接客が変わればお客の感じ方が変わる。
たとえ良い改善であっても、お客に混乱が起こる。

しかしそれでもサービスが既に上手く機能していないのであれば、改善は直ちに実行しなくてはならない。
適切でない人材が、適切でないポジションに居座り続ける方がリスクは高い。

変化は必ず混乱を呼ぶ。
時に反発が起こる。
しかし変化しなければならない実態、サービスがうまく機能しない状態が既にあるのであれば、改善を避けることはできない。

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改善はサービスが上手く機能しないまま徐々に改善するか、ショックを伴いながらも一気に改善する方法がある。
どちらの場合も、多かれ少なかれ必ず混乱する。同じ混乱が起きるのであればコンセプトに沿った正しい状態を一気に取り戻すようにする。
痛みを伴うのであれば、痛みを分割しない。
間違った人員配置で、間違った仕事を行っている人材の気持ちに遠慮をして、徐々にできるところから変更するという方法は、いたずらに混乱を長引かせる。
接客者にもお客にも不安を長引かせることになる。
そして結局、サービスの不備が解決されないまま完結しなくなってしまう。

正しいことを正しく行い、正しいサービスを取り戻す正しい方法が明確なのであれば、改善は一気に行わなくてはならない。

前話: 04.サービスの提供を断る作業
次話: 第14章 01.コンセプト反映の手抜き対策

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04.サービスの提供を断る作業

サービスの提供を断るべきであるのに、断らないことによってサービスが上手く機能しなくなることがある。

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しくみの設定や改善で、提供しないサービスが何であるかが明確に定まったら、これを実行しなくてはならない。
コンセプトに沿っていても(沿っているからこそ)提供しないと決めたサービスは「提供しない」とサービス利用者に伝える必要がある。
大々的に公開して伝えるか、問い合わせがあった場合にのみ伝えるかは、提供するサービスの内容によって変わる。

いずれの場合であっても、サービス提供を断る作業を行うことができるのは、これまでに見てきた接客の3つのプロセス(正しくサービスを提供することができ、問題に機会対応でき、サービスの枠を正しく超えること)ができる熟練者が行う。
このレベルの熟練者でなくては、サービスが提供されないことにお客は納得できず、納得できないために全てのサービス利用を止める可能性がある。

提供しないサービスを提供しないと伝えるとき、熟練者は提供するサービスを守る目的と共に、その提供しないサービスがお客の効用と一致するかどうかを考えるようにする。
お客が望んでいる(提供しない)サービスがお客の得たい結果と一致しない場合は、お客の希望が間違っていることを伝え、通常のサービスを利用してもらうことを勧めなくてはならない。
逆に、(提供しない)サービスとお客の効用が一致している場合は、サービス提供できないことを伝えた上で、そのお客が効用の一致するサービスをどのようにして手に入れることができるかという情報を提供する必要がある。

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提供された情報は、次に同じケースがあった場合に備えてしくみに反映する。
また、効用が一致しないお客が問い合わせをしてきたり足を運んできたりするということは、集客手段に問題がある可能性がある。
セールス部門、マーケティング部門に対して、確保するべきマーケットの微妙なブレを修正してもらうよう働きかけを行う。
そうしなくては、接客は効用の一致しないお客の対応に追われ、基本サービスの提供がおろそかになることでサービスが上手く機能しなくなってしまう。

サービスの基本は提供すると決めたものを提供することにある。
しかし現場では、提供すると決めてはいないが、提供しないとも決めていないものの提供を求められることがある。
この場合は、現場の判断によって提供する場合としない場合を決める。

提供するのは、サービスの枠を超えて提供していい条件に当てはまる場合である。
つまり、基本サービス提供の不備を取り戻すとき、初めてサービスを受ける人に対応する場合、特別利用者に対してサービスを提供する場合の3つのケースがある。

それ以外の場合は、サービス提供を断る。
少なくとも保留にする。
提供できるとしても、基本サービスに及ぼす影響が読めないからである。

この場合も、利用者がどのようにすれば必要とするサービスを手に入れることができるか、情報提供で協力する。
サービスを提供できないことでわざわざ気分を害してはならないが、気分を害さないことが目的になってもならない。
対策はしくみに頼り、接客任せになってはならない。

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たとえば高級ホテルの中には、満室の日にお客が訪れた場合、他のホテルの予約を行い、タクシー代を支払うという対応を行うところがある。
これは何もフロントの接客が良いのではない。
ホテルとしてのしくみがしっかりしているのである。
宿泊という基本サービスを提供することができない場合に、サービス提供を断りながら、利用者の効用を満たす情報を提供する方法である。

前話: 03.サービスの枠を超える作業
次話: 05.人事としての接客者の変更

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03.サービスの枠を超える作業

基本的なサービスを正しく理解してそれを提供できるようになり、問題に対して正確に対応できるようになったら、サービスの枠を超える接客を行う。

それはルールやマニュアルに反した行為で、本来の正しいサービス提供ではない物事である。
しかし、行わなくてはならないケースが3つある。

基本サービス提供の不備を取り戻すとき。
初めてサービスを受ける人に対応する場合。
特別利用者に対してサービスを提供する場合の3つのケースで、接客者はサービスの枠を超える。

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基本サービスが、何らかの理由で不適切に提供された場合。
それはサービスがうまく機能しなかったと言える。
その不備を取り戻すため、接客がサービスの枠を超えることがある。

たとえば飲食店で注文したものとは異なる料理が提供され、作り直しに時間がかかったとする。
サービスは提供されたが、最初から正しく提供されたとはいえない。
このような場合に接客者が、デザートを無料で提供するとする。

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デザートの無料提供は、決まったものを提供するというサービスの原則から考えると正しくない。
約束していないものを提供することにもなってしまう。
他の利用者から見ると、サービス提供上の差別に映る場合もある。

しかし、接客は正しくサービスが提供されなかったことの埋め合わせとして、サービスの枠を超えデザートを無料で提供する場合がある。

サービスの不備に対する埋め合わせを行うことで、生まれたミスが問題になる前に対応するのがこのケースである。
言うまでもなく、このようなケースは起こらないに越したことはない。

しかし起こってしまったら、より大きな問題の発生を防ぐためにサービスの枠を越えなくてはならない。
こうして不備を取り戻さなければ、基本サービスの提供が滞り、サービスに対するお客の信頼が下がり、結果としてサービスが上手く機能しなくなることがある。

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ただし接客者は、このような方法を行うことがサービスの約束や公平性に反していることを理解しておく必要がある。
問題を回避できたことを成功例としてはならない。
まして、マニュアルに記載することで、ルール化してはならない。

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はじめてサービスを受ける人は、サービスも商品も、接客者のことも、そしておそらくサービス提供者についても詳しくない。
彼らはサービス利用以前の問題として、不安を抱えている。
不安は取り除かれなければならない。

