10.強みの発揮を支えるもの2

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通常接客の仕事では、同僚は自分と同じ仕事をする。
しかしその中でも役割分担はある。

同僚が強みを支える一番大きな理由は、弱みをカバーしてくれることにある。
強みは弱みのカバーがなくては上手く発揮されない。
または、もっと基本的な考え方として、休息を取ることを可能にしてくれる。
どんなに素晴らしい強みを持っていても、1週間に7日働いていればいつか体を壊してしまう。
万全な状態で挑むために、同僚の存在は休息を可能にしてくれる。

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卓越した接客者である美容師は、オーナー社長でありながら必ず現場でハサミを握る。
彼はお客の髪をシャンプーしない。
パーマでロットを巻かず、カラーでカラー液を髪に塗らない。
パーマとカラーで行うのは、他の従業員への指示と要所のチェックである。
そしてドライヤーで髪を乾かすことをしない。
これらの作業は全て別のスタッフが行う。

彼にはお客にベストマッチする仕上がりの状態がイメージできてしまうという強みがある。
そのために必要な彼自身の作業はカットと最終的なセットであり、その他の仕事は強みを中心に据えると補助作業にすぎない。
実際彼の強みから生まれる成果を求めて、多くのお客が来店する。
その全てのお客に応え、強みを十分に発揮するためにはカットとセットに集中しなくてはならない。

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そして現に、彼はカットに集中することのできるしくみを作っており、それは同僚であり、部下であり、同時に従業員である他のスタッフによってカバーされている。
卓越した接客者である彼にして、同僚の存在なくしては十分に強みを発揮できる機会を持つことができない。
だからこそオーナー社長として、その強みを発揮することができるように全体を形作ることを重視している。

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素晴らしい接客者がお客に喜んでもらうための能力を身につけ高めるのとは異なり、卓越した接客者は強みの発揮を支える能力を身につける。

もちろん仕事を行うために必要な、最低限のスキルと技術力は強みにかかわらず習得する。
美容師であればハサミの使い方を知らずに仕事を行うことはできない。

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素晴らしい接客者は、仕事で求められる優先順位の高い能力から身につけようとする。
仕事がそれを接客者に求める。
一方で卓越した接客者は、仕事で必要とされる能力を軽視しないものの、強みに求められる能力から身につけようとする。

仕事が求める能力というのは、接客者がサービスを提供するために不可欠な能力で、サービスをうまく提供するために必要とされる。
強みに求められる能力は、お客が求める能力であって、強みと顧客ニーズをマッチするために必要とされる。
2つは似ていてかなり違う。

サービス提供は、提供すると決めたものを公平に提供する。
同じサービスを利用しているのに、人によって違うものを提供してしまっては、お客は安心してそのサービスを利用することができなくなってしまう。
自分がサービスを利用したときよりも、友人がサービスを利用したときの方が優遇されていれば、誰だって気分が悪くなる。

接客の仕事はサービスを提供の一部分なので、サービス提供を滞りなく行うための能力を接客者に要求する。
それはつまり、サービスを公平に提供するための能力である。
そしてそのサービスを提供する上で、なるべく満足してもらうために必要な人間関係の能力であることも多い。
つまり素晴らしい接客者が身につける能力は、必ず、サービス事業者のニーズに応えることからはじまる。

これに対して、卓越した接客者の能力は、顧客からはじまる。
なぜなら、強みの発揮はサービスに向けられるのではなく、お客に向けられるのであって、お客のニーズに応える以外に能力を身につける理由がないからである。

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たとえば、写真のようなリアルタッチで描く似顔絵を描く接客の仕事をしている人がいるとする。
リアルタッチな似顔絵のサービスを提供していても、お客の中には漫画タッチで書いてほしい人がいるかもしれないし、ピカソのような描き方なら描いてほしいという人がいる可能性もある。
「どのようなタッチでも描きますよ」と公言するか、しないかは別として、似顔絵を描く人が身につける能力はお客のニーズからはじまっていることがわかる。

そのニーズはひょっとするとほとんど需要がないかもしれない。
多くの人に支持されないために、それを生かす場面は訪れないかもしれない。
つまりサービス提供上の能力としては価値が低い。
しかし、お客からはじまる、強みを生かす能力は、接客者にこのような描き方の習得を求める。
強みを発揮するために必要な能力を要求する。
強みを生かす能力は、ときに全く無駄に思える。
事実無駄に終わることもたくさんある。

しかし卓越した接客者は、強みを生かす能力の追求を「決して」やめない。
万が一の必要性に応えることのできる能力を身につけようとする。

実はこの「万が一」は数字で証明できる。
強みを生かすことのできるはずの場面で、能力不足のために接客が不十分になることほど、卓越した接客者にとって屈辱的なことはない。

強みを生かすことのできる能力を99%身につけているとすると、年間に1万人の人に接する接客者は100人のロスを生むことになる。99.9%で10人。99.99%で1人のロスを毎年生み続ける。
99%では実に、年間100回屈辱を味わうことになる。
これは1週間におよそ2回の割合で起こる計算になる。

卓越する接客者は、自分の能力不足で生まれた不備に対して「学習の機会」などという甘い考え方をしない。
ただ自分に対する屈辱であると受け止める。
そして早急に能力を身につけることで解決しようとする。
しかも、ロスがイコール屈辱であるために、屈辱を生み出さないように先回りして能力を身につけようとする。

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もっとも、強みを軸として能力を身につけるので、習得も速く、学習にストレスがないことが多い。
はっきり言えるのは、卓越した接客者は強みを生かす能力を身につけ続けているということである。

強みの発掘から、強みを支えるものまで、順を追って「強み」という物事にスポットライトを当ててきた。
卓越する接客者だけが持つ強み中心の接客と、素晴らしい接客者がもつ能力中心の接客を比較することで違いを明らかにした。
しかしまだ「自分の強み」となると、はっきりとわからない人も多いだろうし、現に強みの発掘には時間がかる。
試行錯誤を必要とする。

強みが発掘されても実践しなくては卓越した接客者になることはできないし、せっかくの強みも弱みのカバーと強みを支える5つの条件が揃わなくては宝の持ち腐れになってしまう。
つまり卓越した接客者は、これまでにその全てを手に入れる努力なり学習、試行錯誤と実践を繰り返してきたということであって、このことにこそ私たちが卓越するために学ぶべき最大のヒントだといえる。

前話: 09.強みの発揮を支えるもの1
次話: 第19章01.3つの世界観と3つの生き方

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09.強みの発揮を支えるもの1

強みの発揮を可能にし、土台として支えるものは5つある。

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仕事、お客、道具、同僚の4つは接客者の外の世界にあり、「仕事」「お客」が欠けると強みは全く発揮されない。
「道具」が必要な接客であれば「道具」がなければやはり強みは発揮されない。
「同僚」がいなければ強みに集中することができず、弱みを自分で克服しなくてはならなくなる。
「能力」も同じように、強みの発揮を可能にし、強みを支える。

「能力」は接客者の内側にあるもので、強みを発揮し生かすために必要な能力が欠けていれば、強みという宝は持ち腐れになってしまう。

卓越する接客者は、自分の強みを発揮するのに必要な条件に力を入れる。
ただし、この5つの条件の中で能力に対しては全ての卓越する接客者が力を入れる。
能力そのものの習得やスキルアップではなく、強みを生かす能力を身につけようとする。

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接客が事業でしか活躍することができないように、接客の強みは仕事でしか発揮されない。
仕事で強みを発揮できるかどうかは、その仕事と強みが何であるかによって変わる。

その中でも、仕事の意味と意義、サービスのコンセプト、与えられた役割などによって、強みが生かされるか生かされないかが決まる。
環境としても決まり、理解や心の状態によっても決まる。

