03.行ってはならない3つの対策

サービスが上手く機能しない場合にやってはいけないことが3つある。

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1.改善しようとしてはならない。
2.発展させようとしてはならない。
3.問題を解消しようとしてはならない。

これら3つの行動は、商売上は実践されることである一定の効果を出すことも少なくない。
それだけに、問題に対応する方法としては正しい方法だと信じられているが、サービスではうまくいかない。
むしろ弊害となってしまう。

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サービスはその性格上、サービス自体を改善することはできない。

サービスは最初の構築が完璧であればあるほど、一度それを提供すると決定したら提供し続けなくてはならない。
そうでなければ、初期のサービスと2年後のサービス、5年後のサービスで提供する内容が変わってしまう。
違うものを提供するということは、もはや同じサービスを提供しているのではないという意味になる。
同じ約束の下に違うサービスを提供しているということになってしまう。

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ひとつのサービスが年を経るごとに良くなり続けるのであれば、そのサービスを先に利用した人は、後に利用した人よりも悪いサービスを受けたことになる。
サービスを先に受けることは不利である、ということになってしまう。
サービス提供者にとっても、提供すると決めたサービスを提供していないという意味で、サービスの約束を守っていないということになる。

もしサービスが改善されながら、同時に提供すると決めたサービスの約束を守るのであれば、改善部分を過去の利用者全員に再提供し直さなくてはならない。
そうでもしなければサービスの公平性を保つことができない。
しかしほとんどの場合、それは物理的に不可能である。

改善された新しいサービスを値上げすることで、違う商品として提供することは、正しい理由付けとして商売上よく行われる。
しかし値段がどうであれ、サービスで提供すると決められた約束が果たされていないことに変わりはない。

改善することによって、過去に提供したサービスの地位を落としてしまってはいけない。
ただし、

画像4しくみと接客を改善し、プロセスの改善に取り組むことで、提供すると決めたサービスをより速やかに、より確実に提供することは可能である。

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サービスが上手く機能しない場合に、その変化をチャンスと捉えて発展させてはならない。

サービスは、必ず画一的で統一的だと決まっている。
場面場面で異なるもの、提供者によって異なるものなどは、サービスとはならない。
環境の変化など、外的要因によってサービスを発展させてはいけない。
サービスは発展しないが、展開はすることはできる。

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理由なく偶然展開することはあるし、戦略的に展開することもある。
サービスは、それを必要としている人の数によって展開することは充分に可能である。
ティッピング・ポイント(臨界点)を超えた口コミなどは偶然展開することがある。
サービスの定義は変わらずに、受け手側(利用者)の解釈が変わることで展開することもある。

これに目をつけて、展開を戦略に組み込むことは誤りではない。
正しい展開によって、サービスの危機を乗り切ることができる。
しかしサービスそのものを発展させようとしてはならない。
改善と同じく、発展によって提供するサービスに差を生み出してはならない。
より良くなってはならない。
サービスは、それが提供されるはじめから完璧な状態で提供されなくてはならない。

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問題の解消からサービスを再構築したり、再生したりしてはならない。
特に、サービス利用者の声を取り入れることで問題を解決し反映しない。

サービスを作るとき、不具合が生じることが予想できたにしても、できなかったにしても、サービスそのものを問題視してそれを解決してはならない。
サービスに問題があるという前提に立った問題解決は、次に提供するサービスが、元のサービスと同じではあり得ないことになってしまう。
これでは元のサービスに満足していた人に失望感だけを生んでしまう。

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実際サービスが問題視される場合の多くは、マーケティングの不備やセールスの未熟さによるクレームの発生など、直接原因がサービスにないこともある。
マーケティングされたサービスではないために、セールスや接客で無理をしたとき、サービスがしていない約束をしてしまうことがある。

このようなとき、サービスを問題視すること自体が一番の問題になる。
サービスを問題視することで解決を試み、改善し、発展させようとする行為が問題になる。

サービスは「個性」であり、利用者はその「効用」でサービスを利用する。
利用者の声の多くは、効用が合わないことによる不満の声であって、そもそも効用が合っていない人の感情や気分を問題視することで、その問題を解決しようとしてはいけない。
そうしてしまうのは「効用」が合うお客に対する裏切りになる。
「効用」が合わない場合は、事業としてマーケティングとセールスを、サービスとしてしくみと接客によって対応することで問題を解消する。

公平に見て、万が一基本サービスやトータルサービスに問題があるという場合であっても、問題そのものを解決しようとしてはならない。
基本サービスに問題や欠陥がある場合、問題を解消し欠陥を埋めることではサービス全体の問題は解決しない。
その方法ではお客の信用を取り戻すことはできない。
このような場合は環境適応の場合同様、サービス再定義し、新しい約束をお客に行うことで再生してから出直しを図るしか道はない。

前話: 02.サービスに変化が求められるとき
次話: 04.サービスの再定義と技術の変化

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02.サービスに変化が求められるとき

サービスはコンセプトに沿って生まれ、ハード、基本サービス、しくみ、接客の4つのプロセスによって作られ活動する。
その活動をブランドと展開によって強化し、継続させる。

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人にたとえれば、健全な食事、適切な睡眠、定期的な排泄、適度の運動などによって健康を促進し維持する。
ところが、これらの健康的な生活を行っていてもある日突然何かの病気やストレスに侵されることがあるように、サービスを適切に行っていてもある日サービスそのものが機能しなくなる事態が起こることがある。

このような事態になったとき、サービス提供者は速やかに原因を見出し、3つの対応の適切な処置を行い、または組み合わせを判別し、あるいは全ての対策を行わなくてはならない。
3つの対策には、環境適応、プロセスの対策、ブランドの対策がある。

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環境適応は、サービスが通用しない原因が内的ではなく、外的要因にある。
社会における技術の変化、文化の変化、嗜好の変化、人口構造の変化(組み合わせの場合もある)のどれによって現在の事態に陥っているのかを知り、それぞれの環境に適した対応を行う。
ほとんどの場合長期の対応を迫られ、

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こうしてサービスは一度

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される。
長期的な社会の変化と動向を見分けることは専門家でも難しい。
5年先を読むことはほとんど無理である。
完璧な答えに行き着くことはさらに不可能だ。
しかし環境の変化によってサービスが機能しなくなったときに、将来を見据えて行動を起こさなければサービスは死んでしまう。