そうでなければ本当はサービス提供を必要としているのに、不安のためにサービス提供を諦めるかもしれない。
または不安を抱えたまま利用するサービスは、正しく提供されたとしてもお客の効用を満たさないかもしれない。
安心してサービスを受けることができるように、接客によって対応する必要がある。

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たとえば、レーシックという技術で視力を回復させたいと考えている人がいる。
しかし、目にレーザー光を照射するということに不安を覚えている人もいる。
その不安はサービスの利用を諦める原因になる。

このようなはじめての利用者に対して、説明会を行い、機具を見せ説明し、実例を紹介し、病院のクリーンさとドクターの人間性を紹介することは、最初のサービス利用者にだけ提供される。
提供の際に、接客者は様々な質問に答え、安心してもらうためにマニュアルでは決まっていない行動を行うことがある。
視力の回復という基本サービスはまだ提供されていないものの、トータルサービスの一環として初回の利用者だけにこのような接客が提供される。

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英会話スクールなど、習い事の体験レッスンも初回の利用者に提供される。
習い事をはじめる不安を解消するために、接客者は実際のサービス提供時には行わないフォローを行うことや、悩みを聞くことがあるかもしれない。
はじめてのサービスを受ける人にのみ、サービスの枠を超えて接客が特別な対応を行うことがある。
その目的は不安の解消と安心してもらうことにある。

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特別利用者、つまり常連や高頻度利用者に対しては、接客がしくみの枠を超えて対応しなくてはならない。
対応する場合があるのではなく、対応しなくてはならない。

理由は2つある。

ひとつは、特別利用者は基本サービスプラス良質な接客が、イコール彼らにとっての基本サービスになっているという現実である。
もはやマニュアル通りの正しいサービス提供と、それを行うことができるレベルの接客者対応では、正確にサービスを提供することができない。
通常レベル以上の対応を提供することで、サービスの継続利用を停止することを避ける。
これによって、サービスが機能しなくなることを防ぐ。

もうひとつの理由は、他の一般利用者に正しくサービスを提供するためである。
常連や高頻度利用者が存在するというだけで、その他の利用者にとっては、疎外感や村八分感を感じることがある。
サービス利用時に居心地の悪さ感じる。
疎外感や居心地の悪さは、サービス利用の拒絶につながる。
接客者が特別利用者をそれとなく別室に案内したりするのは、何も特別利用者のためだけではなく、一般利用者の心理的不安を取り除き、彼らを守るためでもある。
不公平とされることを効果的に実行することで、逆に利用者とサービス利用を守り、サービスが機能しなくなることを防ぐ。

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これらサービスの枠を超える作業は全て、コンセプトに適い、広い意味で基本サービスを守るために行われる。
逆に、接客がサービスの枠を超えていけない場合が3つある。

 クレーム対応で行ってはならない。
 全く別の事情で困っている人を助けるという理由で行ってはならない。
 顧客満足のために行ってはならない。

クレーム対応は基本的にしくみの対処と、接客の対応で解決する。
サービスの枠を超えなければクレームを解決できないということは、しくみと接客が完璧ではないということである。

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サービスではない別の事情で困っている人を助けるのは、助けるのにふさわしい人に任せなくてはならない。
その人を助けることによって、提供されるべきサービスが滞ってしまってはならない。
助けるのにふさわしい人やサービス提供者を伝える努力によって対応するようにする。

顧客満足については既に示したとおり、画一的で統一的な基本サービスを公平に提供するために避ける。
接客者によって提供するサービスに不統一感が生じることを防ぐためである。

前話: 02.マイナスを挽回する作業
次話: 04.サービスの提供を断る作業

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02.マイナスを挽回する作業

マイナスとは、基本サービスの提供に対して阻害となるマイナスのことである。
このマイナスをもたらす最も大きなものがクレームで、そのクレームに対してしくみの改善では「問題対処」する。

接客でのクレームに対する考え方は「機会対応」となる。
と同時に、接客はしくみを実行することでもあるので、しくみの実行として「問題対処」も行う。
機会対応は社外対応で、問題対処は社内対応(改善)でもある。

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社外対応というのは一般的に考えられているクレーム対応であり、CSのことを指す。
接客者は、問題を抱えているサービス利用者に対して全力で「対応」する。
その目的は利用者の「不備の解消」であり、同時に「感情の解消」を行うことにある。
不満足を解消することにはない。
謝罪を行うことでもない。

まずサービス提供の遅れなど、基本サービスを滞りなく提供することでサービス上の不備を解消し、それだけでは補うことのできない利用者の感情的な高ぶりをコミュニケーション、料金対応、追加サービス、謝罪などを使って解消する。
コミュニケーション、謝罪は接客者が直接提供するもので、料金割引や値引き、無料、チケットなどの追加サービスはしくみで決まっていることを接客者が間接的に提供する。

いずれの場合も、どのようなケースに対してどのように対応するかは、しくみによって決められる。

接客者によるクレーム対応は、機会対応である。
起こったクレームを問題として捉えるのではなく、機会として捉え、チャンスを生かすことに対して目的を持つ。
従って対応の前提は

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であり、ネガティブベースではない。

ネガティブベースというのは、「問題が長引くと気分が悪くなるし、他の仕事が遅れるので早めに終わらせるためにとにかく謝罪する」とするような前提のことである。
クレーム対応に対する前提がネガティブであり、その前提を解消するために謝罪などの接客対応を行うとサービスは上手く機能しなくなる。
なぜなら利用者は、その場の問題をこれ以上長引かせる意味を見出せなくなることで話を切り上げはするものの、サービスの信頼が回復されないままにクレームが終了するからである。

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一方でポジティブな前提の全てが良いというわけではない。
一部のポジティブ思考は、ネガティブな前提とは別の理由でサービスをダメにする。
たとえばクレームを機会として、お客と密接な関係を築くコミュニケーションを取る方法が接客者全体に浸透すると、そのサービスは「クレームを出せば、上手く行ってくれるサービス」になる。
このようなサービスは正しいと信じる行動を行うほど、ある日突然わけもわからずに上手く機能しなくなる。

ポジティブな前提とは、利用者に対して「サービスの信頼を確認してもらう機会」のことを指す。

「サービスの提供はひとつでもミスをすると0%であり、完璧に行って当たり前である。だから0%か100%しかない」などと言われることがある。
しかし実際にはミスのないサービスなど存在しない。
人が行い、人に対して行う以上、サービスとミスを切り離して考えることはできない。
このような考え方は現実的ではない。

サービス上のミスをポジティブな前提として捉えることのできる唯一の考え方は、お客が

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という一点にある。
なぜなら、サービスにミスが起こらず滞りなく提供されているのであれば、利用者は提供者の信頼を確認する必要がないからである。

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信頼を確認しなくていい状態というのは好ましい状態といえる。
疑わずに相手を信じることができる関係であることを証明している。
しかし同時に、今信じている以上の信頼性が相手にあるかどうかを知る必要はない、という状態でもある。