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卓越した接客者であるキャビンアテンダントは、人に対して「様々な距離感を保つ付き合いができる」「人が伝えたいことを的確に察知する」という強みを、不特定多数のお客、非日常の空間で発揮することができる。
通常は快適に過ごしてもらうことを旨としながら、緊急時には体を張ってお客を守らなくてはならない。
そのような仕事が要求するシチュエーションに、この強みは応えることができる。

彼女が現在勤務する航空会社では、社員の希望シフトがなるべく通るような勤務体系がある。
子供を抱える母親として、生活を営みながら強みを発揮できる仕事であることは、そうでない仕事を選んだ場合に様々なものを犠牲にする必要があることを考えると、まさに仕事が強みを支えてくれている。

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強みはお客によっても発揮されるか、されないかが決まる。

たとえば、低価格層のビジネスホテルの接客スタッフと、高価格帯のラグジュアリーホテルの接客スタッフに求められる強みは異なる。
2つのホテルはお客層が違う。
お客のニーズも違う。
したがって接客者の役割もおのずと異なる。

それぞれの場で生かされる強みは異なる。
てきぱきと対応し、必要最小限の対応をして、なるべく干渉しない方が人間関係を上手く保つことができる強みがあれば、おそらくそれはビジネスホテルに向いている。

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逆に、人の感受性を敏感に察知でき、心配りによって快適さを追及することができる強みは、ラグジュアリーホテルに向いているだろう。
この向き不向きは、お客がどのような人であるのかということによって決まる。
お客があなたの強みを求めていないのであれば、強みは発揮されない。

卓越した接客者である幼児教育の先生のお客は、子供でありながら子供ではない。
なぜなら子供の問題として表面化している多くの原因は、夫婦の関係や、親子の関係の中にあるからである。
つまりお客は親、とりわけ子供と接する時間の長い母親になる。

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彼女がお客を子供であると決めていたら、問題の本質を解決してしまう彼女の強みは生かされなかっただろう。
実際、彼女のNPO法人では企業と提携して児童養護施設の子供を遊園地や映画に招待する企画を何度か行い、実際に成功しているが、その活動で彼女の様子は光り輝くものではない。

仕事として、活動として成果は出しているものの、お客を「子供たち」に設定したとたんに、「仕事としてこなすべき業務」になってしまう。
強みは生かされず、ただ業務が遂行される。
反対に、子供の問題とは一見何の関係もなさそうな、嫁姑と夫婦の問題を解消することで、家庭と子供の状態を一気に引き上げる。
強みはこうして発揮される。

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接客の仕事には道具が必要な場合がある。
人に何かを教える仕事をしている人であれば、ホワイトボードやレジュメを用意する必要があるかもしれない。

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お祭りの屋台でたこ焼きを販売する人は鉄板やプロパンガスが必要だろうし、ネイリストは爪を磨き装飾するための道具一式がなければ仕事をすることができない。
たとえその人に合ったネイルのイメージを察知できてしまうという強みを持っていたとしても、道具がなければそれが発揮されることはない。

オステオパシーの技術で人の体を正常な状態に治す、卓越した接客者である先生は、その人の体の悪いところを察知し、どのような方法と手順で治すといいかわかってしまう強みがある。
治療はほとんど素手で行われる。
しかしいくつかの治療には道具を必要とする。

たとえば、素手の技術で動脈の血液の流れを調整することはできても、リンパ液の流れの調整は専用の道具を使う。
同じように背骨の曲がりを矯正するときは専用の診療用ベッドを使い、気の調整を行うときは大きな水晶を使うこともある。
これらの道具は全て強みを生かすために使われる。
または、強みをカバーするために使われる。

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リンパ液の流れを調整することはひょっとすると強みとは何の関係もないかもしれない。
単なる技術でしかないのかもしれない。
しかし、リンパ液の流れを調整しなくては、強みを発揮して全体の治療を完結させることができない。
道具は強みを支える一部分でしかないかもしれない。
けれども、卓越する接客者はそれが必要であれば、徹底的にこだわり、必ず取り入れる。

前話: 08.強みを掛け合わせる
次話: 10.強みの発揮を支えるもの2

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08.強みを掛け合わせる

強みを発掘し、発掘された強みを実践する。
強みを上手く発揮するために、弱みをカバーする。

しかしそれだけでは、かなり素晴らしい接客者になることができても、卓越した接客者にはもう一歩遠い。
素晴らしい接客者は、何も能力だけを使うわけではなく、自分でも気づかぬ間にいくつかの強みを使っていることがある。
そういうことはほとんどないが、たまにはある。

しかしそれでも彼らはやはり素晴らしい接客者であって、卓越した接客者になることはない。

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実際、強みをひとつ生かすだけではほとんど役に立たない。
なぜなら、他にもその強みを持つ人はおそらくたくさんいて、その人たちが強みを生かしていれば、自分の強みは多くの中のひとつでしかなくなってしまう。

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たとえば、「人が抱えている問題の根本的な解決方法がわかってしまう」という強みを持つ人がいるとする。
その強みは既に最高の接客を行うカウンセラーやカスタマーセンター、弁護士、コンサルタントなどに存在している可能性が高い。
卓越した接客者の絶対数は少なくても、存在の可能性は決して低くない。
これでは強みは数多くの中のひとつでしかなくなってしまい、同じ強みを持つのであれば、結局能力で接客力が決まることになってしまう。

卓越する接客者は強みを掛け合わせて使う。
2つの強みを同じ場面で生かすことができれば、ほとんど誰も真似することができなくなる。
3つ組み合わせることができるとほぼオリジナルと呼んでいいものになる。

卓越した接客者であるキャビンアテンダントは、接客の仕事で少なくとも2つの強みを発揮する。
2つというのは、明らかになっている強みを2つ使っているということであり、実際にはおそらくもう1つか2つの強みを掛け合わせているはずである。
彼女は、人間関係と呼べるものは浅い関係であっても深い関係であっても全て築くことができ、相手との距離感を瞬時に察知してその距離で上手く付き合うことができてしまう。
距離感を適切に保つことができてしまうということは、多数の人と接することが可能であるということである。
この強みは、キャビンアテンダントとして一度に多くの接客を行う彼女の強みを生かしている。

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彼女は仕事で別の強みも生かしている。
彼女と話をしたことがある人であれば誰も、人の話を聞くことと自分の話をすることのバランスが良いことに気がつく。
しかしこれはまだ強みではない。
彼女の強みはその奥にあり、人の話を聞くことで、その人が本当に言いたいことが何であるのか、伝えたいことはどの辺りにあるのかを敏感にキャッチすることができてしまう。
そして必要があれば、それを相手が最もフィットする方法でアウトプットすることもできてしまう。
話して反復することもできるし、書いてまとめることもできる。
どちらの場合も「それが、まさに私が言いたかったことです」と相手に評価される。

この強みもまた、フライトという隔絶された空間であり、上空という非日常の空間で生かされる。
たとえ相手が感情的に話し、支離滅裂であるとしても、何を望んでいるのかを知ることができてしまう。
問題が発生すれば、その問題に対して相手がどのような対応を望んでいるかを知ることができてしまう。

この2つの強みは、彼女が接客をするとき自然に掛け合わされ、実践される。

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卓越した接客者は接客で強みを掛け合わせる。
イチローが内野安打と走塁と守備の3つの強みを掛け合わせるように、卓越した接客者もいくつかの強みを掛け合わせて実践する。

前話: 07.弱みをカバーする
次話: 09.強みの発揮を支えるもの1

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07.弱みをカバーする

弱みがカバーされなくていなければ、接客者は強みを生かすことができない。
なぜなら弱みは克服することができないからである。
もちろん大きな努力をし、正しい知識と方法を身につけ、実践方法を的確に教えてくれる人がいれば、ある程度は克服することができる。
しかしそこまでやっても、やっと並のレベルにしか至ることができない。

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弱みを自分でカバーしなくてはならない接客では(しかも能力重視であればなおさら)、強みは生かされることがないままに終わってしまう。
仕事をこなす毎日に強みが埋もれてしまう。
弱みがなぜ克服できないかは様々な理由があるが、ここでは2つの考え方を知ってほしい。

