ブランドがサービスの直接的原因によらず崩れる場合がある。
原因はサービスとマーケティングの連携不備にある。
マーケティングはマーケットを観察し、ニーズの把握を行い、宣伝広告や集客を実行する。
サービスが成熟してくると、マーケティングの役割はブランドの浸透へと移る。
サービス利用者に対する理解一致を強化し、定着させる役割を果たす。
そのブランドイメージを強化し定着させる際に、次の4つの視点からブランドイメージに誤差が生じたとき、ブランドに対する信頼が失われ、サービスが上手く機能しなくなる。
第一に、イメージを先行させるとき。
第二に、ブランドを正確に理解しない場合。
第三に、ブランドを重視しながらコンセプトを無視する場合。
第四に、伝達手段としての適切でない媒体を使うとき。
このような4つの事実によってブランドに対する信用が損なわれ、サービスの機能が低下しているとき、これまでとは異なりサービス部門で解決を行うのではなくマネジメントの決定によって総合的に解決する必要が出る。
マーケティング担当者のサービス理論に対する理解が必要になる。
さらに、マネジメントによってサービスとマーケティングの整合性を検討する。
この問題が起こった場合は、サービス部門では管理者だけが問題に対応することができ、解決への筋道を立てることでサービスを守り、正常な状態に戻す責任を負う。
マーケティングによって発信される情報の中で、ブランドそのものではなく、ブランドイメージを先行させる目的で情報を発信することがある。
つまり、コンセプトが反映されたサービスを発信するのではなく、顧客受けの良いイメージを発信する場合がある。
サービスの担当者はまず、マーケティングにおけるブランド理解がどのようなものであるかを知る必要がある。
平易に言うと、マーケティングによるブランドとは顧客の頭の中に構築されるイメージのことであって、サービスによって構築される理解の一致ではないということを知らなくてはならない。
たとえば「オムツ」と言えば「パンパース」と連想し、「ディズニー」と言えば「ミッキー」と応えるようなイメージをブランドとして理解しているということである。
マーケティング担当者の仕事は、このようなイメージを顧客の頭の中に定着させ、離さないことにある。
たとえば「インテル入ってる」のように、サービスの特性や種類、コンセプトはもちろん、機能と性能までもがいまいちよくわからない製品をサービスとして提供している場合、マーケティング先行のブランドイメージを構築する方法がブランド強化に役立つ。
インテルの提供するCPUの機能がいかに優れているかを説明したところで、それは多くの人に理解されないばかりか、逆に拒絶すらされてしまうからである。
このような製品を利用したサービスを提供する場合、サービスのコンセプトを知らしめる最も適切で良い方法が、マーケティングによるイメージ先行のブランド作りとなる。
テレビでスタイリッシュなコマーシャルを流し、メーカーを問わずインテルのCPUを導入している全てのパソコンに、導入を示す感じの良いシールを貼り付けることが効果を発揮することに直結する。
サービス利用者が理解するインテルのイメージは、スタイリッシュ、(動作環境が)速い(に違いない)、などの漠然としたイメージになる。
このようなマーケティング主導のブランドイメージ作りは、サービス提供者のコンセプトとお客の理解が一致しにくい分野で大きな力を発揮する。
これに対して、ブランドイメージではなく、ブランドが構築されているサービスではマーケティング先行のイメージ作りはマイナスに働く場合がある。
お客のニーズや、お客がこうあってほしいというイメージを具現化するとき、実際のサービスとかけ離れることがある。
往々にして、実際のサービスよりも良い状態、または異なる状態をイメージさせ、それによって意識しないままにサービスを低く落としてしまうことがある。
場合によっては実際のサービスとは似ても似つかないイメージを喚起する場合もある。
マーケティング担当者が望む状態を情報として発信する場合、ベテランであればコンセプトの反映を中心に情報を発信し、ベテランでない者は過去の成功例やマーケティングの教科書通りに情報を発信する。
それぞれ異なる理由でサービスが上手く機能しないきっかけを作ることになる。
お客のニーズでイメージを先行させる場合、顧客の聞きたいこと、見たいことを見せる。
そこにはコンセプトの反映もブランドの反映も存在しない。
マーケティングの活動ですらなく、それはセールスであり販売活動である。
販売活動によってブランドを作り、促進し、維持することはできない。
マーケティングのベテランは、コンセプトの中でもイメージしやすいものを具現化し、情報として発信する。
これは現在あるブランドに反しない限り悪い方法ではない。
現在のブランドに沿っている場合は既にある理解を強化することに役立ち、現在のブランドと無関係の場合は新たなブランド理解を促進することに役立つ。
しかしコンセプトに適っているという理由だけでブランドイメージを先行させると、現在の利用者理解を混乱させたり、反発させたりする内容のコンセプトまで情報発信してしまうことがある。