クレームは、利用者に対して「今まで知らなかったけども、知っていた以上の信頼性に気がつくことができた」という気づきを与える、数少ない2つの機会の1つである。
(もう1つはブランド理解を深めるとき。利用者がまだ知らないコンセプトを伝えることで新たな信頼性を知ってもらうことができる)

よって接客者のクレーム対応は、サービスの信頼性を高める目的で行われる。
利用者の感情解消はプロセスに組み込まれることがあっても、それを目的とするわけではない。
万が一サービスの信頼性と利用者の感情解消が一致せず反目するとき、サービス提供者と接客者はサービスの信頼を上位に置く。
そうしなければ、適切にサービス提供を行い、そのサービスを支持してくれている利用者に対して裏切り行為となるからである。

このような信頼に基づいたクレーム対応を行う接客者に支えられたサービスでは、単なる誹謗中傷や営業妨害などの悪質なクレームを発信する利用者が減り、高頻度利用者による良質なクレームが増える傾向にある。

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良質なクレームとは、サービス利用者を理解し信頼しているからこそ、自らもその立場に立つことで「もっとこうしたほうがいいのではないか?」というような提案を行うことや、「言いにくいけど、ここは悪いと思う」などの好意的な指摘を行うことである。
そのクレームは、人がクレームと聞いてイメージするような苦々しいものではなく、お客が欲求をぶつけるものではなく、まるで親しい友人同士が遠慮がちに、しかしはっきりと相手のことを思って発言するようなものである。
この信頼に基づくクレーム対応から、2つのことがわかる。

ひとつは、クレーム対応はその数を減らすためにあるのではなく、悪質なものを良質なものに変えるためにあるということ。
もう少し正確に表現すると、

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もうひとつは、誹謗中傷などのクレームが少なく高評価されることが多いサービスであっても、このような

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ということ。
利用者の信頼がまだ弱いと捉え、改善の余地があるということである。

良質のクレームが発生した場合、必ずしもその意見や提案を取り入れる必要はないが、慎重に検討する必要はある。
慎重に検討する行為そのものが重要になる。
なぜならクレームの機会とは、「信頼性の確認作業」の次に、第2の機会としての「良質のクレームをもらう」目的があるからである。

慎重に検討するというのは、「良質のクレーム」をもらい続けるために必要な前提条件になる。
言っても検討もされなければ、人は口をつぐんでしまう。
この第2の機会は、第1の機会をクリアしてはじめてもたらされる。

第1の機会である信頼性の確認に対して、対応手順の基本作業を見ておこう。
クレーム対応のスキルに関しては様々な本も出ており、各接客業のエキスパートがセミナーなどを開いているので、ここでは対応がはじまり終了するまでの3つの流れだけを追う。
宣言をする、感情を聞く、対策示す、の3つである。

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クレームや問題の多くは、個人の感情や気分による。
サービスを不満足だと感じる感情や気分は、各個人のこれまでの経験によって得られたサービスの、感覚的な知識レベルを満たしているかどうかによる。
つまり過去に同じようなサービス、他のサービスで経験した気分を下回る場合にクレームにつながる。

その他のクレームは、サービスを良く理解している人が不備を指摘する場合か、接客の仕事に就いている人が、相手のコミュニケーション力の低さに立腹する場合などが考えられる。
あるいは純粋な勘違いという場合もある。

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いずれの場合にしても、クレームの大半は個人の感情をベースに発生する。
なぜなら同じ方法で同じものを提供しても、それを問題視する人としない人が出るからである。
提供に問題があるというよりは、捉え方の気分の問題と考えた方が現実的である。

感情や気分によって出されるクレームに対し、接客者はまず宣言を行う。
接客によるクレーム対応のスタートラインになる。

宣言とはつまり、「私は今からあなたに100%時間を使い、解決するまで協力します」という姿勢のことである。
どのように宣言するかは、業種や相手の状態によって変わる。
さりげなく知ってもらう場合もあれば、大げさに宣言する場合もある。

不満を抱えている人は、正面を向いて対応されないと感じたときに不満を増大させ、爆発させる。まずそれを避けるためのライン引きを行う。
これまではサービスに不備があったけれども、今からはそういうことは起こらないというラインを引く。
言い方を換えれば、今のあなたの怒りが最高値であるというラインであって、これからは良い状態になると示すことでもある。

この宣言は、これ以上リスクを広げない方法であると同時に、「今からは、これまであなたが知り得なかった私達の信頼性を知ってもらう機会です」という宣言も兼ねる。
問題対処としてラインを引くのではなく、クレームの対応の目的である

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多くのクレーム対応はしくみが弱いことなどもあり、現場で謝罪することで状況を切り抜けるという方法が取られがちである。
そのような場合の前提は機会志向ではなく問題志向で、対応ではなく対処になる。
それでは信頼性は必ず損なわれ、お客はそのサービスを必要としているにもかかわらず、サービス利用を停止する。
お客の満足、不満足の問題ではなく、サービスが上手く機能しなくなる条件のひとつになるということである。

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宣言によってひとまずの信頼を得ると、次に話を聞く。
自分が言いたいことを言ってはならない。
解決しようとしてもならない。

物事の「不備」と共に、どのような「気持ち」になったかの話を聞く。
それを促す質問は行ってもいい。
相手が十分に話したと判断できるまで聞く。
主体は利用者であって接客者ではない。

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話を聞く間、謝罪してもならない。
提供者に明らかな非がある場合、先に謝罪をすることはある。
これは「宣言」であって、話を聞く際には行わない。
宣言でラインを引いた後に行うべきことは、信頼性を確認してもらうことであって、謝罪することで気分を持ち直してもらうことではない。
また前後関係と相手の話を聞き終えるまでは、本当に心から謝罪を行うことははできない。
だからこの段階で謝罪は行わない。

話を聞くというのは事実の理論的な流れと共に、またはそれ以上に、相手の気分と感情を聞くことである。
コミュニケーションスキルとして、あいづち、気持ちに対する同意などを行うこともある。
相手の立場に立ち、気持ちを感じながらも、接客者としてサービス提供者側の立場も守る。
よって対策や言い分に対し、この時点では賛同も否定もしない。
単に終止話を聞く段階である。

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最後に、利用者の感情に一致する接客者の感情を伝え、対策を示す。

感情の一致というのは、人として相手の立場に立ったときに、自分も同じような気持ちになることである。
どちらが正しい、正しくないにかかわらず、1人の人間として賛同できる気持ちの部分を相手に伝える。
伝える内容はあくまで「同意できる気持ち」であって、対策やしくみ、サービスに関することではない。
目的は共感にある。

ただし共感できそうな部分に話を合わせてはいけない。
次の「対策」を有利に運ぶ感情に共感し、不利な感情を無視してもならない。
要するに計算で共感を行わない。

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ただ純粋に「同意できる気持ち」を表現する。
人に共感することのできない接客者は、このレベルの接客を行うことはできないともいえる。
一定の効果を狙うために共感するのではなく、個人として同じ気持ちになるところを伝える。