弱みを克服できない理由のひとつは、強みの特徴とかなり似ている。
強みは、なぜだかわからないが人よりも「できてしまう」
弱みは、どんなに頑張ってもなぜか「うまくできない」
私たちは理屈ではなく、どうしてか高いレベルでできてしまうことや人を見たことがある。

イチローを見てどうして世界最高峰のメジャーリーグでトップクラスの活躍ができてしまうのか。
毎年4割に近い打率をキープすることができるのか。
あるいは、北野武監督をして、どうして世界基準で評価される映画を何本も作ることができてしまうのか。
しかも本業でなくできてしまうのか。

そこにはもちろん努力もアイディアも、その他成功するのに必要な要素も数多くあるだろうが、イチローと北野監督が、他の野球選手や映画監督よりも卓越していることは、彼らにしかない強みを生かしているからである。
彼らはできてしまう。

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その彼らにして弱みはある。
一度その弱みを中心に活動すると卓越した成果を出すことができなくなってしまう。
イチローが「今期は4番バッターでホームラン王を狙う」と目標を定め、北野武監督が「次の作品はラブロマンスの映画を撮る」としたら、私たちは上手くいくだろうと楽観的に見ることができるだろうか。
もちろんできはしない。

イチローが今の成績に匹敵するホームランバッターになれるとは思えない。
北野武監督がラブロマンス映画を撮ってヴェネツィアで評価されるとも思えない。

これが、弱みは並程度までしか克服することができない理由のひとつ目である。
イチローや北野武監督にして弱みがあり、弱みを克服しようとすれば成果が落ちてしまう。
であれば私たちはなおのこと、弱みに注目している時間はない。

弱みを克服することができない理由の2つ目は、脳の構造にある。

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私たちの脳は、生まれてから3歳頃まで、目や耳や肌を通じて入る情報を処理することで、脳全体にシナプスが形成される。
シナプスは電気信号の通り道で、電気信号がスムーズに流れることによって私たちは脳を使うことができる。

ところが、どのような情報に対しても敏感に応えていたシナプスの形成は、3歳ごろを境に偏りが出はじめる。
3歳ごろになると、入ってくる情報が多様化して、全ての情報をありのままに受け入れていたら、脳の許容範囲を超えてしまうようになる。
そこで脳は情報に対して、必要性の高いものを低いものを分けようとする。

必要性の高い情報を扱う脳の部位にシナプスをより形成し、必要性が低いところは生産を止めてしまう。
その結果、脳内のシナプス形成に差ができることになる。
こうしてシナプスが集まったところはより活性化され、生活するうえで「できてしまう」ようになる。
つまり「強み」が生み出される。
一方で早い段階でシナプスの生産を止めてしまった部分を使わなくてはならない物事は、どんなに頑張っても「なぜかできない」ことになる。
これが「弱み」になる。

私たちは日常生活の中でも、わざわざ自分が苦手とすることをしようとはしない。
脳も同じで、苦手な部分を使わなくてはならない場所のシナプスは、電気信号が通らなくなってしまう。
それは車の通らない道と同じで、雑草が生え、アスファルトはひび割れ、街灯がないので夜は危ない、などの状態になる。
ただでさえ「弱み」であるところが、どんどん弱くなる。

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この弱みを勉強や努力によって無理やり克服しようとすると、脳内では電気信号を無理やり通すことでストレスが発生する。
整備されていない道路に車を通すことで混乱が生まれる。

すると脳は、混乱しないように、普段通りがいいシナプスを迂回(遠回り)して電気信号を送ろうとする。
当然効率は悪く、判断は遅くなる。
また仮に、通りの悪くなったシナプスに電気信号が通るようになったとしても、その場所は元々シナプスが発達していないために、シナプスが発達した他人には及ばない。

これがどんなに弱みを克服しようとしても、並のレベルにしか到達できない理由の2つ目である。
弱みは

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されなくてはならない。

ある中小企業の旅行代理店を経営する社長は、素晴らしい接客を行う。
とりわけ、彼が旅行に添乗したとき、その旅行の参加者は彼に対して必ず最後に感動し感謝することになる。
人によってはその後の人生に活路を見出す人すらいる。
同行取材したテレビ局の担当者とカメラマンは「このような旅行は生まれてこの方見たことがない」と評価する。
実に、この会社を通じて旅行を経験した90%以上のお客がリピート利用する。

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しかし、こうして強みは生かされていながら、この旅行代理店の社長は新規顧客の確保、社内マネジメント、マーケティング活動を行う。このため社長は強みの接客ではなく、むしろ弱みに属するマーケティングなどの仕事を行い、成果を上げなくてはならなくなる。
その仕事の成果はやはり並レベルの成果であり、しかも添乗の機会を減らすという意味で強みを発揮する仕事が奪われる。
この接客者である社長(旅行代理店)は、弱みがカバーされていないことで強みを発揮する機会を失う状況にある。

弱みのカバーは基本的に他の人の力に頼る。
良い接客とサービスを提供したいのであれば、他の人の「強み」に頼る。

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自分には「弱み」として上手くできないところを、他の人の「強み」によってカバーし、カバーされるだけでなく卓越することで接客とサービスは力強く活動することができる。
現場の接客者は、自分の強みを生かすことができるように、他の人とどのような協力をすればいいのか、どのように役割を分担し、他の人の強みを生かしたらいいかを考える必要も出る。
少なくとも、会社の文化や上司に責任転嫁しているだけでは問題は解決されない。

卓越した接客者を目指すのであれば、自分の強みを生かすことができるように、どのようにすれば弱みがカバーされるのかを考え、実践する責任が自分自身にある。

実際に4人の卓越した接客者は、強みを生かすことができるように弱みをカバーしている。
カバーの方法は人によって違うが、弱みをカバーすることに対して責任を持ち、第一歩として自分の弱みを理解している。
(弱みは強みよりもはるかに理解しやすい)

強みを試行錯誤しながら実践するように、弱みをうまくカバーしながら強みを生かすことができるように行動している。

前話: 06.発掘した強みの奥にある強み
次話: 08.強みを掛け合わせる

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06.発掘した強みの奥にある強み

発掘された強みは、それだけではどのような意味があるのか良くわからないものもある。
意味は十分に良くわかると思うものであっても、実はその奥にもう少し深い強みが眠っていることがある。

ある女性経営者は、彼女が若い頃OLをしていたときの話を私にしてくれたことがある。
彼女は人生を通じて「食いっぱぐれたことがない」という強みを持つ。
安月給で長時間労働のフラワーアレンジメントの仕事を行っていたとき、食費に事欠く生活をしていても、必ずタイミングよく誰かが何かをご馳走してくれるという「できてしまうこと」を持っていた。

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もしこのような強みを発掘してしまったらどのように接客に生かせばいいのだろうか?
それとも、この強みは接客には生かすことができないので、諦めた方がいいのだろうか。

「食いっぱぐれない」という強みには、その奥にもう少しクリアな形の強みが眠っている。
なぜ彼女は「食いっぱぐれない」のか。
それはひょっとすると、「困っていると誰かが助けたいと思う」強みがあるからかもしれないし、「そもそも定期的に人が気遣ってくれる」強みがあるからかもしれない。
それとも「今一番必要なものが手に入ってしまう」という強みかもしれない。

もし「困っていると誰かが助けたいと思う」強みを持っているのであれば、接客では思い切った新企画に携わることに向いているかもしれない。
新しいことを始めることに困難はつきものだが、同僚もお客もみんな彼女を助けようとするだろう。

「そもそも定期的に人が気遣ってくれる」のであれば、世話焼きで面倒見のいい年配のお客の担当をすることで強みを生かすことができる。

「今一番必要なものが手に入ってしまう」のなら、書店員としてベストセラーの新刊本を扱う仕事がいいかもしれない。
どんなに売れても十分な在庫を確保することができるに違いない。

