09.再定義のルール

再定義を行う場合のルールは5つある。

画像1

ひとつ目は、コンセプトに沿って再定義すること。
ふたつ目は、ブランドを重視すること。
みっつ目は、こだわりと、それを維持する経験を正しく運用すること。
よっつ目は、社会での新しい位置と役割を考えること。
いつつ目は、環境適応の要因に沿った変化を行うこと。

これら5つのルールは、新しい意味を持つサービスを決定するわけではない。
再定義の行動を決める前提条件でしかない。
基準や指針であって、新しいサービスの正しい活動方法ではない。
しかし正しい活動方法を行う前提となるものであり、サービスの再定義が決まると、再生はこの5つの条件を満たすことからスタートする。

画像2
画像3

コンセプトはサービス提供者が存在するための意義で、根本的な意味でもある。
再定義が決まった全てのサービスは、コンセプトに沿ったハード、基本サービス、しくみ、接客をそれぞれ作る。

コンセプトを変更してしまうと、この4つの基本要素の全てを根本的に変更しなくてはならなくなる。
サービスを再生する上でそれは現実的ではなく、そもそも最初のコンセプトを変えるということは、サービス提供者の存在意義そのものを見直さなくてはならないということになってしまう。
提供者の存在意義を見直すかどうかは、もはや再定義や再生の話しではなく、全く別のスタートラインを生み出すことになってしまう。

再定義するには、サービスの基本となる

画像4

コンセプトに外れてはならない。
まして無視してはならない。

画像5

コンセプトとは別に、これまでのサービスには必ずこれまでのブランドが存在する。
これまでのサービス提供に対するコンセプト反映と、お客理解の一致がある。

ブランドは、コンセプトとは違って、提供者が最初から決めることができるものではない。
サービスを提供した後に、提供者とお客の一致によって生み出される。

新しい意味のサービスは、新しいブランドを作り出すものではなく、これまでのサービスによって作られたブランドを維持することをスタートラインとして再構築する。
ブランドはこれまでのサービスに対して作られているだけではなく、多くの場合サービス提供者の信頼になっている。
サービス提供者に対して築かれた利用者理解に反してしまう再定義は、ゼロではなくマイナスになってしまう。

再定義されたサービスを理解してもらうためには、利用者の提供者に対する信頼を欠かすことはできない。
これまでに築いたブランドを無視・軽視するということは、この信頼と信頼関係を壊してしまうということになる。
よって、これまでのブランドを重視して再定義することで新しい意味のサービスを生み出すようにする。

サービスはコンセプトの反映によって生み出されるけれども、ブランドは必ずしもコンセプトと同じではない。
もっと具体的である。

ブランドは

画像8

であり、コンセプトは

画像9

である。
理想のイメージではなく理解一致を尊重し、ブランドを重視した再構築を行うようにする。

画像6

たとえば、シャネルには「女性の服の解放」と「黒・白・ベージュ」というコンセプトがある。
このコンセプトをお客は正しく理解しているので、「女性の服の解放」と「黒・白・ベージュ」は、コンセプトであると同時に、伝統的なブランドでもある。
シャネルやクリスチャン・ディオールなどのファッションブランドが、第一人者である本人の死去や引退によっても、シャネルは一見してシャネルであり、クリスチャン・ディオールはやはりディオールであり続けることができるのは、ブランドが統一された上で、再定義を繰り返しているからである。

画像7

エルメスやルイ・ヴィトンは、サービスが再定義されても製品の品質に対するこだわりを貫いた。
そのこだわりを貫けるだけの正しい経験があった。
そして、それは環境の変化が起ころうとも変化させなかった。

画像10

こだわりには、それを通すことができるための正しい経験がなくてはならない。
正しい経験のないこだわりは、

画像11

でしかない。

正しい経験に基づいたこだわりを通すことは、ブランドを維持することにも、コンセプトを正しく反映することにもつながる。
サービスが再定義されても、正しい経験に裏打ちされたこだわりは貫き通すようにする。