対策を示す際に行うべきことは、できることとできないことをはっきりとさせることである。
そして、できることはなるべく利用者の感情解消と結びついているものから話し、できないことは利用者の感情に影響しないことから話す。
できることとできないことがある場合、できることから話す。

利用者の感情解消に結びつかず、しかしサービス上できないことがある場合は、その事実を伝えると共に謝罪を行うか、再検討のために時間をもらう。
どのような方法を取るかは、どの方法がサービスの信頼を保つかによって異なる。
ただし仮に信頼を失うとしても、コンセプトに反する方法は行わないようにする。

これとは別に、対策に対する利用者の理解が得られた一致ポイントは、その効用を確認し合う。
効用の確認はどのようなクレーム対応の場合も必ず行う。
仮に上手く一致ポイントを見つけられなくても、効用の確認作業はこれまでのサービスの信頼性が失われていないことに気がついてもらうことができる。
一致ポイントの効用を説明することができれば、これまでに知り得なかった信頼性を確認してもらえる機会を持つこともできる。

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こうして初回の対応が終わった後、改善や対応の進捗状況と結果の説明を、それが完璧に終了するまで利用者に報告し続ける。
この作業を省いて、サービスの信頼は保たれない。

これら3つの流れが、クレーム対応の王道である。
機会対応の前提を持ち、この3つの手順を踏むことで信頼性を再確認してもらう。

この手順を踏んでも、前提が問題対処であればサービスが上手く機能しなくなる原因が残る。
お客が問題を抱えたままサービス提供を受け、クレームを発信し続け、接客者はその問題にいつまでも対応し続けなくてはならなくなるからである。

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顧客満足の場合と同様、接客の仕事には商売の役割がある。
セールスとしての役割を中心に接客を行った場合、サービスが上手く機能しなくなることがある。

人がサービス提供を望んだときに、正しいサービスの提供よりも売り上げや契約数、セールストークなどを優先する接客者は、正しくサービス提供を行うことができない。
セールスにもその仕事の成果を出すレベルがあるが、そのレベルの低い、特に押し売りとぺこぺこ、自己主張の、3つのケースの場合は、サービス提供前にサービス利用を断念させる原因になる。

売るということは、必ずしも提供するサービスの内容の良し悪しに関わりを持たない。
担当が気に入った、他のサービスを知らず今さら知る気もない、押しの強さに断り切れなかった、上手く乗せられて、などの理由で販売することは可能である。
または、会員専用のお得な割引券やスタンプカードがあるから買い続けるという人もいる。

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しかしこれらの方法のどの場合も、基本サービスを提供するということに関わりがないことがわかる。
基本サービス提供以前に、販売によって物事が完結していることがわかる。
基本サービスを支持しているかどうかは重要視されていないことが明らかである。

商売上は顧客離れが起きず、収益を上げることが一定の成果になる。
顧客が満足を感じ続け、売れ続ければ成功となる。

しかしサービスは、提供すると決めたものを提供し続けることに目的がある。
接客者が商売の考え方によって販売で完結する行動を取ると、サービスを正しく提供しているにもかかわらず利用者はサービスに対して不信を抱くようになる。

商売主体の接客を改善する場合は、しくみに定める。
接客者の役割と仕事の、サービスと商売のバランスを明確に決める。
サービスが上手く機能していないということは、このバランスが悪い可能性があり、比重を変えることで対応する。

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ただし、一度定着した現場の仕事の流れは簡単に変わらないため、改善したしくみに沿って仕事を行うことができるように工夫する必要が生まれる。
たとえばマネージャーの定期チェック、報告書の書式の改善、オピニオンリーダーの設定、定期ミーティング、期限付きのスキルの課題とチェックなど、提供するサービスと接客の状態に適した方法を取り入れて接客を改善する。

機会対応である社外対応を実行することができたら、問題対応である社内対応に移る。
社内機能、全体的なサービスの提供阻害の問題改善は、しくみに関することである。
本来、接客はしくみによってルール化されたことを実行する立場にあるけれども、同時に

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接客者は現場のクレーム経験をしくみ改善のために投げかけ、情報を提供する。

提供された情報は定期ミーティングで検討され、どのような形でしくみに取り入れるか、改善するのか、例外的なケースとして保留するのかなどを決める。
決定の基準は、それを改善することによって

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で決める。

ベテランの接客者は、その方法を取り入れることで利用者の信頼促進(少なくとも回復)がなされるかどうかだけではなく、全体のサービスがうまく機能するかを俯瞰しながらしくみ改善を検討する。
全体的なサービスが滞ると、そのサービスを必要とする全ての人、多くの人へのサービス提供が困難になってしまうからである。

サービス提供のための失われた時間を取り戻すために、客観的に事象を判断し、最も効果的な処理方法を取り入れるようにする。
しくみに取り入れられた改善は、統一したサービスとして接客者全体に浸透させる。
この接客者による改善作業によって、サービスが上手く機能しない状況が改善される。

前話: 01.接客の改善・正確なサービス提供
次話: 03.サービスの枠を超える作業

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01.接客の改善・正確なサービス提供

しくみの改善に着手したら、同時かそれ以降に接客の改善に入る。
接客の改善には5つの視点がある。

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第一に、正確にサービスを提供する作業。
第二に、マイナスを挽回する作業。
第三に、サービスの枠を超える作業。
第四に、サービスの提供を断る作業。
第五に、人事としての接客者の変更。

第一から第四までは接客者に必要とされる能力の順でもある。
接客が原因でサービスが上手く機能しない場合、それぞれの段階の接客者が、行ってはならない段階以上の仕事を行っていることがある。
あるいは第五の理由として、根本的に人材配置が間違っている場合がある。

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正確なサービスは、基本サービスを正しく提供することを指す。
そして、そのプロセスはしくみに沿って行われることを指す。
この2つはほぼ同時に行われる。

サービスの提供がうまくいかない場合に接客として改善できるのは、サービス提供のしくみに則ってサービスを提供しているかどうかについてである。
基本サービスに問題がある場合は、根本的にサービスを再定義しなくてはならなくなる。
この場合に接客(者)ができることはない。

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しくみは、最初に決めたものであるにしろ、改善したものであるにしろ、接客はそのルールを守って基本サービスを提供する。
接客者各個人の裁量や、良かれと思う方法でサービスを提供しない。
しくみのマニュアルを守らなくてはならない。
したがってしくみが改善されたとき、接客者に対して行うことはしくみの徹底と、ルールを守ることにある。

正確にサービスを提供するということは、正確でない提供方法を改善するということでもある。
いくらしくみを正確に実行しても、現場では接客に統一感を感じられないことが起こり得る。
各接客者が提供するサービスに差があると感じることがある。
接客が統一されない原因はしくみの不徹底にあるけれども、根本的な問題はそれとは別のところにある。