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強みを発掘したら、少し奥を覗いてみるといい。
その奥にもっと根本的な強みが眠っていることがある。

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卓越した接客者は必ず強みを実践している。
できてしまうことを、できてしまうように行う。
彼らの多くは自分の強みを正確に理解しているわけではない。
しかし彼らは感性で実践する。

ホラー映画にトリックを組み合わせたナイト・シャラマン監督は「シックス・センス」で一躍その名を有名にした。
ブルース・ウイルス演じるマルコムと、子役でハーレイ・ジョエル・オスメント演じるコールが主人公を務めるこの映画では、読者に謎を投げかけることで単なるホラー映画とは一線を画した。

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子役のコールは幽霊を見ることができるために、学校で仲間はずれにされ、精神科医をつけられる。
2人目の精神科医としてコールを診ることになったマルコムは、あるきっかけでコールは本当に幽霊を見ているのだと確信する。
そしてコールに向かって「彼らは助けを求めている。だから安心させてやりたい」と言う。

コールはその言葉の後はじめて見た女の子の霊の話を、勇気を振り絞って聞く。
映画の場面は変わり、その女の子の葬式を終えた家で、コールは母親が女の子を殺害したビデオを受け取り、それを証拠として女の子の父親に手渡す。

この映画で、子役のコールはもともと「霊を見ることができる」という強みを持っていた。
しかしその強みは「化け物」と決めつけられ、周囲から精神異常だと思われていた。
映画の序盤でその強みは、少年の人生を破壊する原因に思えた。

ところがその強みが、マルコムの助言と実際に女の子の家に行ったことで「実践」となって行かされた。
それまでは人生を破壊する原因だった強みが、実践されることによって強みの発揮へと変わった。

この映画のケースを見て、私たちは強みが理解ではなく実践によってはじめて意味を持つと知ることができる。
そしてさらに「霊が見えてしまう」というかなり特異な強みを持っていたとしても、それを生かすことのできる実践はあるのだということがわかる。
ありきたりに考えると、占い師やカウンセラー、霊媒師などの接客にその強みを生かすことができる。

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実践が接客者を卓越させるのは、この本でモデルとする4人の接客者にも共通している。

オステオパシーで治療を行う先生は、体や頭に手を触れると、どこがなぜ、どのように悪いのかがわかる。
頭であれば、頭蓋骨の骨の継ぎ目がどのようにずれているのか、右脳と左脳のどちらがより疲れているか、ストレスはどの程度か、脳髄液の状態はどうかなどを察知する。

幼児教育の先生は、あるときふとあるお客の顔が思い浮かぶ。
電話をしなくてはならない気になる。
そして電話をかけるとやはり問題が発生している。彼女は感じる。感じた時は電話をする。

美容師は、目の前に座るお客の顔を3秒見れば、そのお客をベストに導く適切なカット後のイメージが頭の中に浮かび上がる。
彼はまず見る。
見ればイメージが浮かび上がる。

スチュワーデスは、お客が伝えたいことを汲み取ることができる。
感情的であっても、言葉足らずであってもかなり正確に相手の欲する状態を理解する。
彼女はまず聞く。
聞けば分かってしまう。

彼らは皆、強みを実践する。
卓越する接客者が実践する姿は、素晴らしい接客者が能力を駆使する姿とはかなり異なる。
能力では、触れることで状態を理解し、ふと電話をしなくてはならない気になり、イメージが脳裏に浮かび、どのような言葉でも聞けば分かる、などの実践を可能にしない。

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ではどのように強みを実践すればいいのだろうか。
これから卓越を目指す人はどのようなところに注目し、気をつければいいのか。
卓越した接客者に「共通する答え」は残念ながら

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ただ、試行錯誤し実践を繰り返して身につけていく上で、ヒントとなる考え方はある。
まず強みをある程度特定することができたら、これまで能力で行っていたものを強みで行うように変える。
たとえばもしあなたが美容師で、目の前に座るお客のイメージの最終決定をするのに、これまでは顔の形、目の大きさ、顔の各パーツのバランス、肌の色、おでこの広さなどのパターンから、それぞれに合った組み合わせでイメージを導き出していた(能力)としたら、まずそれをやめる。

代わりに、ぱっと見の直感でこれがベストだと瞬時にわかってしまうイメージで、最終決定するように変える。
能力に上達があるように、強みにも上達がある。
強みが上達するように何度もトライしてみる。

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次に、理解することと信じることを無視する。
私たちは学校教育などを通じて、「理解しなければできない」「信じていないことは一生懸命になれない」などと考えているし、感じている。
特に「理解していない」ことはできるわけがないという思い込みは強い。
しかし実際には理解していなくてもできるし、信じていなくても一生懸命になれる。
鳥は自分が飛べることを理解も信じてもいない。
ただ、飛べる。

たとえば私たち日本人は、日本語の文法を正確に理解してはいない。
「京都へ行く」「京都に行く」の違いを正しく説明できる日本人がどれだけいるだろう。
しかし実際に、私たちは日本語を実践し、使いこなす。
できてしまう。

強みを実践するときは理解よりも実践を重視しなくてはならない。日本語を話すように強みを実践する。
箸で食事をするように強みを実践する。
これが強みを成果につなげるための方法になる。

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もし卓越した接客者や、接客者でなくても卓越者が身近にいるとしたら、その人を観察するというのも方法として悪くはない。
卓越者は次の章で詳しく触れる世界観を持っているため、その世界観を先に取り入れることは、逆説的に強みを生かすことにつながる。
とりわけ継続学習を行うという特徴は、卓越した接客者に共通しているので、彼らが自分のものにしている強みで、端から見てもはっきりと分かるものから自分の実践に取り入れてみればいい。

素晴らしい接客者は、高めた能力や才能、新しい能力で接客を行う。
卓越した接客者は、能力と共に強みを試行錯誤し、実践し、改善し続けることで接客を行う。
仕事に必要とされる能力を高めるのではなく、自分を発信源とする。
そして既に高める必要のない強みの応用を試す。

前話: 05.強みを発掘し生かす
次話: 07.弱みをカバーする

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05.強みを発掘し生かす

ここまで、能力を軸とした素晴らしい接客と、強みを軸とした卓越した接客の特徴との違いを見てきた。
強みがどのようなものであるか、およそのイメージはついたのではないかと思う。
ここからは、強みが何であるのかをもう少しはっきりと知り、強みの発掘方法と発掘した奥にある強み、強みの実践、弱みのカバー、強みの組み合わせについて具体的に見ていくことにする。

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実際には、卓越した接客者が強みを正確に「理解」しているとは限らない。
卓越する接客者の数は少ないが、その中でも強みを「理解」している人はさらに少ない。
ということは、卓越した接客者として大切なことは「理解」ではなく「実践」にあるということになる。

そもそも強みは理解しにくいし、気がつきにくい。
ここからは強みの具体的な発掘方法を示していくが、結論を急ぐと、強みは段階的に発掘される。
眠っている油田をひとつひとつ掘り起こすように発掘される。
発掘されてもすぐには役立たないものもあるし、理解しにくいものも、言葉では言い表しづらいものもある。

私たちはまだ卓越した接客者のレベルにはないので、ある程度強みの特徴を理解して上手く発掘しなくてはならないが、実際には卓越した接客者が行っているように「理解」よりも「実践」の方が大切であることをまず知っておかなくてはならない。
理解が難しい強みや、信じがたい強みが発掘された場合であっても、戸惑いや納得したい気持ちはひとまず置いて、実際にどう役立てることができるのかということを重視してほしいと思う。

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強みは「できてしまうこと」というシンプルな特徴がある。
他にも「スーパーマンであること」とか、「先天的に備わっているもの」であるとか、「他の人も当たり前にできることだと思い込んでいること」などという言葉でも説明できる。