環境の変化を見分けるための正しい答えは存在しない。
将来を正確に測ることはできない。
しかし

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を行うことはできる。

幸い環境の変化は長い時間をかけて行われる。
時間をかけて正しい指針と質問を見出し、修正しながら環境に適応していくことでサービスは死を免れる。
しかしそれでも、サービスの再定義を避けることはできない。

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正しい指針と質問は、サービスは社会の流れに沿って変化を求められるため「社会の動向がどの方向に動いているのかを見極めなくてはならない」という前提からスタートする。
そしてサービスの変化は、それを提供する「意味」が変化するということ。

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ということを知っておかなくてはならない。

再定義前後で仮に同じサービスを提供していたとしても、これまでとこれからでは提供する「意味」が変化する。
この再定義される意味を正しく見出す必要がある。
これが環境適応のポイントになる。

社会の流れが変化し、これまでのサービス提供の意味を再定義させなければならない。
サービスの変化は、これまでのサービスを再定義することからスタートする。

プロセスの対策は内的要因に原因がある。
環境適応のように外の世界に変化の原因があるのではなく、問題は内側にある。
プロセスの対策は、

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し、

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具体策としては、

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両者は環境適応の場合に比べ、短期間で対応を迫られる。
サービスが崩壊する時間も、再生する時間もより短い。
提供するサービスの「意味」は変化せず、

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多くの場合、再定義を行わずにサービスを再生させる。

しくみの改善は、サービス提供の導線が機能しないことで適切にサービスが提供されないとき、早急に行う必要がある。接客も同様である。

たとえば、お客の待ち時間への配慮が充分でないために、お客がサービス提供前に利用をやめてしまう場合や、接客者各個人の言葉遣いの差によって最終的に提供されるサービスにムラや差が出る場合などのケースがある。

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これらの短期的なしくみの改善は、コンセプトに沿って最も上手く機能する実行動を見直す。
たとえば、各プロセスを時系列単位で分け不必要なものを省いてから再構築する方法や、プロセス検証チームを組むなど、1からしくみ構築をやり直す方法などがあるが、提供するサービス内容によって必要な方法は同じではない。
それぞれのサービスに適した方法を行うことが求められる。

このようにして適切なプロセスが決定されたら

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マニュアル化が完了すると、とりあえず1度目のしくみ・接客の改善は完了する。次はこの

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し、半年〜1年に1度のペースで定期見直しを行い、

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短期的な、プロセス上の問題のほとんどはこの方法で解決する。

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ブランドの対策は内的要因と外的要因の不一致に原因がある。
つまり、コンセプト反映という内的要因と、お客理解という外的要因が一致しないことによる。
ブランドの対策は、4つの問題に対する取り組みを行う。

ひとつ目はコンセプト反映の手抜き対策。
ふたつ目は上位・下位ブランドの構築対策。
みっつ目は新しいサービス取り入れに対する対策。
最後はメディア戦略の不備に対する対策である。

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コンセプト反映の手抜き対策というのは、サービスの展開時にハードと基本サービスの提供がおろそかになることによってブランドが崩れることをいう。
ブランドが崩れた結果、サービスが支持されなくなる。
チェーン展開を行うラーメン店などで起こる、味などの不統一がある。

上位・下位ブランドの構築対策とは、別ブランドを同じサービスの中で立ち上げたとき、別ブランドの影響によって本ブランドの利用者理解が崩壊することを指す。

サービスの取り入れに対する対策も同様に、他の新しいサービスを既存サービスに取り入れることで、却って現存ブランドが崩れてしまうことをいう。

メディア戦略の不備に対する対策とは、メディア露出の回数、媒体、戦略などの不備に原因がある。
ブランドイメージを広げ強めるはずのマーケティングが、実際のコンセプト(サービス)とはかけ離れた、誤ったイメージを発信することによる悪影響の対策である。
誤ったイメージの内容、発信手段、伝達方法の見直しと改善によって、お客理解の不一致を解消しブランドの崩壊を防ぐ。

サービスが上手く機能しなくなる3つのケース(環境適応、プロセス対策、ブランド対策)の原因と、対策の前に、このような場合に行ってはならない対策を先に見ておこう。

前話: 01.サービスマネジメント
次話: 03.行ってはならない3つの対策

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01.サービスマネジメント

サービスを維持するには、労力がかかります。

外的な変化に対応するサービスの再定義、内的要因をコントロールするためのプロセスの対策、サービス提供者とお客の間で作られたブランド対策、の3つについてマネジメントする方法を見ていきます。

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短期的な収益や顧客満足目的ではなく、長期的に安定してサービスを提供するためのノウハウですので、そういったことを視野に入れて組織内のしくみを作ることに前向きな人は必読です。

前話: 第10章 03.接客力を高めるブランドの展開
次話: 02.サービスに変化が求められるとき

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03.接客力を高めるブランドの展開

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これまでの展開はサービスの量を増やし、質に変化をもたせることで物理的にサービスを広げる方法だったが、コンセプトを反映したハードと基本サービスを中心にして、接客がそのコンセプトをお客に伝達する心理的な展開がある。

ブランド作りでの接客の役割は、「コンセプトの反映」「お客の理解」の一致を促すことにある。
そして不一致している部分を一致させるように、お客に正しく伝えることにある。
この作業によって、お客の間に心理的なサービスが展開する。

心理的な展開は時に顧客満足を呼び起こし、売上げを伸ばすことがある。
ではサービスではどうかというと、お客がサービスの正しい知識を自主的に身につけようとしたり、インターネットで検索するなどして積極的に情報を得ようとしたりするようになる。

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そうやって正しい知識を積極的に得たお客の中で、今度は自分が知っていることを情報発信し、コミュニティの中心的存在になったり、口コミという手段でブランドを正確に伝達したりする人が出てくる。
サービスのコンセプトと自分自身の理解の何が一致するのかを、お客自身が展開してくれる。
たとえば「エルメスのスカーフ作りは、アイディアから仕上げまでどのスカーフも18ヶ月かけて作られる」などと口コミする。
このような展開は、自分自身と周囲の人の「心理」に対して行われる。

サービスを維持するためには、お客がサービスの効用を正しく理解することが継続提供する上で重要になる。
あるサービスで心理の展開が増えはじめると、まだサービスを利用したことがない人の心の中に、「そのサービスをもっとよく知りたい」という感覚が生まれる。
この感覚は一度もサービス利用したことがない人に対して、自分に効用があるかないかを気づかせてくれる。
つまりブランドは、人びとにそのサービスにどのような効用があるかという正しい判断を与えてくれる。