その原因は5つある。

ひとつ目はコンセプトに適った行動の不徹底であり、
ふたつ目は接客者としての役割が認知されていないこと。
みっつ目が顧客満足を基準にした接客を行っていること。
よっつ目は商売主体の接客を行うこと。
最後は「お客様は神様」などの誤ったサービス認知を基準にしていること。

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コンセプトに適った行動の不徹底というのは、接客者がサービスのコンセプトを理解しておらず、説明もできず、ハードや基本サービスを理解していないという前提のことである。

コンセプトを理解、説明できないということは、そのサービスがなぜ存在するかを理解していないということになる。
接客者がこの状態でお客に接すると、お客は少なからず不安を覚える。
この不安はそのまま信頼の欠落、サービス継続利用の停止につながる。
これによってサービスが上手く機能しなくなることがある。

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またコンセプトの無理解は、接客者自身のサービスに対する疑問や反感に結びつく。
反発の多くは正しい理解の欠如からはじまる。
具体的にはハードや基本サービスの批判を呼び起こす。
接客者が自分の提供するサービスを支持せずに反発するということは、そのような接客者を持つサービスをお客が信用しなくなるということである。
サービスが正しく提供されたとしても、お客は不安や不満足を抱えたままサービスを利用することになる。

接客者の無理解と反発という状態を見直し、改善することが接客改善の第一歩になる。
第一歩はスキルの改善ではない。
心持ちやモチベーションの改善である。
これが、接客が原因でサービスが上手く機能しなくなる場合のひとつ目である。

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コンセプトが理解されていないことと同じように、自分の仕事とその役割、意味を理解していないことによって、サービス提供が機能しなくなることがある。
自分の仕事の意味、意義がわからないままに仕事に取り組むと、仕事は早い段階でマンネリ化し場合によっては仕事内容に反発を覚え、モチベーションを下げる。
そのような接客者が扱うサービスは、利用者が支持しないことによって機能しなくなる。

仕事の内容や手順のスキルは、仕事を実行するために覚える必要がある。
しかしこれとは別に、サービスを提供する意味、仕事の意義、何のためにそれを行い、どのような成果を得ることを期待されているのかを理解するように改善する。

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3人のレンガ職人の有名な話がある。
レンガを積み上げている3人のレンガ職人に「あなたは何をしているのですか?」と問いかけたことに対して、ある1人は「レンガを積み上げている」と言い、2人目は「家族を養っている」と言い、3人目は「偉大な建築物を作っている」と言ったストーリーの、1人目の答えを避けなければならない。

レンガを積み上げるという作業には、何のためにレンガを積み上げるのかという意味も、自らの仕事の意義もそこには存在しない。
現在の接客がこの状態にあるかどうかを見直し、あるのであれば改善する。
2人目の答え「家族を養っている」は仕事の「意義」を表し、3人目の答え「偉大な建築物を作っている」は仕事の「意味」を表している。

一般的な自己啓発や成功法則では3人目の答えが重要だとする傾向が強いけれども、接客を構築するためには両方の答えを必要とする。
そして、両方の答えを持つ接客者の中でも、意義の要素がより強い接客者にはそれを活かせる仕事を、意味の要素がより強い接客者にも同じようにその答えを生かすことのできる仕事を与えるようにする。

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接客の仕事は、サービスの提供だけではない。
お客とサービスを一致させることが役割になる。
しかし、顧客満足は人間関係に関する役割であって、接客者の仕事としては必要だが、サービスの提供を考えるときは優先されるものではない。

一見、顧客満足を考えるサービス提供は正しく思える。
利用者には支持されるだろう。
しかし、利用者に支持されながら、サービスが機能しなくなることがある。

顧客満足は多くの場合、均一化できない。
つまり、画一的で統一的なサービス提供によって、全ての人に顧客満足を感じてもらうことは物理的に不可能であり、現実的ではない。
可能な場合があるとすれば、マーケティングの活躍により、提供するサービスに対して効用がぴったりと一致する利用者だけがサービスを利用する場合である。
しかし実際には、マーケティングがどんなに素晴らしい働きを行っても、この考え方は不可能である。

画一的なサービスを提供するということは、サービス提供上は決まりごとである。
お客の反応も、感謝から非難まで様々に分かれる。
このような顧客の全員に満足を提供するためには、多くのサービス本などが示すように、接客のコミュニケーションや人間的魅力によって満足度を上げなくてはならない。
つまり、顧客満足を中心に接客を行わなくてはならなくなる。
ところが、この方法は根本的に2つの大きな過ちを含む。

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ひとつは、サービスを正しく提供しているにもかかわらず、接客者が(顧客満足という)別の努力をしなければならないということは「サービス提供では十分ではない」という前提が作られるいうことである。

本来サービスは、提供すると決めたものを提供することで社会的に機能する。
それを完璧に提供しているにもかかわらず、別の努力を必要とするということは、結局前提としてのサービスに不備があるということになってしまう。
不備のあるサービスを利用者は利用しようとは思わなくなり、サービスへの信頼は損なわれる。

もうひとつは、接客努力の矛盾にある。
サービスが完全であればあるほど、効用が一致する利用者はサービスを利用することで高い満足感を感じる。
つまり接客者による努力などは特段必要としない。
逆に満足が十分でないのは、サービスの効用が合っていない人ということになる。
効用が合わないことで不満足を抱えている人に対して、より大きな接客の努力を必要とするということは、顧客満足のための努力、時間、コミュニケーションを、サービスを支持してくれる利用者には使わず、サービスを支持しない利用者に対してより一生懸命行うということになる。

このような状態になったとき、サービスを支持してくれている利用者が去る。
親しくすれば避けられ、不満足であればいい顔をされるサービスを支持する人はいない。
これが、接客が顧客満足を重視することによって上手く機能しなくなる場合のメカニズムである。

顧客満足中心の接客を見直す場合は、まずこのメカニズムを接客者が理解する必要がある。
そして、マネジメントとベテランの接客者によって、誰にサービスを提供するべきか、誰に満足してもらうべきかということを明らかにする。

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その方法はマニュアルに反映するよりはむしろ、定期ミーティングなどで確認し、ディスカッションし、経験を共有し更新し続けることで解決につながる。

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顧客満足の場合と同様、接客の仕事には商売の役割がある。
セールスとしての役割を中心に接客を行った場合、サービスが上手く機能しなくなることがある。

人がサービス提供を望んだときに、正しいサービスの提供よりも売り上げや契約数、セールストークなどを優先する接客者は、正しくサービス提供を行うことができない。
セールスにもその仕事の成果を出すレベルがあるが、そのレベルの低い、特に押し売りとぺこぺこ、自己主張の、3つのケースの場合は、サービス提供前にサービス利用を断念させる原因になる。

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売るということは、必ずしも提供するサービスの内容の良し悪しに関わりを持たない。
担当が気に入った、他のサービスを知らず今さら知る気もない、押しの強さに断り切れなかった、上手く乗せられて、などの理由で販売することは可能である。
または、会員専用のお得な割引券やスタンプカードがあるから買い続けるという人もいる。

