想いを込めて告白しても相手に気持ちが伝わらないことが人生にもあるように、コンセプトを的確に反映したはずのハードが、お客にうまく伝わらないことがある。
コンセプトを反映して完璧にでき上がるはずが、結果を見てみるとコンセプトとは似ても似つかないものに仕上がっていることもある。
これはハードが変更しにくいという特徴を持っているだけに悲惨な結果のスタートラインになる。
そのような状況なってしまった原因は、伝え方の問題、専門家との問題、こだわりの甘さの問題、の3つがある。
サービス提供者が、コンセプトを正しく伝えていないケースがある。
伝えていると思っているのに、伝わっていないことがある。
コンセプトは正しいのに、伝え方が間違っているケースである。
たとえば、タイ料理のレストランを行うとして、「現地の雰囲気を色濃く出す」という個別コンセプトを生み出したとする。
個別コンセプトとしてこれは正しい。
タイの木彫りの人形を置くことや、テーブルやイスは現地のものを使うことなどは、このコンセプトに適っている。
しかし、コンセプトに則って現地の屋台と同じ設備、同じ衛生の店を出してしまっては、そのサービスは失敗してしまう。衛生管理が悪く、質の悪い油で揚げ物を揚げていては、いくらコンセプトに忠実でも、それがお客に正しく伝わらない。
逆に、食器類の安っぽさや汚さ、揚げ物を食べた後の胸焼け、衛生面の問題によって拒絶されることになってしまう。
本来の
お客は正しいかどうかよりも、なんとなくどう感じるかを重視している。
コンセプトが正しく、それに適ったハードであったとしても、伝えるべきサービス利用者に伝わらなくては意味がない。
このような状態を指して、能楽の大家世阿弥が花伝書の中でこのように言っている。
要するに唐人(中国人)の物まねは、扮装を唐風にするほか方法はない。謡いも所作も、どんなに唐風ということを、せっせとそっくり似せてみても、見物人には分かりっこないので、おもしろいとは思われないものだから、ただどこかひと様子だけ唐めいた風に工夫してやるのがよいのである――この写実とは変わった格好でやることがかえって本当らしく見えるということは、一寸したことのようだが、物まね全般にわたる工夫である
(「花伝書」世阿弥著より引用)
つまり、中国人の真似をするとき、観客は中国人がどのような人たちかを知らないので、どこか中国風に見えるように工夫してやればいい、正しくする必要はない、工夫する必要がある、と言っている。
私たちもハードを作るときにこの言葉を思い出すようにしたい。
コンセプトをハードに反映するときに大切なことは、コンセプトが伝わることであって必ずしもコンセプトを完璧に反映することではないということである。
専門家との問題はコミュニケーションの問題と、レベルの問題の2つがある。
コミュニケーションの問題というのは、コンセプトをデザイナーや施工業者にうまく伝えることができないことを指す。
実際にこれはよく起こる。
なぜなら、コンセプトというのは非常に抽象的な物事であって、考えを正確な言葉に表すこと自体が難しいからである。
正しく言葉にすることができたとしても、相手の頭の中にあるハードのイメージ像がコンセプトと一致しているかを判断することは難しい。
この問題は必要な専門知識を学んだり、図面や絵で視覚化したりすることである程度解決することができる。
あとは実作業でウォルト・ディズニーが行ったように、修正や改善を加えることができるよう進捗状況を見守ることが大切になる。
もちろん、実作業に入る前に綿密な打ち合わせは行うようにしておきたい。
レベルの問題というのは、正確にコンセプトを伝えることができたとしても、専門家の理解レベルや技術レベルが低いため、思ったとおりにハードが作られないことである。
問題の本質が自分にではなく相手にある。
これは、複数の業者に見積もりを出したり、担当者を変更したりすることで解決につながる。
正確にコンセプトを伝えることができ、業者がコンセプトに沿ってハードを構築することができても、細部までこだわりが行き届いていない場合や、こだわりとこだわりを組み合わせたときに相性やバランスが悪いということがある。
原因はコンセプトが弱いことにある。
コンセプトを設計するとき、ハードを作りこむときにもっとこだわりを反映できるように行動すればこの問題は解決される。
コンセプトが完全でないのなら、その状態でハードを構築してしまったこと自体が問題である。
一度ハードが作られてしまったら、それをリセットすることはできない。
こうなるとハードの不備は残り続けることになる。
時間とコストはかかってしまうが、サービス提供がはじまってから徐々に改善し、少しずつ完璧を目指すしか方法はない。
将来店舗展開できるのであれば、規模の大きい新店舗を構えたときに不備の残る最初の店舗を閉鎖するというのもひとつの方法である。
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