たとえば「18ヶ月も手間隙かけるスカーフであれば値段が高くてもほしい」、または「スカーフひとつに18ヶ月もかけることに意味を見出せない。高額を払う必要はない」などと理解を促進してくれる。

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このようなブランドによるサービスの展開は、

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接客者がお客にコンセプトを伝えることによってお客がそれを受け入れ、まず理解する。
そしてそのお客の中に、「積極的にサービスを知ろう」という心理の展開が行われたり、「このブランドのことを友達に伝えよう」という心理の展開が生まれる。

「接客者がコンセプトを伝える」ということは、コンセプトの反映とお客の理解の一致している部分をさらに促すことと、コンセプトとお客の理解の不一致部分に対して正しいコンセプトを伝達することの2つがある。

前者は既にあるブランドを強め、後者は新たにブランドを生み出す。

接客者はまず、サービスとコンセプトについて正しい知識を持ち、どの部分がお客の理解と一致しているかの現在地を知るようにする。
その上で、一致している部分を促し、不一致の部分を補い伝えていくことで、お客にサービスの正しい姿を理解してもらう働きかけを行う。

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このときに「お友達に伝えてくださいね」などと、販売促進のセリフを口にしてはいけない。
そんなことをしなくても効用がぴったりと合って、ブランドを支持してくれるお客は自分ができることをできる範囲で行ってくれる。
このような流れを理解してお客に接することが、接客によるブランド展開である。

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サービスは、社会活動の中でしか活動することができない。
しかし同時に、社会活動を支える活動として活動している。
サービスがなければ社会は成り立たない。

この意味でサービスは最終的に社会貢献であって、サービスは必要な限り展開することを求められている。
正しく展開して、サービスを提供することが社会貢献に直結している。

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同時にブランドを構築し、維持していく必要がある。
ブランドによってサービスを安定させ、展開によってサービス提供を必要とする人に提供し続けていく。

サービス提供という目的に対して、ブランドと展開によってサービスは維持され、提供され続ける。
これが、サービスが継続的に活動し続けるための条件となる。
こうして正しくサービスが提供され続ければ、社会の機能は正しく機能し続ける。

それは何も社会を変革するなどという大それたことではなく、私たち1人1人が社会の一員であるように、サービスも社会を作る一部分として貢献しながら活動しているということである。

前話: 02.新しい意味を生みだす質の展開
次話: 第11章 01.サービスマネジメント

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02.新しい意味を生みだす質の展開

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他のサービスと組み合わせることによって、新しい意味を持つサービスを生み出すことができる。

これまで提供してきたサービスは、これまで通り何の変更もしない提供を行う。
別のサービスと組み合わされた今のサービスは、全体として新しい意味を持って提供される。
これまでのサービスは別のサービスと組み合わせたとしても、根本的な提供の方法と内容は変わらない。
しかし

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これが質の展開のひとつ目になる。

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業界4位と5位のコンビニが協力して活動を行うことがある。
これは営業努力であって、サービスの組み合わせではない。
同じように、シアトル系コーヒーショップが銀行の入り口に、花屋がレストランの入口に展開することがある。
これも営業努力の活動であって、やはりサービスの組み合わせにはならない。
そもそもこれでは、それぞれのサービス提供の意味が別個にあり、全体として新しい意味が生まれていない。

コーヒーはコーヒーだけを、銀行は金融業務だけを提供している。
銀行に来たお客ががコーヒーを飲むことがあるとしても、そのコーヒーショップが銀行の入口にある必要はない。
3軒隣にあっても構わない。
花屋とレストランの関係も同じである。
この組み合わせは、サービスとして新しい意味を生み出していないので、サービスの展開ではない。
目的が収益やイメージにある、商売上の提携だと考えた方がわかりやすい。

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他のサービスとの組み合わせによって新しい意味を生み出すサービスには、たとえばパッケージ旅行がある。
パッケージ旅行は誰もがよく知っていて目新しいものではない。
実は最も古い形の現代サービスで、19世紀半ばには既にイギリスのトーマス・クックによって作られていた。

パッケージ旅行は、移動手段である飛行機や電車・車と、宿泊手段であるホテル、旅館、その他お土産屋やデューティーフリーショップ、保険などがセットとなって「安心かつ便利に旅行を楽しむことができる」というサービスの新しい意味を生み出している。

移動手段を提供するサービスは基本的に移動だけを提供し、宿泊施設は宿泊だけを提供する。
土産物屋はお土産だけを提供し、観光地のアミューズメントは娯楽だけを提供する。
保険会社は保険だけを提供する。
しかしこれらのサービスを組み合わせることで、移動、宿泊、お土産、娯楽、保険というくくりを越えた新しい意味が生み出される。
これが組み合わせによって新しい意味を生み出す質の展開である。

同じ業種間では、スターアライアンスのように各国の飛行機会社が協力し、オーバーブッキングの際には他の協力会社の飛行機に乗換えを行うことができたり、マイレージを共通して貯めることができたりなどの特典を共有することがある。
これも他のサービスとの組み合わせによって新しい意味を生み出す質の展開である。
お客は、グループに属している飛行機会社が就航していれば、一社では得ることのできない安心とお得の提供を受けることができるようになる。

もちろん、自社内でもこの考え方は応用できる。携帯電話にデジタルカメラを組み込んだ電器産業のような好例もある。

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この質の展開をうまく行うためには5つのルールがある。

まず、組み合わせによって生まれる新しいサービスに、新しい意味のコンセプトをはっきりと定める。
そして他社と共同するのなら、サービス提供の参加者が、その趣旨に賛同している必要がある。
それぞれのサービス提供者のコンセプトが一致している必要はない。
しかし反目しては前提として成り立たなくなってしまう。
自社内でサービスを組み合わせる場合も同じように行う。

次に、新しく設けるコンセプトは、シンプルで力強いものにする。
異なるコンセプトを持つサービスが一緒になることで、お客を混乱させてしまってはいけない。
シンプルで力強いからこそ、異なるコンセプトを持つサービスが協力できる必要がある。

さらに、外部のサービスと提携するのならブランドの強さが同じ他社と共同するか、ブランド力に差がある場合はその差を補う、サービスの新しい意味を生み出す必要がある。
コンセプト、ブランド力、サービス提供の意味が、大きく異なる提供者と共同するとうまくいかない傾向にある。

また、新しく生まれるサービスによって、自社のハードと基本サービスを変えてはならない。
それぞれのサービスはそれぞれそのまま提供するのだから、今のサービスを完全に提供できるハードと基本サービスは保たれなければならない。
EUのように、経済圏が共同しても各国の主権は変わらないように、サービスが共同してもハードと基本サービスを変えない。