しかしこれらの方法のどの場合も、基本サービスを提供するということに関わりがないことがわかる。
基本サービス提供以前に、販売によって物事が完結していることがわかる。
基本サービスを支持しているかどうかは重要視されていないことが明らかである。

商売上は顧客離れが起きず、収益を上げることが一定の成果になる。
顧客が満足を感じ続け、売れ続ければ成功となる。

しかしサービスは、提供すると決めたものを提供し続けることに目的がある。
接客者が商売の考え方によって販売で完結する行動を取ると、サービスを正しく提供しているにもかかわらず利用者はサービスに対して不信を抱くようになる。

商売主体の接客を改善する場合は、しくみに定める。
接客者の役割と仕事の、サービスと商売のバランスを明確に決める。
サービスが上手く機能していないということは、このバランスが悪い可能性があり、比重を変えることで対応する。

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ただし、一度定着した現場の仕事の流れは簡単に変わらないため、改善したしくみに沿って仕事を行うことができるように工夫する必要が生まれる。
たとえばマネージャーの定期チェック、報告書の書式の改善、オピニオンリーダーの設定、定期ミーティング、期限付きのスキルの課題とチェックなど、提供するサービスと接客の状態に適した方法を取り入れて接客を改善する。

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最後は、誤ったサービスの概念に接客者が縛られる場合のことである。

たとえばお客様は神様であることが、正しく、良いサービスであるとされている。
この認識は接客者もそれを正しいと信じているのと同様に、お客にもそれを信じている人が多いというところが問題を複雑にする。

提供しないと決めているものを望まれても、お客様は神様であるので提供のために努力しなくてはならず、一生懸命提供してしまう。
提供できないとクレームになり、接客者によっては自分を責め、ストレスを抱えたままに仕事を行うようになる。
身も心もボロボロになった接客者が提供するサービスは、上手く機能しなくなる。お客はその様子を見て不信感を抱くようになる。

アメリカにも「Customer is always right」(お客様はいつでも正しい)という言葉があるが、日本の「お客様は神様です」という言葉は、松下幸之助によって定着した。
この言葉はもはや、経営哲学だとすら考えられている。

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松下幸之助が電球を作り、販売し、広げた戦前、日本の家庭には電球による明るさがなかった。
一部の金持ちではなく、庶民が明るい暮らしを行うことができるように、というコンセプトで電球を販売し提供していった。
貧富の差が現代よりも激しいこの時代、電球のない一般家庭の人々は社会的に不当に低い地位にあったといえる。
その人々に対して、各家庭に電球を広げる夢がある、皆さんもそれを受け取る資格がある。皆さんは低い地位ではなく、むしろ神様なんだ、という考え方はうまく通用した。

時が流れて戦後、高度経済成長時代に入るとテレビ、洗濯機、冷蔵庫の、三種の神器を購入することが夢であり、ステータスとなった。作れば売れる時代だった。
商売上お客様は収益をもたらす神様であり、お客様のわがままは商品の発展に役立つ商売のヒントとして顧客ニーズとなった。
作れば買ってくれ、口を開けばヒントを出してくれる。
まさに神様そのものだった。この時代にもお客様は神様という考え方が立派に通用した。

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もともと商売視点では、お客様は神様である。
その根本的な理由は商売の目的が収益を上げることにある。
収益はお客によってのみもたらされる。
だから商売活動に必要なマーケティングは必ず顧客視点、マーケット志向で戦略を立てる。

このような考え方は現在、2つの理由から当てはまらない。

ひとつは、サービスが多様化する時代になると比例して消費も多様化し、お客は自分のこだわりに対してより消費を行うようになったからである。

戦前のように消費者は不当に低い位置になく、高度経済成長期のように企業が作るものを買っていればステータスになるということももはやない。
嗜好の多様化によって消費者の声は以前ほどニーズとして意味を持たなくなった。
ニーズの多様化によって、ニーズそのものは顧客の声の反映ではなく、新しいニーズの創造をより求めるようになった。
この「新しいニーズの創造」は、現代サービスの「潜在的な不備」を解消する姿勢と似ている。
これによって、かつて神様だと定義されてきた条件が、現代になってほとんど当てはまらなくなった。

もうひとつの理由は、お客様が神様であるというのは商売上の考え方であって、サービス上の考え方ではないということにある。
お客様が神様であるのは、彼らが収益をもたらすからである。
よく考えてみるとそれ以外の理由がないということがわかる。
社会に貢献する人々だから神様なのではなく、商品を使ってくれるから神様なのではなく、買ってくれるからこその神様である。
買ってくれない人は神様ではない。お客様でもない。

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商売の目的は収益にある。
販売することにある。
買ってくれてこその神様であるということは、この考え方はサービスの考え方ではなく、商売の考え方だということである。

したがって接客者がサービスを正しく提供する場合、お客様は神様であるから努力をしなくてはならないという行動を行う必要はない。
まして、間違った認識を一生懸命行うことで自らにストレスを溜め、仕事を楽しくないものにし、自信を失わないように気をつけたい。
こういった行為はサービスをより機能不全にする。
それによってサービスを楽しみにしている利用者に対し、信頼を失う行動をしてしまっていることに気がつかなくてはならない。

特にこのような行動を推進するマネジメントが誤った認識に気がつき、訂正し、コンセプトに沿った方針を示し続けることでサービスの状態は改善される。
それでもお客様を神様であるとするならば、神様であるからこそ本当のお客様であるお客を裏切らないサービスを、継続的に提供し続けることを考えるようにしたい。

接客者はこれら5つの誤った要因を改善し、しくみに則ったサービスを正しい認識と手順で行うことで、サービスの機能を回復させることができる。
この作業を繰り返すことで経験を蓄積し、正しいサービスを正しく理解し、提供できるようになったら、はじめてマイナスを挽回する作業を行うことができるようになる。
それがクレーム対応である。

前話: 第12章 05.予想外の対応・提供しないサービス
次話: 02.マイナスを挽回する作業

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05.予想外の対応・提供しないサービス

しくみは万能ではない。
むしろ永遠に不備であり続けるからこそ、定期的に見直し、経験を蓄積し、改善し続けなくてはならない。
コンセプト実現のために、より完璧に向けて改善し続けるようにする。
それでもマニュアル化できない物事はやはりある。

過去に経験がないこと。
想像の範囲を超えた災害などはこれに当たるが、発生する確率が低いということと、このような場合に果たしてサービス提供が継続できるかどうかが疑問なため、検討する必要はない。
ただし緊急避難の方法や、非常口の確認などはしくみ化する必要がある。

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もっと実際的なことは、サービス提供中に提供者、利用者のどちらかが病気やけがをした場合。
税務署が入ることでサービス提供が阻害される場合。
営業時間外にサービス提供を求める必然性がある場合などである。