このこだわりを止める、または控えめに行ってしまうと、新しい意味のサービスは環境適応しながら、以前のサービスほどの力強さを発揮しないことがある。

ただし再定義する際に、社会の流れ(環境の変化)に反するこだわりを継続してはならない。
馬車の時代が去り、蒸気機関の応用による旅行の時代にあって、馬具を製造に関する製造手法のこだわりなどを、鞄の製造に無理に取り入れようとしてはならない。
こだわりの継続が環境の変化に反する場合は、再定義そのものを優先するようにする。

画像12

サービスはそもそも、社会の中だけで活動すること許されると共に、社会を構築する一部であるという相互の関係にある。
だからサービスは社会システムとして機能し、その目的は社会貢献でなくてはならない。

画像13

再定義を行う際にまず、これまで提供してきたサービスが社会のどの位置にあり、どのような役割を果たすことで貢献してきたのかを確認する。
次に、それが社会(環境)の変化と共に、再定義されたサービスの位置はどこにあるべきであり、どのような役割を担うことを求められているかを考えてみる。

どの位置にいたいか、どのような役割を担いたいかを中心には考えない。
どの位置で、どのような役割を「担うべきか」を核心とする。

画像14

技術による変化の影響が大きい場合は、技術によって変わる社会に対応した変化を行う。
技術の変化への対応は、「こだわり」に大きな影響を与える。
こだわりが技術によって解消される場合や、こだわりに技術を組み入れると新しい意味を見出せる場合などに、サービス再定義のヒントがある。

また郵便事業が行ったように、新しい技術、特に自らの提供するサービスに影響を与える可能性の高い新技術が生まれた場合、その技術をサービスに取り入れるのか取り入れないのか、慎重に検討するようにする。

別の課題もある。
技術の発展を応用して鉄道事業というサービスを生み出したとき、そのサービスの不備を埋めるための新しいサービスが、文化による変化、嗜好による変化として生み出される。
新しいサービスが次のサービスの可能性を生み出す。

画像15

たとえば文化による変化として、物資の大量輸送が可能になることで政治活動の範囲を広めることができるようになる。
世界初の旅行代理店であり、旅行業であり、サービス業を創ったトーマス・クックは最初、禁酒運動を広げるために鉄道を利用した。
禁酒運動大会を開くため、他の町に485人(570人とも言われる)の活動家を、鉄道をチャーターして送り込んだ政治活動が、旅行業の基礎となっている。

嗜好の変化は、鉄道を利用した旅行業そのものである。
技術の変化に対応してサービスの再定義を行う場合、新しい意味のサービスは、技術の応用としてのサービス提供だけにとどめるのか、文化の変化、嗜好の変化にも対応する指針を組み入れるのかを、あらかじめ検討するようにしたい。

技術の応用のみに再定義するのなら、例えば冷蔵車両や冷凍車両の開発、寝台車の設置、トイレの設置、食堂車の設置、より速く走る車両の開発、燃費の改善などに力を入れるサービスになるだろう。

文化の変化に対応するサービスも行うのなら、駅をコミュニティスペースとして発達させたり、駅近くの土地を買収し開発計画を行ったりすることなども視野に入れる必要が出る。
この方法は実際に阪急電鉄が行い、関西に大阪・神戸を中心とした通勤圏・ベッドタウンという衛生都市を作ることで文化の変化に対応した。

画像16

嗜好の変化への対応は、鉄道会社としてインフラをフルに活用した旅行会社、ホテル、デパート、アミューズメント施設などを視野に入れる必要性が出る。
阪急電鉄では、宝塚に歌劇団を作り、現在の全国高校野球大会の第1回を開き定着させることで新しいサービスに取り込んでいった。

サービスを拡張させ、取り込むことが正しいということではない。
技術の変化に対応してサービスの再定義を行うとき、文化の変化、嗜好の変化を組み入れてサービスを提供するのかどうかを検討する必要があるということである。

技術の変化に対するサービスの再定義は急ぐ必要はない。
むしろ急いではならない。
特に技術に詳しくない者が次の時代を予想し、先取りしようとしない方がいい。
技術に詳しいとしても、将来を測る充分な情報を持たず、安易に新技術を取り入れないようにしたい。