強み発掘では何より、

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になる。
乗り越えなくてはならない壁になる。

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できてしまい、当たり前だと思い込んでいるため、ほとんどの人は強みを発掘することができない。
おでこに持ち上げたメガネを一生懸命探すのと同じように、ある意味発見することがとても難しい。
しかも強みは、その人のオリジナルであることも多く、「強みとはたとえば何か?」に答えることのできないものもある。
人は過去に経験のないことや知らないことを頭に思い浮かべることはできないから、そのような意味でも強みの発掘は困難を伴う。

しかも強みを発掘したとしても、それは表面上の強みであるかもしれず、その奥底に本当の強みが眠っている可能性もある。
そんな強みを発掘する便利な方法としてまずは、接客に適した強みの発掘方法を見ていこうと思う。

接客は仕事である。
だから、仕事で働かすことのできる強みを発掘して使った方が手っ取り早い。
強みの中には仕事に直接役に立たないものもある。

仕事で強みを発掘する方法を

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と呼ぶ。
ジョブフィードバックは先に出てきた書店員のように、いつの間にか自分が受け持つことになった仕事、自分が当たり前のように行っているだけなのに、どうしてか人から「助かる」などと評価されてしまう仕事にヒントを見つけることができる。

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書店でいつの間にか自分だけが新刊本と返却本の管理を行うようになっていれば、強みが生かされている可能性がある。
その仕事に対して特にストレスを感じず、かといって好きでたまらないわけでもないということであれば、強みである可能性はより高まる。
過去に経験した仕事と現在の仕事で、この書店員のようにいつの間にか当たり前に行っていた仕事、役割、感謝された経験、などを書き出すことで強み発掘のヒントを得ることができる。

こうして「そういえばできてしまっているな」と感じたものは、次に本当の意味で何が強みであるかを考える。
書店員の新刊本と返却本の整理を行う仕事なら「整理整頓ができてしまう」のか、「(人ではなく)物に向き合うと成果を出せてしまう」のか、「ロジカルな作業ができてしまう」のか、「全体を整える力がある」のか、強みの本質がどの辺りにあるのかを探る。

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もしこのジョブフィードバックではじめて強みを探すのであれば、過去の仕事にさかのぼって、ヒントとなる仕事に共通する特徴を探すといい。
過去、店頭販売の仕事ができてしまい、現在メールマガジンを書く仕事ができてしまうとしたら、「人に伝えるということに長けている」のか「信頼される人間性を持っている」のか、「相手に不安を感じさせない雰囲気を持っている」のか、などを検討し、正しいものに絞っていく。
この方法で行う強み探しは、特に接客の仕事を卓越に近づける。

仕事ではなく、1人の人間として強みを発掘する方法もある。
強みは仕事とプライベートの垣根を作らず、人間力そのものでもあるので、人として強みを探す行為は自分のためにも良い方法である。
卓越する接客者になるために人間力をつけ、強みを生かすための発掘方法は2つある。
ひとつが人に聞くポジティブフィードバックという方法、もうひとつが自分自身で行うフィードバック分析という方法である。

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は、自分の長所を人に聞くことからはじまる。
人に、私の長所は何でしょうかと聞くことからはじまる。

なるべく多くの人に聞き、多くの人が共通して指摘してくれるもので、自分ではいまいちピンと来ないものは強みの可能性が高い。
強みは人から指摘されても「いまいちピンと来ない」という特徴がある。
本人は「そんなことは誰もが当たり前にできる」と思い込んでいるからである。

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多くの人に聞くのが恥ずかしいとか、面と向かって長所を教えてと言いにくい場合は、数人でゲームをするようにポジティブフィードバックを行ってもいい。
自分から、そこに集まった人の強みを発表することで空気を盛り上げてもいい。
実際人の強みに注目するということは、自分の強みを考え、強みが無自覚性を持つということを理解することにつながる。

このポジティブフィードバックを行うときに気をつけることがいくつかある。
まず、人が指摘する長所は強みではなく能力である場合がある。
相手の発言を否定することはないが、強みと能力は分けて考えるようにする。
次に、相手は相手自身の色眼鏡を通じて長所を評価するということを覚えておく。

たとえば数人でポジティブフィードバックを行ったとき、答えを受ける人に対して、ある人は「ファッションセンスが良い」と指摘し、別のある人は「冷静に物事を判断する」と言うことがある。

ファッションセンスについて指摘した人はおそらく自分もセンスが良いのだろうし、外見に価値観を持っているはずである。
冷静な物事の判断を評価した人は、おそらく外見よりも内面に興味があるだろう。
そこには相手の基準や判断材料があり、その材料を中心に評価するので、言われたことがそのまま強みに当てはまるとは限らない。
このことを知って話を聞いた方がいい。

「いまいちピンと来ない」ものの中に相手の主観だけの評価が紛れ込んでいる場合、それは強みではないということもあるので、後で考えをまとめる時にそういったものは省くようにする。

ポジティブフィードバックが他人の力を貸してもらう方法であるのに対して、フィードバック分析は自分自身で自分の強みを発掘する方法である。
これは現代マネジメントの父ピーター・ドラッカーが推奨し自身も行っていた方法で、かなり正確に強みを発掘することができる。

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では、まずこれから計画していること、どのように行うか、何を重視するかなどを全て書き留める。
たとえばこれから「書店員の毎日を綴ったブログを書こう」と決めたとき、どんなことを書いて、どのような人に読んでもらい、どの程度の頻度でそれを続けるか、なぜそれをはじめるのか、などを書き留めておく。
もちろん仕事でもプライベートでも構わない。

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新刊本と返却本を整理する仕事をしているのであれば、棚の整理方法、平積みする本の位置や、傾向、ポップの工夫など、仕事を効率化したりチャレンジしたりするプランを記録しておく。
そしてブログにしろ仕事の計画にしろ、それを封書に入れて封印する。

9ヶ月から1年が経ったらその封書を開き、以前計画したことの何が予想通りに上手くでき、何が上手くできなかったかをフィードバックする。
予想しなかったが上手く行ったことや、予想せず上手く行かなかったことも見返す。
予想通り上手く行ったことが強みであり、全く予想通りにいかなかったことが弱みである。

上手く行ったとは言えないけども、ダメなわけではなかったことは能力が必要とされるかもしれない。
予想せずに上手くいったことはまだ気がついていない強みが眠っている可能性があり、予想せずに上手くいかなかったことは弱みが眠っている可能性がある。

この方法を継続して繰り返すことで、年間1〜3つ程度の強みをはっきりと知ることができる。
この方法を続ければ強みも発掘され続ける。
この方法は3つの強み発掘の方法で最も時間がかかる反面、最も確実に強みを発掘することができる方法でもある。

前話: 04.卓越した接客者個人の特徴
次話: 06.発掘した強みの奥にある強み

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04.卓越した接客者個人の特徴

卓越した接客者に仕事もプライベートもない。
これは素晴らしい接客者が仕事とプライベートを分けることとは様子が違う。
なぜ卓越した接客者が仕事とプライベートを分けないかというと、強みの特徴にその理由がある。

強みというのは「できてしまうこと」を指す。
この「できてしまうこと」は、当たり前のようにできてしまうので、心の中で上がったり下がったりする感情を生み出さないという特徴がある。
好きではないけれども嫌いでもなく、充実することはないがストレスを感じることもない。

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少し想像力を働かせてみてほしい。
利き手を使って字を書くとき、私たちは好き嫌い、充実やストレスを感じる人がいるだろうか。
「できてしまうこと」とはつまり、利き手で字を書くことと同じで、そこにはどのような感情も生まれない。
ということは、卓越する接客者は起きている間中(あるいは夢の中でも)それを当たり前のように「こなしている」のであって、仕事もプライベートもはじめから存在しない。

人は仕事でもプライベートでも当たり前のように聞き手で字を書く。
誰も、仕事では利き手で字を書き、プライベートでは利き手を休ませるなどということをしないのと同じで、仕事とプライベートを分けることすらしない。
しないというより、

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つまり個人としての卓越した接客者は、四六時中強みを発揮する。
彼らの強みには仕事もプライベートも、その境目もない。