具体的な手順はマニュアル化することはできないかもしれないが、イレギュラーな状況になった場合の決定者は誰であるか、その裁量はどこまでなのか、どのように連絡を取るかなどの基準を設ける必要はある。
そして一度このような物事が起こった場合に、その具体的事例を経験実例としてしくみに蓄積する。

不慮のできごとは対策が難しいけれども、しかし同時に、サービスを充分に機能させなくなる危険性を持っている。
特に企業スキャンダル(事実にしろ事実無根にしろ)はこの可能性が最も高い。
このようなケースに対するしくみの設定も不必要であるとはいいきれない。

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サービスはコンセプトに則って作られ、提供される。
しかし、コンセプトに則っていれば何でも提供していいというわけではない。
提供するものは基本サービスとして定められなくてはならない。
そしてサービス提供者は、基本サービスの構成の細かいところまで、なぜそれを提供するのか理論的に説明できる必要がある。

一方で、コンセプトに適っていながら、提供しないサービスを決める必要がある。
提供しないサービスの一覧を作るわけではない。
本来のサービスを上手く機能させていない原因となる別サービスを提供しないと決める。
例えば町の大衆中華料理店で「ツバメの巣のスープは提供しない」と決めるようにである。
この提供しないサービスも、なぜ提供しないのかを明確にする。
そして、それらのサービスの提供を求められたときには拒否し、現在の基本サービスの提供を守る。

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ある日、サービスがうまく機能しないことに気がついたら、そもそも提供するはずでも、提供すべきでもなかったサービスを提供しているということが実際にある。そしてそのサービスは、コンセプトに適っているということがある。

多くの場合これらのサービスは、顧客ニーズによってサービスに取り入れられ、組み込まれる。
仮に別の流れで組み込まれるとしても、それは本来組み込まれてはならないサービスであることに変わりはない。

コンセプトに適っていながら主体性を欠き、こだわりはそれほどではなく、商品ラインナップの少なさという不安を解消するためにサービス提供されることすらある。
場合によってはしくみと接客に負担をかける割に、サービスとしてそれほどは上手く機能しないということも起こる。

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このようなサービスを取り入れた結果は、本来のサービスの提供阻害にしかならない。
また、提供者のコンセプトと利用者理解の一致であるブランドを弱めることになる。
なぜなら、コンセプトを反映している割に理解を促進する力に欠けるからである。
利用者に疑問を抱かせることすらある。
利用者はサービスに平均点をつけはじめ、長所を長所として捉えられなくなり、ブランド力は低下する。

このような本来提供するはずでないサービスを既に取り入れているのであれば、直ちに中止するか、フェイドアウトさせる。
しくみにはそれを提供しない明確な理由を反映する。

提供しないサービスが何か定まっていなければ、サービスを提供する接客者は混乱する。
コンセプトを守ることに長けたベテランや上級者は混乱しない代わりに、コンセプトに適っているという正統な判断によって、求められたサービスを提供してしまうことがある。
こうしたことが起こるのも、提供しないと明確に決まっていないからである。
提供しないサービスが決まっていないということは、実は利用者にも混乱を起こす。
基本サービスは、提供すると約束したものを提供するはずであるのに、約束されていないものまで提供されることになる。
しかも、利用者の中に約束されないサービスまで提供される人と、提供されない人が発生する。
これでは正しくサービスを提供しているとはいえない。
サービス提供の公平性も保たれない。
このようして、気がついたときには正しいはずのサービスが上手く機能していないという結果になる。

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提供しないサービスが何であるかは、実務の経験と状態を見ながら決める。
長い目で見て、基本サービス提供の阻害となるものを「提供しない」としくみに反映し、接客者とマーケティング担当者に伝達する。

前話: 04.継続提供・問題点の対処
次話: 第13章 01.接客の改善・正確なサービス提供

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04.継続提供・問題点の対処

サービス提供を完璧に実行するしくみでありながら、サービスが上手く機能しないことがある。
初回のサービス提供に対してしくみは完全であるのに、サービスの継続提供に対してその同じしくみが不備になることがある。
このような不備を見直し、改善する。

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たとえば、初回の人がサービスを受ける場合に割引などで優遇され、利用回数を重ねるごとに冷遇されるようなしくみは、サービス提供の継続を断念させることにつながる。
確実に提供するべきサービスを提供しているのにもかかわらず、利用者は継続提供を止めることになる。

またはしくみ上、初回の利用者に対して完璧な対応方法が定められていたとしても、利用回数を重ねるごとにその対応が不備になることもある。
特に高級サービスの提供や、提供プロセスの煩雑なサービスで起こり得る。
利用回数の多い利用者に対して、カバーするしくみを作る必要が出てくる。

高級サービスでは、何度そのサービスを利用しても利用者の好みをしくみとして把握しない場合、利用者は高級サービスを味わうメリットを感じなくなる。
このようなケースに対して、しくみとしてデータベースによって回数を重ねる利用者の特性をストックする場合もあれば、カード会社のようにゴールドカード、プラチナカードなど目に見える差を提供する場合もある。
いずれにせよ、利用者をサービス利用の重要度によって層を分ける

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が必要になる。
このセグメントによって継続利用を促すことがでる。
少なくとも、利用を止めることに歯止めをかける手助けとなる。

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提供プロセスの煩雑なサービスというのは、たとえばコンタクトレンズの提供など、視力、眼球のカーブ、傷の具合のチェック、ハード・ソフトなど商品の選択など個別対応が必要な上に、眼科検診など提供までのプロセスが煩雑なサービスを指す。
この場合、コンタクトレンズの提供が基本サービスになるが、基本サービスが完結するまでのサービス提供前段階のプロセスに時間と手間がかかる。
特に初回の利用者は全てのプロセスを経なくてはならない。
この、初回のプロセスとほぼ同じ(煩雑な)プロセスを、2回目以降も繰り返す必要がある場合、利用者はサービス利用を止めてしまうことがある。
通常、カルテによって利用者データを蓄積することで、複数回必要とされないプロセスを省略する。

ホテルのレセプションでも同じことが起こる。
何度も継続利用しているにもかかわらず、チェックインの際に氏名、住所、電話番号の記入を求め、クレジットカードの提示を促し、部屋に関する同じ説明を行うことは、継続利用の停止につながる。
利用者は特に基本サービスに不満を感じていない場合にも、あるいはサービスに効用が一致している場合でさえ、このようなプロセスの煩雑さにサービス利用を停止してしまうことがある。

継続提供に対するしくみの不備をこのような観点から見直し、サービスを継続利用するときに便利なしくみを取り入れ、改善することでサービスを上手く機能させる。

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これとは別に、サービスの継続提供を促進させるしくみも構築することができる。
たとえば、駐車場の設置はトータルサービスを継続提供するのに役に立つ。
駐車場利用のルールも取り決めされる。
都会の大型スーパーの駐車場では「2000円以上購入すれば、3時間無料」などと決められる。
駐車場はハードだが、駐車場のルールはしくみとして決まる。
またはコンセプトに適っていれば、買い物中に洗車を提供することがあるかもしれない。
これもサービスのしくみである。
しくみの中でも、そのサービスを必要とする人に継続提供の手助けを行うしくみである。
ポイントカードや懸賞景品、イベント、バーゲンセール、会員招待のパーティーなども同じように、サービスの継続提供を促すしくみである。