最後に、しくみは新しく作る必要がある。
新しく生まれる総合的な意味での基本サービスを、滞りなく提供するために全体としてのしくみを作り、接客者はそれを守るようにする。

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現在提供しているサービスを特性で分けて、個別に提供することが可能であるかどうかを検討してみる。
可能なら、これまで総合的に提供してきたサービスとは別に、新しい意味を持つ別個のサービスを展開することができる。
提供内容はこれまでと同じで変わらない。
単にこれまでのサービスの一部分を提供することで、これまでとは違う新しい意味を生みだす質の展開がこのケースである。

レクサスはトヨタがアメリカで高級車販売を行う別ブランドとしてネーミングし、立ち上げた。
日本では長い間この2つのブランドは別個ではなかった。
高級車もトヨタとして提供していた。
しかし2005年に日本でもレクサスブランドが立ち上がり、一見別の事業であるようにコンセプトを変えて、新しい意味のサービスが生まれた。

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トヨタとレクサスのコンセプトの違いは、コンセプトが反映される店舗、ロゴなどのハード、商品の質の差である車という基本サービスを見れば分かる。
両社が同じ事業体ということは、それを知らない人が見分けるのは難しい。
これが、既にあるサービスを分解して提供することで、新しい意味のサービスを生み出す質の展開である。

トヨタはブランドを分けて、基本サービスである商品も分割したけれども、同じサービスの中でもこの展開を行うこともできる。

たとえば旅行代理店はパッケージ旅行が飽和状態になると、パッケージ全体から移動と宿泊の2つを抜き出したプランを展開した。
添乗員、お土産屋、娯楽、保険などはサービスから省かれ、これまでのパッケージ旅行とは異なる新しい意味のサービスが生まれた。

さらに、トータルサービスのしくみの部分を分解して提供するサービスの展開もある。
有名ホテルが敷地内に抱えるパン屋のパンを、ホテルブレッドとしてデパートや通信販売で購入できるようにすることがある。
提供するサービスは宿泊という基本サービスではない。

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基本サービスではないサービス(しくみ)の提供は、ブランドに気をつける必要がある。
ホテルブレッドを提供することでブランドが促進されるのが最高だが、少なくともブランドを維持することができるしくみを作る必要はある。
ホテルブレッドを食べるお客が、そのホテルブレッドから連想されるホテルのイメージがコンセプトに一致している必要がある。
だから販売方法や流通にも気を配らなくてはならず、特価品としてセールスの対象になったり、ディスカウントストアやコンビニで販売されたりしているとしたらブランド力が落ちてしまう。

もしブランドを崩す可能性があるのなら、たとえ売上げの見込みがあってもそのサービスの提供は控える方が無難だと思う。
収益目的で展開してしまうと、本業である基本サービスのブランドを崩してしまう可能性が大きい。
これらが、サービスの分解によって新たな意味を生み出す質の展開である。

これとは別に、サービスプロセスの分解による展開もある。
アメリカのスーパーではビン入りのスターバックスコーヒーを購入することができる。
いくつかのホテル(の自室)や、航空会社(の機内)でも同様に、スターバックスの店舗ではないところでスターバックスのコーヒーを飲むことができる。
これが店舗というハード、コーヒーオーダーのしくみ、バリスタという接客者を除いた、基本サービス中心(のみ)の展開である。

基本サービス(のみ)の展開を行うのは、強いブランドを確立した後が望ましい。
なぜなら基本サービス(のみ)の中途半端な提供は、現在のブランドを崩してしまう可能性があるからだ。
これまで、トータルサービスとして基本サービスを信頼していたものが、突然基本サービスだけの提供になってしまう。
それでも信頼が失われないという強いブランドを構築して、十分なお客の理解を得た後に基本サービスだけを抜き出して展開する。

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スターバックスの場合、プラスチックカップのコーヒーをコンビニで販売するのに、日本に進出してから実に9年をかけている。
スターバックスでは(アメリカの)スーパーで販売するコーヒーの味、デザイン、飛行機会社のクルーへの指導を通じてコンセプトの反映に力を入れた。
基本サービスの展開はこれと同じ手間と努力で行うことでブランド力を維持する必要がある。

基本サービス(のみ)の展開と同様にとても珍しいケースとして、ハードのみを展開することもある。
ミラノのホテル「ブルガリ・ホテル・アンド・リゾート」はブルガリがホテルのハードと基本サービスを提供し、しくみ、接客はリッツ・カールトンが担当するという方法を行っている。
両社共に、自社のサービスを分割提供しながら、同時にサービスの組み合わせを行うというケースになる。

前話: 01.サービス提供を増やす量の展開
次話: 03.接客力を高めるブランドの展開

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01.サービス提供を増やす量の展開

基本サービスが改良や改善を重ね、より良いサービスになることはない。
あるとすればそれはプロセスであるしくみと接客の改善(つまりサービスを手渡す方法の改善)であって、基本サービスの改善ではない。

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もし本当により良くなるサービスが存在するとしたら、1年前にそのサービスを利用した人と、1年後に利用する人の間に差ができてしまう。
差ができるということは、もはやそれは同じサービスではないということで、違うサービスを提供していることになってしまう。

違うサービスを提供するということは、1年前のサービスはもう存在しないということであって、今提供しているのは1年前のサービスではないということになる。
同じ約束をして違うサービスを提供していることになってしまう。

基本サービスはその特性が、画一的で統一的であるようにできている。
決まりきったものであって、提供すると決めたものを正しく提供し、それを約束する。
だから発展することができない。
けれども、画一的で統一的なものを応用して展開することはできる。

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サービスの展開には、サービス提供を増やす量の展開、他のサービスとの組み合わせによって新しい意味を生み出す質の展開、既にあるサービスを分解し提供することで新しい意味を生み出す質の展開、接客を高めることによるブランドの展開の4つがある。
ブランドの展開というのは、お客の心理に対する展開のことを指す。

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量の展開というのは提供の数を増やすことである。

支店を増やし、インターネットで展開するなどして提供量は増える。
ビジネスではこれをマーケットの拡大とか、売上げの増大と考えるけれども、サービスでは扱っているサービスが必要な人が利用できるようにすることを目的にして展開を行う。
お客が求めているので提供できるように努力する、という考え方がサービスの展開になる。

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サービス提供量が増えるに従って、

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が必要になる。
規模が大きくなるにしたがって、しくみは緻密になり効果を重視して、接客は反比例して自由度が下がる。