マーケティングの担当者はコンセプトではなく、ブランドを基準にイメージを発信しなくてはならない。
ベテランでないマーケティング担当者は、ブランドイメージ作りを販売のために行う。
または、与えられた仕事をこなすだけの目的で行う。
あるいは自分の実績のために行う。
マーケティングの実地や教育、会社のシステムがそれを求めるからである。
宣伝広告がマーケティングであるという理解すらある。
やはりイメージ先行を発信する仕事を行い、その仕事にサービス理解はもちろんブランド理解も含まれない。
それぞれの理由によってどのケースの場合も、サービスを機能させなくするブランド低下を引き起こす可能性がある。
この状態に気がついたサービス担当者は、マーケティングにサービスとブランドの理解を促すと共に、サービスによって構築されたブランドを中心に、ブランドイメージを再構築するよう投げかけを行う。
マーケティングの長年の研究と理論の体系化によって、ブランドとは「顧客の頭の中にある、企業または商品のイメージ」であると考えられている。
この考え方はマーケティング担当者だけではなく、数多くの経営者も同様に持っている。
例えば、ルイ・ヴィトンといえば高級カバンというイメージが連想される。
これがブランドイメージだが、実際にはブランドそのものだと思われている。
このブランドイメージは拡大解釈されることもある。
この拡大解釈もブランドだと思われている。
たとえば「ヨーロッパでは中流層の中でも上のクラス以上がルイ・ヴィトンのカバンを持ち、それは購買力があることを示すひとつの尺度である。
日本で女子高生が(親に買ってもらうなどして)ルイ・ヴィトンのカバンを持っていることは異常だ」というストーリーが広がるとする。現に広まったことがある。
実は、このようなストーリーによってもブランドイメージは強化される。
なぜならこのストーリーによって、ヨーロッパの富裕層が利用するカバンを自分も利用していることが証明され、そのような高級ブランドが手の内にあることが客観的な事実として保証されるからである。
イメージはますます「高級」であることとなる。
ここで築かれるルイ・ヴィトンのブランド「イメージ」は、やはり高級でありステータスなのだということにある。
好ましいか好ましくないかは別として、ルイ・ヴィトンのイメージはより良くなる。
このような結果を目指し構築するのが、マーケティングによるブランド作りだとされている。
しかしこれは大きな誤解である。
なぜならそれは、顧客の理解ではなく単なるイメージだからである。
ブランドを作るのではなく、イメージを作る作業である。
ルイ・ヴィトンは確かに高級である。
しかしそれはステータス上の高級ではなく、値段の高級でもない。
ルイ・ヴィトンが提供するサービスが高級であるはずである。
逆のパターンを想像すると理解できる。
提供するサービスの程度が低いにもかかわらず、ステータスと値段が高級であるということはない。
ステータス――ヨーロッパでは富裕層が持っている、値段が高いなど――は、サービスが高級であるために発生した二次要因にすぎない。
なぜならルイ・ヴィトンはヨーロッパで、ヨーロッパのサービス利用者の効用に合った提供を行い、その効用に合う人だけがカバンを購入するからである。
日本でもほぼ同じサービスを提供し、その効用の合う利用者が(たとえ女子高生であれ)カバンを購入する。
たまたま(あるいは必然的に)購入層に、変化が生じたというだけのことである。
このような二次的要因は、サービスブランドを表さない。
ブランドの現在地も教えてくれない。
つまり、これはコンセプトの反映ではない。
またルイ・ヴィトンの値段の決定は、原価と人件費に対して一定の利益率を掛けることで計算される。
市場の適正価格や、他社の販売額によっては決まらない。
信頼の置ける製品を提供すると決め、決めたことを実行した場合に生じる全費用から逆算して決められる価格は、やはりまず製品ありきの二次要因でしかない。
高額商品を扱う目的で価格が決定されるのではなく、サービスコンセプトであるこだわりによって作られたカバンに対し、適切な価値を反映する作業である。
つまりルイ・ヴィトンのコンセプトは製品へのこだわりにあることがわかる。
そしてルイ・ヴィトンを長年継続して利用し、耐久力のあるカバンを万全なリペアのアフターサービスでフォローすることで使用している利用者は、ルイ・ヴィトンのブランドは高級やステータスにあるのではなく、製品に対する信頼であることを理解している。
これがブランド「イメージ」の理解ではなく、ブランド「そのもの」の理解である。
このサービスのブランドと、マーケティングのブランドイメージに対する理解の差が、あるべきブランドの姿とかけ離れ、時に貶め、時に足かせとなる。
サービス担当者はこの状況にいち早く気づき、マーケティング担当者に(サービスによって作られる真の)ブランド理解を促す方法を考えなくてはならない。
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