しかし強みを生かす人も、個人として問題がないわけではない。
そもそも強みは、本人が気づきにくいという特徴がある。

強みを知らない人はたくさんいる。
強みを知らなくても無意識で生かしている人はいるので、強みを知らない人は強みを生かしている人よりも多い。

強みを知らない人は往々にして「自分には何の取り得もない」「私はなんて平凡なんだろう」などと思い、能力が低くて上手くできないことが起こってしまうと、自分はなんて駄目なんだろうと思ってしまう。
悪いことに、なんとか能力を身につけ、努力をして自分を価値のある人間にしようとする。
それすらままならない人は、お酒に溺れるなどして現実逃避をすることもあるし、ひどい場合だと自殺を選ぶこともある。

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自分の宝石箱にいくつかの素晴らしい輝きの宝石が入っているのに、外の世界で砂金を掬う技術をうまく身につけることができないと失望する人は多い。
能力を身につけようとすること、努力することは、どちらも生きていく上で必要なことではあるけれども、能力がなければ自分に価値がないと思うことは本末転倒である。
これはスパイダーマンになろうとする努力である。

バイオレンス映画監督として名高いクエンティン・タランティーノの映画に「キル・ビル2」という作品がある。
この映画は1と2を通じて主人公ベアトリクス(ザ・ブライド)が、ビルとその仲間に復讐するストーリーで、その最後のシーンでビルがこのようなセリフを口にする。
このセリフに、強みを生かさず、能力を身につけようとする人の、心のメカニズムを考えるヒントがある。

「スーパーヒーローのキャラの根幹を成すのは――彼らに対する別人格の存在だ
バットマンはブルース・ウエイン スパイダーマンはピーター・パーカー

彼が朝 目覚めた時はピーター・パーカーだ スパイダーマンになるには衣装が要る
この点が スーパーマンは逆で 彼の孤高たるゆえんだ

彼はスーパーマンになったのではなく そう生まれついた
朝 目覚めた時もスーパーマンだ 別人格はクラーク・ケント

Sと記された赤い衣装は――赤ん坊の彼をくるんでた毛布だ
それこそが彼の服で――ケントの時のメガネやスーツは仮装にすぎない
我々 市民の中に紛れ込むための変装だ

スーパーマンから見た人間の姿 それがクラーク・ケントだ
弱くて――自分に自信の持てない臆病者 ケントはスーパーマンが評する人類そのものだ」

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スーパーマンははじめからスーパーマンであるというのが、強みを説明してくれる。
私たちは皆スーパーマンな部分を持って生まれてくる。
はじめからスーパーマンの素質がある。

なのにもかかわらず私たちの多くは、自分がスーパーマンであることを知らず、貧弱で弱い人間だと思い込んでいる。
そして自分はそもそもスーパーマンではないのだから、強くなるためには能力を身につけ、コスチュームを買ってスパイダーマンにならなくてはならないと努力する。
うまくスパイダーマンになることができなければ失望する。
やはり自分は駄目なんだと思ってしまう。
これが強みを知らないために、能力に走る人間心理である。

自分の強みを知らない人は、心の葛藤が引き金となって一生懸命能力を高めようとしはじめる。
そうすることで安心を得ようとする。
しかしこの行為が、無意識で行っている強みの実践までをも止めさせてしまうことになる。
誰もができると思い込んでいること(実は自分だけが秀でていること)は脇に置いて、私も能力を使いこなす素晴らしいスパイダーマンになろうとする。
これは卓越を目指す人にとって危機である。

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素晴らしい接客者がスキルや技術などの能力によって、少なからずお客に満足、感動、感謝などを呼び起こすことがあるのに対して、卓越した接客者のサービスはそのような感情を生み出さないことはよくある。

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ある新幹線の接客者である添乗販売員は、本日の新幹線のお客がどのような人たちであるのかを観察する。
夏休みであれば子連れの家族が多いだろうし、紅葉の季節であれば主婦のグループや高齢者が多くなるだろう。
その添乗販売員は、子連れの家族が多ければカート上段の目立つ場所にお菓子類を配置するように並び替える。
高齢者が多い場合はその同じ場所にお弁当が目立つように配置する。
これによって売上高の成果では他の添乗販売員の3倍という結果を出す。

これはあらかじめ考えられた接客である。
子供が買いやすいお菓子を買って、高齢者もやはり買いやすいお弁当を買って、誰かが満足したり感動したりするだろうか。
満足や感動を生みたければ配置を変えるのではなく、一声かけ、気遣う方がよほど効果がある。

 「ちょうど名物のお弁当を用意していますが、いかがですか」
 「お菓子も用意していますが、ご入用でしょうか」

などと一声かけた方がお客の感情を生みだす。
しかし、それでは販売に時間がかかってしまうし、飲み物やお弁当を必要とする他のお客はサービスを受けることができないか、受けるまでに時間がかかってしまう。

満足や感動を生み出さなくても、ちょっと気の聞いた一言を口にすることがなくても、あらかじめお客のニーズに応え、的確にサービスを提供する添乗販売員の方が接客者として優れていることは間違いない。
したがって、卓越した接客者が必ずしもお客に喜んでもらえるというわけではない。

その一方で、卓越した接客者は圧倒的な成果を生み出す。
売上が他の販売員の3倍であることで接客は評価できないが(営業は評価できる)、お客が欲するものを的確に手元に届けていることは圧倒的な成果だといえる。
たまたまその販売員の乗る新幹線に、お菓子やお弁当を欲するお客が多かったということにはならない。

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欲しいものや必要性がある人に、「必ず」サービスを提供するという成果を生み出すことが、卓越した接客の生みだすサービスになる。

前話: 03.卓越した接客者の強み
次話: 05.強みを発掘し生かす

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03.卓越した接客者の強み

素晴らしい接客者が仕事をスタートラインとして能力を目的とするのとは違い、卓越した接客者は強みそのものがスタートラインとなる。
強みを発揮する目的は「仕事の成果」にある。

   素晴らしい接客者  仕事→能力
   卓越した接客者   強み→仕事の成果

卓越した接客者は強みを生かす。
卓越した書店員は、強みを生かすことができるように仕事をプログラムする。
あるいはマネージャーにプログラムしてもらう。

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なぜかお客に「○○の本はどこにありますか」とよく質問される書店員は、おそらく人から「安心され、親身に応えてくれる」という強みを持っている。
卓越した書店員はこの強みからはじめる。
強みを生かすことができるように、お客に質問されるような仕事をなるべくしようとするし、それぞれのジャンルの、本の傾向を知ろうとするだろう。
それともそのようなニーズに応えて、お客に手渡すことのできる簡易地図を作るように店長に提案するかもしれないし、トラベルセンターで係員が地図を前にして観光案内するように、キャッシャーで案内役を買って出るかもしれない。
またはカスタマーサポートの腕章を身につけることで、お客が質問しやすくなるように提案するかもしれない。

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もちろん通常業務は、強みとは別に果たさなくてはならないけれども、卓越する接客者は同時に強みを最も生かすことのできるように接客を組み立てる。
仕事が仕事の必要性からはじまるのではなく、自分に備わった強みを軸としてはじまる。

そして、ひとつ強みが発揮されたり形になったりすると、次の強みを発掘するか、別の強みや強みと強みの掛け合わせてどのように接客に応用できるかを考える。
強みと能力を掛け合わせることで新しいものを生み出すかもしれないし、仕事を改善するかもしれない。
これらのどのような場合であっても、卓越した接客者は強みよりはじめる。

強みよりはじまる接客は、発掘からはじまる。
それは

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という質問からはじまる。
そして「できてしまう」というのが強みの最も大きな特徴になる。

今まではそれほど意識したこともないし、自分以外の誰もができることだと思っていたけれども、実際には「どうやら自分は秀でているらしい」というのが強みの特徴になる。
はじめから「できてしまう」ので、他人に対して優越感を感じていないという特徴がある。
本人だけが、心の底から「誰でもできる」と信じている。