サービス提供継続を促進するしくみを作る場合のルールが1つある。

それはサービスの構築同様、ハードから順番に行うことである。
(ただし基本サービスは決まったものを提供することであるので、この場合は必要なく、ハード、しくみ、接客の順で行う)
効果も通常はハードが最も高く、しくみ、接客と徐々に落ちる傾向にある。
駐車場はハードに当たる。
懸賞景品はしくみで、会員パーティーは接客の要素を多く含む。

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駐車場が最も効果が高く、会員パーティーが最も手間と人手がかかる。

サービスが上手く機能しない場合、積極的に継続利用を促すしくみがこの順番で提供され、重視され、ルールを守っているかどうかも検証する。
ルールが守られていない場合は、ハード、しくみ、接客の順で構築内容を見直し、提供の手順を変更する。

このようなしくみを設けても、そのしくみが接客に頼るばかりでは手間の割に効果が反映されない。
むしろ基本サービスの提供をないがしろにしてしまう可能性すらある。
それでは継続利用を促すどころかサービスの足を引っ張ることになってしまう。
このようなしくみの提供は直ちに停止しなくてはならない。

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サービス上の問題とは何のことを指すのか。
それは、トータルサービスの提供を阻む要因のことを指す。
その最大の阻害要因は、サービス提供に使われる

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であって、その中でもクレームは最も考えられなくてはならない問題である。

クレームを「問題」だというと、抵抗を示す人も多い。
クレーム自体は問題ではない。
クレームがサービス提供の状態を阻む状況を作ること、サービス提供に使われる時間を阻むことが問題なのである。

しくみの改善を考える場合、クレームは「問題」として認知し「対処」の方法を検討する。
サービス提供を滞りなく行うための処理方法とルールの構築を考える。
しくみはトータルサービスの構築を目的にクレーム対処を改善する。

一方で、接客におけるクレームの考え方はこれとは異なる。
接客ではクレームを「機会」として捉え「対応」としてこれに当たる。
対処ではない。
接客でクレームを問題視する場合は、全体的なサービス提供阻害の問題と同時に、利用者個別の、サービス利用の問題として考える。

ある特定の人によるクレームは、全体のサービス提供に支障をきたす。
少なくとも時間的に支障をきたし、サービスを必要としている他の利用者にサービスを提供できなくする可能性を持つ。

だからしくみの改善によるクレーム対処は、サービス提供を滞りなく行える状態に戻すことと、時間の回復を前提に行う。

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カスタマーサポートの部署を作ること、直接接客(店舗など)で別室に移ってもらうことで問題に当たることは同じ意味がある。
トータルサービスの提供上必要な、サービスの流れをせき止めないために、別件としてそのケースに当たるしくみを持っているということになる。
時間の回復のために別件対処するというのは、もっとも基本的なクレーム対処のしくみだといえる。

しくみを見直す場合は、時間の回復と通常のサービス提供の流れを取り戻す

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の方法を軸にする。
現在のマニュアルがトークスキルや謝罪の手紙を送る取り決めなどを基準とした「問題回避」を軸に作られているのであれば、時間の回復とサービス提供の流れを取り戻す視点から再構築を行う。

ただし、時間を回復することでサービス提供の流れを取り戻す具体的な方法は、各サービス事業者によって異なる。
その方法はコンセプトに適っている方法で行う。
対処方法がコンセプトによって異なるということは、他のサービスの対処方法を取り入れることはできないということである。
クレーム対応本などに記載されている方法を取り入れても、問題は解決されないということである。

受け入れやすい、受け入れにくいは別として、「どのような場合にも全品キャッシュバックする」というようなしくみを持つアメリカのデパートチェーン店もある。
コンセプトに沿っていて、その方法を継続することができ、かつ時間とサービス提供を取り戻すことができるのであれば、このようなしくみを作っても構わない。

また、サービス提供そのものを断るというしくみも作る。
提供するサービスと利用者の効用が合わない場合、サービス提供を断ることで、サービスを本当に必要とする人に滞りなくサービスを提供するしくみを作っておく。

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NOを言わないことで有名な高級ホテルも、実は価格によってサービス提供を断っている。
たとえば1泊5万円の宿泊費を支払うことができない人を利用者として想定していない。

目に見える明らかなしくみにするか、目に見えにくいそれとないしくみにするかはブランドによって異なる。
いずれの場合にしても、サービス提供を行わないケースを想定して、時間とサービス提供の流れを回復する方法を盛り込む。

現在のしくみが上手く機能しない場合は、それがなぜ機能しないのかを分析し、改善する。
しくみの改善でやってはいけないことは、クレームを発信する人の感情の状態を回復するしくみを作ることである。
それは接客が行う。
しくみは、時間の回復とサービス提供の流れを取り戻すためにやるべきことを定める。
お客の感情に付き合うしくみを作ってはならない。

クレームとは別に、検討するべき大きな問題がもう1つある。
基本サービスの提供時に、提供行為に不備が出る場合のことである。
たとえばレストランで注文の品をテーブルに運ぶときに、バランスを崩して料理を落としてしまうなどのことである。
このような場合、第一にその

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方法をしくみ化する。
第二にその

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ための方法をしくみ化する。

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状態回復の方法はシンプルである。
基本は再提供にある。
ただし、サービス提供にあたっての時間の感覚値は必ず遅れているので、それを回復するためのしくみを構築しなくてはならない。
よく行われるのはオマケや割引券をつけることだが、必ずしもそうでなくて構わない。
接客によって、親身に接するなどのフレキシブルさがあってもいい。
ただしその場合もしくみとしてルール化する。
そしてなるべくコンセプトを反映する方法を検討する。

さらに、オペレーションの優先順位をどのように変更するのかについてもしくみとして定める。
提供に不備があった場合は、その利用者への再提供を優先することはもちろんだが、それによって二次的、三次的なサービスの不備、提供の遅れなどが生じないように組み立てる。

発生率を下げるためには、「提供」に焦点を当ててプロセスを再検証する。
全体の流れをフローとして捉え、改善ポイントがあるかどうかを調べ、あれば変更する。
次に仕事を(しくみも接客も)時系列で分解して、それぞれのプロセスに無駄や不備がないかを個別に検証する。
部分的にミスがある場合はこのプロセスを改善する。
この検証では利用者に親切に接する方法などは省く。滞りなく提供するということに絞ってプロセスの改善を行う。

前話: 03.全体の完璧さ・不快感を与えない
次話: 05.予想外の対応・提供しないサービス

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