サービスはコンセプトに沿って4つのプロセスを経る。
ハード、基本サービス、しくみ、接客の4つのプロセスは、仕事上の実務であり、サービスのパーツでもある。
それぞれの実務とパーツには、それぞれの役割がある。
ハードは雰囲気を統一し、基本サービスは提供すると決めたものを提供する。
同時に、提供しないと決めたものを提供しない。
しくみは、トータルサービスとして基本サービスの提供を助ける。
接客は目の前のお客にサービスを手渡す。
シャネルの個別コンセプトである「女性の解放」や「黒・白・ベージュ」は、ハード、接客はもちろん、基本サービスである服、しくみであるトータルサービスの全てにおいて統一され、提供されている。
そこには利用者が間違えようのないコンセプト理解がある。
「夢の国」であるディズニーランドでは、ハードの構築上、外界の景色が見えないように造られ、接客者は夢の国を維持するためにパフォーマンスを兼ねて落ちているゴミを素早く処理する。
キャストと呼ばれるスタッフは笑顔で接客を行い、役者のような振る舞いを行う。
こういうことは、サービス提供者にとっては
でしかない。
利用者にとっては「なんとなく、しかし素晴らしく良い」という
でしかない。
その両者がぴったりと一致したときにブランドが生まれる。
4つのプロセスの、それぞれの役割は異なるので、それぞれが作るブランドも異なる。
と同時に、トータルサービスを続けていくこともブランドを作る基礎になる。
そしてブランドを作るとき、その入口にあるのはハードと接客である。
はじめてシャネルの店舗やディズニーランドに足を踏み入れたときに、私たちがお客としてまず経験するのがハードと接客になるからである。
しかもこの2つは、五感に訴えかける強い力を持っている。
ブランド作りは、サービスのコンセプトを利用者の五感を通じて理解してもらうことにあるので、まずハードと接客に注目する必要がある。
ハードはサービスを受けるほとんど全ての人が経験する。
経験するだけではなく五感で感じる。
しかしサービス利用者で意識的にそのことに気がついている人はほとんどいない。
私たちがはじめてのリゾートホテルに泊まっても、「何だか常夏で豪勢なところだなぁ。嬉しい」とあいまいに感じることと同じである。
お客がそれを理論的に説明できることはほとんどない。
ブランド作りの一歩目は、なんとなくの感覚に大きく依存される。
お客は基本サービスを提供される前にハードを経験する。
それが店舗であれば、外観の雰囲気、入口の造り、内装の基調となるカラー、広さ、天井の高さ、小物、照明などの全体を一瞬で「なんとなく」感じ取る。
さらにトイレ、アパレルショップの着衣室、映画館のイスの座り心地、スーパーのカゴの使い勝手などを徐々に経験し、もう少し時間をかけて感覚として理解する。
お客がこうやってハードを経験して、なんとなく感じるということは、ハードにコンセプトが反映されていないとブランド作りは最初からつまずいてしまう、ということになる。
だから、ハード作りはかなりの細部までこだわりを持っていなくてはならない。
とはいえ、実際にはサービス提供初期に完璧に作りこむことが難しい場合がある。
予算の問題もあるだろうし、経験不足で的確に作ることができないかもしれない。
ハードは中途変更が困難なので、最初から完全に作りたいところだが、作ってしまってから不備に気がついたら改善するということは頭に入れておきたい。
ウォルト・ディズニーがヒールのめり込むアスファルトを改善したように、必ず改善するようにしたい。
また、ハードの維持は手間のかかるものではないにしても、空調など機器類は定期点検によって、衛生面は清潔な清掃によって、短期の耐久消費財であるレストランの食器や、美容室のブラシ、タオルなどは買い替えによって更新し続ける必要がある。
あるときは清潔で、別のときは不潔。あるときは明るく、あるときは暗い、という不統一感でブランドを作ることはできない。
利用者はハードを感覚的に経験し理解する。
しかしサービス提供者は接客者も含めて、そのハードがなぜそのハードなのか。
どのような理由でそのハードを構築し、維持しているのか。
維持の方法はどのようなものであり、なぜその方法を行うのか、などということを的確に説明できる必要がある。
サービスを提供する側は、感覚ではなく
そうして作られ、維持されるハードによって、コンセプトが正しく反映され、それをお客が感覚で読み取る。
このときはじめて、コンセプトの反映と利用者理解が一致する。
これがハードによるブランド作りの第一歩になる。
接客は、ハードのない通販などのサービスでは最初の窓口になるし、ハードがあるサービスでも、お店を利用するときハードとほぼ同じタイミングで経験する。
そして感覚でなんとなく、目の前の人がどういう種類の人なのかをなんとなく感じる。
けれども、人間の心理はおもしろいようにできていて、ハードに対してはほとんど即座に感じがいいか悪いかを判断するのに対して、接客者に対しては
する。
お客という立場の人は、心理的に何かを売りつけられることやお世辞を言われて持ち上げられることを、誰でも多少は警戒する。
そこまで身構えないにしても、普通に見える店員が話してみると態度が悪かった、などという事態に備えている。
これは初対面の人に会うときは相手が接客者でなくても、誰もが行うことで、人として当たり前の行動である。
だから、最初の判断には「良い」という選択肢はなく(短い時間では判断できないので)、お客の心理は悪くないか、悪いかというところを感じるようにできている。
つまり第一印象が悪ければサービスが悪いと判断され、お客からコンセプトを積極的に知ろうという気持ちが消え失せてしまう。
お客は接客を経験していくうちに、ハード同様全てを感覚で判断する。
たとえば「良い気分」「うれしい」「いい人」、「釈然としない」「疑問に思う」「イヤなヤツ」などと判断する。
さらに接客は、判断されるだけではなく評価もされる。
お客は接客者から受ける接客をなんとなくの気分によってサービスの良し悪しとして評価する。
こういったことを頭に入れて、注意しなくてはならないことがいくつかある。
ブランドを作るためには、必ずしも最初から良い接客を行う必要はない。
しかし、
と、
は行うようにする。
そして接客をなぜ行っているのか、どのような意義や意味があるのかということを接客者は説明できるようにしておく。
商品やサービスのことについて説明できるようにしておくことはもちろん大切だが、お客は最初接客者個人を見るので、自分が接客を行っている理由、意義、意味を説明できるようにしておくことの方がより重要である。
たとえ説明を求められなくても、お客は考えをちゃんと持っている接客者と、給料のためだけに働いている人物を結構正確に感じ取る。
会社によっては仕事のできない新入社員に電話の応対をさせるところもあるが、ブランドを作るという視点で考えると、これは最もやってはいけない行為である。
電話先のお客は、たった一本の電話で今後のサービスに対する理解を全て放棄してしまうことになる。
ただしハード、基本サービス、しくみ、接客の一連の流れが完璧に作られていて、お客がそのほとんどを理解している強いブランドでは、接客の不備がブランド力を奪わないという特徴がある。
初期のブランド構築のときにだけ、接客がお客をコンセプト理解に心を向けるか、向けないかを決める決定的な原因になる。
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