書店員の仕事であれば、たとえば「整理ができてしまう」という強みを持った接客者には、どういうわけか新刊本を平積みにする作業や、出版社に返却する本をまとめる仕事が回ってくるだろう。
本人は、それは誰もが行う仕事であると信じているし、そのような作業を行うのは「あたりまえのこと」だと思っている。

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実際には、この書店ではどういうわけか必ずその人が新刊本を並べ、返却する本をまとめているという現象が起こる。
他の書店員は、「○○さんがうまくやってくれるおかげで助かる」などと口にしながら、自分はその仕事を避けようとする。
やっても楽しくないし、上手くできないと考える。

そして彼らの発言が強みを持つ接客者の耳に入ると、その接客者は「何を言っているのかさっぱりわからない」というような反応を返す。
よくよく考えてみると確かに、自分が新刊と返却本の管理をいつの間にか行っている。
けれどもたまたまそうなっただけだろうし、他のみんなが苦手でも、自分は特に何とも思わないからやっているだけであって、別に上手くやっているわけではない、などと自己評価する。
このような場合の自己評価は決まって低く見積もられる。
つまり、

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これが、人が持っている「強み」の特徴である。

この接客者は新刊本と返却本の仕事を通じて、どのような本をどのような位置に並べたのかを全て把握するので、本を探す顧客のニーズに応えることができるし、どの本の売れ行きがいいのかを自然に理解できる。
だから顧客が求める本を、平積みの目立つ場所に並べることができる。

こうして新刊や返却本を整理するだけではなく、その延長にある仕事によって別の強みを発掘する機会を持ったり、「整理できてしまう」能力を別の形で発揮したりすることができるようになる。
強みがどんどん生かされるようになる。
「できてしまう」ことの成果が増えることになる。
そして強みの発掘と発揮が進めば進むほど、誰にも真似することができない卓越した接客者となる。

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素晴らしい接客は能力が仕事の軸となるので、能力の差によって上下関係が生まれる。
敵対的か温厚かは別として必ず上下関係が生まれる。

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一方で卓越した接客は強みを軸とするので、差が生まれるのではなく「違い」が生まれる。
「できてしまう」ことは人によって違う。
だから、苦手で嫌いでたまらない仕事も、別の接客者なら何も気にせずにさっさとこなしてしまうかもしれない。
人は1人ずつ強みとできてしまうことが違うという前提がある。
「整理ができてしまう」接客者がいれば、「相手が安心してしまう」接客者がいる。

「単純作業を延々と繰り返すことができてしまう」接客者は、書店ではレジの担当者に向いているかもしれない。
「スラスラと文章が書けてしまう」接客者はポップを書く仕事を行った方がいいかもしれない。
たとえば整理を行う仕事をうまくできないからといって、強みを重視する考え方ではその人を劣っているとは判断しない。
上下関係の下とは見ない。

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その人は整理ができない代わりに「相手が安心してしまう」人なのかもしれない。
「整理ができてしまう」人と「相手が安心してしまう」人を比べて上下関係を決めることはできない。
だから強みを軸に置くと差や上下関係ではなく、違いが生まれる。

「違い」が強みを生かした接客の前提になるということは、サービスは適材適所によって提供されるということになる。
何をやりたいのか(欲求)ではなく、何をやるべきか(義務)でもなく、何ができるのか(能力)でもなく、

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によって仕事が決まる。

この法則は、相手に対する肯定からはじまるので、相手を認めるということを可能にしてくれる。
能力によって仕事が決まる接客は、能力の差によって相手への否定を生み出すので、相手を認めない人間関係を作ってしまう。

それぞれの人が強みを持っており、それをお互いが認める関係であれば、接客の役割は適材適所でしか作られないことになる。
これが強みを軸にした接客の特徴である。

能力が上下関係・派閥・倣岸な人を生み出しやすい一方で、強みも仕事に支障をきたすことがある。
強みだけを生かすことのできる仕事はむしろ少なく、能力が要求されるときもある。
それに応えることができないと、接客全体がうまく働かなくなることがある。

能力に力を入れると強みが発揮されなくなり、強みを発揮すれば仕事に支障をきたすとき、接客者は頭を悩ませ、卓越に近づくことなど現実的には無理ではないかと心配する。
しかしその心配は問題ではない。

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強みにはそれを生かすための手順がある。
「できてしまうこと」をやっていれば、それだけで卓越した接客者になることができるわけではない。
その手順は後ほど見ていくが、仕事をこなし、能力を身につけながら強みを磨き、磨いた強みを発揮することはできる。
忙しい接客の仕事を行いながらできる。
むしろ仕事ができず、能力もない接客者が卓越することの方がかなり難しい。

前話: 02.素晴らしい接客者個人の特徴
次話: 04.卓越した接客者個人の特徴

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02.素晴らしい接客者個人の特徴

素晴らしい接客者は個人として

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傾向が強い。

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メリハリをしっかりとつけ、両方に対してけじめをつける。
もちろん仕事に対しては強い責任感で挑む。

しかしプライベートにまで仕事を持ち込み、仕事のことを考えて休日を過ごしたいとは思わない。
休日に自分が接客を受ける立場になることがあると、職業病のように相手を評価してしまうことはあっても、できればなるべく嫌な経験を忘れ、リラックスして過ごしたいと思う。

これは能力を軸にした接客の仕事が、「好き嫌い」「できるできない」に関わらず半強制的に能力を要求するために起こる。
強制的に何かを習得しようとすると、人はストレスを抱える。
だからプライベートまでそのストレスにさらされたいとは考えないし、現にそれでは体がもたない。
接客以外の仕事を行う人も同じように、仕事を離れるものがプライベートであって、多くの場合プライベートは自分らしさを取り戻すために使われる。

それでも素晴らしい接客者は、やはり「人と接することが好き」「お客さんに喜んでもらえれば自分も嬉しい」という人が多い。
人と接することが嫌いで、会話が苦手な人はやはり接客には向かない。

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素晴らしい接客者は能力を身につけて素晴らしくなることについて、自分の歩んできた経験を重視する傾向が強い。
下積みに3年かかったのであれば、後輩に対しても下積みは3年必要だと教える。
はじめてお客にねぎらいの言葉をかけられたときに自分自身の成長を認められるようになった人は、お客に感謝されるようになるまでは一人前ではないと考える。

また、「努力」に対してはかなりの接客者が重視する。
なぜなら能力は「好き嫌い」「できるできない」にかかわらず身につけなくてはならず、だからこそ部分的にであっても必ず苦労を伴うからである。
何かのスキルをなかなか身につけることができないとき、人はその物事を嫌いに思いながら、しかし継続して反復しなければ並のレベルになることができない。
苦痛を抱えながらも一生懸命頑張るしかない。
この状態を熟練した後になって振り返ったとき、その行動をまとめて「努力」と呼ぶ。

そして仕事を上手くできるようになるためには「努力」が必要であると考えるようになる。
悪くすると、仕事が上手くできない接客者に対して「努力が足りない」などと決めつけてしまうこともある。

逆に、たまたま才能があったためあまり苦労せずにできてしまった物事に対しては、誰か別の接客者が同じことは上手く行うことができないとき、「どうしてわからないのかがわからない」などと突き放した考え方をすることがよくある。
つまり能力を身につけた人は、身につけることが上手くできたとしても、逆に苦労したとしても、自分の経験を元にして他の接客者を評価し判断する傾向が強い。
これは実は、「人の気持ちを考えることのできない2つのタイプ」の両方のパターンに当てはまる。

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人の気持ちを考えることのできない人は、このような2つのタイプがある。

ひとつは、幼い頃からほしいものは何でも与えられ、要求することが何でも通り、それが当たり前だと思って生きてきた人のことである。
この人は、大人になっても自分を中心に世界が回っており、自分の思い通りになることがイコール「良いこと」である。
自分の気持ちと気分が第一で、人の気持ちなどこの人の世界には存在しない。よって人の気持ちを考えることが本質的にできない。