しくみの改善は規模が大きくなることによる混乱や流通、在庫管理、商品の品質などを含めたトータルサービスを行うのに必要不可欠であって、接客の改善は人数が増えるにしたがってサービス提供に個人差が出ることを防ぐために改善される。

小規模のままのサービスであれば、コンセプトを定めて、実行動を行う1人か2人がこだわりを徹底すれば、あとは自由に臨機応変に対応することがでる。
同じサービス、確実な信頼を提供することができる。
しかし規模が大きくなると共に、1人や2人で管理することができていた品質、在庫、流通、接客者教育、仕入れ、コンセプトの検証などが難しくなる。
ある規模を超えると、難しいだけではなく不可能になってしまう。

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この新しく生まれる不備を、しくみによってカバーする。
しくみや接客の改善が計画されていないと、サービスの量を拡大しても問題対応に追われることになる。

多くの場合、規模が大きくなると接客者の人数が増える。
新しく増えた新人や、新しく拡張したサービスを受け持つベテランも、しくみを尊重して守ることで規模の拡大に挑むようにする。
それぞれの接客者が、自分が正しいと思う接客を正しいと思うように行ってしまうと、サービスは統一性を失って混乱する。
1号店と2号店で、あるいは実店舗とインターネットで、同じ約束の下に違うサービスを提供してしまうことになる。

量の展開を行う場合は、サービスを均一化できるようにしくみに従って展開する。
しくみに不備がある場合は改善する。
しくみによるトータルサービスのカバーと、接客者がしくみを尊重し守ることの2つを満たせば、サービスは規模による量の展開が可能になる。

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ただしどのようにしくみと接客を改善する場合も、現在扱っているサービスと同じもの、同じ約束を展開するようにする。
なぜなら、第一に

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ということと、第二にそれが

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だからである。

ある会社では創業3年目に関西地区へのサービス展開を行った。
最初、身近なお客が存在しなかったので、マーケット(お客たち)全般を調べることにした。
すると、マーケットは首都圏の10分の1規模で、外資企業の本社はもちろん支店も少なく、顧客は首都圏に比べて少ないという結果が出た。
一般的に言われている大阪の人の財布が固いなどということも考慮に入れた。
けれどもそれではお客の声に耳を傾けたことにはならなかった。

そこで、既に小規模ながらこの会社と同じモデルを取り入れて活動している他の会社をよく調べ、そのうちの数社に声をかけ、うち一社に会ってもらうことにした。

最悪、この会社のデータや実績と経験した情報などと引き換えに、関西圏のお客の声を知ることを目標にした。
しかし実際には、この会社のサービス実績と経験を相手方に提供することで、その会社の社長にこちらの事業に参加してもらい、新しく展開する大阪オフィスの責任者になってもらうことを可能にした。
話はうまくまとまって、既に関西のお客の声をよく知っているその人をリーダーとして新しくオフィスを構え、サービスをうまく展開させることができた。

前話: 第9章 06.強いブランドのパラドックス
次話: 02.新しい意味を生みだす質の展開

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06.強いブランドのパラドックス

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強くなってしまったブランドは、ブランド作りやブランドの促進とは異なった、ある新しい特徴が生まれる。
それはブランドに対する接客の無効化である。

ある年の正月が明けた1月3日。
私の知人が母親と一緒に革製品とスカーフで有名なブランドショップに買い物に行った。
新年とはいえ店内は足の踏み場もないほど込み合っていた。
知人の母は以前から購入を考えていたアクセサリーを探したが見つからなかった。
店員に声をかけようにも、忙しそうな様子に順番を待つことにした。

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しかし一向に声をかけてくれる様子がなかったので、ついにこちらから声をかけ、今探しているアクセサリーについて尋ねた。
これに対して店員は「そのモデルはもう販売していません」と冷たく言った。忙しそうな振る舞いが「この忙しいときに、ややこしいことを言わないでほしい」という様子であったという。

サービスを利用するときに起こり得る残念な対応が、この場合にも起こってしまった。
そしてこの親子はもう2度とそのブランドの商品を買わないか、どうしても必要な場合は他の店で買うことに決めた。

しかし、このような事件があっても、このサービス提供者の「高級ブランド」としてのブランドには、ひとつの傷もついていない。
このようなことが起こったとき、おそらく多くのサービス提供者は、このような行為がお客の信頼を失い、不快にさせてしまうことで、サービスへの信用が失われると考える。

しかし幸か不幸か、すでに確立された強いブランドによる接客のミスは、ブランドが強ければ強いほどサービスに悪影響をもたらさない。少なくとも大きな影響は与えない。
これは、そのブランドが強力な「提供者のコンセプトと利用者の理解一致」によって支えられていることの証明である。

接客はブランド作りの入口で、お客の態度を決める決定要因になるけれども、既に強いブランドが作られている場合には、接客による悪影響でブランドが左右されないことがある。
正月明けの親子が経験したのはまさにそういうことだった。
本来であれば信用を失うはずのこの行為が強いブランドを揺るがさないのは、提供者のコンセプトとお客の理解一致の、一部分に与える影響でしかないことにある。

他の、製品に対する信頼、店舗の雰囲気に対する信頼、アフターサービスに対する信頼など、様々な信頼の量と質による強力なブランドが確立しているということは、お客の心理に「不振を抱くには十分ではない」または「利用しないとまでは言わない」という判断が生まれる。
たった数回のミスによって、これまでに積み上げられた量のブランド理解を否定することは割に合わないと考える。

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たとえお客が「もう利用しない」と決めても、そしてそれを友人に口コミしたとしても、他のお客に悪影響を与えることにはならない。
そのサービスミスが、自分のブランド理解を覆すまでには至らないからである。

強力なブランドが作られている場合、決定要因としての接客の役割は薄れる。
接客の態度や振る舞いに左右されずにサービスを利用するという意味では、あるいは本来のサービスの評価に近いのかもしれない。
既に強力になったブランドを維持し促進するためには、接客ではなく

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な決定要因になる。

なぜなら、お客は既に何回もサービスを利用していて、最初見ていたハードと接客は、もう十分知り尽くしてしまっている。
だから、ハードの雰囲気がいつもちゃんと整っているか、基本サービスはいつもと同じように提供してくれるかというところに視点が移るからである。

それだけに強くなったブランドでは、ハードと基本サービスへのコンセプト反映に継続の努力を惜しんではならない。
どんなに接客が素晴らしい対応を行ったとしても、ハードと基本サービスの手抜きはブランドの崩壊に直接結びつくからである。

