サービスは、個人に感動をもたらす可能性がある。
社会に対しては感動を生み出さない。機能を生み出す。
人に対しては効用を満たし、不満足を解消することで同時に感動を生み出す可能性がある。
感動は瞬間的に感情が高まることをいう。
感情の方向は喜びであって、悲しみや怒りではない。
感動を生み出すプロセスは2つある。
ひとつは、予想すらしなかったことが起こったとき。
もうひとつは、ストーリー性のあるドラマが明らかにされたときである。
前者は一瞬で起こり、後者は徐々に起こる。
誕生日に友人数名と、イタリアンレストランを利用するとする。
一通り出る料理の中で、母親の味噌汁にそっくりな味の味噌汁が提供される。
友人が、「主賓は母親の味噌汁が一番好きだ」とレストランに伝え、レストランはその友人を介して主賓の母親にあらかじめレシピを聞く。
そしてそのレシピに忠実な味噌汁を作り、イタリアンであるにもかかわらず味噌汁を出す。
このようなときにサービスの受け手は感動する。
可能な限り全ての予想範疇に入っていない物事が起こったからである。
ただしサービス提供者はこのような感動の喚起を、しくみで定めた範疇で行う。
そしてベテランの接客者によって提供される必要がある。
少なくとも特別利用者を相手にすることのできる、レベル3の接客者である必要がある。
しくみで定める理由は、感動を提供する際に利用者によって提供するサービスに差が出るのを防ぐためであり、ベテランの接客者が行うのは、このようなサプライズをサービスの枠を超えて例外的に提供するからである。
予想しない物事を起こすとき、それは感動をもたらすことを目的とするが、必ず感動するわけではないことも同時に予想しておく必要がある。
そのような場合には、別途対応をしなくてはならない。
また、予想しない物事を起こす方法で感動を喚起する場合は、あらかじめ経験上確率の高いものを体系化してしくみに落としておく。
毎回接客者の臨機応変に頼るのではなく、確実に感動してもらうことができる方法を戦略的に行うことを基準にする。
人はストーリーに引き込まれる。
興味があればなおさらである。
そして、そのストーリーにドラマがあるとき、人は感動する。
ドラマがないストーリーは感動をもたらさない。
映画、本、テレビドラマなどの番組は、このルールに直結したサービスである。
その他のサービスにもこのルールを応用することができる。
結婚式を提供するサービスは、新郎新婦の出会いや子供のころからのストーリーをドラマ化して、式場で映像を流すことがある。
人は感動するドラマに必ずメインテーマがあることを知っている。
つまりサービスによってストーリーが提供されるとき、お客はこれからドラマが展開するということを心のどこかで予想する。
したがってストーリーとドラマによる感動は、感動することがあらかじめわかっているお客に対して、徐々に感情を高ぶらせ、クライマックスで頂点に達するようにしてもたらす。
ストーリーとドラマによってサービス利用者が感動しながら、それがサービスによってもたらされる感動ではない場合がある。
たとえば提供するサービスの歴史や、商品へのこだわりがドラマ化されることがある。
サクセスストーリーである。
それを見て感動した人が、そのサービスを利用しようと考えることがある。
これはマーケティングによるブランド構築の一環で、サービスではない。
サービスが個人にもたらす感動は、サービス提供のプロセスを通じて行われる。
サービスが直接感動を提供するのであって、サービスの(立ち上げや、こだわりの)ストーリーに感動してもらうことで生み出されるものではない。
サービスの展開に、
むしろ提供するサービスの種類や、規模によっては不必要ですらある。
サービスは社会機能である以上、サービスそのものが常態になることを目指す。
人が当たり前に利用するものは感動を呼び起こさない。
水道をひねれば水が出るというのは、技術的にも社会的にも文明的にも素晴らしいことだが、誰も感動はしない。
社会で大きな役割を果たすサービスとはこのようなものである。
しかし、蛇口をひねれば水が出るというサービスも、最初は大きな感動をもって迎えられたに違いない。
感動をもたらすサービスは展開の可能性がある。
しかし、(特に量の)展開に比例して感動は薄れ、徐々に満足に移る。
それも
反対に、感動の提供をサービスコンセプトにしている場合、感動を軸にサービスを展開し、規模の拡張に注意を払うことで感動が薄れることを防ぐ。
富裕層など、社会的に数%の利用者に対して役割を担う高級ホテル、宝石販売、料亭などがこれに当たる。
これらのサービスでは、展開よりも感動を維持する「規模」が重要になる。
だから提供するサービスは物理的に少数になる。
展開する場合はあらかじめ限界を見越して行うようにする。
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