技術の変化の浸透は少なくとも3年はかかる。
反対に言えば、技術の変化によるサービスの再定義は3年をかけて行えばいいということになる。
それ以上早く行うと不整合を抱えたまま、または社会の変化を正確に把握できないまま、新しい意味のサービスを提供することになる。

たとえば、インターネットでブログの技術が現れたとき、先鋭的なデザイナーや起業家はホームページをブログタイプの作りに切りかえた。
しかし、結局はブログタイプのホームページは定着しなかった。
ブログはブログ以上の存在にはならなかった。

画像17

文化の変化が原因の場合は、社会に対応するのではなく社会の流れに沿う必要がある。
文化の変化は最も時間がかかると共に、一度変化が確定すると次の変化はなかなか来ないということと、元の文化の状態には戻らないという特徴がある。
だから変化が完了するまでの十分な時間の中で、様々なサービスの再定義を試行錯誤し、方向を定め、徐々に実践する。

文化という前提条件が変わるということは、社会のルールが変わるということでもある。
しかもそのルールはこれからを決定する絶対的な尺度となる。
したがって、コンセプトやブランドに沿った数多くの再定義を、最初は

画像18

いきなり大きく試したり、試す前に方向性を決めてしまわないようにしたい。
試行錯誤の上、長期に備えて最も優れたサービスの提供に移行していくようにする。

嗜好の変化が原因でサービスの再定義が行われる場合。
この場合はまずこれまで提供したサービスが、今後の嗜好の変化に対してどのような位置にあるかを検討する。

今後の予想に対して、これまでのサービスの位置が適切でないことが明らかになったら、新しいサービスの意味と共に、提供する商品の内容を変える必要が出る。
今後の予想に対してこれまでのサービスの位置が適切なら、新しく提供するサービスの意味だけを変える。

再定義を行うときによく起こしがちな過ちのひとつに、流行を取り入れるという考え方がある。
この考え方には危険がある。
まず流行がコンセプトとブランドに合っているかどうかが明確ではない。
明確でないものは基準にならない。
さらに流行はスタンダードにはなり得ないからこその流行であって、スタンダードまたはトレンドを前提としている変化とは相容れない。
またその不確定さは、画一的で統一的なサービスと相容れない。
嗜好の変化から再定義を行うときは、この違いをよく考慮に入れる。

これとは別に、嗜好の変化は技術の変化、文化の変化の影響を受ける場合がある。
技術の変化、文化の変化によって2次的に変化がもたらされることがある。
このような場合にサービスを再定義するとき、両方の変化を考慮に入れた再定義を心がけるようにする。
少なくとも最初の変化に反した再定義は行わないようにする。

画像19

人口構造の変化によってサービスの再定義を行う場合。
人口構造の変化は事業のあり方を変える。
顧客を変え、労働者を変える。
仕事の定義と方法を変え、事業の文化を変える。
時に社会の空気を変える。

人口構造の変化は社会の変化と直結する。
技術の変化、文化の変化、嗜好の変化はその影響を受けない業界や人々が存在するのに対し、人口構造の変化は全体の変化と直結する。
したがって、サービスの再定義は人口構造に比例して行う。
反比例してはならない。
必ず社会の流れに沿うように行う。

再定義の強さは、提供するサービスが人口構造の変化にどの程度影響を受けるかによって変わる。
顧客により影響を受けるのか、労働者により影響を受けるのか。
それとも、全体としての社会構造や空気に影響を受けるのかによって変わる。
わかっていることは、影響を受ける強度に合った再定義を行うということである。

嗜好の変化では、技術の変化と文化の変化の影響を受けることがある。
受けないこともある。
しかし人口構造の変化は、

画像20

他の変化と同時並行して変化する。
だから、他の環境適応によってサービスを再定義するときは、必ず人口構造の変化を検討すようにする。



・・・・・・・・

メディア・出版関係者のお問い合わせはこちらからどうぞ
➔ info@esmose.jp

PAGE TOP