もちろん完全でない接客はサービスの不備でもあるから、接客の改善をしないままサービスを提供し続ければ、長い目で見ると徐々にブランド力は低下していく。
強いブランドを持つからといって、接客を軽視していいということにはならない。
しかし、強いブランドを築く前と後で、ブランドを維持するためのポイントが変化するとはいえる。

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ブランドが強くなるにつれて、行うことが変わるということは、いつ、何に力を入れ、どのように行っていくのかというブランド戦略のしくみを作り、定期的に見直さなければならないということでもある。
できれば最長3年に1度は行うようにしたい。

こうしてブランド力が低下せず強さを増すことで、サービスは維持され、安定して提供されるようになっていく。

前話: 05.新しいサービスのブランド
次話: 第10章 01.サービス提供を増やす量の展開

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05.新しいサービスのブランド

新しいサービスを提供しはじめたとき、同時にブランドが生まれることはないので、一からブランド作りを行わなくてはならない。
それは遠く長い道のりだけども、ブランドはそうやって毎日作られるものだから、結局はブランドが作られる歯車を回し続けるしか方法がないということになってしまう。
しかしそれだと、新しいサービスはブランドなしでサービスを提供しなくてはならなくなってしまい、図式として既にブランドのあるサービスよりも不利という形になってしまう。

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そこで、新しいサービスでは毎日ブランド作りを行うのと同時に、擬似ブランドをうまく作ることでサービスに力強さを持たせる方法を行う。

小規模なサービスでは、コンセプトよりも目に見えるコミュニケーションとスキルを優先して、サービスを提供する。
ピアノの先生は知名度が低く、活動範囲も狭く、お客も少ないという意味でブランドはなかなか作られない。
どんなサービスでも最初はピアノの先生と同じ状態にある。

サービスを提供するのに、そもそも個別コンセプトよりもコミュニケーションが優先されること自体、ブランドを作ることは難しいといえるだろう。
小規模なサービスのまま活動を行っていくのであれば、ブランドは必要ないともいえる。

小規模サービスはブランドよりも先に、過去の実績によって擬似ブランドを作ることができる。
ピアノの先生であれば、昔ピアニストとしてコンクールで優勝をしたとか、書道であれば段位の所得者であるとか、家庭教師であれば東大合格者を何名出しているとか、または自分が現役の東大生であるとか、過去の実績によってサービスを提供している人が何を考え、どのように生きてきたかということをコンセプトの代わりに伝える。

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過去の実績は、正確には個別コンセプトではない。
しかし個別コンセプトの代わりとして、新サービス提供の初期にだけ、擬似コンセプトとして役割を果たしてくれる。
これにサービス利用者の理解が一致することで擬似ブランドが生まれる。

ただしサービスのブランド化とは異なって、擬似ブランドを持つ小規模サービスが正しくサービスを継続提供しても、ブランドが強くなることはない。
これは、ブランドはコンセプトを未来に向けて反映し続けることに理解を求めるのに対して、

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という違いに理由がある。

過去の理解が深まることで、正しい理解と信頼が促進されることはある。
しかしブランドが強くなることはないし、サービス全体を促進する役には立たないことを頭に入れながら活用するようにしたい。

前話: 04.ブランド促進の歯車を回す 継続で生まれる強いブランド
次話: 06.強いブランドのパラドックス

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04.ブランド促進の歯車を回す 継続で生まれる強いブランド

ブランド作りと促進は、必ずしも同じではない。
ブランドの作りのほとんどはハードと接客にコンセプトが反映されているかどうかによって決まる。

これに対してブランドの促進に必要なことは、個別コンセプトの反映を強めること、基本サービスを正確に提供すること、接客者のサービス理解、の3つ歯車を回す必要がある。
全ての歯車がかみ合い動力となって働くと、サービス提供者のコンセプトの反映と、お客の理解が広がりを見せるようになる。

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ブランド作りの前提は、全てコンセプトにある。
特に個別コンセプトを徹底的に反映することがブランド作りの基本になる。
個別コンセプトは基本コンセプトよりも個性が強い。
それでも、シンプルな言葉ではっきりと示される。
それは「女性の服の解放」であり、「夢の国」で過ごすことであり、「明日、ペン一本から、配送する」というようなことでもある。

この個別コンセプトの反映に力を入れると、ブランドが強化される。
半年か1年、長くても3年の期間で、定期的にハードと基本サービスを見直す。
それぞれにとって、全体的、部分的に、より個別コンセプトを反映するためには何を行うかを考え、見直し、改善する。
ある会社ではこれまで来客の必要がなかった。数年後サービスのアップグレードをしたときオフィスに来てもらう必要が出た。
この会社はオフィスの一部を改装するのではなく、オフィスのレイアウトを一から作り直した。それまでの会議室やパーテーションは全て取り払い、別の場所に移動した。
床のカラーと照明を変え、デスクとイスの全てを買い換えた。
新しい基本サービスを提供するのに適したハードに整え直した。

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最もはじめにハード、基本サービスを構築したときから、それをなぜ、どのような理由で作ったのかということを記録して、その記録が現在どの程度の効果を発揮しているか、発揮しているものはなぜ発揮しているのか、成果があいまいなものはどの部分が成功し、失敗しているのか、発揮していないものは排除するのか、改善するのか、様子を見るのか、などを確認して個別コンセプトを再反映するしくみをあらかじめ作っておくといい。

この改善は、現場の事情によってお客の喜びのために偏っていたり、接客者の効率を優先しすぎたりしたものになっていることがよくある。
目に見えた問題がなくても、こういう状態は個別コンセプトの反映上障害になる可能性がある。
このような不備も同時に、提供者のコンセプト反映の改善という視点でもういちど見直すようにする。

そして改善されたら、今回もまた何をどのように考えて改善し、コンセプトを反映したのか、どのような成果を求めたのかということを記録しておく。
成果は数字で表すことのできない定性評価になる。
だから、次回ハードと基本サービスを見直すときに、

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サービスを提供する以上、ブランドがどのような位置にあっても、正しいサービスは提供されるべきだと思う。

コンセプトの反映とお客の理解は、最初ハードと接客が重要になる。
けれども、ブランドを継続し強化するためには、基本サービスが常に、いつでも、どんなときも、正しく提供されているかどうかにかかっている。
なぜなら、コンセプトの反映とお客の理解を一致させようと思ったら、その前提に信頼が必要になるからだ。
人は信頼できない相手を理解しようとはしない。

