両者の違いは単純で、サービスコンセプトは事業の中でサービス部分のあり方を決める。経営理念は事業全体としての方向性を決める。
サービスコンセプトには、サービスに関わる3つの役割を持つ。
サービスを作る前のコンセプトは
で、サービスはコンセプトによって作られる。
サービス運営時は
になる。
細かい決まりごとや、接客の役割を決めるときにコンセプトに沿って全体を形作る。
サービスを拡大するときには
となる。
コンセプトを基準にして正しく拡大しているかどうかを測る。
あるマーケティングのコンサルタントは、「経営理念がなくても手早く稼ぐことはいくらでもできる」と言っている。
確かにその通りで、お客のニーズに応える商品を用意することができれば、商売は経営理念がなくても(継続性を考えないのなら)売上げを上げることはできる。
しかしサービスコンセプトが欠けていると、それはサービスの基準がないということと同じなので、商売を営むことはできても信用はされなくなってしまう。
たとえば、千年以上長く続いているサービスは少なくない。
医者、宿屋、飲食店、売春、家政婦、流通などがある。
これらのサービスは、全て基本コンセプトが明確に決まっている。
医者は病気の人を治し、宿屋は夜に寝床を提供する。
飲食店は空腹を満たし、売春は性欲を満たす。
家政婦は家内作業を滞りなく行い、流通は物の移動を円滑に行う。
これらが、コンセプトの中でも最も基本的な基本コンセプトである。
基本コンセプトが他社と同じでも、その表現方法や手段はサービスによって違う。
それは同じ絵の具を使い、同じ題材の物を描いても、結果としてできあがる絵が画家によって変わることと同じことである。
または同じりんごを描いても、りんごの赤を訴えたい描き方をする画家もいれば、りんごの周りの空間を描きたい画家もいる。
抽象画で描く人がいれば、印象的な描き方をしたい人もいるだろう。
基本コンセプトはサービスを作るときに必要だが、実行動と結果は、それぞれのサービスによって異なる。
重傷、重態の患者の命を救いたいという動機は、医者の基本コンセプトになる。
しかし、そのために外科の専門医になるか癌の専門医になるかは異なるということである。
基本コンセプトはサービスの全体像を形作る。
したがってサービスには必要不可欠である。
その意味で、基本コンセプトはオリジナリティが高くてはならない。
サービスの全体を形作るということは、
ということである。
「医者。けが人を助け、病気を治す」「ホテル。宿泊施設で人を泊める」「シャネル。ファッションブランド」というクリアな説明ができ、聞き手もすぐに判断できるものが基本コンセプトである。
こだわりの核心が個別コンセプトになる。
それはたとえお客から変更の要望があっても、売上げに悪影響があろうとも変わらない。
そして時代の影響も受けない。
シャネルの場合、中世の延長線上にあった女性の服の解放は、時代とともに一通り終了したに違いない。
現代では誰もコルセットをつけず、ワイヤー入りのスカートを身につけず、足を見せないことを強制されない。
しかし「女性の服の解放」は、常に挑戦し続ける前向きなコンセプトであると同時に、決して追求が終わらない普遍のコンセプトでもある。
人の、「定着したものを守りたい気持ち」を常に促進して、いつまでも女性をワンステージアップさせるために必要な、変化に影響されないコンセプトである。
このオリジナリティが個別コンセプトの特徴になる。
重い病気から人々を救いたいという基本コンセプトを持つ医者の中で、自分は白血病で身内を亡くしたので同じ病気に苦しんでいる人に対して、東洋医学とカウンセリングを取り入れることでサービスを提供しようと決めた場合、「東洋医学とカウンセリング」が個別コンセプトになる。
宿泊施設で人を泊めるという基本コンセプトを持つ温泉地で、街からは電柱、電線、街灯、看板などを、旅館からはテレビなどの電化製品を全て取り除き、「昔の田舎の雰囲気を味わってもらうことで癒しを提供する」と決めることも個別コンセプトになる。
個別コンセプトは
でありながら、
サービスのコンセプトは、基本コンセプトと個別コンセプトの両方によって作られる。
お客はサービスの姿がハッキリと見えなくなってしまう。
他のサービスとの違いがよく分からなくなり、あえてそのサービスが必要だという理由がなくなってしまう。
両方が欠けるとサービスは成り立たなくなる。
コンセプトの弱いサービスとしての失敗例に、イギリスの最大手ドラッグストアBootsの日本進出がある。
Bootsは日本進出に当たって商社と提携し、マーケティングリサーチを行い、一等地(銀座)に店舗を構え、商品ラインナップを日本人好みに合わせ、マスメディアに対してPR活動を行った。
扱う商品である薬と化粧品の利益率が高いということは良く知られている。
しかし結果として日本のマーケットから撤退した。
基本コンセプトは薬と化粧品の提供で、非常にわかりやすかった。
しかし個別コンセプトがはっきりとしなかった。
大きな特徴を持っていなかった。
少なくとも既に日本の企業が行っている範囲内のもので、イギリス企業に頼る必要のあるものではなかった。
個別コンセプトが明確でなかったことがサービス上の失敗を招いた。
Bootsとは逆に、スターバックスは日本の市場で成功した。
スターバックスは、日本のマーケットに進出する前にマーケティングリサーチを行った。
その結果は「成功するはずがない」というものだった。
当時の日本人にはエスプレッソベースのコーヒーはなじみが薄く、禁煙のカフェなどは日本社会に存在しなかった。
喫煙率もアメリカよりはるかに高かった。
いくらコーヒーの風味を損なわないために完全禁煙にするという個別コンセプトがあったにしても、マーケットがそれを受け入れないと思われていた。
また日本人はセルフサービスにもなじみが薄かった。
しかもスターバックスは日本進出を決めてからも、メディア露出(PR)以外のマーケティング活動を積極的には行わなかった。
その結果どうなったか。
日本のコーヒー文化が変わった。
スターバックスは基本コンセプトとなる「エスプレッソベースのコーヒー」と、それを取り巻く「サードプレイス」「完全禁煙」などという個別コンセプトをアメリカから輸出することによって成功した。
その成功の前提には明確なコンセプトがあった。
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