しくみは万能ではない。
むしろ永遠に不備であり続けるからこそ、定期的に見直し、経験を蓄積し、改善し続けなくてはならない。
コンセプト実現のために、より完璧に向けて改善し続けるようにする。
それでもマニュアル化できない物事はやはりある。
過去に経験がないこと。
想像の範囲を超えた災害などはこれに当たるが、発生する確率が低いということと、このような場合に果たしてサービス提供が継続できるかどうかが疑問なため、検討する必要はない。
ただし緊急避難の方法や、非常口の確認などはしくみ化する必要がある。
もっと実際的なことは、サービス提供中に提供者、利用者のどちらかが病気やけがをした場合。
税務署が入ることでサービス提供が阻害される場合。
営業時間外にサービス提供を求める必然性がある場合などである。
具体的な手順はマニュアル化することはできないかもしれないが、イレギュラーな状況になった場合の決定者は誰であるか、その裁量はどこまでなのか、どのように連絡を取るかなどの基準を設ける必要はある。
そして一度このような物事が起こった場合に、その具体的事例を経験実例としてしくみに蓄積する。
不慮のできごとは対策が難しいけれども、しかし同時に、サービスを充分に機能させなくなる危険性を持っている。
特に企業スキャンダル(事実にしろ事実無根にしろ)はこの可能性が最も高い。
このようなケースに対するしくみの設定も不必要であるとはいいきれない。
サービスはコンセプトに則って作られ、提供される。
しかし、コンセプトに則っていれば何でも提供していいというわけではない。
提供するものは基本サービスとして定められなくてはならない。
そしてサービス提供者は、基本サービスの構成の細かいところまで、なぜそれを提供するのか理論的に説明できる必要がある。
一方で、コンセプトに適っていながら、提供しないサービスを決める必要がある。
提供しないサービスの一覧を作るわけではない。
本来のサービスを上手く機能させていない原因となる別サービスを提供しないと決める。
例えば町の大衆中華料理店で「ツバメの巣のスープは提供しない」と決めるようにである。
この提供しないサービスも、なぜ提供しないのかを明確にする。
そして、それらのサービスの提供を求められたときには拒否し、現在の基本サービスの提供を守る。
ある日、サービスがうまく機能しないことに気がついたら、そもそも提供するはずでも、提供すべきでもなかったサービスを提供しているということが実際にある。そしてそのサービスは、コンセプトに適っているということがある。
多くの場合これらのサービスは、顧客ニーズによってサービスに取り入れられ、組み込まれる。
仮に別の流れで組み込まれるとしても、それは本来組み込まれてはならないサービスであることに変わりはない。
コンセプトに適っていながら主体性を欠き、こだわりはそれほどではなく、商品ラインナップの少なさという不安を解消するためにサービス提供されることすらある。
場合によってはしくみと接客に負担をかける割に、サービスとしてそれほどは上手く機能しないということも起こる。
このようなサービスを取り入れた結果は、本来のサービスの提供阻害にしかならない。
また、提供者のコンセプトと利用者理解の一致であるブランドを弱めることになる。
なぜなら、コンセプトを反映している割に理解を促進する力に欠けるからである。
利用者に疑問を抱かせることすらある。
利用者はサービスに平均点をつけはじめ、長所を長所として捉えられなくなり、ブランド力は低下する。
このような本来提供するはずでないサービスを既に取り入れているのであれば、直ちに中止するか、フェイドアウトさせる。
しくみにはそれを提供しない明確な理由を反映する。
提供しないサービスが何か定まっていなければ、サービスを提供する接客者は混乱する。
コンセプトを守ることに長けたベテランや上級者は混乱しない代わりに、コンセプトに適っているという正統な判断によって、求められたサービスを提供してしまうことがある。
こうしたことが起こるのも、提供しないと明確に決まっていないからである。
提供しないサービスが決まっていないということは、実は利用者にも混乱を起こす。
基本サービスは、提供すると約束したものを提供するはずであるのに、約束されていないものまで提供されることになる。
しかも、利用者の中に約束されないサービスまで提供される人と、提供されない人が発生する。
これでは正しくサービスを提供しているとはいえない。
サービス提供の公平性も保たれない。
このようして、気がついたときには正しいはずのサービスが上手く機能していないという結果になる。
提供しないサービスが何であるかは、実務の経験と状態を見ながら決める。
長い目で見て、基本サービス提供の阻害となるものを「提供しない」としくみに反映し、接客者とマーケティング担当者に伝達する。
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