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ハードや接客が悪くても、サービスの効用を必要としていればお客は利用してくれるかもしれない。
しかし、サービスを利用してくれたからといって、信頼もしてくれるとは限らない。
信頼し、信頼してもらうことで理解を一致させるものが、正しいサービスの提供である。

たとえば、日本ではじめてアンパン、ジャムパン、クリームパンを発明し販売した木村屋は、サービス提供に致命的な三度の不幸に見舞われている。
一度目は開業翌年に火災で店が全焼し、その後も関東大震災、東京大空襲で店舗が焼けた。
しかしその度に苦難を乗り越え、建て直し、現在も変わることなくアンパンを提供している。
仮に一時期、何らかの理由でアンパンを提供することができなくなったとしても、必ず復活してアンパンを提供し続けている。
復活する度に必ずアンパン提供を再開する。基本サービスはアンパンであるという、正しいサービス提供を継続している。
万が一また店舗と工場が崩壊するようなことがあっても、木村屋は必ず復活してアンパンを提供するだろう。
木村屋にはそういった信頼性がある。

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お客はこの事実を知らなくても、自然と木村屋に対して強い信頼感を持っている。
感覚的にブランドを感じている。
木村屋に信頼を寄せているので、相手を正しく理解しようとする姿勢が利用者に生まれる。
この姿勢が利用者理解の大きな要素となって、コンセプトとお客を結びつけるようになる。

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接客は、特に初期のブランド構築の決定要因になる。
接客が悪いか、コンセプトが反映されていないと、お客はサービスを理解しようとしなくなってしまう。

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接客の仕事はサービスを手渡すことにある。
根本的な意味でそれはコンセプトの反映であって、同時にしくみによって形作られるトータルサービスの実行でもある。
しかしこういったことは、単に仕事上のくくりでしかない。
仕事を理解して行動すれば、そしてコミュニケーション力が優れていれば、人に信頼される素晴らしい接客者にはなれるだろうと思う。
しかしブランドを作る接客者になるには不十分である。

正しい接客の仕事は、正しい仕事の理解から生まれる。
そのほとんどは技能やコミュニケーションを含むスキルである。
同様に、正しい接客によるブランドの促進は、接客者による正しいブランドの理解によって生まれる。
それは仕事の内容とは別のところにある。

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東京紀尾井町のジョルジオ・アルマーニでは、接客者は正しく仕事をする。
その仕事は確実性に富み、利用者は自分の望む状態を得ることで満足して店を後にすることができる。
と同時に、この店では接客者がブランドを構築するのに必要な理解を持っている。

たとえば、ジョルジオ・アルマーニ当人の理解が徹底しているし、海外のどの店舗が広い作りになっているのか、その世界順位を把握している。どの店舗にどのような買い物を、いくらの額で行う顧客がいるのかを知っている。
またはミラノのアルマーニショップに併設されたレストランNOBUがどのようなお店であり、どのようなコンセプトを持っているかということを知っている。

こういったことは直接の仕事とサービス提供には関係がない。
しかし接客者としてブランドを維持し、促進するための知識としては必要不可欠な条件になる。
ただ、仕事とサービス提供に関係のないことを幅広く知っていればいいというわけでもない。
これらの知識は、全て個別コンセプトの正しい理解であり、そしてより重要なことは、正しいブランドの理解であるというところにある。
正しいブランドの理解というのは、個別コンセプトとお客の理解の何が一致しているのかを、接客者自身が知っているということである。

このような接客者の知識と理解はブランドを維持し、強くし、促進する。
だからブランドを強くするためには、接客者による

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が必要不可欠になる。

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個別コンセプトの理解は、毎朝のミーティングで取り上げ、課題を話し合い、実例を伝え、方向性を示し、その行いを繰り返すことで深くすることができる。
または、定期的にハードと基本サービスの見直しを行うときや、しくみと接客の改善と更新を行うときに、個別コンセプトを基準に話し合い、決定し、次のミーティングまで実行することで理解につなげることができる。

これに対してブランドの理解は、コンセプトを理解するのと同時に、お客を知らなければならない。
第一に、

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しなければならず、第二に

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を正しく知らなくてはならない。
そのためにはお客をよく観察して、お客の声に耳を傾けなくてはならない。
そしてお客が理解してくれた、前提となったサービスは何(どれ)か?ということも見出しておくことが大切である。

これら3つの理解が正しく行われたら、今度は接客者の行動としてコンセプトの反映と利用者イメージが「一致しない部分」を、一致させるように働きかける。
働きかけの方法は2つあって、

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(内的作用:これでコンセプトを伝えやすい状態を整える)と、

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でより深く理解してもらい、正しくサービスを提供すること(外的作用:伝えるポイントを絞り、サービスの約束を守る)」の両方で行う。

この3つの流れをうまく行うことができる接客者によって、ブランドは促進され強くなる。
このような接客者が増えると、比例してブランドは安定し、強くなることでオリジナリティ溢れる唯一無二の存在となっていく。

したがって接客を必要としないサービスでは、条件をひとつ失うという意味で強いブランド作りはやや難しくなる。
この場合は、マーケティングによってブランドイメージを先行させ、興味を持ってもらってからサービスを利用してもらう方法が適している。

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余談になるけれども、個別コンセプトを必要としない公共のサービスでは、ブランドは構築されない。
個別コンセプトがないということは、ブランドを作る条件が欠けているということである。
画一的で統一的なハード(たとえば高速道路)と基本サービス(たとえば障害者補助)の提供にはブランドを必要としないという理由もある。

前話: 03.ブランド作りの入口 ハードと接客
次話: 05.新しいサービスのブランド

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03.ブランド作りの入り口 ハードと接客

サービスがブランドを作るということは、私たちはまず、お客のイメージに注目するのではなく、サービス提供者として何がブランドを作るのかということを正確に知っておく必要がある。

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サービスはコンセプトに沿って4つのプロセスを経る。
ハード、基本サービス、しくみ、接客の4つのプロセスは、仕事上の実務であり、サービスのパーツでもある。

それぞれの実務とパーツには、それぞれの役割がある。
ハードは雰囲気を統一し、基本サービスは提供すると決めたものを提供する。
同時に、提供しないと決めたものを提供しない。
しくみは、トータルサービスとして基本サービスの提供を助ける。
接客は目の前のお客にサービスを手渡す。

シャネルの個別コンセプトである「女性の解放」や「黒・白・ベージュ」は、ハード、接客はもちろん、基本サービスである服、しくみであるトータルサービスの全てにおいて統一され、提供されている。
そこには利用者が間違えようのないコンセプト理解がある。