もうひとつは、ひとつ目のケースとは全く正反対で、昔から何者も手に入れることができず、人よりもはるかに苦労し、つらい目に遭ってきたタイプの人である。
この人は、苦難を努力で乗り越えて、幸せや欲しいものを自力で手に入れてきたため、不幸な人や悩んでいる人、苦しんでいる人を見て「努力が足りない」「頭を使わない」などと決めつけてしまう。
このため、人の気持ちを考えることが経験からできなくなってしまっている。

仕事からはじまる能力の接客は、このような接客者を作ってしまう恐れがある。
素晴らしい接客者の中にもこのようなタイプの人はいる。
あるスキル・技術をいとも簡単に身につけてしまうことができると、ほしいものを何でも与えられた子のように、それを身につけることができない人の気持ちをなかなか汲むことができない。
逆にスキル・技術の習得を努力と継続によって身につけた人は、努力で人生を乗り越えてきた多くの人がそうであるように、上手くできない人を見て責めてしまう。少なくとも不満を覚える。

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能力を軸にした素晴らしい接客は、いくつかの問題を抱える可能性はあるものの、必ずしもそれが悪いということではない。

素晴らしい接客に支えられた素晴らしいサービスは、数は少ないながらもちゃんと存在している。
それは、サービスを形作るサービスマネージャーなどが、接客の能力に差を出さないように、あるいは高いレベルで誰もが維持できるようにしているからである。

その方法はサービスコンセプトを徹底して身につけることや、能力を単純化してマニュアルに落とし込むとか、先輩が後輩に教える方法をルール化するなど、いくつもの手段と考え方があるが、それは接客とはまた別の話になるのでここでは触れない。

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素晴らしい接客は、たとえそれが技術であるとしても、高いコミュニケーション、親身なホスピタリティ、的確な問題解決を私たち(お客)に与えてくれる。
それはやはり素晴らしいのであって、私たちはその接客に満足し、ときに感動し、感謝することすらある。

それでは卓越した接客が、その素晴らしい接客と本質的に何が違うのかということを見ていこう。

前話: 01.素晴らしい接客者の能力
次話: 03.卓越した接客者の強み

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01.素晴らしい接客者の能力

素晴らしい接客者は能力を使いこなす。
素晴らしい書店員であれば「和食の本を探しているのですが」との問いかけに対して、お弁当のように手軽なものか本格的な日本料理を作るのか、図解が必要か必要でないのか、予算はいくらくらいなのかを尋ねるだろう。

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お客の回答によっては本ではなく雑誌を勧めるかもしれないし、もし他の知識があれば、インターネットのサイトなどを親切で教えるかもしれない。
お客はその接客者の、コミュニケーション力、問題に対応し解決する力、料理本に対する知識、ニーズを引き出し応える力、予備知識などに感激し、満足するだろう。
本当に困っていれば心から感謝することがあるかもしれない。
お客自身はこのように能力を具体的に分解して評価はしなくても、全体としていい接客を受けたと評価する。
こうして「評価」されたものが、接客者の「能力」である。

こういった能力は、通常接客の仕事を覚えることで身についていく。
つまり素晴らしい接客は、仕事からはじまる。仕事で必要とされる技術を身につけることからはじまる。
そして能力を最高にすることが目的になる。
全体の能力を高めることで素晴らしい接客者になることができる。

仕事からはじまる能力は、経験と学習によって身につく。

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になる。
スキル、技術、方法論などを身につけることで能力を高めることができるようになる。
以前は下手で、遅く、的確でなかったものが、能力を身につけることによって上手く、速く、的確にサービス提供ができるようになる。

仕事からはじまる能力は、主に画一的なものと応用力が必要なものの2つに分かれる。

書店員の仕事であれば、レジで会計をしたり雑誌コーナーを案内したりする仕事は、複雑な能力を必要としない。
一度覚えれば難しいことではなく、仕事の方法はいつも同じで変わらない。

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これに対してお客の希望する本を的確に紹介したり、お客の必要性の高い本を平積みにしたり、ポップを書く仕事はやや高い能力が要求される。
この能力も経験と学習によって身につく。
それでも、いくつかのパターンやお客の感じること、考えることなどを中心に能力を応用しなくてはならないので、このスキルや技術を身につけた接客者はベテランとなる。

ベテランの中でも、特に能力を自由自在に使いこなしてお客に満足してもらうことができる接客者を「素晴らしい接客者」と呼ぶ。
彼らの多くは能力を「才能」として使いこなす。
他の接客者が至らないこと、気がつかないことなどに気がつき、今行うべき最も大切なことは何かということを知っている。

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素晴らしい書店員であれば、探し物をしている雰囲気のお客を見たら、積極的に声をかけるかもしれない。
お客が急ぎで手に入れたい本の在庫が切れている場合、予約をするのか、ネットで買うことを勧めるのか、近所の別の本屋に電話をして在庫を確認するのかなどを比較して、最も良い方法で対応するだろう。

素晴らしい接客者は、こんなふうに一歩進んだ接客をする。
お客の不安、不満足に対してニーズを先取りし、最もふさわしい対応をすることで能力や才能を発揮する。
そしてお客に不満足の解消と満足を提供する。

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能力を身につけることは仕事からはじまる。
ということは接客者の能力の問題は、そのまま仕事の問題になる。

接客者の能力を重視してサービスを支える事業では、このような問題が起こることがある。

はじめに、スキルや技術を上手く身につけることができる接客者と、できない接客者の間に差が生まれる。
この差はときに、能力の高い者と低い者の間に「上下関係」を生み出す。
能力を上手く身につけることが優秀であり、下手な者は腐った林檎になる。
悪くすると上下間で派閥ができ、それが結局は仕事の状態を悪くする。

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私たちも自分がお客の立場に立てば容易に想像がつくと思う。
どのようなサービスを受けても、お店や会社に派閥や上下関係の差別があれば、それを目聡く見つけてしまう。
もちろんそのようなサービスを気分よく受けることはできない。

それから私たちはお客として、誰の接客能力が高く、誰が低いのかということをお店の雰囲気や接客者の態度などで敏感に察知してしまう。
そうすると、能力の低い接客者にサービスを提供されるととても損をしたような気分になるし、不快感を覚えることもある。

別の問題が起こることもある。
素晴らしい接客者も含めて、高いレベルの接客を行うことができる人であっても、能力が高くなるにつれて倣岸になる人が出ることがある。
能力が低い人や、まだ能力を身につけはじめた人に対して、バカにしたりきつく当たったりする人が必ず出る。

能力によって仕事が支えられているということは、接客者の関心は人間力や思いやり、協調性にあるのではなく、スキル・技術力を高めることにある。
特に販売成績で接客を評価する事業には、この傾向がよく見られる。
たとえコミュニケーション力の高い接客者であっても、このような問題を引き起こすことがある。

なぜなら仕事ではコミュニケーション力という「スキル」を使って人(お客)に接するのに対して、同僚に対してはスキルではなく「能力が低いことに我慢ならない」などの本心で対応するからである。
能力を基準にしている接客者は多かれ少なかれ、必ずこのような考え方を持っている。
仕事が能力を求めるということが、接客者にこの考えを引き起こさせる。

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コンセプトがしっかりとしているサービスでは、このような問題は表面化しない。
たとえば接客者が笑顔で接するその裏で、お客の陰口を言っているようなことがない良質なサービスは実際にある。
サービスで何をどうするかがはっきりと決まっていて、マネージャーなどの管理者と現場が一緒になって理念を目指すサービスでは、能力差による上下関係や派閥は起こりにくい。

けれどもそれは、接客者個人が心の中で能力差について思うところがないということにはならない。
プロであり責任感が高いために表面に出さないことを心得ているにすぎない。

前話: 第18章07.第3の扉 金の卵を産み落とす
次話: 02.素晴らしい接客者個人の特徴

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