「夢の国」であるディズニーランドでは、ハードの構築上、外界の景色が見えないように造られ、接客者は夢の国を維持するためにパフォーマンスを兼ねて落ちているゴミを素早く処理する。
キャストと呼ばれるスタッフは笑顔で接客を行い、役者のような振る舞いを行う。

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こういうことは、サービス提供者にとっては

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でしかない。
利用者にとっては「なんとなく、しかし素晴らしく良い」という

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でしかない。
その両者がぴったりと一致したときにブランドが生まれる。

4つのプロセスの、それぞれの役割は異なるので、それぞれが作るブランドも異なる。
と同時に、トータルサービスを続けていくこともブランドを作る基礎になる。
そしてブランドを作るとき、その入口にあるのはハードと接客である。

はじめてシャネルの店舗やディズニーランドに足を踏み入れたときに、私たちがお客としてまず経験するのがハードと接客になるからである。
しかもこの2つは、五感に訴えかける強い力を持っている。
ブランド作りは、サービスのコンセプトを利用者の五感を通じて理解してもらうことにあるので、まずハードと接客に注目する必要がある。

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ハードはサービスを受けるほとんど全ての人が経験する。
経験するだけではなく五感で感じる。
しかしサービス利用者で意識的にそのことに気がついている人はほとんどいない。
私たちがはじめてのリゾートホテルに泊まっても、「何だか常夏で豪勢なところだなぁ。嬉しい」とあいまいに感じることと同じである。
お客がそれを理論的に説明できることはほとんどない。
ブランド作りの一歩目は、なんとなくの感覚に大きく依存される。

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お客は基本サービスを提供される前にハードを経験する。
それが店舗であれば、外観の雰囲気、入口の造り、内装の基調となるカラー、広さ、天井の高さ、小物、照明などの全体を一瞬で「なんとなく」感じ取る。
さらにトイレ、アパレルショップの着衣室、映画館のイスの座り心地、スーパーのカゴの使い勝手などを徐々に経験し、もう少し時間をかけて感覚として理解する。

お客がこうやってハードを経験して、なんとなく感じるということは、ハードにコンセプトが反映されていないとブランド作りは最初からつまずいてしまう、ということになる。
だから、ハード作りはかなりの細部までこだわりを持っていなくてはならない。

とはいえ、実際にはサービス提供初期に完璧に作りこむことが難しい場合がある。
予算の問題もあるだろうし、経験不足で的確に作ることができないかもしれない。
ハードは中途変更が困難なので、最初から完全に作りたいところだが、作ってしまってから不備に気がついたら改善するということは頭に入れておきたい。
ウォルト・ディズニーがヒールのめり込むアスファルトを改善したように、必ず改善するようにしたい。

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また、ハードの維持は手間のかかるものではないにしても、空調など機器類は定期点検によって、衛生面は清潔な清掃によって、短期の耐久消費財であるレストランの食器や、美容室のブラシ、タオルなどは買い替えによって更新し続ける必要がある。
あるときは清潔で、別のときは不潔。あるときは明るく、あるときは暗い、という不統一感でブランドを作ることはできない。

利用者はハードを感覚的に経験し理解する。
しかしサービス提供者は接客者も含めて、そのハードがなぜそのハードなのか。
どのような理由でそのハードを構築し、維持しているのか。
維持の方法はどのようなものであり、なぜその方法を行うのか、などということを的確に説明できる必要がある。

サービスを提供する側は、感覚ではなく

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そうして作られ、維持されるハードによって、コンセプトが正しく反映され、それをお客が感覚で読み取る。
このときはじめて、コンセプトの反映と利用者理解が一致する。
これがハードによるブランド作りの第一歩になる。

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接客は、ハードのない通販などのサービスでは最初の窓口になるし、ハードがあるサービスでも、お店を利用するときハードとほぼ同じタイミングで経験する。
そして感覚でなんとなく、目の前の人がどういう種類の人なのかをなんとなく感じる。

けれども、人間の心理はおもしろいようにできていて、ハードに対してはほとんど即座に感じがいいか悪いかを判断するのに対して、接客者に対しては

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する。
お客という立場の人は、心理的に何かを売りつけられることやお世辞を言われて持ち上げられることを、誰でも多少は警戒する。
そこまで身構えないにしても、普通に見える店員が話してみると態度が悪かった、などという事態に備えている。
これは初対面の人に会うときは相手が接客者でなくても、誰もが行うことで、人として当たり前の行動である。
だから、最初の判断には「良い」という選択肢はなく(短い時間では判断できないので)、お客の心理は悪くないか、悪いかというところを感じるようにできている。

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つまり第一印象が悪ければサービスが悪いと判断され、お客からコンセプトを積極的に知ろうという気持ちが消え失せてしまう。
お客は接客を経験していくうちに、ハード同様全てを感覚で判断する。
たとえば「良い気分」「うれしい」「いい人」、「釈然としない」「疑問に思う」「イヤなヤツ」などと判断する。

さらに接客は、判断されるだけではなく評価もされる。
お客は接客者から受ける接客をなんとなくの気分によってサービスの良し悪しとして評価する。
こういったことを頭に入れて、注意しなくてはならないことがいくつかある。

ブランドを作るためには、必ずしも最初から良い接客を行う必要はない。
しかし、

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と、

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は行うようにする。

そして接客をなぜ行っているのか、どのような意義や意味があるのかということを接客者は説明できるようにしておく。
商品やサービスのことについて説明できるようにしておくことはもちろん大切だが、お客は最初接客者個人を見るので、自分が接客を行っている理由、意義、意味を説明できるようにしておくことの方がより重要である。
たとえ説明を求められなくても、お客は考えをちゃんと持っている接客者と、給料のためだけに働いている人物を結構正確に感じ取る。

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会社によっては仕事のできない新入社員に電話の応対をさせるところもあるが、ブランドを作るという視点で考えると、これは最もやってはいけない行為である。
電話先のお客は、たった一本の電話で今後のサービスに対する理解を全て放棄してしまうことになる。

ただしハード、基本サービス、しくみ、接客の一連の流れが完璧に作られていて、お客がそのほとんどを理解している強いブランドでは、接客の不備がブランド力を奪わないという特徴がある。
初期のブランド構築のときにだけ、接客がお客をコンセプト理解に心を向けるか、向けないかを決める決定的な原因になる。

前話: 02.ブランドはサービスによって作られる
次話: 04.ブランド促進の歯車を回す 継続で生まれる強いブランド

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